メジロアルダン短編集『to the MEJIRO ARDAN』   作:いずさわ

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2026/1
チャイルドフッド・スーパーノヴァ(+スーパークリーク)


「よーし!今日もトレーニング頑張ろうね、アルダン!」

「ふふっ、よろしくお願いいたします、トレーナーさん♪」

 

ほどよく湿り気を纏った風が心地の良い、何の変哲もない、いつもの放課後。これまたいつもの如く、僕は我が担当ウマ娘メジロアルダンと共に学園内ターフへと赴いていた。

 

「次のレースまでそう時間もないですので……気合い、入れていきましょう♪」

「ああ、もっちろん!それじゃあ、今日のトレーニングメニ

 

 

「んだとテメェ!もういっぺん言ってみろやコラァ!?」

 

 

ューッ!?う、うわあっ!?すすす、すいませんごめんなさい!お、お金なら払うので命だけはっ!?」

「と、トレーナーさん!?」

 

……そんな生暖かい空気を全て消し飛ばすような、痺れの効いた怒声が唐突に僕の耳を貫く。ひいぃ……!今、現金三千円しか持ってないんだけど、それで勘弁してくれるかなぁ……!?

 

「お、お顔を上げてくださいトレーナーさん?今の声は、どうやらトレーナーさんに向けておっしゃっている訳ではなさそうですよ?」

「ん、んえ?あれ?」

 

粛々と土下座の準備をする僕の肩を叩き、なんとも当惑した視線を向けてくるアルダン。彼女の指さす方向、およそ100メートル先に目線を向けると……

 

「どう考えてもアタシの方が先にゴールしただろうがよォ!ケチつけてんじゃねェぞテメェ!」

「明らかにオレの方が先だっただろうが!おめぇこそちゃんと目ン玉ついてんのかアァーン!?」

 

「……な、なんだあれ!?喧嘩!?」

「そのようですね……ううむ……」

 

並走でもしていたのだろうか。そこにはコースのど真ん中で怒声罵声を浴びせ合う、少し近寄り難い風貌のウマ娘が二人並んでいたのだった。

他でもない、ここは夢に本気の娘ばかりが集まるトレセン学園。ともなれば意見の衝突が起きるのは日常茶飯事のこと……とはいえ、いくらなんでもヒートアップし過ぎのようにも見えるけど……

 

「分かった、アンタ、アタシの事舐めてんだろ?ちょっと重賞でいいとこまで行ったってだけで調子乗りやがってよォ!!」

「はぁ?なんだ嫉妬かァ?本番じゃ勝てねえから、練習じゃ優しくしてくださーい、ってかァ!?オラァ!?」

 

「ひゃっ……!あれなに……?」

「ひいぃ……ケンカ……?怖いよぉ……」

 

「ああ、あんな所で派手にやっちゃって……周り、怖がってトレーニング出来ない娘もいるみたいなのに……」

「…………トレーナーさん、少しばかり、ここでお待ちいただけますか?」

「えっ、アルダン?一体何を……」

「ふふっ、ご心配には及びませんよ?少し、お話をしてくるだけですので」

 

まだまだ罵声を飛ばし合う二人と、ターフに近付くに近付けずにいる周りのウマ娘達……

と、そんな様子を見かねたアルダンは、ギュッと両手を握り込みながら堂々と彼女達の元へと歩み寄る。その姿はまさしく子供の頃憧れたヒーローのようで、我が担当ながら、その逞しい背中から僕は目が離せなかった。

 

けれども、だ。

 

「……いや、アルダンは下がってて。ここは僕が、話をつけてくるからさ」

「えっ?しかしトレーナーさん、このような荒事は苦手なのではありませんか?」

「まあ……正直苦手だけどさ。けれども君が危険な目に遭うよりは、ずっとマシだよ」

「……そう、でしたね。大切なレース前ですもの、怪我やトラブルなどがあっては……」

「それもあるけど、純粋に君は僕にとって、大切な一人の女性だから」

「………………っ、ですが、くれぐれも無理はしないでくださいね?私にとっては、貴方だって大切な人なのですから」

「うん、ありがとうアルダン……それじゃ、行ってくる!」

 

早歩きでその背を追い越し、今度は僕が彼女に背を向ける。曲がりなりにも僕だって一教育者なのだ。この程度、どうとだって……!

 

「はいはいそこの二人!今すぐターフから離れ

 

「あ?」

「お?」

 

──────────────

 

「ひぃん……だめだったぁ…………」

「ま、まあまあトレーナーさん!果敢に向かって行っただけでも、充分格好良かったですよ!」

 

二人の眼力に弾き飛ばされ、すぐさま回れ右で一目散に逃げ帰った、情けない僕……ぼふぼふと頭を撫でられながら投げかけられる彼女の励ましの言葉に、なんだかますます悲壮感を煽られてしまったりして……

 

「仕方がありませんね。ここはどなたか、別の大人の方をお呼びしましょうか。たづなさんなど……」

「そ、そうだね?僕なんかよりしっかりした大人の人呼ぼっか……たづなさんとか、たづなさんとか……」

 

 

「あらあら〜?おふたりとも、どうしたんですか〜?」

 

 

「ん?」

「あ、あの方は……」

 

気を取り直して次の作戦を考案している僕らの隣を、颯爽と通り過ぎて行った一人のウマ娘。確かに見覚えのある、その逞しい背中の持ち主は……

 

「まあ、クリークさんではありませんか?」

 

間違いない、『スーパークリーク』。アルダンの同期であり、稀代のステイヤーと名高い巷で話題のウマ娘である。

 

「そんなに大声を出して……めっ、ですよ〜?」

 

「えっ?行くの?その感じで行くの?大丈夫?」

「ま、まあクリークさんならば……」

 

なんとなく、温厚でふわふわしたイメージを持つ彼女。なんだか僕以上に荒事には向いていなさそうな気がするけど、どうする?今のうちに引き止め……

 

「お話なら私が聞いてあげますから、二人とも、まずは落ち着きましょ……」

「ああ?」

「おお?」

 

「って、もう間に合わな……!」

 

──────────────

 

「ふぇええん……くりーくせんぱい、ごめんなさぁい……」

「よーしよし、謝るなら私じゃなくて、この娘の方でしょう〜?」

「うん、うん、さっきはひどいこといって、ごめんね……」

「こっちこそ、たくさんおおごえだして、ごめんなさい……」

「うふふ、ふたりとも謝れていいこいいこ♡これからは、ターフは仲良く使いましょうね〜?」

「「はーーーい!」」

 

「…………!?」

 

な、なんだ……!?今の一瞬で、一体、何が……!?

 

「クリークさんのご実家は託児所を開かれているそうでして、クリークさん自身も、幼少の頃から年下の子達をたくさんお世話していたそうなのです。ですので、後輩の面倒を見るのも、お手の物、なのだそうですよ?」

「面倒?あれ、面倒見るってレベルかな?」

 

納得……できるんだかできないんだか微妙なアルダンの解説を頭に入れつつ、僕はいつも通りの癖で、スーパークリークのその姿を観察する。ターフ上の彼女の、冷酷さすら垣間見える程の策士っぷり。とは裏腹に、先程まで罵声怒声を発していた二人の口に優しくおしゃぶりを咥えさせてあげている今の姿はまるで、慈愛に満ちた母親のよ……え?おしゃぶり?なんでおしゃぶりなんて持ってんのあの娘?

 

「それを抜きにしても、なんだかクリークさんの周囲には、いつも落ち着いた雰囲気が流れていて……きっとこればかりは天性のものなのでしょうね?ふふふ、まさしく『母性のエキスパート』といったところでしょうか?」

「母性ねぇ、母性……」

 

なんとものどか千万に語る彼女を、少し引いた目線で視つめる僕。母性、甘えて、甘やかして、かぁ。まあ、そういう関係に惹かれる気持ちも、分からなくは無いけども。

 

「よーしよーし、それじゃあ今日はみんなでお絵描きでも…………あら?」

 

「……ん?あれ?どうしたんだろう?」

 

と、相変わらずターフのど真ん中で後輩二人をあやしていたスーパークリークであったが……突然その両の耳がピコンと立ち上がり、何かを探知したかのように、彼女はその周囲を見回し始める。そして……

 

「……ごめんなさい、ちょっとだけ、ここで待っててくれますかぁ〜?」

「「はーい!」」

「うふふ、いいお返事ですねぇ?それじゃあ……ふっ!」

 

「んっ!?いきなり走り出した?」

「ど、どちらへ向かわれるのでしょう?急いで追いかけましょう、トレーナーさん!」

「えっ?あ、ああ、うん!」

 

打って変わって、まるでレース場の中かのような切れ味鋭いストライドを刻み出す、スーパークリーク。ワンテンポ遅れて、慌てて僕らは、その姿を追いかけ始め……

……冷静に考えれば、何ゆえ追いかける必要があるのかはよく分からないが。とにかくアルダンに手を引かれるかまま、僕は再びその背を追いかけ始めるのだった。

 

──────────────

 

「あれ?彼女、どこ行った?」

「確かにこちらの方に向かわれたはずなのですが……」

 

「ううーん……つ、つかれたぁ……」

 

「……あら?あの方は?」

「なんだかヘトヘトだね?随分と精を出して、走り込みでもしてたのかな?」

 

スーパークリークを追ってやってきた学園内ターフの隅。日陰にぐったりと座りこんでいたのは、トレーニング終わりとおぼしきウマ娘。どうやら一人では、歩くことすらままならない様子だが……

 

「あらあら〜?大丈夫ですかぁ?」

「うーん……?その声は、クリーク先輩?」

 

「……あれ?スーパークリーク?」

「見失ったと思いきや、まさか私達よりも先回りしていたとは……」

 

こちらから声をかけようかと一瞬思案しているうち、その場に穏やかに反響したのは……またしても彼女、スーパークリークの優しげな声であった。

 

「まあまあまあ?なんだか辛そうな声が聞こえたと思ったら……まったくもう、無理しちゃめっ、ですよぉ?」

「うっ……ご、ごめんなさぁい……」

「さあさあ、お疲れならぁ……私のお膝で、ひとやすみ、しましょうねぇ♡」

「は、はぁーい……うむぅ……せんぱいのおひざ、あったかぁい……」

「よぉーし、よぉーし、今日もよぉーく、頑張りましたねぇ〜?」

 

「うわっ!またあんなに一瞬で……」

「こ、こんなに遠くの声まで聞こえていただなんて……クリークさん、恐るべしですね……」

 

そのウマ娘を瞬く間に懐柔し、自らの膝の上で微笑ましく頭を撫でるスーパークリーク。あまりの手際の良さに、尊敬も困惑も超えて、もはや畏怖の感情すら芽生えてきたが……

 

「…………っ!うふふ、ごめんなさい?またお迎えに来ますから、少しここで待っていてくださいねぇ?」

「はーい!」

「うふふ……ふっ!」

 

「えっ?またどっか行った!?」

「も、もしやまた……」

 

──────────────

 

「はあ……水筒持ってくるの忘れちゃっ……」

「それなら〜……こちらをどうぞ〜?」

「えっ?クリーク先輩、いいんですか?」

「いいんです、いいんです。困っている娘は、放っておけませんから♡さあさあさあ、私が飲ませてあげましょうね〜?」

「んぐ……ん、んっ……クリークせんぱぁい……」

「うふふっ!美味しいですかぁ?」

「うん!おいちい!」

 

──────────────

 

「うわっ!あーあ、ステップハードル壊しちゃった……どうしよ、怒られ……」

「うふふ、大丈夫大丈夫♡わざと壊した訳じゃないって、わかってますよぉ?」

「あ……く、クリークせんぱい……」

「よーしよーし、いいこいいこ。後で一緒に、謝りに行きましょうねぇ?」

「う、うん……!わたし、しょうじきにあやまる……!」

「うふふ、うふふふふっ♡」

 

──────────────

 

「ふふっ、クリークさんはやはり凄いですね?あれ程母性に溢れた方は、他に見た事が……」

「…………」

「……トレーナーさん?」

「ああ、確かに、『凄い』ね……」

 

彼女の……母性?溢れる数々の行いは置いておいて。僕が目を引かれたのは、その飛び抜けた危機察知能力と、ターフの端から端まで駆け抜けても息一つ上がっていない程の、無尽蔵のスタミナ。なるほどこれが、これこそが稀代のステイヤー、スーパークリークの実力、か……

 

「……もしかしてトレーナーさん。『羨ましい』と思ったりしています?私にも、クリークさんのようなウマ娘になって欲しいと、そう考えていたり、しますか?」

「……ああ、確かに。もしかしたらあれこそ君の目指すべき、一つの形なのかも、しれないね」

「……………………」

 

終盤までその頭脳を温存し、戦略的に周囲を出し抜く……僕とアルダンが今まで追求していたレーススタイルを、恐らく彼女は既に高いレベルで実践している。すなわちきっとどこかでぶつかり合っても、今の僕らでは、とても彼女に勝てそうにない。

しかし、だからこそ、そんな彼女を観察し、考察し倒す。偶然だったけど、実にいい機会だ。スタミナばかりは一朝一夕では無理だろうけど、その危機察知能力の秘密を解き明かして、アルダンの力に……

 

「いたっ!ひぃい……擦りむいちゃった……」

 

「…………っ!」

 

どこかから聞こえてきたウマ娘の声に、またしても0コンマ数秒で反応する、スーパークリークの両の耳。やはりとても常識では考えられないほど驚異的な反応速度、だったが……

 

「……耳?もしかして音で察知しているのか?ねえアルダン、今のって……アルダン?」

 

ふと、観察して得た気付きをアルダンに共有しようとする僕、であったが、あれ?

 

「アルダン?あれ?アルダンどこ行って……ん?」

 

 

「あらあら〜転んで擦りむいちゃったんで……あら?」

 

「大丈夫ですか?よろしければ、私かお手当ていたしますよ?」

「あっ、アルダン先輩!すいません心配かけてしまって!これくらいなんともないですよ!」

「いいえ、いいえ。軽い傷でも甘く見ていれば、酷く化膿してしまうこともありますから……さ、まずは消毒をして……」

「あ、アルダンせんぱい……」

 

「……えっ?い、いつの間に?」

 

ターフ上で、膝を抱えて座り込む一人のウマ娘。彼女に真っ先に声をかけたのは、もちろんスーパークリーク……

ではなく、我が担当ウマ娘、メジロアルダンであった。あった?なんで?

 

「い、いやまあ、もちろん怪我人を見たら看護が最優先だよな、僕の方の気が抜けてたっていうか……まあ……うん……」

 

「……ええ、これでもう走っても大丈夫ですよ?ただし、今晩のお風呂はできるだけ大浴場には浸からずに、シャワーのみにしていただくのをおすすめいたします♪」

「わあー!ありがとうございました!それじゃあ、私はこれで!」

「ふふふっ、これからは充分ご用心くださいね♪」

 

何はともあれ……アルダンお得意の丁寧な手当てを受けて、笑顔で走り去っていくウマ娘。ひとまず、この場は一件落ちゃ……

 

「……アルダン、ちゃん」

 

「……クリーク、さん」

 

「……………………」

 

「……………………」

 

「…………えっ、何?何この空気?」

 

……その場に遅れてやってきたスーパークリークと、すくりとその目の前に立ち上がったアルダン。かち合った視線の中心には、なぜだかパチリと、火花が上がっているように見え……

 

 

 

MEJIRO ARDEN 

   VS

SUPER CREEK

 

『母性』EXPERT BATTLE!!!!!

 

LADY……GO!!!!!!!!

 

 

 

「えっ!?なんか始まったんだけど!?」

 

──────────────

 

ROUND 1 FIGHT!!!

 

「よいしょっ、よいしょっ……はぁ、トレーニング器具ってなんでこんなに重いんだろ……」

「失礼?もしよろしければ、お手伝いいたしましょうか?」

「えっ?あ、アルダン先輩?」

 

……という訳で、何かしらを探して学園内の廊下を歩き回っていたアルダンと、その前に通りがかった、重たそうな荷物を持つ一人のウマ娘。すかさず彼女は、声をかける。

 

「いえいえいえ、大丈夫ですよ!これ、うちのチームで使う用なんで!チームで一番先輩のアタシが頑張んなきゃ、示しがつかないでしょ?」

「まぁ?ふふふっ、随分と後輩想いの良いお姉さんなのですね?実に尊敬に値します♪」

「え、えー?いやいや、アタシなんてそんなぁ……へへへ……」

「けれども、だからこそですよ?他人に頼ることは、恥ずかしい事じゃない……と、後輩達に教えてあげるのも、立派な先輩の役目なのではありませんか?」

「…………!」

「互いに助け合いやすい雰囲気を作っていく方が、きっと皆過ごしやすくて良いチームになれるのではないかと、私はそう思います……というわけで、お荷物半分いただきますね?」

「……へへへ、ありがと先輩!」

 

「……流石だな、アルダンは」

 

彼女の真摯な言葉遣いに、そしてその素朴な優しさに……そのウマ娘は、そして廊下の端でそれを見守っていた僕もまた、心を打たれてしまう。そうか、これが『母性』……

 

「いやぁ、ほんとアルダン先輩は優しいなぁ……今の言葉、あいつにも聞かせてやりたいですよ?」

「あいつ?とは?」

「アタシの同級生で、別のチームのキャプテンやってる奴がいるんです。そいつ、アタシ以上に強情な奴で、全然他人を頼ろうとしなくて……あれ?そういえばさっきまでそいつも同じ器具運んでたんですが……どこ行ったんだろ……」

 

「あらあら〜、そうだったんですかぁ。ふふっ、いつも頑張ってて、えらいえらい、ですねぇ?」

「うん……うん……そうなの……わたしがんばってるの……」

 

「あら?この声は……まさか……」

「えっ?この声は……まさか……」

 

不意に、廊下の奥から聞こえてきた甘ったるい声に、アルダンも、彼女も、そして僕も勢いよく振り返る。

 

「うふふっ!よーしよーし?もう大丈夫ですからねぇ?これからはずーっと……ママに甘えて、いいんですよぉ♡」

「うん!まま、だーいすき♡」

 

「クリークさん!?」

「は!?なにやってんのあいつ!?」

 

その向こう側から見えたのは……片手に大量のトレーニング器具を持ち、そしてもう片手に泣きじゃくるウマ娘を優しく抱っこした、スーパークリークの異様な姿なのであった……てか、あんな重そうな物を片手で!?どうなってんだあのパワー!?

 

「そんな……あいつのあんな姿、初めて見た……クリーク先輩、そいつに一体何を……」

「あら?もしかしてこの娘のお友達ですか?ふふっ、私は何もしていませんよ?少しお手伝いをしてあげていたら、素直に心を開いてくれた……ただそれだけです♡」

「す、凄い……あいつが素直に心を開くなんて……」

「く、クリークさん……」

「それでは、私たちはお先に行きますね?これを運び終わったら、この娘とおままごとで遊ぶ約束をしているので……アルダンちゃんも、頑張ってくださいねぇ♡」

「……………………」

 

WINNER!!!!!

SUPER CREEK!!!!!

 

──────────────

 

ROUND 2 FIGHT!!!

 

「………………………………」

「まったく、ほんの少しくらい手をつけたらどうだ?」

「いいや、結構だ。姉貴に全部くれてやる」

「本当に、お前と来たら……」

 

「ん、あれは?」

「ビワハヤヒデさんに、ナリタブライアンさん……何やらお困りのようですね?すみませーん?どうか、なされたのですか?」

「おお、ノータイムで行くんだね?」

 

学園中を練り歩き、カフェテリアにやってきた僕とアルダン。そこで、何やら浮かない顔で黙り込んでいたのは……ビワハヤヒデとナリタブライアンの姉妹であった。

 

「おや、メジロアルダン君か。聞いてくれ、ブライアンのやつ、ステーキ定食の付け合せのサラダをどうしても食べようとしないんだ。まったく、注文したのは自分だと言うのに……」

「ふん、私が注文したのはステーキだけだ。奴は勝手に着いてきたに過ぎない」

「またそんな屁理屈を……」

「あらあら……」

 

なんとも子供らしい理屈をこねて、頑なにサラダに目線を合わせようとしないナリタブライアン。実の姉であるビワハヤヒデですら困り果てているようだが……アルダンは、どうするつもりだ?

 

「いいか?このキャベツにはビタミンCが豊富に含まれていてだな、ビタミンCは強い抗酸化作用に加えて、肉体の細胞同士を繋ぐアミノ酸、コラーゲンの精製に必要で……」

「アミ?コラー……ふん、私には関係の無い話だな」

「……失礼します、ビワハヤヒデさん」

「おっと、アルダン君?」

 

ビワハヤヒデの薀蓄に、明らかにゲンナリと眉を顰めるナリタブライアン……の前に颯爽と立つメジロアルダン。まるで我が子を見つめるような優しい目でブライアンを見つめ、そしてゆっくりと、口を開く……

 

「ふふっ、ブライアンさんは確か、レースが随分とお好きなんでしたよね?」

「違うな、好きなんてもんじゃない。強者と競い合う事こそが私の生き甲斐……いや、生きる意味そのものだ」

「では……もっと『速く』なりたくは、ありませんか?」

「……なんだと?」

 

上の空で虚空を見詰めていたブライアンの瞳に、滾るように光が灯る。それを確かに視認してから、さらに追い討ちで彼女は言葉を紡ぐ。

 

「『薬膳』……食と身体機能の関係について、多少学のある身からお伝えいたしますと……ナリタブライアンさん、貴方はまだまだ速く、強くなれます」

「………………ほう」

「実は、ビタミンCの作用の一つに『筋力の増強』というものがあるのです。全身の筋組織をより硬く、強靭に繋ぎ合わせ、いざという瞬間のパワーを格段に高める作用が、このサラダには、あるのですよ」

「……より硬く、強靭に、か」

 

「おお、アルダン……」

「ほほう、なかなかやるなアルダン君?ブライアンの興味を引く単語を織り交ぜて、巧みに誘い出している、という訳か」

 

先程とは打って変わって、まるで追い込み漁のような緻密な策でナリタブライアンを誘導するアルダン。そうだ、彼女の武器は真摯さだけではない。腹の中に隠したナイフで、時に相手を欺き貫くトリックスターとしての一面。それだって、アルダンの強さで……

 

「あらあら〜♡ブライアンちゃん、なんだか少しお困りみたいですね〜?」

 

「っ……!?」

「スーパークリークっ……!?」

「なんだ、今日は騒々しいな……」

 

と、僕らの背後から聞こえてきたのは……もはやおなじみ、スーパークリークの声。咄嗟に身構える僕とアルダンを後目に、彼女はこれまた颯爽とナリタブライアンの目の前に歩みを進める。

 

「ちょうど良かった、私、ブライアンちゃんに是非食べて欲しいものがあったんですよぉ?」

「私に、食べて欲しいもの?」

「ええ、こちらのカスタードプリン……ふふ、私の手作りなんですよぉ?」

「ほお、話の流れからしてまた野菜かと思ったが……スイーツならば、ありがたくいただくとしよう」

「うふふっ!それじゃあ、はい、ハヤヒデちゃんにも!」

「ああ、ありがとう」

「アルダンちゃんにも!」

「あ、ありがとう、ございます?」

「アルダンちゃんのトレーナーさんにも!」

「ど、どうも?」

 

彼女の持っていたトレイから、一つ受け取ったカスタードプリン。なるほどたしかに、しっとりと優しい色合いのシンプルなプリンで、実に美味しそう……だが、彼女は何故これを急に、ブライアンに?

 

「……おお!なんて美味しいプリンなんだ!流石はクリーク君と言った所だな?」

「確かに……お店でも中々出会えないクオリティですね……!」

「しかし、なんだろうこの甘み?なんか、砂糖やカラメルとは違った風味がある様な……」

 

とりあえず、何の気なしにそのプリンに口を付ける僕ら。まあまあ、確かにかなりのクオリティだが、僕的にはアルダンの作るスイーツの方がいいと思うし?これならきっと、アルダンにだって勝機が……

 

「では私も……んっ!これは……なかなかやるな、クリーク?」

「あっ、こら!お前、まだサラダが残ってるうちにデザートを……」

「うふふっ!いいんですよぉ、ハヤヒデちゃん?このプリンがあれば、ね?」

「し、しかし肉とデザートだけでは、栄養が偏ってしまうだろう?」

「それが大丈夫なんです!こちらを、ご覧下さい?」

「ん?なんだこの表は?」

「人参30本、キャベツ10玉、ピーマン20個、ブロッコリー……?」

 

彼女に突然手渡された一枚のコピー用紙。そこに所狭しと書かれていたのは、古今東西、メジャーなものからあまり馴染みのない野菜の名前と、その分量……?

 

「こちらが、このプリン一個分のレシピです♡ウマ娘の身体に必要なお野菜、一日分がぜーんぶ入ってるんですよぉ?」

「えっ!?レシピ!?」

「一個にこんな入ってんの?物理法則無視してない?」

「ふふふっ、例え苦手なものでも、こうして食べやすくしてあげればいいんです♡せっかくのお食事で、悲しい顔なんてして欲しくありませんからね?」

「く、クリーク……!」

「クリーク君……!」

「っ………………!」

 

WINNER!!!!!

SUPER CREEK!!!!!

 

──────────────

 

「ど、どうしましょうトレーナーさん……!このままではクリークさんに負けてしまいます……!」

「う、うん。そもそも何本勝負なのこれ?」

 

辺りを見回しながら、大急ぎで学校中を駆け回るアルダンに、何とかその背を追いかける僕。確かに、例えレースでなくても彼女が負ける姿なんて、僕ももちろん見たくない。見たくはないが……果たして今の僕たちに、勝ち目なんて本当にあるのか?

 

「しかし、なんだろうな……なんというか、僕的には……」

「…………かくなる上は」

「んえっ?どうしたの、アルダン?」

「トレーナーさん。少しだけ、ほんの少しだけ。私のわがままに『お付き合い』いただけますか?」

「…………はい?」

 

──────────────

 

「よーしよーし?いい子にしていましたか?」

「ば…………バブーッ!」

「ふふっ、とっても元気そうで何よりです♪ミルクが飲みたいですか?それともおしゃぶり?」

「ミ……バ、バブブ!バブブ!」

「ふふっ?分かりました、はい、おしゃぶりですよ♪」

「えっ?今僕、ミルクって言っ……もがががっ……!」

「ふふっ?いかがですかトレーナーさん?」

「バ、バブゥ……」

 

口にはおしゃぶり、首にはスタイ。やや狭苦しいベビーベッドの中に寝転がる……僕は彼女の、赤ちゃん……赤ちゃん……赤ちゃん……

 

「……ねえ、アルダン?これなんか意味ある?」

「そうですねぇ。普段クリークさんが見ている景色を私も観察して考察すれば、何かが分かるかと思ったのですが……トレーナーさんは、何か感じる事はありませんか?」

「命の危機、かなぁ。もしこんな所、他の誰かに見られたら社会的に終わるなぁって。というかこれ、トレーナー室以外の、もっと人気のない所でやっちゃダメだったかな?」

 

しっかり形から入ったことが災いしてか、甘やかされているはずなのに、まるで落ち着かず鳴り続ける動悸息切れ。今日に限って、来客とか来ませんように……

 

「かく言うアルダンは?何か気付くことあった?」

「そう、ですねぇ……強いて言うならば……」

「うんうん」

「トレーナーさんって……あまり可愛くはないですね?」

「えっ」

「あ、ああすみません!言葉足らずでした!正確に言えば、貴方が赤ちゃんの格好をしても、私的にはあまりキュンとはこないなぁ、と……」

「う、うん……まあ、そりゃそうだ、けど……」

 

至極真っ当な彼女の気付きに、思わず腰が砕けてしまう僕。というか、そりゃそうだ……こんな大の大人が急に赤ちゃんになっても、普通は……ん?

 

「無理やり赤ちゃんにならなくても、やっぱり普段通りの貴方の方が私は好きですね?少し頼りなさげな時もあるけれど、でもなんだかんだしっかり自立していて、自分の事は自分で決められる、貴方のことが……」

「………………」

「……トレーナーさん?」

「そうか、そうだよね?母親ってむしろ『逆』だよね?」

 

今日一日、スーパークリークに感じていた妙な違和感という『感覚』に、ようやく『思考』が追いついて、その背中を捕らえ始める。そうだ、彼女の宣う『母性』の基準じゃ、アルダンはどんなに頑張っても絶対に勝てやしない。けれども逆に、ひっくり返して考えてみれば……

 

ガラガラガラガラ……

 

「あら、ご来客でしょうか?」

「えっ!?来客!?す、すいませんすいません!この格好には訳があっ……」

 

「ふふふっ?アルダンちゃんも、ようやくここまで辿り着いてくれたんですねぇ?」

 

「むっ!その声は!」

「スーパークリークか……よ、良かった……」

 

不意に開いたトレーナー室のドア、一瞬だけ視界が真っ暗になる僕を後目にこだまする、相変わらずの柔らかい声。スーパークリーク、本日幾度目か登場の彼女は、実に不敵な笑みを携え、アルダンに迫ってきた。

 

「いかがです?自分の大切な人が、脇目も振らず自分に甘えてきてくれる感覚……ふふっ、ほんっとうに、最高ではありませんかぁ?」

「っ、私は……その……」

「あらぁ……アルダンちゃんにはまだ照れがあるみたいですねぇ?ふふっ?そんなことでは、まだまだ私には勝てませんよぉ?」

「………………」

 

「う、うう、うぁぁ……」

 

「……?この声は?」

「あらあら、ごめんなさいねぇ?起こしちゃいましたか?」

 

スーパークリークの抱えた抱っこ紐から聞こえてきた、幼子の泣き声……えっ?泣き声?

 

「えっ?まさかとうとう本物の赤ちゃんを学園に連れ込んで……!?」

「ふふっ、まさか?関係のない子を学園に連れ込んだりはしませんよ?」

「そ、そりゃそうか、流石にね?」

「けれども、『本物の赤ちゃん』ではありますけど……ね?」

「えっ、ちょっと言ってる意味がわかんないんだけど……」

 

「ふふっ?それではご紹介します。私の可愛い可愛い……『タマちゃん』です♡」

「うう……ウチは赤ちゃん……ウチは……赤ちゃん……?」

 

「………………はぁ!?」

「た、タマモクロスさん!?」

 

その抱っこ紐に括られて、優しく抱きしめられていたのは……間違いない、アルダンやスーパークリークのさらに先輩にあたるウマ娘、タマモクロスなのだっ……

 

「って、ちっさ!えっ?タマモクロス、なんか小さくない!?」

「た、確かに……タマモさんは元々小柄な方ですが、今日はなんというか、一段と……!」

「う、うう……助けてくれぇ……いつも通りの力が……出せへんのや……」

 

……僕とアルダンが真っ先に気が付いて、そして恐れおののいたのは、タマモクロスのその肉体。顔立ちや特徴的な芦毛で確かに彼女がタマモクロスであるということは分かったのだが、しかしその身体はどこぞの名探偵よろしく、スーパークリークの胸元にすっぽりと収まるほど、縮んでしまっていたのだった……って、普通に解説しちゃってるけど、冷静に考えたらなにあれ!?怖っ!?

 

「ほんの数日前の事でした。自分のこの『力』に気が付いたのは」

「力……?」

「それは、いつも通りタマちゃんの事をたっぷりと甘やかしていた時でした……」

「いつも通り……?」

「トレーナーさん、そこはおそらく今反応すべきところではないかと」

「いつものようにタマちゃんの頭を、愛情を込めながらこの手で撫でていると……なんと、タマちゃんの身体が少しずつ、縮んでいったんです……!」

「えぇ!?そんなことある?」

「う、ウチのこと見れば分かるやろ……大マジや……」

 

彼女の口から語られるにわかに信じ難い出来事に、ただただ言葉を失う僕とアルダン。そんな僕らをまるで気にも留めない様子で、彼女はさらに声高らかに、半ば狂気すら滲ませた表情を浮かべながら口を開く。

 

「初めは少し戸惑いました。けれどもすぐに分かったんです。これは私に与えられたギフト……『母性』を極めたエキスパートたる私にのみ与えられた、天からの授かり物なんだ、って……」

「は、話がとんでもない方向に進んできてない?」

「そしてきっとこれは、この世界を救うための力なんです。この汚れた世界を、優しい『お母さん』と素直な『赤ちゃん』しか存在しない、純粋無垢な世界に生まれ変わらせるため……私はこの力を、授かったのです♡」

「生まれ……変わらせる……?」

「あかんアルダン!クリークの言う事に耳傾けんな!」

 

一歩、また一歩とアルダンに歩み寄る彼女に、しばし目を逸らすアルダン。やがて彼女はアルダンの目の前に立ち、その耳元で、まるで天使からの誘いのような甘言を囁き始めた。

 

「いかがですかぁ、アルダンちゃん?きっとアルダンちゃんなら、とぉっても優しい、立派なお母さんに、なれるはずですよぉ……?」

「…………」

「さぁ、もう恥ずかしがらないで?貴方のトレーナーさんのことも、もっとよしよししてあげましょうねぇ……?」

「……できません」

「アルダンちゃん?」

「できません、私には、トレーナーさんを生まれ変わらせるなんて……!」

「……どうしてですかぁ?きっとトレーナーさんだって、そっちの方が幸せですよぉ?なんにも辛いことがない場所で、大好きなアルダンちゃんとずうっと一緒にいられるなんて、幸せ以外の何物でもないでしょう?」

「……確かに、今まで辛いことも沢山あったけど、その度に私達は『成長』してきたんです。嫌な事、目を逸らしたくなるような事だって、克服してきたんです、トレーナーさんも、私も」

「……アルダン」

「だから私は守ります。トレーナーさんの……私達の築き上げてきたものを、私は、守りたい!」

 

そんな言葉を逞しく跳ね除けるように、まっすぐに彼女の瞳を見詰めて、力強く宣言するアルダン。ああ、やっぱり彼女は僕の自慢の担当ウマ娘だ。彼女の言葉は、いつだって僕に沢山のものを与えてくれる。

けれど、そうだ、『与えてもらう』だけじゃ、ダメなんだ。

 

「……残念です、アルダンちゃん。私に張り合ってきた貴方なら、私と同じ力を得て、同じお母さんになれるかもしれないと、そう思っていたんですがね?」

「クリークさん……」

「気が変わりました。お母さんのいろはを叩き込むため色々と付き合ってあげていましたが……やっぱり『お母さん』は、この世界にただ一人でいい」

「っ……ひゃあっ!」

「まずい!逃げるんやアルダン!」

「安心してください、アルダンちゃん?貴方も『赤ちゃん』として……私がいつまでも、いつまでも愛してあげますからっ!」

 

バチチチチチチチチッ……!!!

 

「……!?」

「な、なんや!?何が起こったんや!?」

「……!トレーナーさん!?」

 

「うおおおおおおおおおおっ!!!」

 

アルダンの頭目掛けて振り下ろされたクリークの手を……僕はベビーベッドから飛び起きて、自らの頭で、強く、強く受け止める。確かに彼女の手のひらからは、まるで身を全て委ねたくなってしまうような温かさ、心地良さが全身に伝わってくる、だけど。

 

「っ……アルダンちゃんのトレーナーさん!?どうして、どうして私の力が効かないんですか!?今の私の力なら、一瞬のうちに十歳は若返らせられるはずなのに……!」

「そんなの決まってる!僕は今の君からは、母性なんか少しも感じない!今の君は……『母性エキスパート』でも、なんでもないからだぁっ!」

「っ……!?私から、母性を感じない!?」

 

咥えていたおしゃぶりを勢いよく吐き出して、目の前の彼女、スーパークリーク目掛けて力強く宣言する。先程垣間見た、強い強いウマ娘、メジロアルダンと同じように。

 

「逆だ!逆なんだよスーパークリーク!『母親』の仕事は、皆を甘やかして赤ちゃんにする事……なんかじゃない!」

「逆……?」

 

「母親の仕事っていうのは……『赤ちゃんを立派な大人に成長させる』ことだろぉっ!」

 

「……………………っ!?」

「あれを見ろ!スーパークリーク!」

 

本日初めて立ち消えた、スーパークリークの笑顔。その表情をしかと瞳に刻んでから、僕は堂々と、陽の光射し込む窓の外を指さした。そこには……

 

──────────────

 

「ご、ごめんなさい……私のチームの荷物まで、半分持ってもらっちゃって……」

「いいのいいのそんな顔しなくったって!他人に頼ることは恥ずかしい事じゃないし、互いに助け合いやすい雰囲気を作っていく方が、きっと皆過ごしやすくて良い学園になるだろうし!それに……」

「それに……?」

「……荷物以外でもさ。なんでも頼って欲しいんだよ。アタシ、クリーク先輩みたいな力持ちじゃないけど、半分くらいは持てるからさ」

「……ふふっ、ええ、ええ、そうね……ありがとう」

 

 

「…………んぁっ!」

「……っ!ど、どうだ?できるだけ新鮮な野菜を用意してみたのだが……!」

「………………不味い」

「そ、そうか……まあ、そうだろうな……やはりお前には、野菜は……」

「不味い……が、そうだな。考えてみれば、強くなる為の道がそう甘くて簡単なはずがない。走り込みだって、フィジカルトレーニングだって……最初は死ぬほど辛かったのを、思い出したよ」

「ブライアン……お前……!」

「そしてそうだ。強者と競い合い、そして打ち勝つ事こそが私の生き甲斐……いや、生きる意味そのもの……姉貴!もっと苦い野菜はあるか!?」

 

──────────────

 

「あれは……アルダンちゃんが助けようとしていた娘達……?」

「ああ、あの娘達はアルダンの言葉を、その態度を真似て、取り込んで……そうして今日、また一歩『成長』を遂げた。まるで親の真似をして立ち上がる子供のように、親の言葉を聞いて、自分も言葉を覚える子供のように」

「……………………」

「確かに子供達ってのは……そしてきっとこの世界だって、まだまだ未熟で、幾度も幾度も間違える。くだらない事でケンカしちゃったり、ミスしたり思わぬ事故が起こったり……でも、だからこそ『成長』できるんだ。未来に、期待できるんだ」

「……トレーナーさん」

 

「それを信じて、正しい方向へ背中を押してあげられる存在、それこそが……すなわち、メジロアルダンこそが……『母性エキスパート』に相応しい、存在なんだあああああああっ!」

 

「っ……!きゃああああああああああっ!」

 

 

WINNER!!!!!

 

MEJIRO ARDEN!!!!!!!!!!!

 

 

スクスクスクスクッ

 

「っ!?お、おおおっ!?戻った!ウチの身体、元に戻ったでぇーっ!ほんまおおきに!アルダンのトレーナーさん!」

「いやいや、お礼ならアルダンに言ってよ?ね、アルダン?」

「ふふっ、いえいえそんな?むしろありがとうございます♪まあ、結局私はやはりクリークさんのようなウマ娘にはなれそうもありませんでしたが……」

「あ、ああ、そういや最初はそんな話だったね?けど……」

「ふふふっ!そうですね?私達は私達のやり方で……」

 

 

「ユルシマセン……」

 

 

「っ!?なんだ!?スーパークリークの様子が……」

 

「ユルシマセン……ミトメマセン……『母性エキスパート』ハ、ワタシノモノデス……!」

 

先程から、その場に立ち尽くしていたスーパークリークの様子が……なんだ?明らかにおかしいぞ?その瞳は虚ろで、その肌はどんどん生気を失っていって、そしてその額には……

 

「っ……!アルダン!見てみいあのデコの紋章!」

「なるほど……!少しおかしいと思っていたのです。本来のクリークさんならこのような強硬手段を取るはずもない、トレーナーさんに言われた事だってちゃんと理解していて、分別だってつけられる方のはず、ですから……!」

「ああ、間違いない。あれは『エクスタン』に取り憑かれとる。ウチを赤ちゃんにした妙な技も、そういうカラクリやったんやな」

 

おっと、ここに来て知らない概念。

 

「えっ、ごめん何?えくす……?」

 

ガラララララッ!

 

「アルダンさん!この部屋からエクスタン反応がっ……く、クリークさん!?」

「すいませんアルダンさん!どうやら、少し気付くのが遅かったみたいですね!?」

 

「ヤエノさん!チヨノオーさん!ふふっ、いいえ?ナイスタイミングです♪」

「ごめんちょっと待って?まだあんまり飲み込めてないから、人数まで増やさないで?」

 

「アア……フフフ……ミンナ、ミンナワタシノ、カワイイアカチャンニ……!」

 

「よーっし、揃ったな『Xスパート戦隊』!いっちょかましたれや!」

「ええ、いきますよお二人とも!ここからが、私たちのスパートです!」

 

 

「「「トレセンチェンジ!!!」」」

 

「深海エキスパート!トレセンオルカ!」

「山頂エキスパート!トレセンウルフ!」

「高原エキスパート!トレセンチーター!」

 

ターフ上のエキスパート『ウマ娘』

      ‪X

環境最速の『エキスパートアニマル』達

 

二つのエキスパートが交わる時

この世界に新たな蹄跡が刻まれる!!

 

「ゲートイン、完了!」

 

 

「「「Xスパート戦隊 トレセンジャー!」」」

 

 

「地上最速で……出走です♪」

 

盛大な掛け声と共に、極彩色の輝きに包まれた三人。そうしてその光の中から現れたのは……青赤黄、色鮮やかな三人の『ヒーロー』達であった。そして、その姿を目の当たりにした僕は……

 

「……か、カッコイイ〜〜〜〜〜〜!!!!」

 

……もちろん、一瞬で心を奪われてしまうのであった。

 

「よっしゃ!かましたれ三人とも!クリークを助けるんや!」

「はい!いきますよクリークさん、貴方が皆をいつも守ってくれていたように……貴方の想いは、私達が守りますっ!エクスオルカリバー!」

「エクスウルファング!」

「エクスチータアロー!」

「「「はああああっ!」」」

 

「いっけー!トレセンジャー!」

 

三者三様の武器を携えて、勇ましくエクスタンに立ち向かうトレセンジャーの三人。その様を僕は……これまたもちろん、両手を上げて応援していたのだった。てか、うわーっ!カッコイイーっ!皆カッコイイけど、やっぱり僕、子供の頃からブルーが一番好きだったんだよなぁ!

 

「サセマセンヨ……!ユキナサイ、『テディボンバー』!」

「むっ?これは……はっ!な、なんと愛らしいクマちゃん……!」

「ウフフ……ヤエノチャン?ハイ、ドウゾ♡」

「よ、よろしいのですか!?では、ご遠慮なくなく……くぅぅ!愛らしい!なんという愛らし……」

 

カチッ

ドカァアアアアアアン!!!!

 

「ぐはぁっ!?ふ、不覚……!」

「ヤエノさん!?」

 

「ああっ!トレセンチーター!」

「ちっ!おうおう!全く相変わらずのヒヨっ子っぷりやなぁ?」

「えっ?タマモクロス?もしかして、君も……」

「ま、ウチも今回はいいとこ無しやったし……ここはひとつ、先輩の威厳取り戻しとかんとなぁ?ほないくで!トレセンチェンジぃ!」

 

 

「密林エキスパート!トレセンタイガー!」

 

 

「うわーっ!ホワイト!ホワイトだ!すごーい!」

「へへっ、白い稲妻の意地、見せたるさかい!いくで!『タイガーホームランサンダー』っ!」

 

「ウッ……!ナンデスカコレハ……カラダガ、シビレテ……!」

 

「ほら今や!ぶちかましたれトレセンジャー!」

「ふふっ、ありがとうございますタマモさん♪さあ、いきますよチヨノオーさん、ヤエノさん!」

「ええ!アルダンさん!」

「全速力で行きましょう!」

 

「「「トレセンジャー、エクスパンション!」」」

 

エクスタンの動きが止まったのを察知して、アルダンの呼びかけで集結するトレセンジャー達。各々の武器を、そして想いをひとつにして、ついに究極の力が完成する……!

 

「さあ、最後の『叩き合い』です!」

 

「「「トレセンジャー!エクストリームウィップショット!!」」」

 

 

「いっけぇええええええええええええええええええええええええええええええっ!!!」

 

 

──────────────

 

 

「ううん……いっけぇ……とれせんじゃー……むにゃむにゃ……」

 

「あら?ふふっ……見てくださいアルダンちゃん、アルダンちゃんのトレーナーさん、ヒーローのおもちゃを抱いたまま眠っちゃいましたよぉ?」

「あらあら……ふふふっ♪とっても楽しそうな寝顔……きっと何やら、楽しい夢を見ているのでしょうね?」

「うふふっ♡ではでは〜、目を覚ましたら私が抱っこしながら、たっくさんお話を聞いてあげますねぇ〜?」

「むっ?いけませんよクリークさん?トレーナーさんは…………『私の赤ちゃん』なんですからっ♪」

 

 

「…………むにゃ、う、うーん……?」

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