メジロアルダン短編集『to the MEJIRO ARDAN』   作:いずさわ

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日常を、おいしくいただく調味料。




ナイスアイディア!

「お疲れ様です、トレーナーさ…ん?」

「あはは…お疲れ様、アルダン…」

 

トレーナー室に入ってきた、瞬間首を傾げるアルダン。まあ、今のこの部屋の様子を見れば、その理由も明らかであろう。

 

「…なんでしょうか、このダンボールの山は…?」

「ニンジン、だよ。何でも学園のニンジン畑が例年稀に見る大豊作らしくってさ?理事長から少し、分けてもらったんだ」

「………少し?」

「少し…って、確かに言ったんだけどねぇ…」

 

ダンボール山盛り10箱が少しの範疇に数えられる世界で、僕は仕事をしていたらしい…

どう処理したものかと、アイデアも出ないまま半日…おかげで見知ったトレーナー室が引越し直後のような光景に早変わりである。

 

「…というか、アルダンこそ…どうしたのその荷物?」

「ああ、これは…リンゴ、です」

「リンゴ?」

「ええ、ご贔屓にさせていただいている八百屋さんから…日頃のお礼に、と少しだけ頂いたのです…」

「…少し?」

「少し…と、確かにお伝えしたのですが…」

 

アルダンが背負っていたのは…籠いっぱいの真っ赤な果実…というか、背負いすぎて絵面が日本昔ばなしか、もしくは小学校にある銅像みたいになってしまっている…似た者同士の僕達は、これまた似たような苦笑いをお互いに向け合うのだった…

 

 

 

「どうしたものかなぁ…」

「どうしたものですかねぇ…」

 

僕らの前に立ち塞がる、緑黄色な壁。ニンジンもリンゴもなかなか足が早い食材である。少しずつ暑さが増してきたこの季節であれば尚更。せっかくの頂き物を文字通り腐らせる訳には行かない…が…

 

ガリッ…

 

ボリッ…

 

「うん…!このリンゴ、めちゃくちゃ美味しい…!しっかりと身が詰まって、蜜もたっぷりで…相当、丁寧に育てられたんだな…」

「このニンジンも…かなり甘みがあって美味しいです…!」

「なーんだ!こんなに美味しければあっという間に食べて……しまえる訳ないな…顎も疲れるし…せめて何かしら調理しないと…」

「顎が…ふむ…ふむ…」

「アルダン?」

「では、飲み物にしてしまう、というのはいかがでしょう?」

 

 

----------

 

「と、いうわけで、『キャロットスムージー』を作ろうと思います♪」

「なるほど、スムージー!」

「最近暑くなってきましたからね?普通のキャロットジュースもいいですが、せっかくなので…」

「いいねいいね、さすがアルダン」

「それでは早速参りましょう、まずはニンジン二本、皮を丁寧に剥きます。皮付きでもそれはそれで個性的なお味ですが…まあ、人を選びますので、お好みで…」

「ほい、ほいほい…はい、こんなもんかな?」

「あら、流石の手際ですね?」

「まあまあこれくらいはね?」

「ふふ…そして、皮を剥いたニンジンは大きめにザクザクと乱切りにします。少し粒が残っているくらいが、食感が楽しいですからね?」

「確かに確かに…ん、これくらいかな?」

「お次はリンゴ…リンゴは皮付きのままでも大丈夫ですね。一個を四等分くらいにして、芯だけ取る、そして同じくざく切りに…」

「見て見て、うさぎ」

「まあ、とっても愛らしい」

「結局すり潰されちゃうけどね」

「それは言わないお約束…さて、どちらも切り終わったら、そのままミキサーに入れていきましょう」

「こんな立派なミキサー、どこから持ってきたの?」

「カフェテラスの厨房です、事情をお話ししましたら、快くお貸しいただけました♪」

「いいんだ…学校の備品だろうに…」

「具材と一緒にハチミツも、お好みの量入れます。甘くてまろやかで美味しいのですよ?」

「これ…結構お高いやつだ…流石アルダン…」

「あとはお水、そして氷を入れて蓋をします」

「…氷はどこから?」

「それも、厨房からです♪」

「至れり尽くせりだなぁ…」

「さて、あとはミキサーのスイッチをセットして………………………」

「…………なんか、こういうの、黙って見ちゃうよね」

「はい…なんだか心が洗われますね…」

「ね…………」

 

ピピーッ

 

「よく混ぜ合わさったらカップに注いで……完成、です♪」

「わあ、とっても簡単!」

 

アルダンの見事な手際の良さについつい見入ってしまっていると、いつの間にやら、ビタミンカラーが眩しい、なんとも爽やかなキャロットスムージーが完成していた。リンゴとニンジンの酸味ある香りと、ハチミツのもったりした甘い香りが合わさって、なんとも食欲を刺激する、いい料理だ。

 

「と、いうわけで…まずはトレーナーさん、一口、どうぞ?」

「うん、いただきまーす……………ん!これは……」

「ふふ、いかがでしょう?」

 

口の中に広がるなんとも自然な甘みと酸味…ニンジン本来の渋みはハチミツが中和して、ひたすらまろやかで飲みやすいドリンクに仕上がっている。野菜や氷の粒も程よく残って食感も上々…うん、これは間違いない。

 

「美味しい…!これはいいな…何杯でも飲めちゃいそう…!」

「ふふ、ありがとうございます♪」

「砂糖じゃなくてハチミツで甘みを引き出してるのがいいセンスだ…流石…」

「光栄です♪」

「あとは…うーん…塩をほんの少し…それと…そうだ!レモン汁!」

「ああ、レモン汁…!それはいいアイデアですね?」

「ね?アルダンらしい優しい味わいで、このままでも僕は大好きだけど…もう少しパンチを聞かせた方が、万人受けするかもね?」

「では、早速試してみましょうか?こんなこともあろうかと、調味料セットもお借りしてきましたので♪」

「それは用意周到過ぎない?」

「ふふ、せっかくたくさん作れるのですから、色々と冒険するのも悪くないでしょう?あ、お醤油やソースもございますよ?」

「それは遠慮しとこうかな…しかし、うーん…スムージーはものすごく美味しいけど、やっぱりさすがにこの量は…味変したとしても厳しいかなぁ…」

「そうですねぇ…なにか良い方法があれば…あっ」

「どうしたの?アルダン?なにかあった?」

「ええ、ありましたよ…最高の調味料が♪」

 

 

----------

 

「………っ、ぷはっ!美味しい!これ、アルダンさんが作ったんですか!?」

「ええ、私とトレーナーさんとで、ですね?」

「流石です!『良きニンジン有るところ、良き人間有り』ですね!」

「まさしく、アルダンさん、トレーナー殿…実に見事なお手前です…」

「ふふ、まだまだおかわりはありますので…是非とももう一杯、どうぞ?」

「おかわり…!?まだまだ、飲んでいいのか…!?」

「アンタはもうちっと遠慮っちゅうモンを覚えんかい!」

「あらあら?タマちゃん、お口についてますよぉ?私が拭いてあげましょうねぇ?」

「あーもう!自分の口ぐらい自分で拭けるわ!」

 

 

「はは…随分と賑やかになっちゃって…」

「ふふふ…いかがでしょう?私の友人達は…」

 

しばらくの後、彼女がぞろぞろと引き連れて来たのは…錚々たる顔ぶれのウマ娘達…この顔ぶれみんな『友人』と括ってしまうのだから、なんとも末恐ろしい話である。

 

「っ…ぷはぁーーーっ!!やいやい!なんとも粋な味わいじゃねえかい!」

「っ…ぷはぁーーーっ!!本当っス!!おまけに栄養満点!言う事なしっス!」

「ね…!めっちゃヘルシーそうだし、これ、バズるかも…!」

「なー!まじ色味もブチアゲカラーだし!アルダン先輩ちょーバリスゴなんスけどー!」

「あはは!確かに!アルダンさんが作ってくれるドリンク、昔からサイコーだったもんね!」

「そうそう!糖質も少ないし、筋肉にも最高!」

「あとはここに甘いスイーツがあれば…ゴホン!な、なんでもありませんわ…」

 

 

「ふふ、やっぱり賑やかなのは良いですね♪」

「…ふふ、まあ、確かにね?」

 

すっかりパーティ会場と化してしまったトレーナー室で、彼女はひたすらみんなのためにスムージーを作っていた。その顔は、僕が今まで見たこともないほど子供っぽく愛らしくって…なんだか微笑ましい気持ちと、少しだけ…こんな彼女の姿を、普段から見ることができる彼女の友人達のことを、羨ましく思う気持ちが…ほんとに、少しだけ。

 

「しかし、単純なことに気づかなかったなぁ…2人で食べきれないなら、沢山の人で食べればいい…なんて、流石アルダン、ナイスアイデアだね」

「ふふ、まあ、それもありますけども…純粋に、こんなに美味しいんですもの、皆様にも飲んでいただきたくって…」

「…ふふふっ、うん、確かに、ね?」

 

くすくすと、朗らかな笑顔を浮かべるアルダンを見て、合点がいく。きっとこういう…打算も遠慮もなく、他人の為に他人を巻き込める。そういう彼女だからこそ、これだけの人が集まってくるのだろう。彼女のそういう所が本当に末恐ろしくて、そして…本当に、美しいと、僕はそう思う。

 

「それに…どんなものだって、みんなで一緒に食べるのが一番美味しいですから…はい、もう一杯どうぞ?トレーナーさん?」

「…ふふっ、それが、最高の調味料、かあ……うん、ありがとう、アルダン」

 

受け取ったジョッキを、ためらわずに一気に喉に流し込む。彼女の美しい瞳を見つめながら飲み干す一杯は、甘みも渋みも際立って、とびきり、美味しかった。

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