メジロアルダン短編集『to the MEJIRO ARDAN』 作:いずさわ
『遭難』なのだった。
「誰かァァァァァァッ!!!助けてェェェェェェェェェェェェェェェェッ!!!」
青い海、白い雲、アッツアツの砂浜。真夏をうんと先取りしたかのような情景に虚しく溶けゆくのは、僕の必死の叫びのみ、なのであった。
「誰かッ……ゲホッ!べホッ!オエッ……くそぉ……もう水もこれっぽっちか……」
残り指先程の量にまで目減りしたペットボトルの水を手に、その場に倒れ込む僕。汗か涙かも判別できない一雫がぽたりと僕の頬を伝って地面にこぼれ落ち、そして、音もなく蒸発していく。なんだかその様が近い未来の自分自身のメタファーのように思えて、慌てて僕は、一握の砂で顔を拭った。
「どうして、こんなことに……くそっ、あんな物さえ、あんな物さえ、無ければ、僕は……!」
──────────────
数時間前───
「これが無人島かぁ〜」
青い海、白い雲、アッツアツの砂浜。真夏をうんと先取りしたかのような情景に、思わず僕は、感嘆の声を上げていた。
「テーマパークに来たみたいだぁ、テンション上がるなぁ〜」
面白そうな企画がある、と我が担当ウマ娘メジロアルダンに教えられ、煽てられ乗せられ、それならばと彼女と共にやってきたのは、なんと無人島。
なんでもこの島丸ごと全てをトレーニング施設にしてしまおう、などというとんでもない案がいつの間にやら企画されており、そのテスター兼アドバイザーとなるウマ娘を学園にて募っていた……とのことだそうだ。正直アルダンから初めて聞かされた時は、なんだか黒っぽいバイトか何かの類いだとしか思えず必死に彼女を引き止めたものだが、まあ、そんな心配も杞憂に終わってくれたらしい。
「アルダンは……クラスの友達と一緒に行っちゃったか。まあ、せっかくの無人島だし、一人で探検ってのも悪くない、よね?」
というわけで始まった無人島の見学会。何はともあれまずはこの島の魅力を知ってもらおう。という趣旨で本日は丸一日自由時間とのことらしく、海水浴にハイキング、集った生徒やトレーナー達は我先にとこの大自然の中へと駆け出していく。そうして一人取り残された僕も、なんだかんだで単身気ままに島を探索することとなったのであった。
Tシャツにジーンズに、水分補給用のペットボトル一本。と、およそ大自然を舐めきった格好で来てしまったが……聞いたところによると、僕らの前にきっちりと専門家チームが島を訪れ、危険そうな物は既に徹底的に取り除いてくれているそうで、『余程の事がない限り』この程度の軽装でも問題はないらしい。企画者さん、ワイルドそうな見た目だったけど、あれでいて結構堅実で慎重派なところあるのかもしれないな。まあ、生徒も沢山いるんだし、流石に安全性は第一に考えてるはず。ほんと、『余程の事がない限り』は間違いなく大丈夫だろう。そう、『余程の事がない限り』は。
「しかし、あっついなあ……ちょっと休憩……」
何となくふらふらと歩き疲れたどり着いた、いい感じに海の見える木陰に座り込む僕。知らぬ間に随分奥まった場所まで来てしまったらしい、常にあちこちから聞こえていた皆のはしゃぎ倒した声もいつの間にやらさっぱり消えてなくなり、さざ波の音だけが、僕の鼓膜を揺らしていた。
日差しは強いが空気はからりと乾いていて、日陰でしばらく潮風を浴びていると、大量にかいていた汗もいつの間にやら呆気なく乾ききってしまう。そんな爽やかさ溢れる情景に僕は一人、つい何の気なしに考えを巡らせて……
「しかし、ここの砂……ものすごくサラサラしてて脚の負担がかなり少なそうだなぁ。日陰は丁度いい涼しさだし……ああ、海も透き通ってるし、ここなら水中トレーニングもより安全に……って、はぁ……」
なんとも情緒のない思考に、我ながら嫌気が差してくる。そうじゃない、多分今日の僕が考えるべきことは、そういうことじゃないはずだ。この見学会で求められているのはきっと、なんというかもっと自由で、何事にも囚われてなくて、軽やかで、素直で、楽しげな……
「……アルダンは思いっきり、楽しめてるかな。暑いし、ちゃんと水分補給できてるかな。帽子は、確かちゃんと被ってたはずだけど……」
ふと、見上げた青空は、まるで彼女のどこまでも長く輝く髪のようで、そこに浮かぶ雲は、彼女の白く透き通る肌のよう。ゆらゆらと広大に輝く海辺は彼女のアメジストのように瞬く瞳を彷彿とさせ、そして僕を鮮烈な日差しから守ってくれるように伸びた木々は、細く美しく、けれども頼りがいのある彼女の手のひらと重なって見える。
「……寂しい、なぁ」
光源が遠ざかれば遠ざかるほど影がくっきり映し出されるように、彼女自身がいなくとも、いや、いないからこそはっきりと感じた、僕の中の、彼女の輪郭。
「……ええい!こんな事じゃダメだダメだ!よーし!一人でも楽しむぞ!ビバ!無人島!」
手のひらいっぱいに握りしめた砂で顔を拭い、無理やりその身を立ち上がらせる。僕だって大の大人だ。たとえ彼女がいなくても、立派に自由を満喫してみせられる、はずなのだ。
「さーてさて、せっかくだし学生たちと一緒の時じゃ体験できない、大人の休日ってものを謳歌してみようかな?となると、なんだろう……その辺にハンモックでも取り付けて、その上でワインでも煽っちゃったりして……ん?」
脳内スイッチを切り替えて、あれこれと『大人の休日』について思案していると、あれは……なんだ?
「おお……これは……また……」
木陰から飛び出して、不用意に、砂浜に突き刺さったそれに向かって歩みを進める。それは砂浜の上ひたすら真っ直ぐに突き刺さった、僕の腰上程の長さの、『木の枝』……であった。
「よい、しょっ……!おお、またなんという、丁度いい重み……」
思わず神妙な面持ちで、どこぞの選ばれし者よろしく両手を添えて僕はその枝を引っこ抜く。直射日光と砂浜からの照り返しでよく干され、つるりと乾いた心地よい手触りに、それでいてしっかりと中身も詰まった程よい重量感。自然の産物なのか、専門家チームの残した遺物なのかは分からないが、少なくとも僕の人生で手にしてきた中では間違いなく、ダントツで一番『丁度いい棒』だった。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
……いやいや、いやいやいや。
不意に自らの脳内溢れ出した無限のビジョンを、慌ててかき消す。こんな棒切れが一体『大人の休日』のどこに役に立つというのか。せいぜい背中が痒くなった時の、孫の手がわりくらいにしか使えやしないだろう。
などと、何故だか自分で自分を説得し、やれやれとわざとらしく肩を揺らしながら、僕は再びその棒を地面に突き立ててその場から立ち去っ……
「……うーーーーん」
……立ち去っ……て、立ち去っ……
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「うぉぉぉぉぉぉっ!エクスカリバーーーッ!……違うな、もうちょっと手首のスナップを効かせて……よし!いくぞ!えいやぁああああっ!エクスカリバァァァァァァァァァァァァ……あっ」
すぽーん……
バシャーーン!
「あ、あーあ……もったいない……」
今日一番、有り余る力を込めて振るった『いい感じの棒』が、今、僕の手のひらをすり抜けて遥か海の向こうまで飛んでいく。ド派手に着水するその様を、僕はただ、遠くから眺めることしか出来なかったのだった。
「……大人の、休日?」
まるで冷水をかけられたかのように、じわじわと温度を下げていく僕の脳と心臓。果たして、僕は今の今までどうしてこんな無駄な時間を過ごしていたのだろう。間違いなくこんなこと、学生たちの前じゃできないのは確か、ではあるのだけれども。
「はぁ……えっと?何時間ぐらいこんなことしてたんだっけ?一……いや、二時間は経ってるか?ええと、携帯……は、無くすと怖いから、預けてきたんだった……」
まるで魂が抜けたかのように、僕は大口を開けながら空を見上げた。明らかに先程より西側に傾いた太陽、そういや帰りの便って、何時なんだっけ?
「……ま、どうせ今からじゃ対したことできないだろうし、大人しく港に戻り始めるとしようか……」
ブォォォォォ……
ブォォォォォ……
「ん?なんの音だ?なんか、めちゃくちゃ聞き覚えがあるようなないような……うわー!なんだっけ!思い出せない!」
とぼとぼと、肩を落としながら帰路に着き始めた僕の耳に、不意に差し込んできた重低音。これとそっくりそのまま同じ音、本当につい最近聞いたばっかりな気がするんだよなあ……
顎に手を置き、数秒ほど脳内を検索するも答えは出ず。ぼちぼち観念して、僕はその音の鳴る方、目の前に広がる大海原の端っこに目線を動かす、と……
「ああ!汽笛だ!朝乗ってきた船の汽笛!なるほどなぁ、どおりで聞き覚えがあるはずだ……」
そこに浮かんでいたのは、中型の蒸気船一隻。他でもない、今日の朝に僕らトレーナー陣とウマ娘達が乗ってきた、少し使い古された、なんとも味のある船であった。
なんだろう、もう既に今朝のことが懐かしいなあ……この汽笛の音がとびきり大きくって、アルダンも僕もびっくりしてたっけ。ははは、今頃アルダンも、あの船の上でまたびっくりしてたりして……
「えっ?」
えっ?
「えっ?」
えっ?これ、まずくない?帰りの便、もう出港してるんだけど???
「……ええぇぇぇぇえっ!?帰りの便、もう出港してるんだけどぉぉぉぉ!?!?」
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『遭難』なのだった。
「誰かァァァァァァッ!!!助けてェェェェェェェェェェェェェェェェッ!!!」
青い海、白い雲、アッツアツの砂浜。真夏をうんと先取りしたかのような情景に虚しく溶けゆくのは、僕の必死の叫びのみ、なのであった。
「誰か……はぁ……はぁ……もう……む〜りぃ〜……」
大声を出し、手を振って、跳んで跳ねて……必死のアピールも虚しく、呆気なく水平線の彼方に消えていった蒸気船。燃えるように熱が籠った身体とは裏腹に、手足の先が凍える程冷たくなっていって、再び僕は、砂浜に五体を投げ出した。
「二回目の見学会って、いつって言ってたっけ。一週間後、いや一ヶ月後とか言ってた気がするなぁ……一ヶ月、無人島で一人。絶対無理だ……終わった……」
空になったペットボトルが、力なく手のひらからこぼれ落ち、カラカラと虚しい音を立てて転がっていく。なんだかその様が近い未来の自分自身のメタファーのように思えて、けれども最早、一握の砂を握る握力すら、僕の身体には残っていなかったのであった。
「……せめて、アルダンはちゃんと帰れてるよね……彼女が無事なら、もう、それでいいか」
ふと、見上げた青空は、まるで彼女のどこまでも長く輝く髪のようで、そこに浮かぶ雲は、彼女の白く透き通る肌のよう。ゆらゆらと広大に輝く海辺は彼女のアメジストのように瞬く瞳を彷彿とさせ、そして僕を鮮烈な日差しから守ってくれるように伸びた木々は、細く美しく、けれども頼りがいのある彼女の手のひらと重なって見える。
「……寂しい、なぁ」
終わり、か。彼女と僕との歩みも、これで。
思えば、本当に役たたずのトレーナーであった。ひとりでに、どんどん強く立派に美しくなっていく彼女を、結局僕はただひたすら、仰ぎ見ることしか出来やしなかった。僕という奴は、彼女がいなければ満足に休息を取ることすらままならない、彼女に依存しきった人間なのだ。きっと本当に取るに足らない、彼女の人生になんの必要も無い、その辺に落ちたただの棒きれのような存在。それが僕の、全てである。
「きっとアルダンはこれから、どんどん自分自身の力で幸せを手にしていくんだろうな。G1をいくつも、何度でも勝利して、それでいて卒業した後は……なんになるんだろう?」
そうだなあ、彼女は絵が上手いし、画家にでもなってるかもしれないな。自分が思ったように、自由に絵筆を躍らせる彼女の姿……
いや、彼女のことだから、もしかしたら看護師さんとかになってるかも……それをいうと保育士さんとか、学校の先生とかも向いてそうだよなあ……
そんでもって、そのうち結婚して、結婚式では綺麗なウエディングドレスを着て皆の前に現れるんだろう。まずは純白のドレスで、お色直しでカラフルなカラードレスを……何色が似合うんだろうな、やっぱり青や水色……いや、赤や黄色もいいかもなぁ。
そうして、その後もずっと彼女は幸せに包まれて生きていくんだ。もしかしたら子供もできるかもしれない、家族で色んな場所に旅行に行ったり、子供達の成長に笑ったり、涙したり……そうやってどんどん、歳を重ねるにつれていつまでもいつまでも美しくなっていく彼女の姿、それは本当に、本当に。
……いや、見た過ぎるだろ、絶対見たいし、そんなん。
「…………ぅぅうううおおおおおおおっ!!!こんなとこで死んでられるかぁああああっ!!このやろぉぉぉぉぉああああっ!!!」
僕は無理やり、無理やり、喉が引きちぎれんばかりの大声を吐き出しながら!その場に跳ね起きる!うぉぉぉ!何を弱気になってんだ!何が依存だ取るに足らないだぁ!生きてなきゃ自立も成長も!出来やしない、だろうがぁぁぁ!
「うおおお!生きる!死んでも生きてやるぞぉ!僕はぁ!」
ばしんばしんと両頬を叩きつけ、僕は果てしなく広がる大空をもう一度仰ぎ見て、拳を強く強く握りしめた。こんな所で野垂れ死ぬことこそ、まさしく僕が彼女に依存している証。僕は僕の、そして彼女の威信を賭けて、なんとしてでも生き延びなければならないのだ。
「……!そうか、空!海は絶望的でも、通りがかった飛行機だのヘリだのに見つけて貰えるかも!こう、砂浜にメッセージをどデカく書いておいて……って、流石に素手で書くのは無理があるなぁ……何か、こう、『いい感じの棒』でもあれば……あっ!?」
何か役立ちそうな物はないのか?縋るように、今度は地面をひたすら見回す僕の視界の端っこ、波打ち際に打ち上げられたそれに向かって、僕は歩みを進める。
「……え、エクスカリバー!また僕に、力を貸してくれるのか!?」
そこに転がっていたのは、先程海の向こうへと消えていった、例の木の棒。海流に乗って、この海岸にたまたま舞い戻って……
……いや、違うな、これは『運命』だ。覚悟を決めた僕を導くべく、エクスカリバーは僕の手元に帰ってきてくれたのだ。
「ありがとう、本当に……もう二度と手放さないよ。一緒に戦おう……エクスカリバァァァァァァァァァッ!」
大きく、力強く頷きながら、僕はその光り輝く剣に手を伸ばす。ずしりと身の詰まったその重量感に、思わずよろめく僕の瀕死の身体。けれども、それでも、確かにその重みが、今の僕の手にはよく馴染んでいた、まるで向こうから、僕の事を選んでくれたかのように。
「さて、それじゃあ砂浜に何を書くか……は、もうあれしかないだろう。早速いくぞ、エクスカリバー!まず一文字目!『S』!」
声高らかに宣言した後、僕は足下にその刃を突き立て、そうして全速力で駆け回り、砂浜に曲線を描いていく……!
「っ、はあっ……はあっ……まだまだぁ……!二文字目!『O』!」
できるだけ、強く、強く、最早気力だけで僕は剣を振るう。ただ一つ、彼女のその笑顔だけを、真っ直ぐ脳裏に浮かべながら。
「はぁ……はぁ……アルダン……僕は絶対に、君の元へと帰ってみせる……!これで最後だあっ!三文字目ぇ!『S』……」
「ふふふ、良かった。随分満喫されているようで、何よりです♪」
「えっ?」
えっ?
「えっ?」
「…………?」
──────────────
「……ああ、ありましたありました。見てくださいこの写真。この木の枝、まるで魔法少女のステッキみたいで可愛いと、皆ではしゃいでいたんですよ?」
「……………………」
「ほら、私もこう、えーい♪と振ってみたりして。まあ、その後はすぐに自然に返しましたけど……」
「……………………」
「ですので、皆様やっていることなので、ですね?その、トレーナーさんも恥ずかしがらなくっても良いんですよ?ほら、私にも見せていただけませんか?先程の、えーっと……ああ!エクスカリ」
「いいよ!そんなフォローして貰わなくて大丈夫だから!ごめんね!ありがとう!!!」
張り裂ける程の奇声を上げながら棒切れを振り回していた僕を、いつの間にやら木陰の隅で見守っていたのは、他でもない、よりにもよって我が担当ウマ娘、メジロアルダンであった。うん、死んでた方がマシだったな、これ。
「あ、あとね?これはなんて事ない素朴な疑問なんだけど……さっき向こうの沖の方、僕らが乗ってきた船が通ってった気が、するんだよ、ね?も、もしかして置いて行かれちゃったーだなんて、そんなこと……」
「ふふふ、ご冗談が過ぎますよ?あの船は一度建築資材を積みに行って、夕方には帰ってくるそうです♪」
「あ、も、もちろんそうだよね?いやほんと、一瞬、一瞬だけ置いていかれたのかなー、なんて思っちゃったりして……」
「ふふふっ!それでは、私達みんな遭難してしまいますね?」
というわけで、二人並んで木陰に腰かけ、本件の答え合わせをする僕ら。純粋無垢にこちらに笑いかける彼女の瞳に、さらに傾き、オレンジに染まりかけた陽の光が反射して、おどおどと僕は目を逸らす。
「そんなことより貴方のことですよ。私達の方についてきていなかったので、少し心配していたのです。トレーナーさん、きちんと一人で楽しめているのでしょうか……と」
「それはまあ……僕だって流石に、学生だけで楽しんでるところ邪魔をするほど野暮じゃないからね?」
「それで、少しばかり貴方を探し回っていたのですが……まあ、それも杞憂に終わったようで何よりです♪男の子というのは、あのようにはしゃぎ遊びまわるものなのですね?私自身は二人姉妹の家庭で育ったものですから、凄く新鮮に思えて……ついついじっくり、観察してしまいました♪」
「は、ははは……そっか……」
男の子ではなく成人男性だし、はしゃぎ遊び回っていた訳でなく、遭難していたわけだが……まあ、細かい事はこの際いいだろう。
「……少し、羨ましいですね?」
「えっ?なにが?」
「貴方のことですよ?先程のトレーナーさんの鬼気迫る本気の表情……ただの遊びであそこまで感情を剥き出しにだなんて、私にはとても出来ないことです。これぞまさしく、無人島の遊び!といったところですね♪」
「いやあれ、本当に命の危機で……」
「思えば『童心に帰る』というのは、大人にしか出来ない行為ですものね?私達のような不安定な子供があのようなことをすれば、そのまま帰って来られなくなりますから。これこそ自立した大人にしか許されない、まさしく『大人の休日』というものでしょうか?」
「……ははは、まあ、ものは言いようかぁ」
彼女に貰ったペットボトルの蓋を勢いよく開けて、口の端から溢れ出るのも厭わずに、一気にそれを飲み干す僕。まあ、なんだかんだあったとはいえ、いつもの憂鬱な日常とは比べ物にならないほど胸が高鳴ったのは、確かなことだ、遭難はもう二度と勘弁だけど、そうだな、こんな『休日』なら、たまにはいいもんだ。砂浜に突き刺さった光り輝く剣を見つめながら、僕は性懲りも無く、そんな妄想に更け込むのであった。
「もしも将来、私に男の子の子供が出来たら、あのように毎日遊びまわるようになるのでしょうかね?」
「ははは……まあ、男の子ってそんなもんだしねえ……」
「その時は……お相手はお任せいたします♪必殺技でもなんでも、伝授してあげてください、ね?トレーナーさん?」
「三、四十代になっても、エクスカリバー振れるかなぁ……まあ、頑張るけどさぁ……」
「ふふふ、さて、もう立てますか?面白いものを見せてくれたお礼に、私達が作った『避暑地』にご招待させて頂きたいのですが……」
「避暑……地?」
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「うわ……森の中ってこんなに涼しいのか……あれ?あの辺にいっぱい架かってるのって、まさか……」
「ええ、もちろん……『ハンモック』です♪」
「う、うわーっ!本物のハンモック!?」
彼女に手を引かれてやってきた島の中央部分の森の中……優しい木陰と、川のせせらぎが待つ、まるで童話の世界のような……
「メジロのお屋敷の倉庫にあったものを、ライアンが沢山持ち込んでいたのです。というわけで、お疲れでしょう?早速どうぞ、トレーナーさん♪」
「い、いいの……?じゃあ失礼して……っ、うおお……やばい、気持ち、良すぎるぅ……!」
「ふふふ♪そのままドリンクもいかがですか?お酒……は流石にありませんが、新鮮でよく冷えた、ぶどうジュースです♪」
「おっ?どれどれいただきまー……うっ!?お、美味しいー!めちゃくちゃいいジュースだ……美味……」
「ふふふっ?砂浜は暑かったでしょう?今日は特別に、私が扇いで差し上げましょう……♪」
「あ、あ〜……これは……やばい……これって……ほんと……どう考えても……」
「どう考えても!こっちの方が『大人の休日』だね!!!」