メジロアルダン短編集『to the MEJIRO ARDAN』   作:いずさわ

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2025/10
POP LIFE


ベチョッ

 

「えっ」

 

肩口に広がる、生暖かい感触。これは、まさか……

 

「うわっ……!?やっぱり『鳥のフン』じゃん!?ついてないなぁ、これから仕事なのに……」

 

ムニュッ

 

「っ!?今度は……『犬のフン』!?って、うっ!臭っ!な、なんか、どっかで洗い流さなきゃ……」

 

ブロロロロロッ!

 

バシャシャシャシャッ!!!

 

「…………洗い、流せはしたけどさぁ……」

 

 

──────────────

 

 

「運が悪い?ですか?」

 

昼下がり、予報外れの雨で湿気込んだトレーナー室。僕の何気ない愚痴をオウム返しして目を丸くするのは、もちろん我が担当ウマ娘、メジロアルダンであった。

 

「そう、最近っ……さ、なんかずっと運がっ……悪いっていうか、ことごとくっ……不幸な事が起こり続けてるっ……んだよねぇ」

「不幸な事が起こり続ける?それは一体どういう……って、その、トレーナーさん?先程から一体、何をされているのですか?」

「ああいや、理事長に提出しなくちゃいけない書類を書こうとしてるんだけど……なんか持ってるボールペンが、ことごとっ……く、詰まっててさ……」

「なるほど、そういう事ですか……これは中々、厄介そうですね?」

「ね……それと出来れば、ペン貸してくれたら嬉しいなぁ……」

「あ、ええ、もちろん。ええと、これならつい先程まで私が使っていたので、詰まっていることはないかと思いますよ?」

「あはは、ごめんね?ありがと……」

 

ポロッ……

 

「えっ?ど、どうして蓋が取れて……?」

 

ビヨヨ〜〜ン!

 

「あ、あああっ!?バネがっ!バネがどっか跳んでった!?」

「まあ!?ご自分の物以外でも効果があるなんて……!」

「ごごっ、ごめんっ!今すぐ探すから……いでっ!?机の角に頭が……うっ!?床に画鋲が……!?」

「あ、ああーっ!う、動かないで!不用意に動いてはいけません!トレーナーさん!」

 

 

     ◆

 

 

「どうしたもんかな……オエッ……」

「どうしましょうかねぇ……」

 

アルダンに支えてもらいながら、なんとかできるだけ安全そうなソファーの上に移動した僕。座った瞬間舞い上がったホコリでしばらく咳き込みはしたが、まあ、これくらいはまだマシな方か。

 

「そういえば、おかしいとは思っていたのです……ここ十日間ほど、朝の占いの最下位が毎日『ふたご座』だったり……」

「えっ、もしかして全国のふたご座の人達まで巻き添えに?」

「そして次の番組の血液型占いも、十日連続で最下位が『B型』だったり……」

「確率にして6京4925兆0621億0854万5024分の1なんだけど?奇跡目撃してる?」

「ううむ、ここまでとなると流石に心配です……なにか、私に出来ることなどありませんでしょうか?」

「えっ?い、いやいや!その気持ちだけで充分だよ!ありがとうね、アルダン?」

 

顎に手を置きながら、なんとも心配そうにこちらの顔を覗き込んでくるアルダン。不用意に近付いてきた彼女の長く艷めくまつ毛に、僕は思わず、ひどく見蕩れてしまう。そうだな、少し悪い気もするけど……でもこうやって、彼女が僕の事だけを親身に心配してくれているという状況は、案外なかなか、悪くない気分かも……

 

ゴツッ……

 

「ひぎっ……」

「えっ、野球ボール!?あんなに狭い窓の隙間から!?」

「……ごめんアルダン、やっぱりよければ、この状況をどうにかするための知恵、貸してほしいな……」

「も、もちろんです……!ですのでどうか、お気を確かに……!」

「ほんと、ごめんね……」

 

 

──────────────

 

 

「この者の穢れ、祓え給い……清め給へ……」

 

「おお?清めの句とかほんとに言うんだなぁ、カッコ良いなぁ……」

「ふふっ、そんな遊園地の子供のような表情でお祓いを受ける方も、そうそういないでしょうね?流石トレーナーさん♪」

 

僕らが早速やってきたのは、トレセン学園の一番近く、根性トレーニングLv.4でおなじみの神社であった。『不幸』には『お祓い』か。流石アルダン、まさしくこれ以上ない冴えたアイデアだ。

 

「にしても、アルダンも一緒に来ること無かったんじゃない?」

「あら?仲間はずれは言いっこなしですよ?それに私だって体験してみたかったのですもの、お祓い♪」

「なら仕方ないね?あれでも、元々異常のない人がお祓いされると、どうなっちゃうの?」

「もしかしたら、運が二倍良くなってしまったりして……♪」

「えっ、お祓いってそんな、バイキルトみたいなシステムなの?」

「ふふふ、終わったらおみくじでも引いてみようかしら?」

 

古臭い木と畳の匂い、けれどもそれがかえってしっくりと来てしまう境内の中、並んで仲良く正座して、ヒソヒソと語り合う僕ら二人。外から差し込んでくる雨音と温い風も相まって、まるで学生時代の気怠い午後みたいで……なんだか胸がときめいてしまう。心做しかアルダンも楽しそうだし、効果はどうあれ、間違いなく来て良かった、かな?

 

 

     ◆

 

 

「ふぅ、無事に終わって良かった……途中何回か足はつったけど……」

「ふふふ……あら?見てくださいトレーナーさん。いつの間にやら、雨がやんでいますよ♪」

「え?おおー!ほんとだ!虹も出てる!」

 

おおよそ三十分ぶりに外に出た僕らを出迎えたのは、雲の切れ間から見えた果てしない青空と、水彩画のように滲んで浮かぶ、ささやかな虹のラインであった。

 

「ふふっ、お祓いの効果はてきめん、みたいですかね?」

「ね……本当に綺麗な空だ……」

「ではお腹も空きましたし、帰りましょうか?おみくじは……また今度にしましょう♪」

「うんうん、帰ったら何食べようかなぁ……」

 

高台に建てられた神社なだけあって、遮蔽物も何も無くすっきりと見えたその清々しい空模様。どこかの誰かを彷彿とさせる複雑で深みのある水色に目を奪われながら、軽くなった肩で風を切り、僕は堂々と歩き出すのだっ

 

ツルッ

 

「えっ?」

「えっ?」

 

刹那、突然ふわりと宙に浮かび上がった僕の身体。そういえば、死の間際って全てがスローモーションに見えるってよく聞くよなぁ。ウマ娘の間でもよく聞く『ゾーン』ってやつも、こんな感じなのかな。

チラリと視界の端に映ったのは、先程まで空に気を取られて全く意識していなかった、石畳にへばりつく落ち葉。なるほど確かに、先程の雨をたっぷり吸い込んで、テカテカと輝いていて、実に、滑りやすそうな……

 

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」

 

「トレーナーさーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!?!?」

 

 

なんて悠長に考えながら、僕は思い切りお尻から着地……着地……えっ?

そのまま石畳に激突するかと思われた僕の身体は、予想外に前へ前へと滑り進んでいく。そして不幸にもその先に待ち構えていたのは……根性トレーニングLv.4でおなじみ、神社の大階段であった。

 

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?滑るっ!滑るっ!止まれないぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

かくして僕の身体は、まるで滑落するトロッコのように、もしくは世界レベルのボブスレー選手のように、真っ直ぐに階段を滑り落ちていったのであった……って、冷静に語ってる場合じゃないんだけど!?は、速い!速い!?めちゃくちゃ怖い!?僕今どうなってんの!?

 

「えっ!?と、トレーナーさん!前から人が来てます!避けて!避けて!」

「よ、避ける!?こ、こうっ!?」

 

ビュン!

 

「ひっ!?な、なんだ?」

「何かが、滑り落ちて……!?」

 

「う、うぉぉおっ!?成功した!良かった、他人を巻き込まずに済ん……」

「……!いえトレーナーさん、あれを……!」

 

「『滑る』?うっ!な、なんて縁起が悪い……」

「や、やっぱりボクにT大は無理なんだ……ううっ、うっ……」

 

「……どうやら合格祈願に訪れていた、受験生の方だったようですね?」

「ご、ごめんなさぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!」

 

 

──────────────

 

 

「やはり、神頼みの前に自らの行動を省みるべき、でしたかね?」

「そ、そうだね?やっぱり他力本願はいけないよね?」

 

滑り落ちる勢いのままトレセン学園にピットインした僕らは、とりあえず背中側が擦り切れ消滅してしまった服を着替え、今度は学園の体育館に集合していた。下ろしたてのシャツだったんだけどなぁ……というか、なんで僕自体は無傷なんだ……逆に恥ずかしかったぞ……

 

「というわけで、ここで考え方をひっくり返してみましょう。不幸を起こさないのではなく……」

「不幸が起きても、対処できるようになる!かな?」

「その通り♪というわけでこちらをご用意いたしました♪」

「こ、これはっ!?」

 

なぜだか用意されていたお立ち台の上に乗って、いつもとは逆に僕を見下ろしてくるアルダン。そして、いつの間にやら体育館を横断していたネットに、その向こう側に見えた、カッコ良さげに光る『マシン』……なんだか、随分懐かしい気持ちが芽生えるあのマシンは……なんだっけ、確か、そうだ……

 

「そうだ!『マシンガンレシーブ』だ!」

「その通り♪丁度都留岐さんが学園にいらしていたので、特別に使わせていただけることになりました♪」

 

そう、それこそは、U.A.Fの一競技として採用されている、『マシンガンレシーブ』。そこで使われている、高速でバレーボールを射出するマシンである。映像でしか見た事なかったけど、結構大きいんだなぁ……!

 

「うわーっ!カッコイイ!実はこれ、ずっとやってみたかったんだよね!」

「あらあら、何もトレーナーさんを喜ばせるために持ってきたわけではありませんよ?これを使って、どんな不幸でも回避できる動体視力と反射神経を鍛えるのです♪」

「も、もちろんわかってるよ!サッコォーイ!」

「ふふふっ♪ではでは、速度はどの程度にしましょうか?120キロくらい?」

「う、うん。それは普通に日本代表のスパイクくらいだから、その半分くらいからお願いね?」

「り、了解です……!ではまずは、60キロ……と……」

 

ピポピポと、機械のモニターを操作する彼女の姿。いつもと違うアングルで見上げたその姿に、なにやらやわらかい感情を覚えてしまう僕。ほんとに散々だった最近の日々だけど、彼女に相談してからというもの、なんだか不思議と、そんな陰鬱な気持ちも

 

ドガッッ…………

 

「………………えっ」

「あ、も、申し訳ございません……!桁数を間違えて、60キロではなく600キロで射出してしまって……!」

「リニアの最高速度じゃん!?逆に出せるの!?何そのマシン!?」

「よ、良かったです、狙いが逸れて……これがもし、直撃していたら……」

 

まるで戦車の主砲のような轟音を上げながら、僕の頬を掠めていったバレーボール。その軌道が、あと十センチでも逸れていたら……全身の毛が逆立ち縮み上がる僕をよそに、彼女は再びモニターとにらめっこを始める。

 

「とにかく、何はともあれ危険ですので、早く設定を元に戻さ……戻……さ……?」

「……アルダン?」

「おかしいですね?なぜだかこちらの操作を受け付けてくれなくて…………」

 

ピロン……

 

『鬼スパルタモード 起動シマス』

 

「えっ?」

「えっ?」

 

あれ、なんだか猛烈に嫌な予感が……

 

ドカッ……!

 

「ひいっ!?」

 

ドギャッ……!

 

「ぎゃあっ!?」

 

ドドドドドドドドドドドドドドド……!!!

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」

 

「トレーナーさーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!?!?」

 

時速600キロのバレーボールが乱舞し、のどかな雰囲気漂う体育館は、一転、戦場と化す。

 

「お、お待ちください!今、緊急停止を!」

 

ピロン……

 

『ターゲットロックオン、追尾シマス』

 

「あら?」

 

ウィーン!ドドドドドドド……!

 

「ひいいいいい!?狙われてる!狙われてる!?何を想定した機能だよこれ!?レシーブの練習ならむしろ人を追尾しちゃダメだろ!?」

「お、お待ちください!今、追尾機能をオフに……」

「待って!動かないで!絶対またなんか変なことになるからぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

     ◆

 

 

「……やめましょうか、この作戦。きっと完璧な動体視力を得る前に、トレーナーさんの方が再起不能になってしまいます……」

「ね……ウルトラマンレオの修行パートみたいな絵面になってたもんね……」

 

ストックのボールを吐き出しきって、ようやく運転を停止したマシン。その辺に転がるバレーボールに二、三度足を取られつつ、僕はその場に、倒れ込んだ。

 

「まあ、カッコイイマシン見れたのは良かったけど……しかし、これでまた降り出しかぁ」

「…………仕方が、ありませんね?」

「アルダン?どしたの?」

「少し手間がかかるので取っておいたのですが……こうなれば、最終手段を使わせていただきましょう……!」

「さ、最終手段?」

「待っていてくださいね?すぐに『手配』いたします……」

 

 

──────────────

 

 

「さ、それでは遅めのランチと参りましょうか、トレーナーさん♪」

「う、うん、行こっか……」

 

「護衛対象、アルダンお嬢様とトレーナー様。ただいま移動を開始しました」

「了解、予定通りフォーメーションはC3。周辺警戒を怠らぬように」

「了解です」

「了解」

「了解」

「了解」

 

「何を食べましょうかね?和食もいいですが洋食も……ああ、甘いものも恋しい気分です♪」

「うんうん、アルダンに任せるよ……」

 

「対象、河川敷を道なりに歩行中。現在異常なし、引き続き周囲状況の確認に務めよ」

「異常なし、了解です」

「異常なし、了解」

「異常なし、了解」

「異常なし、了解」

 

「…………ていうか、ほんとに電話一本で来ちゃうんだ……」

 

すっかり雲ひとつなくなった空の元、遅めのランチへと街へくり出す僕とアルダン……と、その周囲を取り囲む、あの空の明るさとは対照的な黒ずくめの一団……

 

「電話してからものの数分で集まってきちゃったけど……この人達ってその、どこから呼ばれて来てるの?」

「こちらの方々は有事の際に備えて、メジロ家が常に雇っているSPの皆様です♪メジロのウマ娘が連絡を入れれば、全国どこへでもすぐに駆けつけられるように常にスタンバイしてくださっているのですよ?」

「えっ、この人たちメジロ専属なの?メジロって、思った以上に凄い家なんじゃ……」

「ふふっ、今更ですか?」

 

彼女の、花の咲くような満面の笑みに、思わず耐え無く目を逸らしてしまう僕。にしても本当に、彼女の家の話はいつ聞いてもとても現実の話とは思えないな……まあメジロの皆さんも、今の僕にだけは言われたくはないだろうけど……

 

「まあ本当にそうそうお呼びすることなどありませんけどね?かく言う私も、自分で呼びつけるのは初めてだったので、こんなにすぐに駆けつけてくれるとは思いませんでした♪」

「え、ええと、それはその、こんなことで呼び出しちゃって良かったの?そもそも僕、メジロ家の人間じゃないし……別にアルダンが困ってるわけでもないし……」

「良いに決まっているでしょう?貴方は私のトレーナー。すなわち充分『メジロの人間』です。それに……貴方の喜び苦しみは、充分私の喜び苦しみでもある……私はとっくにそう思っていましたが?」

「あ、アルダ……」

 

カキーーーーーーン!

 

「うぉーっ!ホームランだーっ!」

 

「えっ!?また野球ボー……」

「八時の方向に異常発生!対象します!」

 

バシッ!

 

「目標確保!即時リリースしフォーメーションに戻ります!」

 

ビュン!

 

「……あ、アウトーっ!」

「嘘ォ!?」

 

「……う、うおおーっ!なんて鮮やかなキャッチアンドリリース……!すみません、ありがとうございます!」

「いいえ、お二人をお守りする事こそが私の『使命』ですので」

「か……カッコイイ〜〜〜!」

「ふふ……自分で呼んでおいてなんですが、少し妬けてしまいますね?」

 

そのスマートな身のこなしと、冷静な口調の中に見え隠れする確かな信念を目にして、大きく高鳴る僕の胸。これはもしかすると、今度こそ上手くいくのでは……

 

「え?な、なにあの人達?ボディーガードめっちゃいるんだけど?」

「なんだろ……?大企業の社長令嬢とかかな?」

 

「………………」

 

「流石にSP多すぎない?あれ多分、一国の姫とか、なんかそういうのじゃないの?」

「えっ、日本を視察しに来たとかそういう?と、とにかく怖いから、あんまり近寄らないようにしよ……?」

 

「………………」

 

……そうだな、もちろんありがたいんだけど、ちょっっと目立ち過ぎるのだけ、どうにかならないかなぁ……

 

 

「あれー?そこにいるの、アルダンだ!おーい、アルダーン!」

 

 

「あら?あの方は……」

 

と、軽く考え込んでいた僕の耳に飛び込んできたのは、なんとも朗らかで、けれども芯の部分に確かな高貴さを感じさせる、一人の少女の声……あれは、確か……

 

「まあ、ファインモーションさんではありませんか♪」

「こんなところで会えちゃうなんて、すっごい偶然だねっ!今日は二人でお出かけなの?」

 

ファインモーション、トレセン学園の生徒であり、アルダンの友人であり、それと、確か本物の一国のプリンセス……だったっけ?確か……まあ、とにかくそんな感じのやんごとなき出自を持つウマ娘である。が、しかしまあ……

 

「殿下、ご友人と偶然の接触あり。メジロアルダン様とそのトレーナー様と断定、危険性は限りなく低いと思われます」

「了解」

「了解」

「了解」

「了解」

 

向こうもまた、凄い人たち連れてるなぁ……流石というか、なんというか……この道、人口密度凄いな?

 

「ふふ、これから街に出て、ランチタイムの予定なのです♪」

「わっ、奇遇だねー?私もこれからお昼ご飯なんだ!二人はもう、何食べるか決めてるの?」

「いえ、丁度今どうしたものかと考えていたところなのです」

「あ!それならさ?これから私、最近話題になってるラーメン屋さんに行く予定なんだけど、二人も一緒に食べない?」

「まあ!それはなんとも魅力的なご提案ですね♪トレーナーさんは、いかがでしょう?」

「う、うんうん、僕もいいと思う!」

「それでは決まりですね……あ、SPさん達も大丈夫でしょうか?」

「承知いたしました。各員に伝達、護衛対象一名追加」

「一名追加、了解です」

「一名追加、了解」

「一名追加、了解」

「一名追加、了解」

 

「私たちも、大丈夫だよね?」

「承知しました殿下。各員に伝達、護衛対象二名追加、これより先方のSPと共同で護衛に当たります」

「二名追加、了解です」

「二名追加、了解」

「二名追加、了解」

「二名追加、了解……メジロアルダン様のSP様方、ご協力感謝いたします。こちらが今回の目的地となります」

「こちらこそ、ご協力感謝いたします」

 

「……………………」

 

 

     ◆

 

 

「それでねっ!そのラーメン屋さんの激辛ラーメンがすっごくてね!」

「まあ……ふふっ、それは楽しみですね♪」

 

「100M先の交差点、交通規制完了済みです」

「了解、これより五分以内に横断し、完了次第規制解除。警察署への御礼の連絡も忘れないように」

「了解です」

「目的地の飲食店、安全確保済み、爆発物探知センサーも反応無し、危険性は限りなく低いと見られます」

「了解、御三方が入店後は打ち合わせ通りF14フォーメーションで警戒に当たる。各自装備の用意を怠らぬように」

「了解です」

「了解です」

「了解です」

 

 

「……G20サミット?」

 

 

──────────────

 

 

「それで……まさか跳ねた激辛ラーメンのスープが、トレーナーさんの両目両鼻両耳に直撃してしまうとは……」

「SPさん達、めちゃくちゃ慌ててたね……なんか申し訳ないことしちゃったなぁ……」

「あれは、流石のSPさん達でも対処できるわけがありませんから……そう気を落とさないでください、トレーナーさん……?」

 

なんだかんだと、いつの間にやらオレンジに染まっていた空。僕とアルダンはファインモーション達と別れ、SPさん達を解散させて、ようやく戻ってきたトレーナー室の窓から、二人でそれをぼんやりと眺めていた。

 

「しかし、これは本当にどうすれば良いのでしょうね……『不幸』というのは、やはり避けられないものなのでしょうか……」

「………………」

「……トレーナーさん?」

 

顎に手を置き、憂いを帯びた表情でこちらを見つめてくる、アルダン。と、なんとも情けない話だが、その僅かに下がった眉の角度に、重く下がった瞼、普段より大人びたその素顔に、無意識に僕は、目を奪われてしまう。そうだな、今日一日で痛いほど分かった。『不幸』とは、避けようと思っても絶対に避けられないからこそ『不幸』なのだ、ということ……

 

「そうだね、今日はありがとうアルダン。そして、もう大丈夫だよ。もう僕の不運の事で、そんなに悩まなくても、大丈夫」

「し、しかし、トレーナーさん……」

「『そんな事』よりも、さ?

 

……そして、だとするならば。

絶対に避けられないとするならば。ひっくり返すべきなのはその『不幸』の方だ、ということ。

 

「さっきのSPさん達……めちゃくちゃカッコ良かったよね!?」

「……えっ?」

 

思い切り、鼻息荒く意気揚々と話し始める僕に向けて、まん丸な目線を向けるアルダン。その様を敢えて気にせずに、僕はつらつらと、口を滑らせる。

 

「特にさ、野球ボールを軽々キャッチして投げ返したところ!動きに無駄が無さすぎてちょっと笑っちゃったもん!」

「あ、え、ええ?確かに凄かったですね?」

「あ、あとカッコ良かったといえばあの……マシンガンレシーブのマシンも凄かったよね!あれ、どういう原理で射出してるんだろう?」

「ええと、どうなのでしょう?なんだかローラーのようなものは見えましたが……」

「あと、お祓いしてもらったのも楽しかったなぁ……確かになんか、身軽になった感じしたよね?まあ、もしかしたらそのお陰で、あんな勢いで滑り落ちちゃったのかもだけど?」

「それは……確かに……ふふっ!」

「ん、どしたのアルダン?」

「い、いえ、申し訳ございません……改めて思い出してみると、あの時のトレーナーさんのお顔が壮絶過ぎて。それがなんだか、可笑しくって……ふふふっ……!」

「…………!」

「ごめんなさい……!本当にトレーナーさんにとっては、笑い事ではないというのに……ふふふふっ……!」

「……ううん、それ『が』いいな、僕は」

 

大人びた表情から一転、少し後ろめたそうに、それでも止まらない笑みを浮かべる彼女に、こちらも全力で笑顔を向ける。そうだ、間違いない、やっぱり君も僕も、こうでなくちゃ。

 

「ありがとねアルダン?君が沢山アイデアを振り絞ってくれたお陰で……今日はとびきり、楽しかった!」

「……ふふっ?あらあら、あんなに酷い目にあったのに、ですか?」

「もちろん後悔もあるよ?結局一回もレシーブ出来なかったし、ラーメンも美味しく食べられなかった。でもそんなことは、また明日も明後日も挑戦できるでしょ?」

「ええ、もちろん♪」

「だから、運悪く今日楽しめなかったことは、また明日からの楽しみに取っといて……運良く今日楽しめたことだけ覚えとく!って、そうすれば今日は、ものすごく幸福な一日ってことにできる、でしょ?」

「っ、ふふふっ!幸福だったか不幸だったか……ではなく、幸福だった『ということにできる』ですか?本当に貴方は、私の想定を遥かに超えてきますね♪」

「いやいや、それだって君ほどではないよ?」

 

確かに、他人からみれば今日の僕は本当に、散々ばらばらもいいところなんだろうけど。でもそうだ、それを『幸運』とするか『不幸』とするかを決める権利は、僕にしかない。神社から滑り落ちたのも、マシンに反乱を起こされたのも……それに、彼女と出逢えたことだって、そうだろう。

 

「全部君が教えてくれたんだよ、ちょっとばかり不運に見舞われて塞ぎこもうとしてた僕を、諦めずに外に連れ出そうとしてくれて、本当にありがとう、アルダン」

「それは、どういたしまして♪さて、では明日は今日のリベンジといきましょうか?激辛ラーメンにマシンガンレシーブ……あら、そういえば明日は都留岐さん、学園にいらっしゃるのでしょうか?」

「どうだろう?ま、どっちにしても明日は晴れみたいだから、滑って転ぶことはなさそうだね?」

「ええ、そうですね?とりあえず今はそれで充分。明日のことは、明日考えましょう♪」

 

雲ひとつ被らず、西の空に輝く夕陽を見つめながら、神でも仏でもなく、僕は僕自身に願いをかける。

今日も充分良い一日だったけど……明日はもっと、いい日にできますように。

 

 

──────────────

 

 

ガラララッ!

 

「おはようございますトレーナーさんっ……!今日の占い、ご覧になりましたか!?」

「おお、おはようアルダン……今日は見るの忘れちゃったけど、どうだったの?」

「なんと、一位だったんです、『ふたご座』も『B型』も!」

「おおー!?ほんと!?すごいすごい!」

「ふふふっ、これはもう間違いなく、今日は良い日にできますよね?」

「ま、そうだね?まあまあ、例え占いがどうなろうと、君と一緒なら……僕にとっては、良い日なんだけ」

 

ゴツッ……

 

「ひぎっ……」

 

「……えっ?またあのような、狭い隙間から?」

「っ、てて……!全く、なんだなんだ、また野球ボールか?」

「随分逞しくなりましたねトレーナーさん……と、あら?ボールではないみたいですね?これは……」

「こ、これは……?」

「……まあ!?これ、『金の延べ棒』です!それもこのサイズ、一千万マニーはくだらないですよ!」

「運勢、極端過ぎない?」

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