《GGO》で剣聖   作:全智一皆

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「そういえば気になったんだけど、彼奴の記憶って消去したんだよな?」
「あぁ。SAOで彼はあまりにも多くの経験を積んでしまった。あれを現実世界に放つのは、あまりにも危険過ぎる。何より今後のVRMMOの難易度が、彼一人の所為で破綻しかねない」
「でもアイツ、SAOの名前を思い出せないだけで他の事全部憶えてたぞ」
「え……」
「え?」

―――英雄と魔王より、イレギュラーな事態について。


第十七話 この世界に居座る理由

 

■  ■

「―――暇だな」

「随分と急ね…?」

 

 場所はSBCグロッケン。その中心部にある大きな建物の中にある『ホーム』―――アキツの部屋―――にて。

 ホームのソファに腰を下ろしていたアキツは、ライキリG7を布でフキフキと磨きながら不意にそう零した。

 ホームに来てから約数分と経過した頃。

 アキツが居ない間に入手した対物(アンチマテリアル)ライフル『ウルティラ・マティオ へカートⅡ』の分解、組み立てをアキツの部屋の机でこなしていたシノンも、流石にいきなり暇だよなんて言われれば、困惑を隠さずにはいられなかった。

 

「かなり時間が経ったが、ライキリを手に入れたのは今でも喜ばしい。今でも手入れは欠かしていない。しっかりと使っているのだ。だが、最近はマップに出ても相手する人間が少なくなってきてな」

「まぁ、そりゃあね。貴方みたいなのは、FPSゲーマーにとっては天敵だもの。しかも銃弾を平然と斬って来るんだもの、誰も相手にしたがらないわよ」

 

 弾道予測線(バレットライン)といったシステムなどが有りはするものの、GGOも他のVRMMOの例に漏れず一人称のゲームだ。

 純粋な身体能力というか、身体の感覚と言うか。ALOではそこら辺が顕著で、やはりVRMMOというジャンルもあってかそこら辺が勿論関わってくる訳だが、その点においてアキツはまさしく群を抜いていた。

 リアルで銃をマトモに扱った事などなく、そういった訓練を重ねた事がない他のGGOプレイヤー達とは違い、アキツは剣術において幼い頃から研鑽を積んできた。

 剣を振るう者の戦い方。剣を振るうが故に為せる技。剣を振るうにおける理念。そして―――SAOという世界において経験した、剣と剣を交えた殺し合いの経験。

 それら全てを積み重ねているアキツという存在は、他のプレイヤー達からすれば『怪物』とかそういったものではなく、もはや『天災』も同然の認識だった。

 自分よりも強い奴に会いに行くとか、剣を交えたいとか、そういう気持ちを持つ事は悪い事ではない。場合によっては蛮勇ではあるが、それも確かに立派な向上心の一つだろう。

 だが、世界各地を旅してあらゆる人間を探したとて、『地震』や『津波』といった抗いようもない天災に『天災がなんだ! 俺の方が強いぜ!』なんて言いながら突っ込む馬鹿は居ない。

 アキツがまさしくその天災だ。銃弾の雨を斬り払い、狙撃手の位置すら超感覚で察知し、さらには自前の身体把握能力によって自在に動き回れるという、無理ゲーを体現したかの様な存在なのだ。

 それを相手にするとか無理無理。そんなんだったらモンスターと戦ってた方がマシだわ。そう考えるプレイヤーは、決して少なくはなかった。

 

「それに加えて……目的が無くなってしまった。ヨミビトシラズやライキリといった、『和』に関連する装備を集めるが為に夢中になっていた故、それが達成されるとな……こうも熱が冷めるものなのか」

 

 いわゆる、燃え尽き症候群というやつである。

 燃え尽き症候群と一言で言っても、実はわりと色んな意味があったりするのだけれど、今回の場合は世間で知られている『努力の末に目標を達成した後に虚脱感が生じる事』を指す。

 アキツの場合は、ヨミビトシラズやライキリといった、GGOにおける『和風テイスト』の装備を集めると息巻いていたものを達成した事によるやる気の低下だ。

 だが、本人から出たその言葉を聞いてシノンは目を見開いて驚いていた。コイツ何言ってんだマジでと言わんばかりの驚愕である。

 

「え……貴方、燃え尽きたりするの? あんな毎日フィールドに出て剣を振るってたのに? あれで燃え尽きてたの?」

「その信じられないものを見る様な目は流石に堪えるぞ、シノン。俺とて人だ、目的を果たしてしまってやる気が削がれてしまう事も当然ある。それに、研鑽はそれとは別だ。俺にとっては研鑽はして当たり前の事でしかない」

「やる気が削がれてるのに研鑽はしっかりするって、わりと矛盾してる様な気がするけど」

「むぅ……説明が難しいな。どう言ったものかな……こう、GGOに対するモチベーションの喪失と言うべきか。GGOというゲームに必死になれなくなりつつあるんだ」

 

 ゲームに限らず、人間は何か目的がある事で全力を出せる。或いは、作業をする事が出来る。

 お金が欲しいという目的があって、働く事が出来る。

 良い会社や学校に通いたいという目的があって、勉強する事が出来る。

 これが欲しいとか、此処に行きたいとか、そういった『目的』を達成する為に人は努力と苦労を重ねる。その努力と苦労の果てに、自分達が達成したい目的があるから。手に入れられるものがあるから。

 目的を達成する為ならば、人間はどんな事だって出来る。そこ目的を達成したいというモチベーションがある時の人間は、他の人間よりも一線を画すやる気と集中力を見せる。

 目的を達成するというその過程において、その目的よりも凄まじい功績を残した人間は、世界の歴史を見ても決して少なくはない。

 

 しかし、だからこそと言うべきか。

 その目的を達成してしまった人間は、だいたいそこで終わりだ。特にそれが大きなものだったり、自分にとって重要な事だったならば、特に影響が出てしまうのだ。

 アキツは元より、GGOというゲームをALOやASEと同じ様なものであるという勘違いから買って始めたプレイヤーだった。

 そんな彼にとっての一番のモチベーション―――それこそが、ヨミビトシラズやライキリG7といった数少ない和風装備の存在だったのだ。

 しかし、その和風装備を手に入れるという目的を達成してしまってから数週間。アキツは今の様に暇に苦しんでいて、さらにはモチベーションも低下しているという有様である。

 

「……辞めるの?」

「む?」

「GGOを、辞めるの?」

 

 アキツの方を向かないまま、シノンは問う。

 その声は―――僅かだが、震えていた。

 シノンにとって、アキツはいつの間にか大きな存在になっていた。強さを求める朝田詩乃(シノン)にとって、上泉秋永(アキツ)とはまさしく強さの象徴となっていた。

 一騎当千にして万夫不当。積み重ねられた鍛錬と死闘によって完成された剣技。強敵も弱者も等しく見て戦う事が出来る思考。どんな時も冷静さを失わぬ精神の強さ。

 彼は間違いなく、GGOというゲームにおいて最強の位置に立つ事が出来る人間だ。それを《BoB》で倒す事が、シノンの目的になっていた。

 それなのに。

 強者であるが故に減るものは多くあった。挑戦者の低下。やる気の低下。モチベーションの喪失。GGOというゲームに必死になれなくなりつつあるという理由。

 GGOを引退したとしても、何らおかしくはない。しかしそれは、シノンにとっても目的を失うも同義だった。

 決して、依存している訳ではない。そういう意味ではないのだ。アキツがGGOを去るという事は、つまり今のシノンにとっての目的が無くなる事で。

 それは、自分のトラウマを克服すべく強さを手に入れる努力を怠らなかったシノンの全てを否定する事に他ならなかったのだ。

 

 だが―――

 

「何を言っているんだ? 辞める訳がないだろう」

 

 アキツは、首を傾げてそれを否定した。

 

「まだGGOをやってからそうも経っていないし、GGO自体にある楽しさを全て味わった訳ではないんだ。それに何より―――君が居る。それだけで、GGOを続ける意味は確かにあるというものだ。ただやる気が無くなってしまったというだけで、GGOを辞めると思われるとは……友として流石に心外だぞ、シノン」

 

 小さく溜め息を吐き、アキツは如何にも私は不服であるという感情を包み隠さない。

 男アキツ、そういうつもりなど欠片もありはしない。だがそれ故に、普通なら言い難い言葉も平然と言い放つ。

 そう、この男―――ナチュラルに友人に対する感情が重いのである。友人の言葉であれば何一つとして疑う事が無いと言っても過言ではないくらいには、友人という存在に対して信頼が厚いのだ。

 とは言っても、それで彼が痛い目に合わされた事があるかと問われれば、答えは否だ。

 シノンと初めて出会った時も言った様に、彼は人を見る目があるという自負がある。しっかりと彼が自分の口から友人であると断言する人間は、実はかなり稀だったりもする。

 

 まぁ、閑話休題(それはともかく)

 

 まさか、そこまで平然と恥ずかしい様な言葉を言われるとは思っていなかったのだろう。シノンは困惑と照れが混ざった、まさしく複雑といった表情になっていた。

 

「え、あ、えっと……ごめん、なさい? ありがとう?」

「俺にとって、君はGGOにおいて初めて出会った大切な友人だ。君がそう思ってくれているかは分からないが、俺は君の事を親友だと思っている。そうまで思っている友と一緒に遊びたいと思う気持ちは、何ら珍しくはないだろう?」

「そ、そうね! えぇ、うん…そうね…………」

(なんでそうも平然と恥ずかしい事を言えるのよコイツ…! しかもどストレートに! どういうメンタルしてる訳!?)

 

 君が居るというそれだけでGGOを続ける理由になる。大切な友人、親友。どれもこれまでシノンが全く言われなかった言葉ばかりだ。

 それを恥ずかしげもなく、曇り無き真っ直ぐな瞳で堂々とぶつけまくるのだから、流石のクールビューティーシノンもこれにはたじろぐばかりである。

 

「それに、闇風殿や銃士X殿から聞いたのだが、近々《BoB》なる大会があるのだろう? 俺もそれに興味があるんだ。その事についても君から教わりたい」

「! 《BoB》に出るの?」

 

 机から身を乗り出して、シノンは興奮した様に問う。

 GGOにおける数少ないビックイベント―――《BoB(バレットオブバレッツ)》。

 プレイヤー同士によるバトルロワイヤル形式で行われるトーナメント制の大会は、GGOにおいて最も心躍るものと言っても差し支えないだろう。

 名を上げようと参加する者は勿論、GGOに時間と金を注ぎ込んだプロだって参加する。その戦場に現れる強者は、それ程の相手であるという証明だ。

 

「あ、あぁ。俺もGGOをやり始めてからかなり経った。最近は相手も少なくなってきたからな。ここで一つ、剣士として派手に名声を得るのも一興かと思ってな」

「そ、そう……なら、早速色々教えときましょうか」

「うむ。それはありがたいのだが……シノン」

「なによ?」

「この至近距離で話す必要はないのでは? 流石に、君程の()に詰められると些か面映(おもは)ゆいのだが」

「へ?」

 

 そうして、シノンは気が付く。

 目の前に広がるのは、アキツの顔。何処とは言わないが、ほぼ激突寸前である。

 

「……」

「…………」

「……………」

「………………」

 

「……………………………………!?!?!?!?!?!?!?!?!?」

 

 一気に顔を真っ赤に染め上げて、シノンはバッと身を下げて咄嗟にへカートへと手を伸ばした。

 流石のアキツも、それは些か、いやかなり理不尽が過ぎるのではないだろうかと異議を申し立てたかった。

 ので、直ぐにソファの後ろに身を隠した。

 

「っ!? 〜〜〜〜〜〜〜〜!?!?!?!?」

「シノン、いやシノン殿。流石に今回ばかりは俺に非がある様には思えんのだが。いや、俺が身を引けば良かったのかもしれないが、流石にああもいきなり身を乗り出されるとは思わずと言うか…」

「う、うるさいっ! 黙って出てきなさい! じゃないと撃つわよ!」

「どちらにせよ撃たれる未来しか見えないのだが……」

 

 こんな平和な日常―――それから、暫くして。

 まさかGGOで殺害事件が起きる等とは、この時の二人は全く思っていなかったのだった。




「何か切っ掛けがあった訳ではない―――いや、切っ掛けはあったのだ。彼の頭の中ではなく、その肉体に。仮想世界であったとは言ってもその体を動かしていたのは、彼の肉体の感覚。その生身に仮想世界での戦闘経験は全て刻み込まれていた。その戦闘経験から、どんな事があったのか、どんな人と出会ったのか、どんな為人だったのかを思い出したと…? 君は何処まで規格外なんだ―――アキツ君」
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