メジロアルダン短編集『to the MEJIRO ARDAN』   作:いずさわ

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セク×カラ×シソンズール

『ももたろう』

 

むかぁーし、むかぁーし……

 

あるところに、おじいさんと、おばあさんが、すんでいました……

 

おじいさんは、やまへ、しばかりに……

 

おばあさんは、かわへ、せんたくに、いきました……

 

おばあさんが、かわで、せんた─をしていると……かわ─みから、おお──ももが──

 

どぉん……ぶらこぉ……

 

どぉん……ぶら─────

 

 

──────────────

 

 

「──さん、──ナーさん、トレーナー、さん?」

「……んあっ!?」

 

暖かな陽気射し込むトレーナー室。机に突っ伏してうたた寝をしていた僕を揺り起こしたのは、我が担当ウマ娘、メジロアルダンであった。

 

「あ、あれ、僕、寝てた?いつの間に?」

「ええ、それはもう、ぐっすりと……はぁ……」

「ん?どうしたのアルダン、そんな浮かない顔して?」

「覚えて、らっしゃらないのですか?こちらですよ、こちら」

「……絵本?」

 

思わずといった様相で大きなため息をつくアルダン。その手に握られていた、淡い色合いの大きな本。他でもない、『ももたろう』の絵本……絵本?

 

「あっ!そうか、『読み聞かせの練習』!」

「そうです、課外活動の……」

 

そうだった、忘れていた、課外活動だ。

アルダンのクラスで、今週末に行われる課外活動。近隣の幼稚園を訪問して、園児達との交流イベントを企画しているのだ。と、彼女から聞かされたのはつい先程のこと。

工作に運動、お歌のレッスンなどなど。各々役割分担をして園児達と交流するとの事で、そんな中アルダンが任された役回りが、『絵本の読み聞かせ』だったらしい。

 

「そうだそうだ、練習相手になってたんだよね、僕。練習相手になって、それで、アルダンの読み聞かせを聞いてて、それで……あれ?」

 

……あれ、そこからどうなったんだっけ?

確かに、彼女がテーブルに絵本を立てかけて、ページをめくり始めたところまでははっきりと思い出せた。思い出せた……が。

そこから先の記憶が、ごっそりと抜け落ちていた。なんとなくふわふわと甘く優しい夢を見ていたような覚えはあるのだが、何故だか犬や猿はおろか、主人公たる桃太郎の顔すら拝めていない気がする。これは、一体、どういうことだ?

 

「ううむ、トレーナーさんでも駄目でしたか……」

「え?僕、でも?」

 

顎に手を置き、なんともバツの悪そうな表情を浮かべるアルダン。その含みを持たせたかのような口振りが耳に引っかかって、オウム返しのように聞き返す、僕。

 

「……眠ってしまうのです」

「えっ?」

「何故かは分かりませんが、どうやら私の読み聞かせを聴いた方は皆一様に、一分と持たずに眠りに落ちてしまうようなのです……」

「い、いやいやそんな、催眠術じゃないんだから?」

「トレーナーさんに聞かせる前、教室の隅でひっそりと練習をしていたのですが……目の前で聞いていたチヨノオーさんとヤエノさんもやはり、ものの数十秒で熟睡してしまい……」

「お、おお……」

「それだけではなく、周りにいらっしゃったクラスメイトの皆様も次第に一人、また一人と意識を失って……気付けば教室で目を覚ましていたのは、私一人だけ。だったのです……」

「パンデミックか何か?」

 

確かに、まあ、彼女の発する声は何者とも比べ難い程の美しさだ。じっくりと耳を澄まして聴けば、まるで優しげな子守唄のように感じてしまうのも、分からなくはないが。

 

「……とはいえねぇ、いくらなんでもクラス全員って、流石にちょっと話盛りすぎじゃない?」

「トレーナーさんだって、先程まで眠っていたくせに……」

「あ、あれは、ちょっと寝不足だっただけだから、ね?」

 

珍しく粗めの口調で、じとりとこちらを睨みつけるアルダン。威圧しているつもりなのだろうが、その様がなんだか不慣れ丸出しでむしろ愛らし……じゃなくて。

 

「じゃ、じゃあもう一回やろう?今度こそ絶対眠ったりしないから、ね?」

「……言いましたね?」

「う、うんうん、もちろん。任せて?」

「では、僭越ながら今一度……」

 

──────────────

 

『ももたろう』

 

むかぁーし、むかぁーし……

 

あるところに、おじいさんと、おばあさんが、すんでい─した……

 

おじいさんは、──へ、しばか─に……

 

おば───かわへ、せん───いきました……

 

おばあ──────せんた─をして──と……かわ───ら、────ももが──

 

どぉん……ぶら─────

 

──────────────

 

「──さん、──ナーさん、トレーナー、さん」

「……んあっ!?」

 

暖かな陽気射し込むトレーナー室。机に突っ伏してうたた寝をしていた僕を揺り起こしたのは、我が担当ウマ娘、メジロアルダンであった。

 

「あ、あれ、僕、寝てた?いつの間に?」

「………………はぁ……」

「ん?どうしたのアルダン、そんな浮かない顔して?」

「……もう一度、説明しないといけませんか?」

「ひっ……!」

 

こちらをギロリと見つめてくる、彼女の鋭い瞳。あ、やばい、今度こそちょっと怖いかも……今度こそ?

 

「…………ああーーーっ!?」

「寝ていましたね、またしても。それもさっきより寝付きよく」

「あ、あー……まだちょっと、寝不足気味?だった、かも?」

「それならもう!お家に帰って寝てください!」

 

 

──────────────

 

 

「なにが、いけないんでしょうか……」

「なにが、いけないんだろうねぇ……」

 

深々とソファーに腰掛けながら、並んで天井を仰ぎみる僕ら二人……二度も熟睡し無駄に冴え渡る頭をうんうん回しても、解決の糸口はまるで掴めないままなのであった。

 

「確かにアルダンの声は聞いてて落ち着くけど、流石に眠らされる程ではないしなぁ。まあ、いつもこうだったらそもそも生活に支障が出るんだろうけど……」

「読み聞かせ、なのがいけないのでしょうかね?子供達に向けて、いつもよりゆったりと話しているのが……」

「多分そうなんだろうけど、もう少し分析が必要かな……うーん?」

 

先程の彼女の読み聞かせの様子を、おぼろげな記憶からなんとか引きずりだす僕。何か、何か手がかりになりそうな事はなないものか……

 

「……ん?」

「トレーナーさん?」

 

あれ、そういえばだけど。僕の記憶が途切れたのって、二回とも……

 

「……ねぇ、アルダン?もう一回、今度はおばあさんが川で洗濯してるシーンから読んでみてくれない?」

「おばあさんが?え、ええ、承知しました」

 

──────────────

 

おばあさんが、かわで、せんたくをしていると……かわかみから、おおきなももが……

 

どぉん……ぶらこぉ……

 

どぉん……ぶら─────

 

──────────────

 

「───っ、う、うおぉ……!」

「と、トレーナーさん?」

「わ、かった……『どんぶらこ』だ……『どんぶらこ』の部分で、いつもトドメを刺されるん……だっ……」

「えっ?この『どぉん……ぶらこぉ……』のところで……」

「───────」

「って!トレーナーさん!せめて最後まで教えてください!」

「んなっ!?」

 

彼女の……ウマ娘のパワーで思い切り肩を揺らされ、無理やり覚醒させられる僕……い、いけないいけない……気を取り直して僕は、自らが気が付いたことを何とかぐらつく頭の中整理して、彼女に伝える。

 

「その、なんだろう、『どんぶらこ』の言い方がなんというか、心地よすぎて……心地よすぎて、よくないんだよ、こう……!」

「む、難しい日本語……!」

「『どん』と『ぶらこ』の間の、こう、湿っぽい息遣いが……こう、たまらないというか……癖になって、我慢、出来ないんだ……どうしても……!」

「言い方!なんか嫌です!トレーナーさん!」

 

なんか、説明すればするほどアルダンにドン引きされているような……いや、寝ちゃってるの僕だけじゃないし!僕だけ特別気持ち悪い訳じゃないし!

 

「……けれども、まあ、言わんとしていることは理解いたしました。『どぉん』……いえ、例の部分の語り方が一番の問題なのですね?」

「そ、そうそう、そういう事」

「そうですか……私としては、川上から流れ来る桃のダイナミックな動きを表現しているつもりだったのですが……」

「ちょっとダイナミック過ぎるかな……川どころか、大海原で揺られてるみたいだから……」

「桃太郎さん、遭難してしまいましたか……」

「表現力豊かなのはいいけど、まず川で拾ってもらわなきゃ始まらないからね?もう少し、スケール小さめにできない?」

「す、スケール小さめですね?承知しました、では……」

 

──────────────

 

おばあさんが、かわで、せんたくをしていると……かわかみから、おおきなももが……

 

 

どんぶら……こっ……

 

 

どんぶら……こっ……

 

──────────────

 

「………………」

「……待ってください。なんだか先程から、トレーナーさんの視線がいやらし」

「くないよ!?全然!そんなことないよ!?」

 

スケールを小さく。のオーダーに、何故だか唇まで小さくすぼめる彼女。ほ、本当にただ愛らしいなあと見蕩れていただけであって、そんな、そんな目でなんて誓って見てないぞ……!

 

「………………はぁ」

「やめて!そんな目で見ないで!本当に気のせいだから!」

「……『どんぶら……こっ……♡』」

「っ…………いや、今のはわざとでしょ!?」

 

悪ふざけとも何とも判別つかない彼女の言動に肝を冷やしながら、僕は額に浮かんだ汗を慌てて拭う。ええと、なんだ、何の話をしてたんだっけ……

 

「ううむ、ではこの読み方もよろしくありませんね……この部分を読む度、トレーナーさんの顔を思い出してしまいます……」

「この場面じゃなきゃ、嬉しい台詞なんだけどなぁ……」

「他に、なにか案はございませんでしょうか?」

「うーん、あ、じゃあもっと元気よく読んで見たら?」

「元気よく?」

「今までのはなんか、落ち着きすぎてるから良くなかったんだよ。元気にハキハキと読む方が、なんなら子供達からのウケもいいかもしれないしさ?」

「確かに一理ありますね?では早速……」

 

──────────────

 

おばあさんが、かわで、せんたくをしていると……かわかみから、おおきなももが……

 

 

どぉんぶらこぉーーーーーーっ!

 

「うん、違ったね、ごめんね」

 

どぉぉぉおん……ぶらこぉーーーーーーっ!

 

「もう大丈夫、大丈夫だからやめて。耳壊れちゃう」

 

──────────────

 

「えっ、ダメでしたか?元気いっぱいだったと思うのですが?」

「とんでもなく元気ではあったよ?元気だったけど、そんないきなり大声出すと子供達みんなひっくり返っちゃうから」

「ううむ、しかし突然話の雰囲気を変えることで、観客の注意を引きつけるテクニックがあると聞いた事がありまして……」

「それ怪談のテクニックじゃない?」

「あ、それと突然大きな音を出して驚かせて引き込むなど……」

「それB級ホラーのテクニックじゃない?」

 

キンキンと、反響音残る頭を抱えて項垂れた僕。あれ、読み聞かせってこんな高度なテクニック要する難行だったっけ?もっとシンプルな、単純なものだった気がするんだけど……

 

「……うん、そうだな、難しく考え過ぎてる」

「トレーナーさん?」

「多分ね、『読み聞かせ』って意識しすぎてるから上手くいかないんだよ。上手に聞かせてあげたいって君の優しさが、逆に枷になってるんだ」

「私の、優しさ……」

「でもね、君はきっとなんの意識もしなくても人に誠実にできる娘だから。何も意識せずに、いつも僕や友達と世間話をするぐらいの感覚で話せばいいんだよ、きっと……」

「……!ほ、本当ですか?トレーナーさん?」

「ああ、間違いないさ。自信もっていいよ、僕が保証するから、ね」

 

先程から燻っていた彼女の瞳に、僅かばかり光が蘇る。そうだ、間違いない、不慣れなことにもこうして文句一つ言わずに試行錯誤できるほど、彼女はとびきり誠実で真面目なウマ娘なのだから。いつも通り、気負わずにやればきっと上手くいくはずだ。

 

「じゃあ、それを踏まえてもう一回、最初からやってみようか!」

「はい、はい!承知しました!それでは、参ります……!」

 

──────────────

 

『ももたろう』

 

これは、とても昔の話なのですが。あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいましてね?

ある日、おじいさんは山へしば刈りに、おばあさんは川へ洗濯にと赴いたのです。

 

「お、おお!いいよいいよ、その調子!」

 

そして、おばあさんが川で洗濯をしていると。なんと、川上から大きな桃が……どんぶらこ、どんぶらこと流れてきたのです……!

 

「きた!どんぶらこも言えた!頑張って!今度こそいける!」

 

おばあさんは驚きながら、恐る恐るその桃を拾って……

 

「拾って!そしてそれを、帰ってきたおじいさんと、割……」

 

……………………

 

「割っ……アルダン?」

 

良いのでしょうか?

 

「え?なにが?」

 

──────────────

 

「川から流れてきた大きな桃を、拾い主がそのまま食す。というのは……いささか問題があるのでは?」

「……???」

「公道で拾った物は、拾っただけでは所有権は移りません。所有権が移るのは、警察に届け出て、三ヶ月以内に遺失者が現れなかった時のみ、です」

「えっ?もしかして桃のこと『遺失物』だと思ってる!?」

「『遺失物』ではなく『拾得物』ですね。おばあさんは拾った側なので」

「それはどっちでもいいよ!」

 

さんさんと輝く瞳のまま、なんともややこしげな事を呟き始めるアルダン。こちら側の頭の整理がつかないうちに、彼女は更に言葉を紡いでいく。

 

「ですので、どうでしょう。ここはおばあさんに一度桃を警察に引き渡して、三ヶ月後に受け取ってから……おじいさんと一緒に割る。といったシナリオにするべきではありませんでしょうか?」

「するべき、というか……ほら、桃太郎って昔からそういう話だし、別にわざわざ変えなくても……」

「いいえ、いいえ。私は『今』この時代に生きる皆様に誠実であらねばならないのです。確かに過去のものをそのまま保持していくのも大切なことですが、けれどもこれを読む私も、聞いてくれる子供たちも『今』を生きている。過去に囚われ、現代という時代を蔑ろにする事こそ、最も不誠実なことなのではないでしょうか?」

「う、うん……言わんとしてることは分かるけど……」

「もしも私の読み聞かせを読んだ子供たちが、道端で拾ったものを自らの懐に入れるような子になってしまえば……それは、私の責任です。それだけは、避けなければならない」

「あの……アルダン?アルダンさん……?」

 

あ、まずいなこれ。色々考え込ませ過ぎて、彼女の中の何かが暴走してしまっている……彼女のギラギラとした瞳の奥の虹彩を見つめながら、なんとかそれを止める手立てを思案する僕であったが……

 

「……それでは、それを踏まえてもう一度」

「ちょ、ちょっと待とうか?一旦落ち着いて……」

 

──────────────

 

そして、おばあさんが川で洗濯をしていると。なんと、川上から大きな桃が……どんぶらこ、どんぶらこと流れてきたのです……!

 

「ああ……始まっちゃった……」

 

おばあさんは驚きながら、恐る恐るその桃を拾って、その桃をすぐさま近隣の警察署に……警察署に…………

 

「……?こ、今度は何?」

 

──────────────

 

「『川』『大きな桃』『おばあさん』……」

「う、うん?」

「これは……危険です、トレーナーさん……!ご高齢の女性が一人で川に入って、そのような大きな物を運ぶなど……あまりに『水難事故』のリスクが高すぎます……!」

「いやまあ確かにそうだけど!?」

「ここは自ら取りに行かず、海上保安庁の緊急通報ダイヤルに電話をするシナリオにいたしましょうか……おや?しかし、改めてこの部分を読んでみると……あら、良く考えればこちらの部分も……」

「あ、えーと、アルダン、その」

「……これは、もはや私自身で新しい絵本を作りあげた方が早いかもしれませんね?トレーナーさんも、ご協力いただけますか?」

「…………」

「トレーナー、さん?」

「は、はい、仰せのままに……」

 

 

──────────────

 

 

数日後……

 

「と、言う訳で、色々と大変な事もありましたが……課外活動は無事大成功でした♪色々とお手伝いいただきありがとうございます、トレーナーさん♪」

「うん?いや……結局あれからほとんど手伝えてなかったけど……まあ、大丈夫だったのなら、良かったよ?」

「他人に、ひたすら誠実に……あの日のトレーナーさんのアドバイスが無ければなし得なかったことです、本当に、感謝していますよ?」

「いやあれそういう意味じゃ……まあ、結果オーライならいいか……」

「それでですね?私の『読み聞かせ』の映像をチヨノオーさんが撮っていてくれましたので、トレーナーさんにも少し自慢しようと思って♪」

「う、うん?お、おっけーおっけー……一応、机にクッション敷いといて……」

「ふふふ、心配されなくても大丈夫ですよ?今度こそ誰も眠らずに聞いてくださいましたから。という訳で、こちらをどうぞ♪」

 

──────────────

 

『……えー、それでは初めまして、私はメジロアルダンと申します♪今日はみんなに、こちらのお話を持ってきました。大切な大切なお話なので、眠ったりせず、きちんと聞いてくださいね?それでは、始めましょう♪』

 

 

 

『今』をげんきにすごすため……

メジロアルダンの

こうつうあんぜんきょうしつ〜♪

 

 

 

 

「桃太郎は!?!?!?!?!?」

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