《GGO》で剣聖   作:全智一皆

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軽い剣より、重たい剣(刀)を持った方がより強いオリ主。


第十一話 未だ完成には至らず

 

■  ■

 ―――それは、生まれる時代を間違えてしまった。

 あまりにもありふれた、極々普通で何ら意外性もない言葉ではあるけれど、しかしこの言葉以上に彼を証明する言葉は存在し得ないだろう。

 決して才能があった訳ではない。だが、才能が無かった訳でもはない。剣技も体術も、全て人並み。物心ついた時から剣を習い、振るい続けてはいたものの、しかしそれは達人と言える程度であって高みとは言えなかった。

 周囲からしてみれば、それはあまりにも十分過ぎる領域であっただろう。この争いのない世界において、達人と呼ばれる存在と同じ場所に立つというそれは、確かな偉業であったのだろう。

 しかし。

 だが、しかし。

 それでも尚、そこに至っても尚―――少年は、剣を振り続けた。達人となって尚も、我武者羅に剣を振り続けた。

 高みへの熱意。剣士としての呪い。この現代社会において、少年の剣への熱意はもはや狂気、或いは呪いの類であり、この平和な世界には何ら必要のないものだった。

 そんな中―――少年は、仮想の世界において遂にその手で()()()()()

 竹刀でも木刀でもなく、真剣で。()()()()()()()()()()()()()()()()()()において、少年はその手に握り締めた人を護る為の剣で、人を斬った。

 一人から二人。二人から四人。四人から七人。七人から十人。十人から二十人。少年は、その手で数多の悪人を斬り殺した。

 そして、その果てに少年は遂ぞ遥か高みへと至ったのだ。幾度も積み重ねられた斬り合い、死合の果てに。

 

 一殺多生。活人剣。国を護る為の剣術。人を活かす為の剣術。それを習い修める立場において、少年の在り方はまったくそぐわぬものだった。

 少年にとって、悪とは斬るものだ。己が悪と定めた者は、例外なく斬り捨てる。例えそれが元は味方であっても、かつては友であったとしても、彼が()()()だと判断したならば、躊躇も容赦も無く無情のままに斬り捨てた。

 

 己が手で守れる者、救える者などたかが知れている。この(まなこ)の先に広がる友の想い、仲間との和平。それを護る為には、それを隔て邪魔立てする一切を斬り捨てる他に道は無し。

 少年は問う。

 

「活人剣とは、人を活かす為の剣術であると言う。それは悪をも含め、その奥義もまた決して敵を斬るものではない。だが、人を活かす為の剣術で悪を見逃し、それで無辜の民が悪の手によって命を落としたならば―――我らの剣は、果たして人を()かしたと言えるのだろうか?」

 

 どんな理合を重ねようが、どんな理屈を述べようが、どんな教えを説こうが、されど剣は剣である。剣とは武器である。それが、少年の出した結論だった。

 剣は剣。抜かば斬る人斬り包丁也。

 人を生かすか殺すかは、その剣を振るう持ち主次第。慈悲の剣を否定するつもりはない、それは確かに高尚で素晴らしく、敬意を示すに相応しい理想だ。

 だが、己は違う。そんな理想を目指すつもりは毛頭ない。例え如何なる理由があろうとも、悪は悪。堕ちれば悪、善には非ず。無罪に非ず。斬らねばならぬモノである。

 友と仲間を護る為、無辜の民を活かす為に人を斬る。極悪非道、邪智暴虐を斬らず赦して何とする。その始末をどう背負う。改心も反省も裏切りも、猜疑に惑わされるというのなら、斬り捨ててしまえばよい。

 例えそれを偽善と罵られようと、少年は構わない。偽善も矛盾も、既に経験済みだ。それを受け入れて―――剣■と呼ばれる今の彼は出来上がったのだから。

 

『――――――』

 

 アイシクルプリズン、その最奥。

 開かれたその重厚な扉の向こうに位置していたのは、頭部中央にエネルギー砲、脚部中央にガトリング砲らしいものを備えた四脚の巨大なロボットだった。

 ネームドボス、エクスキューショナー。レベルにして243、あまりにも桁外れで文字通りレベルが違い過ぎる相手だ。

 その相手の砲口が―――初っ端から、エネルギーを充填してアキツへと狙いを定め始めた。

 

「開門から早々に物騒な絡繰だ。余程、我々を殺したいと見える」

「こういう時まで冷静ね、アンタ! 狙われてるんだからさっさと隠れなさいッ!」

「む、そうだな。流石にアレは光剣で相殺出来る気がせん。一旦は様子見に徹し、攻撃パターンを探るとしようか」

 

 都合良く扉の前に二つとある2mくらいの壁に急いで駆け寄り、砲口から解き放たれた黄色の光線を何とか凌ぐ。

 熱風が壁の正面を覆い、それが冷たい肌身を僅かに焼く。凄まじい熱量だ、アレを喰らえば防護フィールドなど貫通して我が身諸共一瞬で塵芥と化すだろう。

 これまでの様に、初見で攻略出来る様な相手ではなさそうだ。何分、此方には剣一振りしか打つ手がないのだ。

 

「先程も言ったが、一先ずは様子見だ。相手の行動を粗方見て、弱点となる部分を見付けてから本格的な行動に移ろう。ツェリスカ殿、クレハ殿は中距離、シノンは遠距離でそれぞれ攻撃を頼む。ただ、距離に応じた攻撃に移るかもしれん。対応出来る様にしておいてくれ。俺とアレフ殿は近接だ。良いか?」

『了解』

「うむ。では―――行くぞ」

 

 合図と共に、両者が一斉に壁から身を踊り出す。

 ガシャンッ! という重厚的な衝撃音と共に、頭上の砲口がアキツの方へと再び狙いを定める。

 ヘイトの解除は無し。敵は未だアキツの方を狙っている様だ。であれば好都合、援護の方が気にせず移動出来る。

 

「まずは脚部からね…!」

「なら私は砲を狙ってみようかしら!」

 

 ドドドドッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!

 マシンガンとアサルトライフルの銃声が重なる。幾重もの銃弾が、エクスキューショナーの脚部へとその身で殴り掛かるが、しかしそのどれもが意味をなさない。

 カンカンカンカンッッッッッッ、と全てがその装甲によって跳ね除けられてしまう。大したダメージも入っていない。

 ただ、それでもヘイトは溜まったのだろう。エクスキューショナーの狙いがアキツからツェリスカの方へと移り変わり、ガシャンガシャンッッッ!!!! と脚を鳴らして歩き始めた。

 

「脚部は弱点にはなり得そうにないわね〜」

「わわっ、またあのビームが来るって! ツェリスカさん、退避退避ー!」

 

 ビュウンッッッ!!!!!

 黄色の光線が砲口から解き放たれ、ツェリスカとクレハは全速力で柱へと駆け出す。

 その隙を逃すつもりもなく、アキツとアレフは互いにエクスキューショナーの背後、脚部へと斬撃と銃撃を絶えず叩き込む。

 だが、やはりどれも決定打にはなり得ない。この装甲では、光剣の刃もそこら辺の包丁と何ら変わりないだろう。

 

「きゃあっ!?」

「っ、クレハ!」

 

 小さな悲鳴が空間に響く。

 ツェリスカは間に合った様だが、クレハはギリギリの所で間に合わなかったらしい。その足の先が、光線によって焼き切れてしまっている。

 HPバーが減少する。それに加えて、光線を受けてしまったのが原因か、HPバーの上に稲妻のマークが追加されてしまっていた。

 

「クレハちゃん、大丈夫?」

「うぅ……しくじっちゃった。HPは大丈夫だけど、動くのは無理ね。スタン効果があるなんて……」

「だが、クレハ殿のお陰で頭部の光学ビーム砲にはスタン効果がある事が分かった。しかも、掠っただけで蓄積を満たしてしまうほどの威力を持った極めて強力なものだ。全員警戒。シノン、位置は?」

『十分離れたわ、位置取りも出来た。準備OKよ』

「了解。狙撃頼むぞ、氷の狙撃手殿」

『アンタから撃ち抜くわよ?』

「それは御免被る」

 

 ―――ドォンッッッ!!!!!

 鋭い銃声が木霊する。解き放たれたる鋭利な刃の如き弾丸が、的確にエクスキューショナーの頭部中央を穿つ。

 動きが僅かに鈍る。先程までとは異なり、確かにダメージが入った感覚がした。

 

「……弱点は頭部中央か。中々骨が折れそうだ」

「だが、やりごたえはある。腕が鳴るというものだ」

『やる気があるのは構わないけど、貴方それ(光剣)で届くの?』

「さて、どうか、なッ!」

 

 通信を割る様に、エクスキューショナーの動きが変化する。

 ウィーン、と脚部中央下部のガトリング砲が180度回転し、アキツとアレフの方を向いて―――

 

 ドガガガガガガガガガガガガガッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! と、連続的な爆音と共に大きな花火を咲かして鉛玉を投げ込んできた。

 

 毎分3.900発、銃口初速1,067m/s。機関砲という部類においても有名なGAU-8と全く同じ発射速度と銃口初速を有したそれは、まさしく銃弾の嵐と呼ぶに相応しい。

 これまで相手してきたアサルトライフルやサブマシンガンの様な、従来の連射攻撃とはあまりにも差が開き過ぎているそれを近距離で対処するのは、もはや不可能だ。

 だが―――

 

「っ――――――」

 

 この男は、その限りではなかった。

 無傷での対処は不可能だ。半分は必ず当たる。最悪、四肢の何れかが機能しなくなるだろう。

 だが―――それがどうした?

 四肢の何れかが機能しなくなるのは、剣士としては致命的なのだろう。だが、それを厳選するのは己だ。

 振るうは右手。だが、左手でも何ら問題無い。片方だけであれば持って行かれても構わない。

 両足は必須だ。足がなくては何も出来ない。掠れ、直撃だけを避けろ。掠る程度であればそれを許容しろ。

 

『アキツ!』

「問題無い! 全身全霊で、斬り払うッ……!!!」

 

 剣を振るう。剣を振るう。剣を振るう。

 我武者羅の様に見えて、しかし的確に致命傷となる銃弾のみを瞬時に識別し、神速の域へと足を踏み込んで、音速を凌駕して幾重もの斬撃を繰り出す。

 カシュッ、ザシュッ……と、次々と小さな傷が増えていく。銃創が増えていく度に、HPが減っていく。

 懐かしい感覚が脳を支配する。―――あぁ、そうだ。()()()も、こんな感覚に陥っていた。

 

「くっ……ハァッ!」

 

 斬り払う銃弾。その嵐を突き進み、決死の覚悟で遥か前を踏み込んで砲口の先を焼き斬ってみせる。

 だが、それでも敵は止まらない。ぐんっと四脚の関節を曲げて足を下げ、短く跳躍したかと思えば流れる様に己が足四つで外敵を薙ぎ払う。

 

「ぐっ…!」

「ちいっ!」

 

 薙ぎ払われるアキツとアレフ。ぐんっと下がるHP。だが、それに意識を向ける事もなく、アキツとアレフは真っ直ぐに突き進む。

 全ては確かな隙を作り出す為。死ぬ事なく、されど全霊で立ち向かう。

 

 今、己は敵と命を奪い合っているのだと魂が勘づく。

 ゲームという仮想の世界で、しかし今こうして存在しているのだという現実を直視しながら、仮想という現実に相対しながら、我等は敵をその眼で確かに見据えている。確かに敵対している。

 嗚呼――なんと懐かしく、なんと……忌々しい。

 

「ッ、シノン!」

『了解ッ!』

「援護する。まさか、この距離で狙撃する事になるとは思わなかったが……」

 

 一人の狙撃手(スナイパー)が狙いを定め、一人の攻撃手(アタッカー)が拳銃を収納してスナイパーライフルを取り出し、近距離からそれを構える。

 サークルが縮小し、拡大し、縮小し―――ピンを合わせ、

 

 ドォンッ――――――と、鬨の声が重なり合って鉄火を轟かせる。

 ぐらり、と巨体が傾き、その四脚の膝を着く。

 体勢が崩れた。バリバリと小さな稲妻が走っている。相手は弱っている、確実に。今こそが攻撃のチャンス、これこそが―――僅かにあった、一つの勝機だ!

 

「――――――突っ込めェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 感情を顕にして、声を荒らげて剣士が突撃をかます。

 それに追従する様に、仲間達も攻めへと転じてさらに突撃する。一切手を緩める事無く、一秒一秒で数多の傷を残す様に、全てを刻み込む。

 ―――死力を尽くして、あらゆる全てを削ぎ落として、勝利をその手に掴むその為に。

 

 その果てに―――勝利は、訪れる。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

「た、倒せた……の?」

「えぇ……なんとか、ね」

「………キツイ戦いだったな」

「まったくよ……」

 

 バリンッ……と、まるで六花が砕け散るかの様にして消えるエクスキューショナー(処刑者)

 そして、その砕け散った六花の中から―――一振りの刀が姿を表す。

 

 綺麗な程に真っ直ぐな、緑青色の閃光の片刃。GGOにただ一つの刀の形をした実体剣。

 ―――ライキリG7。彼が探し求めていた、たった一つの剣。

 

「―――」

 

 突き刺さっていたそれを引き抜き、血を払う様に振って構える。

 光剣には無かった重量。だが、彼にとって最も手に馴染む重さだ。この重さが無ければ、やはり落ち着かない。

 

「……ライキリG7、確かに拝領した」

 

 軽さは消えた。重さのみが残る。けれど、これにてようやく剣士は完成の一歩前へと至る。

 

 かつて―――《SAO》というゲームにおいて、その剣技の高さと『笑う棺桶(ラフィン・コフィン)』をたった一人で半壊させた事から、多くのプレイヤーに《剣鬼》と呼ばれ畏怖された存在は、ライキリG7という刀を得て《GGO》に復活を果たしたのだ。




《剣鬼》
《SAO》において、その圧倒的な剣技とレッド・オレンジのプレイヤーを冷酷無情に斬り伏せてきたプレイヤーに、賞賛ではなく畏怖の意味を込められて付けられた異名。

捕縛を目的として『血盟騎士団』と『聖竜連合』を初めとする攻略組の有志50名の討伐隊を置いて行き、単独で『笑う棺桶(ラフィン・コフィン)』のアジトを襲撃し、奇襲すらも返り討ちにして半壊させた事からその異名が広まった。

剣鬼はこう言った。

「多くの悪を殺してより多くの善を救えると言うのなら、それが他者にとって背負えぬ罪と業であると言うのなら―――それを偽善と罵られようが、俺はよろこんでこの手で悪を斬ろう。この手を血に染め、君達の分まで背負い込もう。この身は…既に穢れた人斬りであるが故に」
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