《GGO》で剣聖   作:全智一皆

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「彼はあまりにも強過ぎた。私が自ら枷を与えなければいけない程に、彼は強かった。……誰も彼を英雄(勇者)とは言えないだろう。アレには、そんな名誉すら似合わない―――この世界に落ちたその最初の時点で、彼は既に『完成』していたのだから」

―――魔王の独白、剣聖への不満


第六話 一刀切捨、斬れぬもの無し

 

■  ■

 場所はオールドサウス。その廃墟都市の北部、入口周辺の平原である。

 その平原に、アキツとシノンと闇風は集まっていた。

 

「此処なら近くにモンスターも居る。見せ場としては持ってこいの場所だ」

「ふむ……懐かしい場所だな。此処にシノンと来るというのは、中々に感慨深いものがある」

「そうね……此処で初めて貴方に会って、最初からその変態ぶりを見せ付けて来たわよね」

 

 今でも思い出す。そして思い出すだけですぐに頭の中で猫と宇宙が広がりそうになってしまう。もはやある種のトラウマである。

 初期ステータスという貧弱そのものもを象徴するかの様なルーキーが、まさか自分の肉体の感覚を頼りにして壁やら建物を登って跳んでを繰り返し、最短で距離を詰めて来るなど。

 

「む、変態ぶりとは失礼な。俺は純粋に自分の技術を使っているだけだぞ。決して卑しい行為などしていない」

「だから別ベクトルで変態だって言ってるのよ」

 

 今でこそ友人だから、多少は彼がやってのける荒業というか神業を見ても落ち着きみたいなものが現れてきた。

 まぁ、それでも時偶見せられるその変態的な技術の高さにはドン引く事があるけれども。誰が相手でも平然と第六感によって位置を特定してくるとか気持ち悪いにも程がある。

 しかも今回、それにプロの技が加わるというのだから全く恐ろしいったらありゃしない。

 

「……いったい何をやらかしたんだ、彼は」

「別に、何かやらかした訳じゃないわ。ただ……

ステータスも大した数値じゃないしスキルも習得していない初心者が、スナイパーである私の狙撃を第六感で感じ取って銃弾を斬り落としただけでなく、1kmもの距離から私と目を合わせて『其処に居たのか』って口にして、さらには一々回り道するのは面倒だからって理由で目の前の建物を登って跳び乗ってを繰り返して最短距離で1kmもの距離を詰めて剣一本で来たってだけの話よ」

「なんだそのホラーじみた戦闘状況は!? 長い事GGOをやってきたが、そんな状況は見た事も聞いた事もないぞ!? というかステータスも碌に振ってないし《軽業(アクロバット)》も習得していないのに、何故そんな芸当が出来るんだ!?」

 

 闇風の言い分は実にご尤もである。

 スキル制であるGGOは、《技能(スキル)》と呼ばれる基本から派生まで含めれば数百種にもなるそれを、自分の伸ばしたい構成でポイントを割り振り伸ばす事が出来る。

 そのGGOには、変幻自在で三次元的機動力をブーストさせる事が出来るスキル《軽業(アクロバット)》というものがある為、アキツがやって見せた芸当は決して不可能なものではない。

 だが、アキツはそれを()()()()()()()()()()()()()()()。それがあまりにも異常極まりないという話である。

 しかし、当のアキツ本人は何故そこまで驚かれるのだろう? と首を傾げていた。

 

「何故と言われても……出来るからやったとしか言えないが。そう大した事ではないだろう?」

「―――」

「まぁ、こういう奴だから……本当、見せるだけで良いと思うわ。多分すぐ分かるから」

「GGOにとんでもない逸材が紛れ込んで来たな……仮に出場するとしたら今年の《BoB》は大荒れするかもしれん。ゼクシードのやつは大丈夫か…?」

 

 俊敏力最強というデマを広め、自分は異なるタイプのビルド且つ強力なアイテムによって第2回BoBを優勝したプレイヤー、ゼクシード。

 デマとアイテムによって何とかなりはしたものの、今回はそれも無いし―――そもそもプレイヤースキルで言えば闇風の方が上である―――闇風は前優勝者を心配した。

 もし仮に彼が第3回BoBに出場するとしたら―――そう考えるだけで、今回のBoBはそれはもう凄まじいものになるのが目に見える。

 銃と鋼鉄の世界に現れた、剣一筋の剣狂い(バカ)

 拳銃(ハンドガン)すら用いず、ただ光剣(フォトンソード)一本のみで大会を勝ち進むかもしれない剣士の登場など、大会が沸かない筈がない。

 しかも、自分が今からそれに強化を加えようとしているのだから。その事実が知れ渡ったならば闇風は多くのプレイヤーから『戦犯』呼ばわりされるのは確実である。

 

「……では、今から実演して見せよう。と言っても、大したものでもないが」

「俺は構えた方が良いか?」

「いや、大丈夫だ。ただ見るだけで構わない」

「了解した。では、GGOの達人の技、この眼でしかと拝見―――ん?」

 

 させて頂こう。そう言い切ろうとして、アキツは言葉を止める。

 突如として、三人を覆う様に大きな黒い影が現れた事に一早く気付き、アキツは上を見上げ―――

 

「おぉ……これはまた、凄まじい絡繰だな」

 

 このフィールドに出現する敵対モブ―――飛行型対戦闘用ユニット『ミョルニル』を目にして、純粋に感心した様な声を上げた。

 

「ミョルニル…!? くそっ、ポップ位置に入ったか!」

「気を付けて、彼奴はレーザーとバズーカだけじゃなくてビットも使ってくるわよ!」

「ふむ……飛び道具が多彩だな。流石は近未来世界の絡繰、技術力が凄まじい」

「感心してる場合じゃないでしょっ! 早く戦闘態勢に入る!」

「む、それもそうだな。では闇風殿、実演で頼む」

「この状況でか!?」

 

 いきなりの注文に、つい声を荒らげてしまう闇風。

 敵対モブ、飛行型対戦闘ユニット『ミョルニル』。

 光学バズーカとレーザーだけでなく、敵を追尾するロケットビットすらも搭載しているオールドサウスのネームドである。

 そのロケットビットの追尾性はかなりのもので、AGI型でもフェイントを掛けなければ振り切る事が出来ない程の速度を有している。

 それを相手に実演とは、中々に酷な事を言ってくれる。だが―――彼もまた一人のゲーマーである。

 

「あぁ、いや、寧ろこの方が都合が良いか……プレイヤーに仕掛けた事はあったが、モンスターに仕掛けた事は無かったな。これも経験か……分かった、やって見せよう!」

「感謝する。シノンは距離を取って狙撃地点を確保しておいてくれ。確保次第、援護を頼む。俺と闇風殿で注意を引く内に頼む」

「即席トリオ、しかもその一人がプロだなんて初めてだわ……はぁ、了解。囮役、頼むわ!」

「委細承知。釘付けにして見せよう」

 

 ―――一秒。

 まだ敵は動かない。

 ―――三秒。

 まだ敵は動かない。

 ―――五秒。静が動へと転ずる。

 ガチャンッ! と、敵が右腕に携えたバズーカを構えたその瞬間、シノンは後方の建物へ、アキツと闇風は左右に分かれる様に疾走する。

 

 ドドドドドッッッッッ!!!!!!!!

 マシンガンが銃声を咆哮(あげ)る。高度20mの距離に対して、マシンガンの弾丸では些か威力が物足りないが、それでも敵のヘイトを向ける事は出来る。

 背後に備えたブースターが蒼い焔を息吹き、方向を転換して闇風の方へとランチャーの照準を向けた時。

 

(此処だ!)

 

 闇風は、真っ直ぐに真正面から駆け出した。

 バゴォンッッッ!!!! と、轟音が廃墟の世界に鳴り響く。

 それは、もはや天より注がれる彗星と何ら変わらない。明らか人間の体ではどうやっても受け止め切れない大きさのバズーカの砲弾が、闇風へと襲い掛かる。

 だが―――その彗星は、闇風に直撃する事はおろか、爆風でダメージを負わせる事無く地面に激突する。

 

『―――』

 

 つい先程まで、バズーカの照準に収まったまま真正面を疾走(はし)っていた男は、いつの間にか右方向へと位置を変えて、センサーカメラへとバラバラと弾丸を叩き込んでいる。

 闇風の走法―――その実態は、AGI型特有の超スピードを維持したままの軸転換による高速回避である。

 

(相手の弾道予測線(バレット・ライン)をギリギリまで観察し、それを済ませた上で速力を維持したまま踏み出した足を軸にして射線を逸らし、スキルを重ねた高速回避か……なるほど、AGI型だからこそ出来る芸当という訳だな)

 

 弾道予測線(バレット・ライン)というシステムがあるこのGGOにおいて、相手が何処を狙っているのを知る事は出来る。それは銃器を持った敵も例外ではない。

 AGI型の特徴にして弱点は、その凄まじい速力故に動き慣れなければ碌な方向転換すら上手く出来ないという点にある。

 しかし闇風は、AGI型特有の速力を維持したまま、踏み出した足を軸にして射線から外れ、さらにスキルを重ねる事で人間の視界から消えたかの様な移動を可能としていたのだ。

 それを一目見ただけで、アキツはその原理を素早く理解した。

 だがそれは、彼の観察眼が凄まじいからであるという理由ではない。いや、彼に観察眼が備わっているのは確かなのだが、それが絶対的な理由ではない。

 

 彼は剣術家の家の生まれだ。所謂、古流剣術に分類される剣術の家系である。

 古流剣術とは、戦国の時代に活躍した武人によって生み出され、現代まで伝承されている武術の事を指すものである。

 彼は父より幼い頃から剣を教わり、それを振るってきた。その過程で、父の知り合いである様々な武術家と出会い、技を見てきた。

 その中には、歩法も含まれていた。それ故に―――闇風のそれを、武術として『歩法』として認識し、理解した。

 

「ふむ……アレなら、こちらの剣術を交えられるか」

『アキツ、ビットが出現したわ! 警戒して!』

「ビット……爆発するんだったな。シノン、あれに当たり判定はあるのか?」

『え? どうかしら……基本、銃弾にはどれも当たり判定があるし、光学武器も一応判定はあるから……多分、あると思うけど…どうして?』

「闇風殿の技を見て、思い付いたものがある。試してみたいので取り敢えず斬る」

『――――――』

「無理だと思ったら砲弾を撃ち抜いてくれ」

『無茶言うんじゃないわよ!?』

 

 シノンの非難など聞き流し、アキツは光剣を引き抜いて自らに襲い掛かるビット目掛けて、一切の躊躇もなく馬鹿正直に疾走した。

 キラキラと光るそれもまた、彗星の如く巨大で、速い。だが、彼が初めて斬ったもの―――スナイパーライフルの弾丸よりも、それは酷く遅く見えた。

 距離が縮まる。視界が覆われる。だが、未だ閃光は猛りを隠す。

 狙うは一点。ただ一点。焔の中心たるその一点。

 振りは横一文字。踏み込む足の軸と砲弾の距離を見定め―――

 

 今。

 

「■■流、風廻(かざめぐり)

 

 軸を起点に、剣と共に回転。

 一点を通り、速度と灼熱がその身を合わせ、刹那の刃で以て―――翼を得た砲弾を、横から真っ二つに斬り捨てた。

 

「まだ来るぞ! 二つそっちに」

「問題無い。全て斬る」

 

 二つと向かう蒼い星。されど、それこそ愚行。その攻めこそ無策に過ぎぬ。

 彼の流派は、その「■■の姿勢」こそが武器。先を譲り、型無くして線を逸らし、形を持たぬが故にあらゆる形で以て迎え撃つ剣である。

 だが、彼の剣はそれだけに非ず。

 それは飛閃の如き一刀の技。待ちではなく、変幻自在ではなく、ただ一つの『構え』から斬る事にのみ特化した攻めを穿つ。

 誰に知られるでもなく、ただ僅かばかりの者のみが扱う攻めの剣技である。

 

「■■■■流―――緋吹雪(あかふぶき)

 

 白い閃光の刃から放たれたとは思えぬ深紅の太刀筋を空に示し、二つの彗星を悉く斬り落とした。




彼による敵の攻略と戦闘だけで『修正』が働いた事がある。
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