《GGO》で剣聖   作:全智一皆

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第四話 狂人絶斬問答無用

 

■  ■

 アキツというプレイヤーがGGOに手を出してから、早くも数週間が経過した。

 最初の頃に比べればGGOに対する様々な知識を身に付け、友人であるシノンと共に様々なマップに出向いては戦闘やら探索やらハプニングやらを経験した彼は、かなりGGOを楽しんでいた。

 GGOを始める前にやっていたゲームの頃とは些か勝手が違う事に多少難儀はしたものの、それも数週間という時間が経てば慣れてくるというもの。

 今では一人でも戦場を駆け抜け、多少の金も得たお陰で装備を充実させつつある。まぁ、装備を充実とは言うものの基本的に剣しか装備しないのでそこまで注ぎ込んでいる訳ではないのだが。

 そんな彼は現在、とある装備を作る為に素材集めに奔放していた。

 このGGOにおいて、数少ない男性和服装備―――『ヨミビトシラズ』。それを手に入れる為に、彼はオールドサウスのマップにあるダンジョンの一つに潜っていた。

 潜っていたのだが……

 

「ふむ……分かってはいたが、やはりダンジョンは広いな」

 

 男アキツ、現在進行形でダンジョンを迷っているのである!

 別に彼が方向音痴であるという訳ではない。

 何処ぞの世界一の大剣豪を目指している三刀流剣士の様な、前後左右の道を間違えてしまう程の極度の方向音痴などでは断じてない。

 実はこの男―――前ゲームの頃から、ダンジョンというものが凄まじく苦手なのだ。というか、寧ろ彼がダンジョンというものに嫌われているまである。

 一人でダンジョンに潜ったら丸三日も経っていたなんて事すらあり、運良くそのダンジョンに潜ってきた三人のプレイヤーに助けてもらわなければ餓死していた程だ。

 のだが、それを経験しているにも関わらず学習していないのか彼は一人だ。一人で、ダンジョンに潜っているのだ。

 そもそもの話、本人は自分はダンジョンが苦手だという自覚が欠片もないのである。迷って仕方ない、だってダンジョン(迷宮)だもの。本人はそれで納得してしまっているのだ。

 ちなみに、彼がダンジョンに潜ってからというもの、既に四時間が経過している。……四時間である。

 

「ダンジョンでは、一度倒した敵がリポップしないのはありがたいが、変わり映えのない景色を見続けるのもかなり苦だな。やはりシノンを誘うべきだったか……これは三人には見せられんな。特に彼奴には。また怒られてしまう」

 

 彼にしては珍しく、困った様な顔を浮かべながら頭の中で件の三人を思い浮かべる。

 三人共に友人。そのゲームで出会った友人。

 一人はゲーム開始時に色々な事を教えてくれたゲームの先輩にして最初の友人。

 一人は初めてのダンジョン攻略で共に戦い、その後もちょくちょく出会っては一人目の友人の事で話し合い、自分に様々な知識を教えてくれた友人。

 一人は二人目の友人の親友で、かなり世話を焼いてもらっただけでなく、そのゲームにおける最終装備を造ってくれた友人。

 内二人とは今も連絡を取り合い、顔を合わせる事もあるが―――三人目の友人とは、ゲームをクリアして以来全く会っていない。

 

「また三人で一緒にゲームをしたいものだな。となると、今度は俺が教える側になるのだろうか? それはそれで、面白そうだ」

 

 彼にとって、そのゲームは自分に大切な出会いをくれた一つの分岐点だった。

 自分にゲームという遊びを与えてくれたゲーム。仮初の世界であろうとも、そこで必死に生きている人々の努力を知る事が出来たそれは、彼の意識を大きく変えた。

 リアルでの習い事を両立させながら、ゲームに手を出す事への楽しみを知った世界で出会った三人の友人。

 彼らと過ごした日々を、アキツは未だ強く憶えている。その日々が、彼にとっては大切なものだった。

 

 だが、それはそれ。今彼がプレイしているのは、GGOである。

 

「おっ、プレイヤーはっけ〜ん…! わぁ、まさかの光剣(フォトンソード)一本!? これはこれは、楽しめそうじゃな〜い!」

 

 現在、アキツが歩いているダンジョン部屋の後方、その物陰に身を隠しながらスコープから警戒心皆無でスタスタと歩いている彼を覗く輩が一人。

 動きやすいアサルトスーツに身を包んだ、頬に独特なマークが刻まれた黒髪に凶悪な顔をした女性アバターのプレイヤー。

 その名前を―――ピトフーイ。GGO日本サーバー開始初期から遊んでいる古参プレイヤーである。

 彼女は今回、最近のGGOで噂になりつつあるプレイヤーを追ってこのダンジョンへと潜っていた。

 GGOを始めたてであるにも関わらず、銃火器の一切を用いず『光剣(フォトンソード)』一本を装備したニュービーの噂。

 銃弾を切り払い、高いAGIによる高速移動と独特な歩法によって一瞬で距離を詰められ、鋭い太刀筋によって斬られた事に気付く間もなくキルされる。

 それが―――アキツの噂であった。

 

「見た感じ、あんま強そうには見えないけど……まぁ、ヤってみなきゃ分かんないよねぇ?」

 

 頬が裂けんばかりに口角を上げ、ライフルを構え直して、

 

「は?」

 

 すぐに、表情を消す。

 ―――目が合っている。ピトフーイとアキツの目線が、ぶつかっている。

 なんだ、そんな所に居たのか。

 そう言わんばかりの表情を浮かべながら―――その右手には、白い閃光の剣が掴まれていた。

 時間にして数秒。もしかしたら、一秒だって経っていなかったかもしれない。

 ピトフーイは確かに彼を見ていた。スコープ越しに、彼の後ろ姿を捉えていた。にも関わらず、彼が抜刀した瞬間も振り向いた瞬間も、押さえる事が出来なかった。

 瞬きをした、次の瞬間―――その時既に、彼はピトフーイを捉えていた。つまりは、そういう事だった。

 

「マジか……ふふふふ、良いなぁ、最っ高〜!」

 

 ピトフーイはまた笑みを浮かべ、容赦なく引き金に指を掛けた。

 ドォンッ!!!

 迷宮に鳴り響く発砲音。スナイパーライフルの鋭い銃声と共に、7.62mm口径の弾丸が解き放たれた。

 弾速にして800m/s。普通の人間であれば回避も防御も出来ないその一撃は―――

 

「―――」

 

 キンッ、という小さな音と共に切り裂かれた。

 800m/s。時速換算で2880 km/h。人間の視覚処理能力を超越した速度を叩き出すそれを、真正面から―――彼は、一刀で斬り伏せた。

 

「アッハっ! マジか、マジなんだ! 本当に銃弾斬れるんだぁ!」

「……そんなに喜ぶことか?」

「そりゃ嬉しいに決まってるじゃん! 最近はマトモにやり合う相手も居なくて退屈してた所だからさ〜。君みたいな期待の新人くんの話聞いた時は、もうすっっっごくワクワクしたんだよ?」

「そうか。その評価には感謝しよう」

「冷めてるなぁ〜。あんまり感謝してる風には見えないよ?」

「これが素だ、気にする必要はない。後は、まぁ―――正直、俺は君が嫌いだ」

「初対面なのにいきなり大胆な告白だぁ!? 流石にちょっとびっくりしちゃったよ!?」

「今後一切顔を合わせたくないので、今此処でその命貰い受ける」

「逆告白だけでなく初対面で死刑宣告とは、面白いねぇ! 良いよ、なら嫌いなオネーサンと存分にヤり合おってもらおうか!」

 

 嬉々とした表情を浮かべながら、ピトフーイは呆気なくライフルを投げ捨てる。

 そして右手に掴むのは―――赤い閃光の剣。アキツと同じ光剣(フォトンソード)である。

 軽い身のこなしで飛び降り、ピトフーイは真正面から堂々と斬り掛かりに行った。

 そして―――アキツの目を視る。

 

 ソレは―――敵に非ず。

 ソレは、ただ斬るモノ。

 斬り捨て、斬り伏せ、斬り裂き、斬り穿つだけのモノ。

 敵意も無ければ殺意も無い。果ては、戦意すらも無い。

 動くモノを斬る。動いているモノを斬る。ただそれだけの『作業』。ただそれだけの『動作』に過ぎない。その程度の意識しかない。

 彼は、ピトフーイという人間を見ていない。

 彼にとって、剣を持って斬り掛かって来ている彼女は人ではない。動物ですらない。

 ―――ただのモノだ。動くだけのモノ。言ってしまえば、自分が今此処で斬り捨てるだけの藁でしかない。

 

「その眼は、既に知っている。破滅と破壊を愉しむ者の目だ。争いの中に死を望む者の目だ。もう散々目にしてきた。飽きる程に見てきた。そして―――」

 

 自分でも数えるのを止める程に、その目をした人間を無情のままに斬ってきた(笑う暇も与えず棺桶に送ってきた)




オリ主は如何なる理由があろうと狂人を絶対に許さないマン。ある種のトラウマみたいなもの。
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