―――友人Mより、剣聖とゲームをプレイする際の注意点
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アキツはダンジョンに嫌われている。それを最初に指摘したのは、彼の三人目の友人である紫髪の少女だった。
アキツ本人の実力は、その前やっていたゲームでも変わる事なく凄まじいものだった。
そもそもの剣術の腕は、その当時から既に今と何ら遜色がないものであった。まぁ、当時の未だVR慣れしていない事を考慮に入れるのであれば、今と比べれば少しだけ劣ってはいたのかもしれないが。
だが、それを考慮したとしても彼の剣術はその時点で完成に近付きつつあった。その当時から、彼は既に『剣聖』と呼ばれるに相応しい実力を有していた。
しかし、まぁ―――お察しの通りと言うべきか、それ故にと言うべきか、彼はあまりにもダンジョンというものが苦手であった。
「さて……どうやら、シノンとはぐれてしまったらしい」
現在、荒野の奥に隠されたダンジョンの内部にて。アキツはそのダンジョンの奥に居るボスからドロップするとされる光剣『クサナギG8』を求め、シノンと共に攻略に来ていた。
彼がダンジョン内で単独行動をしようものなら、それだけで彼の存在を見失ってしまうぐらいには彼はダンジョンが苦手で、ダンジョンは彼の事が嫌いであった。
その絶対的な実力をダンジョン―――或いはシステムが理解しているが故なのか、もう完全にダンジョンが『来るな! お前はボス部屋来るな! 来るなよぉ!』と拒絶していると言っても過言ではないレベルだった。
「懐かしいな。彼奴とダンジョンに潜った時も確かはぐれてしまったな。それで怒られてしまったんだったか。思いの外、情に厚い男だと知ったのはあれが初めてだったな」
かつて彼とダンジョンに潜り、その酷さを体験した一人目の友人―――通称『友人K』は、もう何も遠慮する事なく、
『お前は絶対にダンジョンに一人で潜るなよ! 潜るなら誰か連れて行け! 分かったな!? 絶対だぞ!』
と、肩を掴んで本気で伝えたのだ。
友人Kも、あの世界で他人に対してあそこまで感情を発露させるとは……と後に驚いてたが。
「それからかなりの月日が経ってダンジョンに潜って……今度は三人に怒られてしまったんだったか。良い友人に恵まれたものだな」
友人Kからそう言われたにも関わらず、暫くしてから装備もレベルも充実してきたし問題ないだろうと言って、彼は一人でダンジョンに潜ってのである。
結果は散々。ダンジョンの奥地に辿り着く事も出来ず、丸三日も彷徨い続けて空腹に襲われてしまっていたのだ。まぁ、それから少しして運良くそのダンジョンに潜った友人Kと友人Aと友人Mに助けられる事となったのだが。
『言ったよな!? 絶対に一人でダンジョンに潜るなよって言ったよな!? 装備とレベルが充実してきたから問題無いと思った? あぁくそっ、そういう風に受け取ったのか…! 違うんだよ、そうじゃないんだよそうじゃ……』
『ねぇ、アキツくん。三日だよ? 丸三日もずっと飲まず食わずでダンジョンに潜ってたんだよ? ゲームだから餓死する事はない?……アキツくんには道徳の授業が必要だね』
『貴方ダンジョンに嫌われてるのよ、そうに違いないわ。でなきゃ丸三日もダンジョンを彷徨うなんて有り得ないから。いい? 二度と一人でダンジョンに潜るんじゃないわよ。絶対よ? 約束出来ないなら貴方には装備品造ってあげないから』
まさしく非難轟々と言った具合で、ダンジョンの中で三人から説教を食らったのはとても鮮明で、未だ彼の記憶に残っている。
だが、そこまでされても彼は懲りないのだ。諦めようとしないのだ。
というのも、彼にしてみれば自分が何故それを出来ないのか分からないというのは、かなり不満であり不快なのだ。
勿論それは、自分の弱さとそれが周りに迷惑を掛けてしまう事への申し訳なさから来るものだ。高みを目指す者として、それを許容する事は出来なかった。
ゲームをする上で、一人でダンジョンを攻略する事が出来ないのはかなり不味い事で、ダンジョンを攻略する度に忙しいかもしれない仲間を集うのは申し訳ない。
だから諦めずにダンジョンに挑むのだが……返ってくる結果はどれも散々なものばかりだった。現在も、その限りである。
『ちょっと、アキツ! 貴方、今何処に居るの!?』
「それが分からない。大きな扉がある部屋に居るというのは確かなんだが…」
通信越しから響く友人の怒号に、しかしアキツは物怖じせずに答えた。
怖くはない。だが申し訳なくは思っている。しかし、それが声色に出るかは別である。彼はそういう男なのだ。
『大きな扉って……もしかして、横に赤いランプが付いてない? かなり大きめの』
「赤いランプ……あぁ、アレの事か。あるぞ、赤いランプ。配線の様なものが伸びて、右側の通路まで伸びている」
『それボス部屋じゃない!? なんで迷子になったのに其処まで行ってるのよ!?』
「なんと。ボス部屋の前まで辿り着いたのか、俺は」
迷ってしまったと思っていたら、まさかの終着点。これにはアキツも吃驚仰天である。
ある意味で、アキツはダンジョンに勝利したと言っても過言ではないだろう。なんせ前のゲームでは、幾ら迷ってもボス部屋まで一人で辿り着く事など出来なかったのだから。
だがまぁ、チームプレーとしては大間違いである。
『
「む……そうは言われてもな。迎えに行きたいのは山々だが、俺がまた一人で動けばさらに時間が掛かると思うのだが」
『そんなの分かってるわよ! あぁ、もうッ! あれだけ一人で行動するなって言ったのになんで一人で動くのよ!?』
「すまん。昔の癖でな……敵の気配がしたら、自然と其方の方に向かってしまうんだ。また闇討ちに遭うのは御免被る」
彼にしては珍しくうんざりとした様な声色で、力なく答えた。
『貴方、本当にどんな
「それが―――全く名前を思い出せんのだ」
『え?』
「こう……記憶が丸ごと抜け落ちていると表現すべきか。ゲームであった事も、友人達の事も―――
彼は確かに、そのゲームの事を憶えている。
そのゲームでの出来事も、そのゲームで出会った人達の事も、そのゲームで
そのゲームの名前以外の一切は記憶しているが、そのゲームの名前のみがまるで抜け落ちたかの様に無くなってしまっているのだ。
「目覚めた時には、既に欠けていた。その後、暫くしてから父上が叩き斬ってしまったからな。見ようにも見れん」
『ちょっと待って叩き斬るって何? 貴方のお父さん、そのゲーム丸々斬ったって事?』
「ハードごと一刀両断だ。相変わらず父上の剣技には未だ敵わん。まぁ、お陰で銭稼ぎに駆り出す羽目になったのだが」
『貴方の家どうなってるのよ……』
「何処にでも……は分からないが、単なる剣術家よ。『一殺多生』、我等は人を活かす為の剣を振るう―――まぁ、俺は例外だが」
アキツには、何ら後悔などない。
悪人は斬る。非道は斬る。下衆は斬る。自分がそうだと判断した、誰もがそうだと判断する人間は、如何なる理由があろうと斬り捨てる。
「悪を斬る事が悪であると言うならば、逆に問いたい―――悪を生かす事は、果たして人を活かすと言えるのか」
「あー、楽しかった! こんなに強い人と戦ったのは初めてだよ! でも、もうお別れかぁ…あ、そうだ! ねぇねぇ、名前教えてよ、名前! もし、また別のゲームで会えたら―――また戦おうね!
ボク? ボクの名前は―――」
―――友人Yより