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「ねぇねぇ、ちょっとこれ見て!」
時間は少し前に遡り、場所は変わる。
其処は西東京市に建てられた学校―――《SAO》から解放された当時高校生以下だった500余名ものプレイヤー達が通う、高等専修学校。その食堂での出来事だった。
何かのサイトの様なものが映されているスマホを片手にし、机の上に弁当を乗せて箸でもぐもぐと食べている少女へとそれを見せる女子高生。
彼女の名前は
SAOの舞台である《アインクラッド》において、《剣鬼》の異名で恐れられた剣士、アキツが最後まで愛用したSAOで数少ない刀武器『
「何かあったんですか? 里香さん」
食事をしていた箸を止め、目線をスマホの方へと向ける少女の名前は、
SAOでは、『竜使いのシリカ』としてそれなりに有名だったプレイヤーだ。彼女もまた例に漏れずSAO
里香と珪子はウマが合う良き友人であり、よく一緒に食事を共にしている。今日も今日とて一緒に食事をしていたのだが、里香がいきなりスマホを取り出して見る様に言うのだ。
かなり興奮している彼女が気になり、箸を止めてスマホの方を見てみると、そこには『GGO 掲示板』と書かれていた。
それに続いて、
【速報】レア武器ライキリG7存在確定。追記:GGOにリアル侍来たw
と板名が綴られていた。
「これがどうかしたんですか?」
「どうしたもこうしたもないわよ! これ、絶対にアキツよ! 間違いないわ!」
「えぇ……いや、流石にそれだけで秋永さんって言うのは無理があるんじゃ…」
「いやいや、だってココに書いてある感想ぜーんぶ無茶苦茶な事ばっかよ? 調べてみたら、GGOってFPSゲームで銃が主体なのよ。そんな世界で剣一本で戦ってて、銃弾斬るなんて出来るのアイツ以外に無いでしょ」
ちゃんと見てみなさいよと言われ、珪子は里香のスマホを借りてその掲示板へと目を通す。
【速報】レア武器ライキリG7存在確定。追記:GGOにリアル侍来たw
62:名無しGGO民 ID:VAZnlybrz
今来た。なんか色々と騒がれてるけど、リアル侍って何なん?
63:名無しGGO民 ID:FxAHoQn8H
刀の形をしたレア武器振り回してSMGの銃弾全部斬り払う変態
64:名無しGGO民 ID:l3dwKrrdY
狙撃しようとしたらいきなりこっち向いて『其処に居たのか』って口パクしてくるバケモノ
65:名無しGGO民 ID:CWCXTiaeI
嘘乙wって言えたら、どれ程良かっただろうなぁ…
66:名無しGGO民 ID:oAp0xVlDY
夢ならばどれ程良かったでしょう(ガチ)
67:名無しGGO民 ID:k8F9S/sf7
リアル侍の要点を纏めよう!
その1、刀の形をしたレア武器と和服のレア装備を持ってる
その2、STRとAGIとDEXを中心に固めてて、まさかのLUXゼロ(本人の談)
その3、フォトソよりも重い筈のライキリでAR、SMG、SR関係無く銃弾を斬り捨てる
その4、見聞色の覇気の如く何処に居ても居場所を捉えて振り向かれる
その5、特化型程ではないけどAGIも高いしガチの武術的な歩法で一気に間合いを詰めてくる
その6、機械型エネミーのロケランも斬り捨てた事がある(闇風の談)
これがGGOに現れたリアル侍の要点やぞ!
68:名無しGGO民 ID:+H0RR1skx
終わってるわ。ゲーム間違えてるだろ。なろう系かよ
69:名無しGGO民 ID:Bs/TiLQHe
リアル剣術家の俺がFPSゲームを剣一本で無双する
70:名無しGGO民 ID:auLwbRgSt
売れそう
71:名無しGGO民 ID:yDrGztN6L
見てみたくはある
72:名無しGGO民 ID:ARgR5GL6m
じゃGGO来いよ。ナマで見れるぞ。ついでに首飛ぶけど
73:名無しGGO民 ID:0VqXfBdew
ついでで見る為の機能が失われてるんですがそれは
74:名無しGGO民 ID:MkZs5nEOl
つかこれマジなの? ワイ未だ信じられんのだけど
75:名無しGGO民 ID:K9cWkrA6M
結構マジだぞ。GGOトッププレイヤーの闇風も証言してるし
76:名無しGGO民 ID:15d1SFTXr
何ならリアル侍にAGI特化型の歩法教えたの闇風だぞ
77:名無しGGO民 ID:hOMZtuKgu
被告人、闇風。判決は?
78:名無しGGO民 ID:r/y9n+vYM
ギルティ
79:名無しGGO民 ID:jV0hs0D2w
ギルティだろ
80:名無しGGO民 ID:mWWwC/N9q
何バケモノ生み出してんだよランガンの鬼
81:名無しGGO民 ID:1E+hAdHXe
一気に矛先が闇風に向いたなぁ…
等、様々な内容が記載されている。
そこに記載されている内容を次々と目に通し、里香へとスマホを返した珪子は―――
「これアキツさんですね」
くるりと手のひらを返し、あっさりと認めた。
見れば見る程に信憑性が増した来て仕方がない。何せ刀の為だけに土下座までしたという話を、目の前の鍛冶師(ゲーム内でだが)から聞かされているのだから。尚更確信が湧いてきた。
刀に対する情熱とそれを使った剣技の数々は、彼女もよく知っている。
だからこそ、確信した。剣を使い、ゲームの中で現実からもゲームからも外れた様な凄まじい技術で悉くを斬り伏せる事が出来る人間など、彼女はアキツ以外には知らないのだから。
「でしょ!? ALOに来ないから何してるんだって思ってたら、まさかGGOをやってるとはねー。なんか意外だわ」
「そうですね。アキツさんの事ですから、ALOかASEをやるかと思ってたんですけど」
「アイツ本当に刀が好きだからねぇ……懐かしいなー。いきなりお金と素材持って来て、初対面で土下座して『俺が納得のいく刀を鍛えてほしい』とか言い出すんだもん。アイツが納得出来る刀を打つまでどれだけ苦労した事か……」
「確か、50層の隠しダンジョンまで行ったんですよね?」
「そう! アルゴが教えてくれた隠しダンジョンに行って、アイツの方向音痴ぶりに悩まされながらやっとボス部屋まで辿り着いて素材ゲット。今思い返すと、キリトの時よりも大変だった気がするわ……」
アキツの愛刀となった刀武器『陰水月』は、SAO屈指の情報屋であるアルゴというプレイヤーから教えられた『50層にある隠しダンジョン』のボスを攻略して手に入れられたものだ。
ぶっちゃけ、ボスの攻略は全然簡単だったのだ。もうその時点でアキツのレベルは上澄みだったし、何より本人の剣技が群を抜いていた事も理由だった。
だが、二人がそのダンジョンを攻略出来たのは二日後である。
そう、幾ら隠しダンジョンで難易度が高いものであったとは言えども、それでも中層のダンジョン。隠しダンジョンにしては長い訳ではなく、どちらかと言えばダンジョンにしては短い方ではあった。
だが、アキツの相変わらずのダンジョン嫌われ具合に悩まされた所為でそのザマである。
「まぁ、最後まで使ってくれたって聞くし、鍛冶師としては嬉しい限りだわ」
「……」
「―――シリカは、やっぱりまだ怖い?」
里香の―――否、
それは、忘れられないかつての記憶。
彼女にとって、初めてアキツという剣士の強さを―――その冷徹さと冷酷さを刻み込まれた瞬間。
助けてもらったのに。手伝ってもらったのに。良くしてくれたのに。そんな相手に対して、恐ろしいと。そう感じた自己嫌悪の過去。
それだけが彼ではないと知っている。本当に、心の底から優しいのだと知っている。だからこそ、彼の事も兄の様に慕っている。
だが、それでも。
そうだとしても、忘れられないものがあった。塗り替えられないものがあった。
「っ…いえ。そうじゃないんです。そうじゃないけど……どうしても、忘れられなくて」
アインクラッド第47層『フローリア』にて。
シリカは、その目でしかと焼き付けた。
友人―――キリトの静止を確かに聞いた上で、しかし即座に、待ち伏せしていた犯罪者プレイヤーの面々全員の四肢を斬り落とした《剣鬼》の姿を。
「そうだ。お前の言う通りだ。俺が手を下す必要など何処にもない。ただ此奴等を牢屋に送れば、それで終わる。本当に単純な事だ。間違っていない」
「だが―――この下衆共は、シリカにとって唯一無二である家族への想いを妨げようとした。踏み躙ろうとした。そんな非道を見過ごすだと? 笑止千万此処に極まるというものだ」
「邪道しか歩めぬ四肢など最早不要。銭にもなりはせんが、二度と非道を働かぬ様―――此処で捨ておけ、下衆共」