メジロアルダン短編集『to the MEJIRO ARDAN』   作:いずさわ

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2026/2/23開催 CC福岡63にて頒布予定のメジロアルダン×男トレ小説短編集

4th ALBUM
『kaleido hopeのまわしかた』

より、書き下ろし新作『クロノスタシス』の冒頭試し読みとなります。

詳細は以下ポストより
https://x.com/izswaaaaaaaaa/status/2020467671196676543?s=46&t=m_WaJy8DeBiDx4Y30fknkg


クロノスタシス 試し読みver.

「ええと……確か、この辺だったよね?」

「間違いございませんね?あの大きな時計台の丁度真下辺りだったはず、ですので」

「おお、流石の記憶力。ま、僕もそれは覚えてたけどね?」

「ふふっ?それはもう、お互い忘れるはずがありませんでしょう?」

 

午後一時四十三分。予報はずれの青空に照らされたプロムナードに、僕とアルダンは迷いなくずんずんと足跡をつけていく。進むべき順路を照らし出してくれる真っ白な木漏れ日も、僕らの背を押してくれる追い風が吹いていたのも、なんだか『彼』も僕らに早く会いたがっているのかな、なんて、少し自惚れてみたりもして。

 

「二年ぶり……くらいだっけ?たしか、あの頃は……」

「ええ、私が貴方のウマ娘になった。丁度その直後でしたね?」

「そうそう、僕が君のトレーナーになってすぐ。突然でっかい車で連れていかれたから、何事かと思っちゃったよ」

「ふふふっ?あの頃の私は、それしか知りませんでしたから。今なら電車もバスも、なんでも一人で乗れますよ♪」

「ほんとかな……?」

「まあ、旅は道連れ世は情け。貴方がいる以上、一人でお出かけする機会なんてほとんど無さそうですけどね?」

「そりゃそうかもね?でも、一人旅もいいもんだ……っと、あれは……」

「…………ふふっ、あっという間に着いてしまいましたね?」

 

大都会の片隅に、ひっそりとその影を残した小さな森林の、更に奥深く。まるで御伽の国に誘われるかのような、鳥と虫と川のせせらぎと、小さな秒針の音だけが響く空間で。

 

その『絵画』は、やはりあの日と同じように、そこに優しく飾られていた。

 

「……『刹那展』、また来れるなんて、思ってもみなかったね」

「ええ、また開催してくださった美術館の方々に感謝ですね……それと、トレーナーさんにも」

「え?なんで僕にまで?」

「ふふふっ♪」

 

二年ぶりにこの美術館で開催された、『刹那展』。名だたる芸術家達の遺作のみを集めた展覧会。当時ぶりに足を踏み入れたその場所は、やはりあの頃と変わらず美しく、凛々しく優雅で、何故だか生命の力強さに満ち溢れていて……僕もまた、あの頃と変わらず、強く強く眼を奪われてしまったのだった。

そしてそんな展覧会の、その更に最期に待っていたのが、この絵画。

 

「……相変わらず、お美しいのね」

「うん、相変わらず。あの後もずっとこうして、色々な場所に飾られてきたんだろうね。色々な場所の陽の光に、雨や風にさらされて。そしてここにも、また通りすがった」

「ええ、さながら自由気ままに世界中を一人旅する、さすらいの旅人、でしょうか」

 

色は褪せ、雨風が染み込んで、かつてよりも更にひどく薄汚れたそのキャンバス。けれども僕は、僕らは何故だかそれに途方もなく、『美しい』と、そう感じてしまう。この絵画自体の成す業か、それともその背景にある奥深さを知る、僕ら側が無意識に補正してしまっているのか。は、まだとても判別がつかないけれど。

 

「……『外に限り』、展示を許した。んだったよね、亡くなる前の、作者の人が」

「ええ、本当に人生の最期に、そう言い残されたそうなのです。死後数十年経った今でも律儀に守られているということは、余程の人徳があったのでしょうね」

「ほんと……最期の一瞬まで自らの作品の事を想い続けるなんて、僕なんかじゃ想像もつかない程の信念だ」

「……『作品の事』だけではないかも、しれませんけどね?」

「ん?それって?」

「いいえ?こちらの話です♪」

「あ、ああ、そう?」

 

彼女の何気なさそうな呟きを、ほんの少しだけ心の端に仕舞っておいて、僕はその絵画をもう一度視界の中心に置いてみる。恐らく、どこか海外の大自然を切り取った風景画、だったのだろうか。うっすら上半分に残ったセルリアンと下半分に残ったビリジアンの、僅かに残った細かなディテールから、僕はそんな事を推察する。

となると、この真ん中に立つ無色の棒線が主役の人物で……彼、ないし彼女は、奥に視える箱状のブラウン、明らかな人工物、恐らく乗り物の類いに乗ってここにやってきた、という、こと……か?

 

「……………………」

 

……もどかしい。

 

実に美しい、まるで見蕩れ惚れ惚れするほどに……今、感じているその気持ちには決して嘘偽りはないけれど、野暮なことだとも、重々理解しているけれど。今のこの状態でも実に美しい、だからこそ。

この美しい絵画の全貌が、今となってはぼやけ薄れてしまって、もう解らない。その事実にふと僕は、どうしようもないもどかしさを感じてしまった。もしも、もしもこの作品が先程まで観てきた作品達と同じように、屋内で丁寧に保護されてきたとしたら……

 

「────なんで?」

「はい?」

 

「どうしてこの絵の作者は、この絵に対して『外に限り展示を許可する』なんて言ったんだろう?」

 

ふと、頭の中に浮かんだ『謎』を、そのまま思わず口にする僕。

午後一時四十五分。まるで凪のように鳥も虫も川のせせらぎも、小さな秒針の音さえも鳴りやんだ空間で、無意識に僕は、自らの顎に手を伸ばす。

 

「何故……と、言いますと?」

「自分自身の、生涯最後の作品なんてさ。もし僕が作者だったら、むしろ傷や染みなんて一個も付かないくらい、いつまでも厳重に、綺麗なままで扱ってほしいなあ。なんて思っちゃいそうなものだけど」

「まあ……確かに考えてみれば、そちらの方が当然の感情のような気がしますね?」

「その行為自体に凄みがあってあんまり気にならなかったけど、正直、さっぱり具体的な『意図』が読めないな、なんて。とてつもない天才の言うことなんだから、凡人には理解できないんだ、なんて言ってしまうのは簡単だけど……」

「ふふっ?しかしそれでは『つまらない』と言いたいのでしょう?」

「……いや、ほんと、恐ろしく野暮ったい行為なのは、分かってるんだけどね」

 

午後一時四十五分。僕は少しだけ膝を折り曲げて、その色褪せた絵画と同じ目線に、腰を下ろした。いつか見た、『彼女』の仕草。それを丹念にトレースして、僕は彼、ないし彼女とまっすぐ向かい合う。

 

「別に理由がどうあれ、外にしか飾っちゃダメって事実は何も変わらないし。別に解ったところで、僕の人生には全く、一ミリも関係ないけどさ」

「………………」

「でも、なんだろうな。それでも僕は『観察』して『考察』することが、やめられない。ある種職業病みたいなものかもしれないけど、それでもこの不思議は、何故だか僕が、解き明かさなきゃいけない気が、するんだ」

「……ふふ、そうですねぇ?」

「アルダン?」

 

まるで過去からの交信を受けたかのように、突然気が向いて、うずうずとその絵画に惹き込まれる僕。本当にどうして、何故に唐突にこんな気持ちになったのかまるでさっぱり解らないけれど……

でも、そんな僕の傍に、慣れきった所作で彼女は肩を並べてきてくれた。その意味だって、まだまだ解らないけど。

 

「……なんでしょう、外に限って展示を許した理由……あまり多くの人目に晒されたくなかったから、などでしょうか?」

「うーん……でもそれならそもそも『展示を許可しない』と言い残せば、いつまでも蔵の中で綺麗なまま、人目にも付かない状態にできるはずだよね?」

「確かに、そうですねぇ……」

「そうだなぁ、例えば自分の死後も、天からこの絵をいつまでも見守っていたかったから、とかどうだろう?」

「ううむ、解らなくもないですが……けれども外に展示していれば、こうして劣化してしまうのは分かっているでしょうから。いつまでも見守っていたいほど大切な絵なのであれば、やはりそのような指示はしないのでは?」

「まあ、確かにそうかもなぁ……」

 

午後一時四十五分。僕らは二人揃って同じポーズ、同じ表情でその絵画を覗き込んでいた。ああでもないこうでもないと、そもそも存在するかどうかも解らない解を探り出すその姿は……なんというか、凄くいつも通りな気がして、僕は一息、柔らかく深呼吸をした。

 

「もしくは、何か凄く個人的な理由とかだったりするのかな……恥ずかしくって他人には言えないような、凄く個人的で、子供じみた様な理由……」

「……その、トレーナーさんにはお伝えしていませんでしたが。実はこの絵の作者には、活動を生涯隣で……」

「例えば、自分以外の誰か……『支え続けてくれたパートナー』の為に、とか?」

「…………!」

「って、流石にそれは妄想の行き過ぎか……あれ、アルダン?今さっき何か言いかけなかった?」

「……ふふっ♪いいえ、何も?」

「あ、ああ、そう?」

「さあさあ、私の事はいいですから。どんどんお考えくださいな?例え行き過ぎた妄想でも、貴方の頭から湧き出たものならば、一考の価値はありそうです♪」

「……え?それこそどういう意味?」

 

 

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4th ALBUM

『kaleido hopeのまわしかた』

 

2026/2/23 release!!

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