メジロアルダン短編集『to the MEJIRO ARDAN』   作:いずさわ

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青春は、擦って転んで花開く。




桜のあと (all quartets lead to the?)

「はい!私クレープ屋さんやりたい!」

「えー?結構大変だよ食べ物は?」

 

 

「チーム発表とかやる?」

「やりたい!けど私クラス代表になっちゃったしなぁ…」

 

 

「演劇、やるんでしょう?台本もう出来ているの?」

「もっちろん!ボクの美しさを最大限引き出すための完璧な台本さ!」

 

 

----------

 

 

春…陽気な風に吹かれ誰も彼もが浮かれ騒ぎ出す、芽吹きの季節。それはこのトレセン学園でも同じらしく、あちらこちらで生徒たちの色めく笑い声が聞こえてくる、とある昼下がり。

 

「そういや、もうそんな時期かぁ」

 

彼女達が浮かれているのは、何も春だからというだけでは無い。半年に一度のウマ娘の祭典、『春のファン大感謝祭』が間近に迫っているからだ。クラス単位、チーム単位、もしくはそんな垣根を越えた仲間同士で多種多様な出し物を行う大規模な催しであるファン感謝祭。程度の差はあれどやはり殆どのウマ娘が学生らしく、一生の思い出を創るべく寝食を忘れ奔走する季節が、今年もまた始まったのであった。

 

「とはいえ、僕らにはあんまり関係ないけどね…」

 

そう、大感謝祭はウマ娘達とファン達の祭典。少しばかり運営の手伝い位はするが、基本的に我々トレーナー陣にはあまり関わりのない催しである。ギラギラと、太陽の如く眩しい青春の光に軽く網膜を焼かれながら、僕はいつもと全く変わらず、自らのトレーナー室へと赴く。担当との定期ミーティングの時間には早いが、いつも通り仕事は山積みだ。せめて彼女達の若々しい勢いを僅かばかりお借りして、とっとと片付けてしまおう。

 

「ふぅ…さて、と……」

 

さて、仕事仕事…と、軽く伸びをして、僕はいつものトレーナー室の扉、そのドアノブに手をかけ…

 

 

……ガタッ……ガタガタッ

 

 

「…………?」

 

 

……ガタッ!ダンッ…!ダンダッ…!

 

 

「っ……うおっ……!?」

 

何かが…居る……!?

誰もいないはずのトレーナー室、その中から聞こえてきたなんとも激しい衝撃音…思わず僕は後方に飛び退いて、その扉から距離を取る。

 

「…え…?、なに?だ、誰かいるの…?」

 

 

…………………………

 

 

「……え、えーと…?」

 

 

ダッ…!ダンッ…!ダダンッ…!!

…〜!………〜〜!!

 

 

「ひ…ひぃぃぃぃっ!?!?」

 

やっぱり、何かが『居る』っ!!何らかの衝撃音…しかも…しかも何者かの囁くような『声』まで聞こえてきて…!これは、まさか俗に言う、ラップ音…とかいうやつか!?幽霊!?ど、どうする?霊!?何、何が効くんだっけ!?塩?塩か?十字架とか!?と、とにかく何かしら対抗しなくては…!だ、ダメだ…こ、腰が抜けて…力が…!

 

「だ…誰か…誰か助けっ……」

 

 

…………………………

 

 

「………?」

 

 

……………ガラッ!

 

 

「ひゃあっ!?お、お助けをぉ!!」

「あ、あら?トレーナーさん?そんな所で何を?」

「…………あ、あれ?アルダン?」

 

突然、扉が開いて、廊下中に僕のなんとも情けない声が響く…が、扉の向こうから覗いてきたのは、あまりにも見知った、見知りまくった顔…我が担当ウマ娘、メジロアルダンの、その小さく愛らしい顔であった。

 

「申し訳ありません…イヤフォンで音楽を聞いていたもので、トレーナーさんが来ていたのに気付かず…た、立てますか?」

「…えと、うん、ごめん、手を貸してくれたら嬉しいかな」

 

これまたなんとも情けなく、教え子の手を借りて何とかよたよたと立ち上がる僕。何とか気を取り直し、彼女に向き直る。

 

「仕事、早めに片付けようと思ってさ、トレーナー室に来たら、なんかすごい物音がしたからさ…まさかアルダンだったとは…いや、お恥ずかしい…」

「あらあら…私の方こそごめんなさい…勝手にトレーナー室を使ってしまって…」

「いやいや、ここは君の部屋でもあるから、全然いつでも使ってくれてもいいんだよ?」

「ふふ、ありがとうございます」

 

柔らかい笑みを浮かべる彼女に、そういえば、と、感じた疑問を投げかけようとする…が、先に口を開いたのは彼女の方であった。

 

「あ、あの、トレーナーさん?もしかして…見て、ました?」

「え?何を?」

「…それなら、いいのですが…」

「うーん?というか、まだミーティングには早いけど、何してたの?」

「あ、えと、実はですね…」

「うんうん」

「…………………………」

「……アルダン?」

「あ、ああ、いえ、何も…その、集中して音楽を聴きたかったので、少し…」

「あ、そうなの?ごめんね、邪魔しちゃったかな」

「い、いえ、大丈夫です」

 

…なんとも、アルダンらしからぬ歯切れの悪い回答…ではあるが、まあ彼女にもプライベートというものがある。あまり深く追求するのもよろしくないだろう。

 

「それじゃあ、少し早いけど、ミーティングしよっか」

「あ、は、はい、お願いいたします」

 

と、いうわけで、今日はいつも通り今後の予定のミーティングを済ませ、そそくさと帰っていくアルダンを見送った。軽い違和感は感じるが…まあ、体調もメンタルも不具合は無さそうだし、そう気にするほどのことではないだろう…

 

と、思っていた。まだ、その時は…

 

----------

 

「…よし、今日はここまで、ウォーミングアップしたら上がっていいよ」

「はぁ…はぁ…ありがとうございます…」

「………あ、ごめんアルダン、ちょっと相談が…あれ、もういない…」

 

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「〜♪〜〜♫」

 

ガラッ…

 

「あ、アルダン、今日も来てたんだ」

「っ……!!」

「…あれ、今日は休息日だけど、なんでジャージ…」

「も、申し訳ございません!失礼します!」

「あっ…?えっ?あ、アルダン?」

 

----------

 

「…ここにリボンを…いえ、しかしあまり派手にし過ぎるのも…」

「あ、アルダン、随分おっきなスケッチブックだね?」

「あっ!いやっ!そんなに見ても楽しいものではないですよっ!」

「い、いや…無理して見たいわけでは…」

「で、では、失礼しますっ!」

「あっ…ちょっとアルダン…」

 

「……………………」

 

----------

 

「や…やっぱりクレープって難しいんだね…ううん…」

「だから言ったのに……って、ひゃあっ!?」

 

 

「…あ、あああ…アルダン…アルダン……」

 

 

「……な、何あれ…ゾンビ…?」

「さ…さあ…お化け屋敷のリハ…とか?」

 

避けられている…というのは、流石の僕にでも分かった。彼女に、メジロアルダンに避けられる。それもここまで徹底的に…というのは、流石にこれまで体験した事の無い事態である。

 

「……何か、気に触ることでも言っちゃったかな…」

 

そういえば、こないだのトレーニングで少しばかり走りのフォームのことで意見がぶつかってしまったことがあったな。最終的に彼女も納得してくれた…と思っていたけど、実はずっと気にしていたとか?いや…先月映画を見に行った時、少しテーマの解釈が食い違ってたこともあったか…あ、そういえばつい最近アルダンのこと幽霊だと勘違いして、大袈裟に怖がっちゃったな…確かに幽霊と間違えられたら怒っちゃうかなぁ…でもアルダンならむしろ喜びそうでもあるし…ううん…

 

 

「ウオォ…ウオオオォ……」

 

 

「…あれ、あのままだと窓から落っこちそうじゃない?」

「ウソ!?ここ3階だよ!?」

 

 

…考えれば考えるほど、それらしい理由は無限に溢れ出していく。本格的に嫌われてしまった、のかなぁ…この数年間、彼女に僕の全てを捧げるべく努力してきたつもりだったが、それもまた、独りよがりなものだったのだろうか…だとすると…だとすると当然、僕はいなくなるべきなのだろうが…あれ、彼女のトレーナーでなくなった僕は、一体何になるのだろう。初期のショッカー怪人みたいに、ジュワッ!と、泡にでもなるのだろうか、どうせ消えるのならド派手に爆発とかしたいなぁ…

 

「こう…最期に正体を表しながら…本部の基地と一緒にドカンと…」

 

 

「あ、危ない!ですよっ!!」

 

 

「へ?う、うぉぉぉっ!?」

 

不意に呼びかけられ、俯けていた顔を真っ直ぐに持ち上げる。視線の正面には、爽やかな春の空…空?

 

「ひゃあっ!?お…落ち…!」

「う…うおぉぉ…お、ち…ない!あ…危なかった…ごめん…ありがとう…」

「だ…大丈夫です…あれ、もしかして、アルダンさんのトレーナーさん?」

「え、そういう君は…」

 

何とか踏ん張って、窓から転げ落ちるのを回避した僕。救いの手…もとい声をかけてくれた方に目を向けると、なんとも、この春の陽気が良く似合う、小柄な姿が目に映る。

 

「はい!サクラチヨノオーです!以後お見知り置きを!」

「ああ、知ってるよ、前にスムージーも飲みに来てくれてたよね?」

「えへへ、覚えてて頂き光栄です!」

 

サクラチヨノオー、言うまでもなくアルダンのライバルであり寮の同室であり、さらに大親友でもあるウマ娘だ。

 

「ところで…なんだか凄く元気が無さそうでしたが…どうかしましたか?」

「…………………………」

「……と、トレーナーさん?」

「ヂ…ヂヨノオォ……!」

「ひっ!ば、化け物っ!?」

 

----------

 

「……と、言うわけで、恐らく僕は今、アルダンに嫌われているんだ…」

「……あー…なるほど…なるほど」

「…本当は、君たちを教え導く立場であるはずの僕が、こんなことを相談するのは…本当に良くは無いんだけれど…」

「い、いえいえ、困った時はお互い様ですので!」

「本当…?じゃあ…この辺りで大爆発しても迷惑にならない空き地とか、心当たりない?」

「ごめんなさいそれは分からないです」

 

なんとも情けない話だが、僕は最近感じたアルダンとのことを、洗いざらいチヨノオーに話す。なんとしてでも彼女にすがりつきたい…という訳では無いが、やはりこのまま終わりたくは無い、という気持ちくらいは、僕の中にもあったからだ。

 

「…空き地のことは分からないですけど、どうしてアルダンさんがそんなふうにしてるのかは…ええ、多分、分かりますよ?」

「…えっ!?ほ、本当に?」

「ええ、本当です。多分…いえ、間違いなく、アルダンさんが何を考えているのか、私には、分かります」

「……………」

 

彼女は、サクラチヨノオーはいとも簡単にそう言ってのけた。寮の同室…となるときっと、僕なんかよりずっと長い時間をアルダンと共に過ごしているのだろう。本当に、とても頭が上がらない思いだ。彼女は、きっと僕なんかよりもずっとずっと、アルダンのことを理解している。きっと、彼女から見る僕の姿は、とても滑稽に映っているはずだ。しかし…

 

「アルダンさんはですね…恐らく…」

「いや、ちょっと、ちょっと待って」

「はい?」

「アルダンには、何らかの意図があって、それで、ああいう風にしてるって…それは、間違いないんだね?」

「ええ、それはもう、間違いなく…」

「うん、ありがとう、本当にありがとう、それさえ分かれば、もう大丈夫」

「と、言うと?」

「一度、ちゃんと話してみようと思う。嫌われているのならそれまで…だけど、やっぱり僕は、これからも彼女のトレーナーであり続けたいからね」

 

…やはりその状況に甘んじてはいけないのだ。彼女のトレーナーであり続ける、のであればやはり僕は、彼女の最大の理解者で在らねばならない。それこそ、メジロアルダンという一人のウマ娘の人生を預かる者としての責任であり、義務であるから。そして何より、僕自身がそういう自分でありたいと、そう思うからだ。

 

「…本当に、おふたりとも、カッコつけたがりなんですから…」

「え?なにが?」

「いえいえ、それなら…私から伝えるべき事は一つだけ、ですね。『ニンジン畑は一日にして成らず』…何事も、待つことだって大事、です!」

「ほ、ほほう?なるほど…?」

「…あ、噂をすればなんとやら…ですね?」

「え?あ…」

 

しっかりと僕の目を見て話していたチヨノオーの目線が、チラリと脇に逸れる。その目線を追って顔を向けると、そこに立っていたのは…

 

「あ、アルダン…」

「トレーナーさん?ええと、珍しいですね?チヨノオーさんと話しているなんて…」

「あ、私はただ通りかかっただけですので、お気になさらず…」

「ふふ、その割には随分と楽しそうでしたが…」

「その、アルダン、実は話したいことが…」

「待った!まだ早いですトレーナーさん!」

「ち、チヨノオー?」

 

慌てて口を開こうとした僕を、綺麗な張り手…のフリで制するチヨノオー。『ニンジン畑は一日にして成らず』…つい先程言われたセリフが、頭の中にこだまする。

 

「…今ですよ?アルダンさん?」

「えっ?い…今…ですか?」

「ええ!今です!今しかない!です!」

「え…ええ……そこまで言うのなら…」

 

今度は、対象的なことをアルダンに語りかけるチヨノオー。彼女の小柄な背中が、今はなんだかものすごく頼もしく見える。

 

「ええと…その、トレーナーさん…!」

「はっ、はいっ」

「その…ひとつ…ひとつだけ、お願いがありまして…」

「…お願い?」

「はい…その、『大感謝祭』の日、なのですが…」

 

----------

 

「…関係ない、と思ってたんだけどな…」

 

『春のファン大感謝祭』当日、日も暮れ出していよいよ縁もたけなわ…と言った頃合。僕は運営の仕事をいそいそと抜け出して、学園内にある大ステージにやってきていた。普段はウイニングライブの練習などに使われるこのステージであるが、今日はド派手に飾り付けられて、様々なグループが思い思いの世界観を表現していた。

 

 

『今日はありがとう!この世紀末覇王の伝説の続きは、是非ともターフにて見届けて欲しい!待っているよ!皆の衆!!』

 

 

ワァァァァァァァァァァ!!!!!

 

 

地が割れるほどの歓声が響き渡る。流石に最前列は迫力が違うな…何故か用意されていた関係者席にて、その模様をぼんやりと眺めていた。

 

『素晴らしいステージ、ありがとうございます!皆様今一度大きな拍手を!』

 

周りのノリに呑まれて、僕も思わず全力で手を叩いた。なんだかんだ言っても、やっぱり、いくつになってもこういったお祭り事は楽しいものだ。またひとつ、アルダンに教えられてしまったなあ…しかし…

 

「…アルダン、どこだ…?」

 

僕がアルダンから聞かされていたのは、今日、この場所に来て欲しいという事だけ。てっきりアルダンが待っているものだと思ったが、そこにあったのは、ただ、用意されていた一人分の席だけだった。仕方なくその席にてステージの様子を見つめているのだが…一体アルダンは、何のためにこんなことを…

 

『さて、それでは次のステージです!次は…クラス発表ですね!〇年□組の皆さん!お願いします!』

 

「……んっ!?」

 

司会が読み上げた、クラス名。そのクラスの事は…非常によく知っていた…というか、まさか…

 

『『『『よろしくお願いしまーす!』』』』

 

「………!?」

 

思わず、身を乗り出して目を見張ってしまう。ゾロゾロと揃ってステージ脇から現れる十数人の見目麗しい一団。そのセンターから右手二人目。居た。居た。間違いない。

 

『私達が披露するのは…チアダンスです!えっと、一生懸命練習したので、最後まで見てもらえると嬉しいです!みんな準備はいい?』

 

『『『『おーーーっ!!!』』』』

 

『それじゃ、いくよー!!いち、にー、さん、はいっ!』

 

センターの子の点呼に合わせて、全員が一斉に動き出した。なんともセンスの良い青色のチア衣装に身を包んだ一団が、音楽に乗りながら一糸乱れぬダンスを披露する。その統率感、一体感は間違いなく一朝一夕で身につけたものでは無いだろう。その圧倒的な完成度に、思わず誰もが目を奪われる…のだろう。

 

『V・I・C・T・O・R・Y!ガンバレガンバレみんな!負けるな負けるなみんな!』

 

「…………………………」

 

…しかし、生憎、僕の視線はある一点に全て奪われてしまっていた。一際白く際立つその肌といい、いつもと違う…後ろで一つ結びにしている、跳ね回る度にミラーボールのように、照明のカラフルな光を受け止めて輝く美しい髪といい、普段は秘されている、名だたる彫刻作品のような造形美を誇る四肢といい、そのどれもが僕の瞳、その奥の網膜を通して繋がる脳の奥の奥まで掴んで離さない、離してくれない。この世の全ての美しいものを詰め込んだようなその姿に、心臓まで奪われたように、手拍子も忘れてただただ釘付けになっていた。

 

「……このリズム、この曲…この衣装…どこかで……あっ…!」

 

瞬間、花火のような光が脳の奥に灯る。今までの、最近感じていた違和感の全てが繋がる瞬間。僕の胸に突っかえていたものが全て消え去り、全身にグツグツと煮えたぎった、燻っていた血液が流れ込んでくる感覚があった。

 

「…本当に、滑稽だな…僕ってやつは…」

 

----------

 

『せーのっ!!』

 

『『『『ありがとうござましたーーーっ!!』』』』

 

 

再び、割れるような大歓声。にも関わらず僕は…拍手のひとつもせずに思わず駆け出していた。人波を掻き分け、掻き分け、一刻も早く、彼女の元に行きたかった。彼女と話をしたかった。

 

 

「みんなーっ!お疲れ様ーっ!!」

「おつかれーっ!」

「お疲れ様でした…あ、あの、私、上手く出来ていたでしょうか…?」

「うふふ…大丈夫、ヤエノちゃん、とっても可愛かったですよぉ?」

「わ、私が、かっ…かわっ!?」

「なあ…!さっきステージの上から焼きそばの屋台が見えたぞ…!」

「あらあら、じゃあ後で一緒に行きましょうか〜?」

「本当か!ふふ…頑張って踊ったらお腹が…」

 

 

舞台袖…彼女たちは思い思いにお互いの事を称えあっているようだ…が、ここにきて微妙に怖気付いてくる…なんというか、こんなに美しい輪の中に、僕なんかが割って入る訳には…

 

 

「…うわーん!アルダンさん!わた、私、最後のところ、ちょっとだけ間違えちゃいました!」

「あら…でも堂々として素敵でしたよ?チヨノオーさん?」

「ほっ…本当ですか!?ふふっ…!アルダンさんもすっごく綺麗でした!」

「ふふふっ、ありがとうございます…」

「あ、ところで…見えてましたか?ちゃんと見に来てた…みたいですよ?」

「………え、ええ、そう…みたいですね?」

「…アルダンさん?」

「…そ、その…実は、緊張してしまうので、あまり、見ないようにしてたのです…」

「…ふふふっ!アルダンさんでも緊張したりするんですね!」

「か、からかわないでください…」

「あ…噂をすれば…ほら…」

「あ…ふ…ふふふ…」

 

 

…などとグダグダ考えているうちに、向こうから見つけられてしまったらしい。バッチリと彼女と目が合ってしまい、なんとなくバツか悪くなって、すぐに目を逸らしてしまう。

 

 

「…アルダンさん?何してるんですかっ?ほらほら、行った行った!」

「あっ、ちょっとっ…!チヨノオーさんっ…」

 

 

「……あ、アルダン…」

「…と…トレーナーさん…」

「…その…見てたよ、凄く、綺麗だった…」

「…あ…ありがとう…ございます…」

「……………………………」

「……………………………」

「……そ、その、場所移そっか?ここはその、人目が…」

「あ、あ、はい…そう、ですね…」

 

----------

 

「そ、その、チヨノオーさんから聞きました。今まで、素っ気なくしてしまって、申し訳ありません…」

「ううん、大丈夫…全部分かったから…最高、だったよ」

 

夕暮れの時間も過ぎて、薄暗くなってきたトレーナー室で、僕らは二人向き合っていた。何故だか、こうして話をするのはものすごく久しぶりな気がする…

 

「ずっとこれの練習してたんだね?言ってくれれば、トレーナー室だってもっと使わせてあげたのに…」

「それは…その、トレーナーさんにだけは未完成なものを見せたくなかったのです…完璧なものを、誰よりも近くで見てもらいたかった、ので…その、何も言えなかったんです、心配、かけてしまいましたね…」

「…ふふっ、でもおかげで、貴重な体験をさせてもらったよ、こんな最高のダンス、人生でそうそう見れるものじゃない、ありがとう、アルダン」

「…ふふっ、喜んで貰えたなら何よりです。いかがですか?この衣装、私がデザインしたんですよ?」

 

まるで弾けるような、幼い少女みたいな笑顔で、彼女は僕の目の前でくるりと綺麗に一回転してみせる。ふんわりと爽やかな香りが、トレーナー室いっぱいに拡がっていった。

 

「やっぱり、そうだよね?本当に可愛いよ?チアリーダーらしく元気だけど、でもちゃんと品がある。まさに…アルダンらしい衣装だ。とっても可愛い…」

「……そこまで言われると…照れてしまいます…」

 

またバツか悪そうに、小さくソファに腰掛けるアルダン。その姿がなんとも愛らしくて、愛らしくて…思わず伸ばしてしまいそうになる手をおさめて、かわりにただひたすら、彼女のその潤んだ瞳を見つめていた。

 

「…本当は、センターに立った姿を見て欲しかったのですが…ふふ、流石にそこまで上手くはいきませんでしたね…」

「それは…確かに見てみたかったけどね…」

 

確かに見てみたかった…けども、こんなに愛らしいアルダンが、僕だけのものでなくなってしまうのは…少し複雑な気分なので、これくらいでよかったのかもな…って、んん?僕は何を考えてるんだ?いけない…やっぱり少しこの雰囲気に当てられてしまってるのかもしれないな…まあ、せっかくのお祭りだし、今日くらいは…いいか…

 

「ふふ、センターの子のダンス、可愛かったですよね?私も、練習だけはしていたんですけど…」

「…………………センターの子の、ダンス?」

「……もしや、見ていなかったのですか?」

「……ごめん、アルダンしか見てなかった…」

「……ふふっ、仕方の無い人、ですね?」

「……………」

 

……今日くらいは、いい、か。

 

「……じゃあ、さ、どんなダンスだったか、アルダンが見せてくれる?」

「…ふふ、ここで、ですか?」

「練習は、してたんでしょ?今だけは…僕だけのセンターに、なって欲しいな?」

「………本当に、仕方の無い人……」

 

少しだけ、浮かれすぎた…かな?まあ、きっと許して貰えるだろう。今の季節は春。陽気な風に吹かれ誰も彼もが…君と僕だって浮かれ騒ぎ出す、芽吹きの季節、なのだから。

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