《GGO》で剣聖   作:全智一皆

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追記
捌咫烏(2代目)様、文章の御指摘ありがとうございます。


第三話 初陣

 

■  ■

「ふむ……やはり殺風景だな、GGOのマップは」

「それはまぁ、舞台設定が設定だもの。仕方ないわ、」

 

 SBCグロッケンの後方中央にあるマップ転移装置を使い、アキツはシノンと共に砂漠地帯のマップへとやってきた。

 GGOは荒廃してしまった地球が舞台である。

 その為、GGOに数あるエリアは基本的に砂漠地帯か荒野が多く、その旧時代の残骸となる建物を遮蔽物として移動しながらの戦闘が基本だ。

 まぁ、とは言うものの……

 

「貴方の場合、基本的に接近戦だものね…」

「うむ。銃を一通り触っては見たものの、やはり上手くいかん。俺はやはりこの剣一本で十分だ」

 

 白い光の刃を持つ光剣(フォトンソード)『ムラマサG5』。Gシリーズは軽さや威力等のバランスが整ったフォトンソードの基本とも言える武器だ。

 ちなみに、Gの後の数字は刀身の長さを示すものでもある。

 実体剣と違い重みは殆どなく、非常に軽い。しかし刃は光であるが故に切れ味には文句無し。剣士としては、フォトンソードは中々に良い武器だとアキツは高く評価していた。

 

「軽いお陰で振りも速く動きやすい、光で焼き斬るが故に太刀筋も切れ味も気にする必要もない。折れず曲がらずよく切れる、さらには刃こぼれしないときた。これを良い武器と言わずして何と言うのか」

「実際に扱える人間が、GGOではそう多くないのよ。私もそれをまともに使ってるプレイヤーは見た事ないわ」

「ふむ…尚更、熱意が湧くというものだ。剣を振るうだけの馬鹿が戦場を駆け抜けるのも、また一興か」

「想像するだけで恐ろしいわね……」

「取り敢えず、プレイヤーと出会うまでは適当に散歩して回ろう。何か宝物があるかもしれん」

「いや、一応モンスターとか居るんだけど……」

 

 完全にピクニック気分だ。警戒心など皆無の軽い足取りで進んでいくアキツに呆れながら、シノンもそれに並んで歩いていく。

 GGOにも敵対NPCは存在する。各エリアに機械的な生物、オートマタなどが配置されており、特にオールドサウスともなればロボットすらもポップする。

 敵はプレイヤーだけではないのだが、しかし本人は気にも留めず歩いていくばかりである。

 

「能力構成は決まったの?」

「あぁ。STR、DEX、AGI。この三つを中心にする予定だ。俺は剣士だから素早さは必要だし、レアアイテムが刀ともなればそれ相応の筋力と技量が必要になる。だから基本的にこの三つを重視する」

「LUXは? LUXも上げないと、レアアイテムのドロップは厳しいと思うわよ」

「LUXはリアルラックで補う」

「そんな無茶な……」

「前のゲームでもLUXは上げていなかったが、無事に生き残れた。だから何ら問題はない」

 

 ドン引きするシノンだが、アキツは問題無いと断言した。シノンからしてみれば、何の根拠もない発言である。

 アイテムのドロップ率、クリティカルダメージなどに関わるステータス―――それがLUXだ。しかしアキツは、それに対して一切のポイントを振るつもりはないらしい。

 彼が重視するのはSTR、DEX、AGI。言ってしまえば剣士として必要不可欠な三つのステータスである。

 今こうして彼が振るっているのは実体剣に比べれば軽く、扱いやすいフォトンソードである為、STRもDEXも大して必要ではない。だが、いつかはライキリという実体剣を装備する予定なのだ。

 実体剣はフォトンソードに比べて重く、必要な技量もそれ相応。エストックと呼ばれるレイピアに分類される武器よりも重たいであろう刀の形をした実体剣であれば、要求されるステータスもかなりのものだ。

 そうなれば動きも多少は変化する。フォトンソードを装備していたからこそ出来た俊敏な動きも、実体剣を持つ事でそれも低下するかもしれない。

 何より、銃を装備しないというFPSにあるまじきクソみたいな縛りを自らに課している以上、俊敏な動きが出来なければ話にならないのだ。

 故に、STRとDEXとAGI。この三つを重視して構成する事に決めたという訳だ。

 

「お、見ろシノン。あの建物の上に箱の様なものがあるぞ」

「あぁ、トレジャーボックスね。素材アイテムとか武器、弾丸が入ってたりするのよ」

「なるほど。では取ってみようか」

「そうね。取り敢えず、入口を探して……」

 

「ん? 駆け上がれば良いだろう?」

「は?」

 

 突然のとんでもない発言に面食らったシノンを置いて、そう言うや否や―――

 

「失礼するぞ」

「なっ、」

 

 自然に流れる様にシノンを抱き上げ、そのまま目の前の建物目掛けて駆け出して行った。

 シノンがちょっと! と声を出すが、止まる気配はまったくない。青年はぐんぐんと建物との距離を詰めていく。

 建物の壁と己が距離が縮まり、目の前にどんどん壁が迫っていく中、しかし冷静にその距離を見定め―――

 

「ここだな」

 

 僅かに速度を緩め、足を揃えた瞬間に一瞬で力を込めて跳躍し、その流れのままに一気に壁を駆け上がっていく。

 勢いが減る。重力が体を押し返す。だが、それにすら逆らう様にアキツは片足に全力を込めて壁を蹴り、己が体を遂に建物の屋上まで飛ばし上げた。

 

「っと。中身は…ふむ、素材アイテムか。衣服を作るのに必要と。服か……GGOにも和服があれば良いのだが」

 

 GGOの世界で和服なんてそう見れるものではない。だが、決して無いという訳ではない。レシピがあれば作る事は可能ではある。

 ぶっちゃけ、彼は洋服よりも和服の方が着慣れている。実家が実家である事も含め、彼は家で過ごすにも外に出るにも基本的に和服を着て生活している。

 要するに、着慣れた服の方が過ごしやすいという訳である。

 

「む、此処はわりと眺めが良いな。しっかりと青空が見えるというのは貴重だ、気持ちが良い」

 

 地上では砂煙が多く、しっかりと全体を見る事も叶わなかったが建物の屋上ともなれば、一辺を見渡すくらい事は出来るらしい。

 見上げれば青空も見えるし、岩山の方を見てみれば機械で造られた生物達が動いている。建物の下―――旧時代の遺跡とも呼べる場所には、オートマタ達が銃を持って徘徊している。

 実戦するには丁度良い数だ。

 果たして、この世界で剣一振りでどこまで通用するのか―――青年はそれを確かめたくて仕方なかった。

 が、しかし。

 

「いい加減っ、降ろしなさい!」

「っと」

 

 それは抱えた狙撃手(ねこ)の攻撃によって阻まれた。

 ブンっ! と、抱えられた少女が顎目掛けて掌底を突き上げたが、アキツはそれを紙一重で躱した。

 

「危ないな。いきなり何をするんだ」

「それはこっちの台詞よ! いきなり抱き上げられて、しかも車みたいなスピードで建物を駆け上がるとかバカじゃないの!?」

「む……それもそうだな。女性に対する扱いではなかったのは確かだ。非礼を詫びよう、申し訳ない」

 

 さっとシノンを降ろし、アキツは素直に頭を下げた。

 『女は三歩後ろを歩けとかクソ喰らえ。男なら女に優しくしろ』―――それが父の教えであった。アキツは普段からそれを心得とし、意識している。

 己の非を認め、素直に頭を下げられてはシノンもそれ以上とやかく言う気にはなれなかった。あくまでも急にやられたから驚いたというだけだったのもある。

 

「はぁ……次から気を付けなさい。それで良いわ」

「ありがたい。では、それも含めてこの初陣で名誉を挽回しよう。見ていてくれ」

「…そうね。ご自慢の剣術、改めて見させてもらうわ」

「勿論。我が剣技、とく御覧あれ」

 

 腰に掛けていた柄を掴み取り、光刃を展開して真下へと駆け降る。

 オートマタは真下に居るので四体。その内の一人は―――落下している青年の真下に立っている。

 

「―――」

 

 ブォンッ! と、光刃が空を裂いてオートマタの脳天へと振り落とされる。突如として頭上から落とされた光が、脳天から体を真っ直ぐに焼き斬り、一気にHPバーを減少させてオートマタの命を断つ。

 仲間が一人死んで、ようやく他のオートマタ達が反応する。アサルトライフルを構え、銃口を向ければ幾つもの赤いラインがアキツの体に突き刺さる。

 ドドドドッッッ!!!!! と、銃声が重なって鋭い鉛玉を吐き出す。まともに喰らえば全損は免れず、防御するには距離が足らない。

 だが、事この剣士においては―――距離の有無など何ら関係はない。

 キンっ、と。振り上げられた光刃が銃弾を斬り捨てる。

 軽い身のこなしと共に舞うが如く振るわれる刃が、意思無く鋭く立ち向かう鉄塊を悉く無慈悲に斬り落とし、弾が切れたその隙を縫う様に青年は颯爽と駆け出した。

 一瞬にして詰まる距離。リロードは間に合わない。

 オートマタの体を光刃が貫き、それを直ぐ引き抜いて次の獲物へと跳び掛かれば、喉元に牙を突き立てる様に青年は光刃を振るう。

 

「ふぅ……やはり扱い易いな、光剣(これ)は。使い勝手は小太刀に近いが、性能としては打刀に近い。剣としては理想的だな」

『感心してる所悪いんだけど、敵よ。プレイヤーが貴方を狙ってる』

「来客か。やはりプレイヤー同士の戦いは多いのか?」

『勿論。見た所、プロって感じではなさそうだけど……武器はSMGかしら。MP5、典型的なサブマシンガンね。アサルトライフルより小回りが効くから、照準されるのが早いわ。気を付けて』

「了解。では、全て斬り落として魅せよう」

 

 光剣を構えた次の瞬間、アキツの眼前に小さな何かが現れた。

 それは球状で、鉄製で―――ピピピピと、まるで嘲るかの様に軽い音を鳴らしていた。

 ―――グレネード。小さく、しかし人一人を殺すには十分な威力を持った立派な武器である。

 

『っ、グレネードよ! 回避、』

「問題無い」

 

 アキツには、それに対する恐怖がなかった。

 とにかく冷静。その一言に尽きた。

 突如として目の前に降ってきた球体に対して、恐怖やら驚愕やら焦燥やらするでもなく、それを掴んで真後ろへとぶん投げたのだ。

 爆風が背中を押す。そのままに、アキツはスタートを切った。

 

「うそっ、対応された……!?」

「向こうでも不意討ちはよくされたからな。対処には慣れている」

「くっ…! 装備から見て初心者だと思ったのに!」

「実際、初心者なのだがな」

 

 ―――前へ。

 前へ、前へ、前へ。

 自らに降り掛かる銃弾の悉くを、まるでそれが出来て当たり前であるかの様に平然と斬り捨てて、青年は前へ前へと突き進む。

 初心者? 何を馬鹿げた嘘をさも当然のように宣うんだ! こんな馬鹿げた芸当が出来るやつが初心者なんかであって堪るか!

 相手のプレイヤーは、そう叫ばずにはいられなかった。

 

「確かに速いな、全てを斬るのは骨が折れる。三、四個程だが斬り逃してしまった」

『いや、十分過ぎるわ……貴方、フルオートのSMGの銃弾の7割は斬り落としてるのよ』

「どうせなら全て斬り落としたいのだが……うん、まぁ、取り敢えずは目の前の相手を斬ってから反省するとしよう」

 

 駆け出す、なんて動作すらもはや不要だった。

 

「な!? 何処に行った!?」

 

 既に間合い。其処は己の領域だ。

 膝を抜き、まるで霧と消えるかの如く、砂煙と一体になって青年はプレイヤーの前から姿を消した。

 銃を構え、右往左往、前後確認するプレイヤー。しかし何処を見渡しても砂煙、剣士の姿は確認出来ない。

 時間だけが刻々と過ぎていく。

 それはたかが数分程度の時間でしかなかったが、しかし生きるか死ぬかの戦場においては、そんな僅かな時間すらもまるで数時間の様な長いものに感じた。

 

 焦り。それが、隙を生む。

 

「―――斬り捨て御免」

 

 ブォン、と。

 刃が空を裂く音を最後に、視界が暗転した。

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