メジロアルダン短編集『to the MEJIRO ARDAN』 作:いずさわ
「……はぁ……一体、どうすればよいのでしょう……」
「だ、大丈夫ですよアルダンさん!いざとなれば、この私がっ!」
「そうっス!アタシ達がついてますから、そう思い詰めることは無いっスよ!」
「……んっ?あれはアルダンに、ヤエノムテキ……それと、バンブーメモリー?」
時は昼下がり、を越えてもはやおやつ時。朝っぱらから散々ばらばらな目に遭った僕は、そういえばと思い立ち、空っぽな胃袋を抱えて閑散としたカフェテリアへと足を踏み入れる。
と、そこで真っ先に目に付いたのは、我が担当ウマ娘、メジロアルダン……それと、彼女の同期のウマ娘二人であった。せっかくのうら若き少女達の集い、ここは首を突っ込むのも野暮だろう……と、思いつつ。しかしその、なんとものっぴきならなそうな雰囲気がどうしても気になって、僕はそれとなく、彼女達の元へと歩を進めるのであった。
「三人ともどうしたの?そんな深刻そうな顔して?」
「……あら?トレーナーさん?」
「おや、これはアルダンさんのトレーナー殿、ご無沙汰しております」
「おー!これはこれは、お久しぶりっス!」
「う、うんうん、久しぶり久しぶり……」
おっかなびっくり、三人に声をかける僕……の、十倍の声量で爽やかな挨拶を返してくる彼女達、というか主にバンブーメモリー。キンキンと反響を起こす自らの耳を整えていると、先に口を開いたのは、アルダンの方だった。
「ご無事だったのですね?今日は朝から連絡が付かなかったので、心配しておりました……」
「あはは……ごめんね?実は、これ……」
「あら?その携帯、なんだかいつもと違いますね?」
「実は、朝一に今までの携帯、水に落としちゃってさ?もう動かなくなっちゃったから、午前中いっぱいかけて新しいのを契約してきたんだ」
「まあ?それはそれは、災難でしたね?」
「データはなんとか無事だったからよかったけど……はぁ、もうちょい使えそうだったのになぁ……」
なんとも心配そうに、眉を下げながらこちらに顔を向けてくる彼女に向けて、ポケットから今までの機種よりふた周りほど大きな携帯を取り出し見せる僕。本当に、単なる自分の不注意で恥ずかしい限りなのだけど……いやはや、随分心配してくれてたんだな。申し訳ない気持ちと一緒に、ほんのちょっとだけ、その事が嬉しかったり。
「それで朝から連絡が……よかった、安心しました……それにしてもその携帯、先日発売されたばかりの最新機種ではないですか?ふふ、羨ましい限りです♪」
「え?ああ、まあ……せっかくだし、ね?」
彼女の言う通り、僕の持つこの携帯は、なんとも誉高いピッカピカの最新機種。なんか、すごい精度のAI検索機能とか、精密ボイスチェンジャーとか、あと生物の焦燥感を煽る事に特化した新型目覚ましアラーム音とか、どんな夜闇でも照らし出す超高光度ライトとか。そんなのいつ使……と、とても素晴らしい最新技術がふんだんに詰め込まれた、スーパーマシンなのである。
……まさか、流され煽てられ、釣られるがままフラフラと選ばされてしまった。だなんてとても言えず、僕はゆらゆらと、虚空に向けて目線を泳がす。
「あれ?でも携帯では連絡取れなかったけど、代わりに……」
「アルダン先輩の!トレーナーさんッ!」
「んぅおっ!?な、何?何かな?」
「携帯電話の件は、なんとも同情しますが……実はその間に、アルダンさんもまた厄介な『事件』に遭遇していまして、ですね」
「や、厄介な事件?」
突然、会話に割り込んできたバンブーメモリーの大声に脳を揺さぶられていると……見かねたようにヤエノムテキが落ち着き払って、けれども、確かに心の内に激情を抱えたような硬い口調で語りかけてきた。厄介な事件……僕のいないうちに、アルダンに一体何が……
「『ラブレター』っスよぉ!!!!!!」
「うっ……あ、ああうん、ラブレター、ラブレターね……えっ!?『ラブレター』!?!?」
より一層響き渡る、まるでジェットのエンジン音の如きバンブーメモリーの声に一瞬押し流された僕の思考……だったが、え?ラブレター、と言ったか?今?
「今朝のことですが、私達三人が共に登校し、校舎に着いたところ……なんとアルダンさんの下駄箱に、ラブレターが入っていたのです」
「えっ……?え、らららら、らぶ、らぶっ?なんっ、えっ?ラブレッ……えっ?」
「トレーナーさん!しっかりするっス!アンタがそんなに震えてどうするんスか!」
まるで携帯のマナーモードの如く、全身の震えと冷や汗が止まらない僕。いやまあ、僕がショックを受ける理由なんて、そもそもまったくないのだけれども……
そ、そりゃあアルダンはね、誰にだって分け隔てなく屈託のない笑顔を届けられる心根の美しさを持ってるし、彼女と会話をした人なんて皆、一分と持たずに彼女の事を好きになるんだろうし、そもそも贔屓目を除いたとしても、彼女は間違いなく絶世の美女で、街を歩けば百人中二百人は振り返り見蕩れるようなグッドルッキングウマ娘である事は間違いないし、そんな、ら、ラブレターの一つや二つぐらい、ね?全然、貰っても?おかしくは無いし?
なんて、謎の説得によって自分で自分を落ち着かせていると、心做しかやや白い目を浮かべたヤエノムテキが、一呼吸を置いてから、続けて語り始めた。
「……もちろんそれ自体はまあ、ままあることですが……しかし問題なのが、件のラブレターには、送り主の名前が記載されていなかったのです」
「えっ?名前が?」
「そうなんス、そうなんスよ!アルダン先輩自身も、送り主に心当たりが全く無いらしくて!ね!アルダン先輩!」
「………………え、ええ、そう、ですね?ま、全く、検討もつきません、ね?」
「くぅーっ!色恋沙汰自体、風紀的には褒められたものじゃないっスけど……個人的にはそこが一番許せないっス!」
「ええ、全くです……!自らの名を晒さず想いだけを押し付けようなど……軟弱者にも、程がある!」
「それは……ああ、そうだ、間違いない……!」
派手に目を泳がせ、眉を顰め、なんとも当惑した様子で口を開くアルダン。その様子を見て、なんだか僕の胸にも熱い炎が宿ってくるのを感じた。アルダンの事が大大大好きな気持ちは痛い程分かるが、彼女自身を困らせるようなイタズラ紛いの方法を取るなど、まさしく言語道断というものである。
「という訳で、アルダンさん、トレーナー殿にもお見せしてよろしいでしょうか?件の、ラブレターを」
「え、ええ、それは構わないのですが……」
「了解っス!トレーナーさん!これがその、ラブレターっすよ!」
「……!」
──────────────
アルダンへ
今日の午後三時、大樹のウロの前で待っていてください。
すぐに、迎えに行きます。
──────────────
「……えっ、これだけ?」
「そうっス!でも、大樹のウロなんて告白の定番スポットにわざわざ呼び出すなんて、ラブレター以外の何者でもないっス!」
「『すぐに、迎えに行きます』などという歯の浮くような台詞もまた……これを書いた方は、相当自分に自信があるようですね?」
「ふ、ふふ……そ、そうですね…………?」
まあ、言われて見れば確かに。この勢い任せに書いたような少し荒れた字といい、少し焦り混じりによれた紙の端といい、何故だか若々しい情動を感じさせられるこの手紙は、間違いなく……
「……………?」
……あれ、なんだろう?この手紙、どこかで。
「あ゛っ」
「んっ?」
「……?」
「…………」
──────────────
『えっ?月曜は開店直後に行かないと相当混む?午前中に契約終わらないかも?ええと……はい、はい……分かりました……すぐに伺います、はい、よろしくお願いします……』
ガチャッ……
『ふう、公衆電話なんて久しぶりに使ったなぁ、小銭持っててよかった……じゃなくて。どうしようかな、トレーニングの集合場所も伝えなきゃいけないし、アルダンが登校してくるのを待って、直後話しておこうと思ったんだけど……あ!そうだ!』
ゴソゴソゴソ……
『下駄箱のとこに置き手紙しとけば、絶対アルダンも気付くはず!という訳で、ええと……どこから書けばいいんだ?』
[朝から携帯を壊してしまって、携帯ショップに……]
[いつ戻れるか分からないから、トレーニングの時は……]
『うーん、流石にそこまで詳しくなくても……って、もう携帯ショップの開店、十分前じゃん!ちょ、と、とりあえず集合場所と時間だけ書いて……うーん、まあ、いいや!あとはこれを畳んで……よし!これでよし!』
──────────────
「───────」
「……おーい?アルダン先輩のトレーナーさん?突然固まって、どうしたんスかー?」
「実際の書面を見て、余程ショックだったのでしょう……お労しや……」
間違いない、そうだ、思い出した。
そのラブレターの送り主は他でもない、『僕』自身、なのである。
というか、ラブレターじゃないし、ただの業務連絡だし。単純に分かりやすい場所を見繕っただけであって、大樹のウロが告白の定番スポットだったなんて知らなかったし。宛名が無いのだって、シンプルに焦って書き忘れてるだけだし。あと口調は全然、素だし。ほんと、ほんと、どこから説明すればいいんだ、これ……
「……あ、あの、三人とも」
「さて、問題はこれからどうするかっスけど……」
「無論、アルダンさんを向かわせる訳にはいきませんね。ここは私が代わりに、その不届き者にお灸を据えて差し上げましょう……!」
「おお!流石ヤエノっス!それならアタシも手伝うっスよ!身柄を確保して、委員会総出で全力風紀指導っス!」
「……………………」
あれ、これもしかして、思ったより不味い事になってない?この流れ、要するに他でもないこの僕が、お灸を据えられた挙句全力風紀指導を食らう事になる、ということになるのでは?おまけに、トレーナーの身で教え子に手を出そうとしたという、シャレにならない汚名もいただきつつ……
……いや、いくらなんでも流石にそれはない。もちろん僕自身が事の発端であるのは間違いないけど、でもそもそもこれはラブレターでもなんでもない訳だし、ヤエノムテキだってバンブーメモリーだってきちんと説明して謝れば、分かってくれるはず……
「お、お待ちください……!」
「んっ?アルダン?」
そうと決まれば、早速……と、大きく息を吸っていると。僕の一歩前、先に口を開いたのは他でもない、本日一番の被害者たる、アルダン自身であった。
「皆さんが私の事を案じて下さっているのは、とても嬉しいのですが……けれどもやはり、この手紙は間違いなく何処かの誰かが私に向けて書いてくださった、繊細で大切な『気持ち』なのです。形は少し乱暴かもしれませんが、それでもこの気持ちは絶対に、私自身が受け止めなければならない……その義務が、私には、あるのです」
「……アルダン」
……すっかり、忘れていたのかもしれない。そうだよな、彼女は絶対に、誰のものであろうと、他人の気持ちをいたずらに無下にしたりなんかしない。
自らの本気の想いを、誰かに笑われる、泣かれる、邪険にされる……そうして生まれる痛みを、苦しみを、彼女は誰よりも理解しているから。だから、せめてもう二度と誰も同じ想いをしないよう、言葉を尽くして、向かい合う。それがメジロアルダンというウマ娘の他者とのコミュニケーションの取り方で、そんな彼女の事が、やっぱり僕は、心の底から大好きだと、そう、思う。
が。
「……ですので、戸惑いこそすれ私は全く、これっぽっちも困っていませんので、ね?」
「………………」
冷房の効いた室内だというのに、とめどなく汗が吹き出してくる。なんだか先程からやたら彼女と目が合うような気がして、思わずぐりんぐりんと、目が泳いでしまう、というか……
「………………っ」
い、言い出し辛すぎる……!違うんだ、違うんだよアルダン、そんなただの業務連絡に想いも何も乗ってるわけないんだよ……!裏とか表とかなくて、ただ単に、三時に、大樹のウロに来て欲しい。それ以上でもそれ以下でもなくて……
「……この先何が待ち構えていても、『覚悟』は、出来ていますから、私」
あ、ああ〜……!やめてくれ、こんなくだらない話で、そんなめちゃくちゃかっこいいシリアス顔しないでくれ……!そういうのはもっと、レースの回とかでやってくれ……!
「…………」
「…………」
「……え、えっと……あ、アル……」
「で、ですので、この件は皆さんの手を煩わせることはありません……集合場所にも、私一人で……」
「感動したっス!アルダン先輩ィ!!!!」
「うっ……!?」
あれやこれやと打開策を検討する僕の脳内を、思いっきり掻き乱してくるバンブーメモリーの声。慌ててこぼれ落ちた思考を拾い集めようとする僕であったが、まさしく破竹の勢いで、彼女は続け様に言葉を紡いでいく。
「一方的な想いすら優しく包み込む、まるで聖母のような振る舞い!流石アルダン先輩っス!」
「え、あ、ああ……ありがとう、ございます?」
「私も、お見逸れいたしました。相手を傷付けず、その技だけを受け流し続ける……まさしく太極拳の如き、真の強者にしか出来ぬ心構え……流石です、アルダンさん」
「そ、そのようなもの、なのでしょうか?」
……なんだか、話があらぬ方向に転がっていくのを察知して、なんとかしようと頭を捻……じゃなくて、ええと?あれ?何をしようとしてたんだっけ、僕は?
「そうっスね!アルダン先輩がそう言うのなら、アタシ達は止めないっス!止めないっスけど……」
「ええ、もしもの事を考えて、私達は隠れて見張っています!貴方のその純粋な優しさは、私達が必ずお守りいたしますので、どうかご安心を!」
「えっ?ええと、それはその……」
「トレーナーさんも!それでいいっスよね!!!!ね!!!!」
「うっ……!う、うんっ……!?も、もちろんっ……!?」
「おお!流石っス!頼りにしてるっスよ!」
「と、トレーナーさぁん……」
幾度目かの脳震盪で完全に思考能力を失った僕は、何故だかそれとなく流され煽てられ、釣られるがままフラフラと生返事を返してしまう……ほんと、どうしてこうなった……?
後悔先に立たず、今の僕の目に映ったのは、何故だか先程よりもますます不安げな表情を浮かべた、アルダンの姿のみであった。
──────────────
「午後二時五十分……まだ、来ませんね……」
「あんなラブレターを送り付けてくるぐらいっスから、もうとっくに待ってるもんだと思ったんスけどねぇ……」
「は、はは、そだねー……」
無駄に暑苦しい、かんかん照りの太陽の元。学園の中庭、大樹のウロの前でしめやかに佇まいを正すアルダン……を、そっと植え込みの影から見守るバンブーメモリーにヤエノムテキ、そしてこの事件の真の黒幕たる、僕。もしこれがミステリー小説の一幕ならば、とびきりの名作間違いなし、なのであるが……
「もしもっスよ、もしもやってきたのが、とびきり様子のおかしな不届き者だったなら……どうするっスか?」
「決まっているでしょう、挟み撃ちですよ。私が右から、バンブーさんが、左から……きっと私達の末脚があれば、容易く仕留め……ではなく、捕えられる、はずです」
「ハハハ!じゃあそうなった時は、トレーナーさんは通報係っスね!」
「……………………」
「……どうしたっスか?トレーナーさん?」
「あ、あー……ちょっ、と、お腹?痛くなってきたかも?あはは、ちょっと、トイレ行ってくる、ね?」
「なんだ!そんなことっスか!心配しなくてもアルダン先輩にはアタシ達が着いてるっスよ!戻ってくる頃には、全部終わってるっス!」
「は、ははは、じゃあ、よろしく、ね……」
──────────────
「どうすんだ、これ……」
彼女達と一旦別れ、フラフラと校舎裏までやってきた僕。窓ガラスに情けなく映ったそのやつれた姿は、まさしく、とびきり様子のおかしな不届き者、なのであった。
「今からでも正直に言うか?いや、今から言ってもなんかやましい事があるって疑われちゃうよなぁ……じゃあなんだ?もういっその事シラを切り通すか?いやいやいや、そんなの流石に三人に申し訳なさ過ぎる……!」
どうする?何かこう……誰にも気取られずにこの場を有耶無耶に終わらせられるような案は無いのか……!
ああ、くそう、やっぱり正直に言うのが一番正しいんだろうけど……いくらなんでも、教え子に手を出そうとしたトレーナー、なんて容疑をかけられるのだけは流石に色々しんど過ぎる……!今後の事も考えて、それだけは、それだけはなんとしてでも避けなければ……
ガシャァァァァン!
「いっ……でぇ!?何っ!?なんなのよ!もうっ!?」
なんて、まさしく泣きっ面に蜂。意識をしあさっての方まで放り投げていた僕の脛へ、クリーンヒットした何やら金属質な感触。思わずその場に転げ落ちた僕の潤んだ視界に、真っ先に入り込んできたのは……
「これ……掃除用のアルミバケツ?なんだってこんなものが、こんな校舎裏なんかに……ん?」
[廃品回収ボックス]
[ダンボール] [金属類]
「…………………」
──────────────
「午後三時……時間です」
「ま、まだ来ないんスか!?」
「おのれ……!強引に呼び出した挙句、時間すら守れない輩だったとは……!ええい、成敗!成敗!」
「あ、あのー、お二人とも?なんだかどなたも来られないようですので、そろそろもう、お開きでよろしいのではないでしょうか……?」
「えっ?あ、まあ、アルダンさんがそうおっしゃるなら……」
「きっと途中で怖気付いたんスよ!全く、根性がなって無さすぎるっス……」
ガシャン……ガシャン……
「…………?」
ガシャン……ガシャン……
「……誰か、来るっスか……?」
ガシャン……ガシャン……
「……あ、貴方は……?」
ガシャン…………
『マタセタナ、メジロアルダン。ワタシノナハ、『ガラクタエナジー』……』
「ガラクタ、エナジー……さん……?」
「……は?」
「ちょ、ちょっと待つっス。ヤエノ……もしや、あれって……」
「し、知っているのですか?バンブーさん?」
「アタシも噂だけしか……けど、間違いないっス。あのくぐもった声に、あの身体……間違いない、あれは……あれは……!」
「あれは……?」
「『メカウマ娘』っスよぉーーーーっ!!!!スゴすぎるっすーーーーーっ!!!!ホントにいたんスねーーーーっ!!!!」
「め、『メカウマ娘』?すみません、おっしゃっている意味が分からないのですが……」
「知らないんスか、メカウマ娘!去年の年末くらいに話題になったっスよ!ほら、見るっスあの金属で出来たピカピカの頭!」
「頭……どう考えても、バケツを逆さに被っただけに見えますが?」
「それにほら!あの角張った直線的なボディー!」
「ダンボールを着込んでいるだけに見えますが!?」
「どこからどう見てもメカっす!メカウマ娘は実在したんスよぉーーーっ!」
「……なんにせよ、不審者であることは間違いないですね!」
『………………』
まさかこんなすぐに使う事になるとは……いつ使うんだとか思ってごめん、精密ボイスチェンジャー……!
という訳で、僕は意を決して三人の前に真正面から姿を現し、バケツの裏側、丁度自らの口元近くに仕込んた真新しい携帯に向けて、言葉を紡ぐ。……トレーナーとしてではない、正体不明のメカウマ娘『ガラクタエナジー』として、である。
「ええと、私宛にこのラブレターを書いたのは、貴方……ということでよろしいのですか?」
『アア、ソウダ。ダガキミハ、オオキナカンチガイヲ、シテイル』
「勘違い?」
『ソノテガミハ、ラブレターデハナイ。ソレハ……『ハタシジョウ』ダ』
「は……果たし状……!」
『ソウダ。ワタシノナカニ、トウサイサレタ『レースAI』ヲ、セイチョウサセルタメ。ワタシハ、ツヨイウマムスメトノ、ショウブヲ、ノゾンデイルノダ』
「……ふっ……ふふ……っ」
『ト、イウワケデ、サア、コノママヒトリデ、ツイテクルノダ、メジロアルダン』
「っ……ふふっ……ちょっと……ちょっと待ってください……息が……ふふっ……!」
……なんか、心做しかめちゃくちゃ笑われてない?
まあいい、この際もうなんでもいい、とにかく、アルダンとあの二人を一旦遠ざける。あの二人には、これは単にガラクタエナジーからの挑戦で、あの手紙はラブレターでもなんでもなかったのだと、それで納得してもらおう。アルダンには……うん、アルダンには正直に謝るしかないな……きっと彼女なら、分かってくれるはず……
……いや、無理じゃない?許してくれなくない?というか、どちらかと言うと担当トレーナーからラブレター貰うのより、担当トレーナーがガラクタエナジーだった方がショックじゃない?
「ちょっと待つっス!サイコロステーキッ!」
「ガラクタエナジーです、バンブーさん」
『……ゲッ!』
と、この期に及んで右往左往している僕の前に、割り込んでくるバンブーメモリーとヤエノムテキ。というか、だよね!こんなんで納得出来るわけないよね!僕のバカ!
「アルダン先輩と戦いたくば、まずはアタシらを倒してから行くっス!」
「メカだかなんだか知りませんが、アルダンさんは私が守らせていただきます!」
『エッ、エ、エーット……』
「さてさて!じゃあレース条件はどうするっスか?アタシなら芝でもダートでも問題ないっスよ!」
「……バンブーさん?何故そんなに嬉しそうなのですか?」
曇りなき羨望の目でこちらを見つめてくるバンブーメモリーに、慌てて空っぽの頭をカランカランとかき鳴らす。ほんと、勘弁してくれ……僕はメカでもウマでも娘でもない、生身成人ヒト男なんだ……
『……ザ、ザンネンダガ、ソレハデキナイ』
「えーっ!?なんでっスかなんでっスか!アタシもメカウマ娘と走りたいっス!」
「しっかりしてくださいバンブーさん!もはや目的を見失っています!」
『コノボディーハ、マダ、シサクダンカイノ、モロイカラダ。イチニチニ、ニドイジョウ、レースヲハシルト……』
「二度以上、レースを走ると……?」
『…………ジバク、スル』
「自爆!?!?大変じゃないっスかぁ!」
「AIうんぬんより、まずボディーの開発を急ぐべきでは?」
自分でももはや訳が分からぬまま、嘘に嘘を塗り重ねていく僕。ええい、ここまでくればもうヤケクソだ……!なんとしてでも、アルダンだけを回収していかなくては……!
『ワタシモ、ハシリタイノハヤマヤマダガ、キョウハ、メジロアルダンノデータをシュウシュウシロト、ハカセカラ、メイジラレテイルノダ』
「博士?貴方に司令を出している者がいるのですか?」
『ア、アー、マア、ソウダナ……』
「……あー!その博士って、タキオンの事っスね!?この学園でこんなものを作れるのは、タキオンぐらいのモンっス!」
『エ?エ、エーット…………ソノ、トオリダ』
「また彼女の仕業でしたか……!後でしっかり、問い詰めなくては……!」
ごめん、アグネスタキオン……!全然面識ないけど許してくれ……!
しかし、なんかあれだな。なんだかんだで微妙に、ガラクタエナジーから話題の矛先がズレてきたのを感じる。もう少しで二人とも、いい感じに納得して帰ってくれるのでは?
「しかし、どうしてもアルダン先輩と走りたいのならば、仕方がないっス……」
『ウ、ウム、ザンネンダガ……』
「と、言うわけで!アタシとはクイズバトルをやるっスよ!!」
おや、なんだかおかしなことになってきたぞ?
『エッ、クイズ?ナンデ?』
「ふっふっふ……アンタは一つ、大切な事を忘れてるっスよ……ロースカツカレーッ!」
「ガラクタエナジーです、バンブーさん」
「レースとは、ただ脚が速ければいいってモンじゃないっス!ペース配分に駆け引きに……キチンと理論に基づいた戦術を立てるのが何より重要!レースとはすなわち、賢さバトルだと言っても過言ではないっスよ!」
ねえ、この娘なんでそんなにメカ気に入ってんの?もはやメカウマ娘と遊べさえすれば、なんでもいいモードに入っちゃってない?
……いや、落ち着け僕。これはむしろチャンスだ。ヤエノムテキはともかくとして、バンブーメモリーはもはや既に半分、こちらの味方と化している。ここで更に彼女の信頼を勝ち取れば、だいぶ事を上手く進めやすくなるはず……
なおかつ、曲がりなりにも僕は、あのトレセン学園の正規トレーナーなのだ。レースの知識なら、そんじょそこらのウマ娘に負けるはずがない……!
『……イイダロウ、ソノショウブ、ノッタ』
「流石!その意気っス!じゃあ早速いくっスよ!」
『アア……カカッテコイ……!』
「問題!中国の故事成語、『捲土重来』!この言葉の意味を、答えるっス!」
レース関係ねえじゃん!!さっきの話は何だったんだよ!!!!
『エッ、ナニ?ケンド……?』
「『捲土重来』……ふふふ、さしものレースAI搭載型メカウマ娘と言えど、これは答えられないっスかねぇ?」
だから!レース関係ねえんだって!レースAIに求めんなそんなこと!
というか、えっ、何?ケンドチョウライ?何それ普通に聞いた事ないんだけど?えっ、普通に気になる、普通に調べたい、ググりたい。
ん?AI……ググる……検索……?
『……OKグルグル……ゴニョゴニョ……ゴニョゴニョ……』
「んん?何を小さい声で言ってるんスか?回答なら!もっと大きな声で……」
ピロン
『捲土重来とは、一度敗退した者が再び勢いを盛り返し巻き返す様子を表現する四字熟語です。中国の杜牧の詩『烏江亭に題す』に由来しています。』
「…………」
『…………』
「う……おーーーーーーーッ!!正解!正解っス!!AIスゴすぎるっスーーーーーーーッ!!!!」
ウォォォォォォォォッ!!当たった!?当たった!?AIスゴすぎるだろォォォォッ!!もう二度と『いつ使うんだ……』とか言わないよォォォォォォォォォォォォッ!!
「今、明らかに先程までと声が違いませんでしたか?」
「いやーっはっはっは!まさかここまでやるとは!タキオンもたまには役に立つモン作るんスね!」
『ネ!カガクノチカラ、サイコー!』
すっかりバンブーメモリーと意気投合し、上機嫌に笑みを浮かべるガラクタエナジー。ついでにアグネスタキオンの名誉も回復できたし、これで一安心……
『………………』
いや、仲良くなってどうすんだ。僕はメカウマ娘じゃなくて、生身成人ヒト男って言ってんだろ。
未だにガハガハと豪快に笑うバンブーメモリーの様子を観察しつつ、今度は僕の、オリジナルの頭脳をフル回転させる。今だったらもしかすると、適当な理由をつければ簡単に逃げ出せるのでは?
『……ア、アー。オット、コレハ、ハカセカラノ、キンキュウノヨビダシダー。ザンネンダガ、ソロソロカエラネバ……』
ギギギ……ギギギ……
『…………?』
……なんだ?何故だか急に、身体が重くなってきたぞ……?まるで本物のオンボロロボットみたいに、身体中が、ウマく、うゴカナ……
『…………!?』
なッ!し、思考まデ!シコウまで妙に鈍ッてきたヨウナ……!コレは、まサカ……!?
嘘にウソヲ重ね過ギタせいで、ボク自身が、『ガラクタエナジー』に飲マレかケテルと、言うノカ……!?マさカ、ソンな……!チガう、僕ハ、ボクは、メカウマ娘なドではナイ……!僕は、メジロアルダンの、カノジョのトレーナー……なん……
『……ハァ……ハァ……ハァ』
…………………………
違うっ!これっ……ただの『熱中症』だっ!
この格好、通気性最悪なんだっ!
無駄に暑苦しい、かんかん照りの太陽の元……日陰など無い中庭……そんな場所に晒されたダンボールの中身など、当然蒸し風呂状態になるに決まっている!おまけに頭のアルミバケツ……日光を吸収しすぎて最早熱々の鉄板状態……!この場を誤魔化すのに夢中になり過ぎて気が付かなかった肉体ダメージが、キャパシティを超えて、今……
って、落ち着いて解説なんてしてる場合じゃない!死ぬ!このままでは普通に死ねる!一刻も早く、この場から抜け出さなければ……!
「そんじゃ、第二問っス!」
『ダイニモン!?』
おいおいおいおい待て待て待て待て!ほんともう無理だって!死ぬ死ぬ死ぬ!
もうほんとなんでもいい!多少強引でもいい!今すぐ二人の隙を作って、この場から逃げ出さなければ……!僕は茹で上がる頭を何とかかんとか捻りあげ、絞りあげ、煽てあげ、活路を探す。
『………………!』
バチリと、脳の奥底、一粒だけ輝いたアイデア……いやでも、そんな無茶苦茶な……いや、ダメだ、今は右往左往と臆している場合ではない……!やるぞ……!
「問題!次のことわざは……」
ビーーーッ!
ビーーーッ!
ビーーーッ!
「……!?な、何の音っスか!?この……やたらと焦燥感を煽られるような、ブザーの音は!?」
「この音……ガラクタエナジーの中から……?」
『……オーバーヒート!オーバーヒート!』
「オーバーヒート、だと!?」
「どうしたんスか!?そんな、突然!」
『アア、バンブーメモリー……ドウヤラ、サキホドノモンダイヲトイタトキニ、デンシカイロガ、ヤキキレテシマッタ、ヨウ、ダ……』
「そんな……アタシのせいで……!?」
「たった一問で!?むしろ何なら満足に出来るのですか!貴方は!」
『ニ、ニゲロ……ハヤク、ニゲルンダ……!』
カァァァァァァァ……!
「うっ!?こ、この光は……一体……?」
「これもまた、ガラクタエナジーの中から……?」
「……ん?オーバーヒート……警告音……?そして、この光……ま……まさか……!」
「バ、バンブーさん?」
「……じ、自爆だーーーーーーーッ!!自爆するっス!!みんな、逃げてーーーーーーーーーーーッ!!!!!!」
「えっ!?ば、バンブーさん、落ち着いて……」
「ウォーーーーーッ!!!!ヤエノもアルダン先輩も、アタシが守るっスーーーーーーーッ!!!!」
「えっ?私もですか……ひゃっ!?」
「うおっ!ば、バンブーさんっ!」
「ウォォォォォォォォォォッ!!ウォォォォォォォォォォ……………」
ガシャン!バラバラバラバラ……
「…………?あ、あれ?どうなったんスか?」
「あ、バンブーさん、あれ……」
「……!そんな!これ……彼女の頭に……腕も、体まで……みんな、みんなバラバラに、散らばって……!」
「……き、きっと私達の為に、なんとか爆発を最小限に抑えてくださったのですよ。おそらく……」
「あ、アルダン先輩……うう、ううぅぅ……」
「今はただ、祈りましょう……?彼女の冥福を……」
「うう、ウォォォォォォッ……!」
「ビーフストロガノフーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!!!!!」
「ガラクタエナジーです、バンブーさん」
──────────────
「いやー!何だったんスかねぇあのメカウマ娘!今となっては、どうしてあんなのに必死になってたか、わかんないっス!」
「あ、ああ、そうなんだ……それは、大変だったね……?」
「トレーナーさんこそ、汗凄いっスね!そんなにお腹の具合悪かったんスか?」
「まあ……相当な死闘、だったかな?」
数分ぶりに彼女と、バンブーメモリーと向かい合う僕……ああいや、あのときはガラクタエナジー、だったか……まあなんにせよ、彼女自身がそう気に留めていないのなら、結果オーライか。よかったよかった……
……それはそれとして、もうちょっとぐらい引きずってくれてても良くない?仲良くなれたと思ってたの、僕だけ?
「全く、酷いイタズラでしたね!あのような手紙など、もう二度とご自身で相手にしてはいけませんよ!アルダンさん!」
「ふ、ふふ、肝に命じておきます……」
「さてさて!もうそろそろトレーニングの時間っスね!気持ちを切り替えて、今日も気張っていくっスよぉーーっ!」
「ええ!ではまた、ターフにて!」
スッキリと晴れ渡った空の元、爽やかに背を向け去っていく二人を見送る、僕とアルダン。正直今日は疲れすぎて、もう何もやる気が起きないのだが……けれども、これもまた身から出た錆……もう少しだけ、身体に鞭打って働かなければ……僕は渋々とその場にしゃがみこんで、自分自身で脱ぎ捨て散らばったダンボール片を片付け始める。
「……それにしても、本当に凄い汗ですね?きちんとお水は飲みましたか?『ガラクタエナジー』さん?」
「そりゃ、もう……死ぬほどガブ飲みしてきた……えっ」
「ふふっ……♪」
彼女の、あえて軽々しく発したであろう言葉を耳にして、思わずピタリと手を止めてしまう僕……というか……まさか……
「……いつから、気付いてた、の?」
「いつからと言いますと……最初から、ですかね?ふふ、貴方の『筆跡』なんて、今まで何百回と見てきましたので、すぐに分かりますとも♪」
「筆跡って、もしかして……手紙の段階から!?」
「ふふふ……申し訳ございません。あの二人が居る手前、この手紙がトレーナーさんの書いたものだなんて、言い出せなくって……」
「……まじかぁ……まじかぁ……!」
刹那、僕の脳内に大量にフラッシュバックしてくる、なんとも滑稽な本日の記憶達……あの時も、あの時もあの時もあの時も、アルダンは全部全部分かってて……分かった上で……
「けれども、事態があんなに予想外の方向に転がっていくなんて……相変わらず、貴方は私の想像の、遥か斜め上を行きますね?」
「うおぉ……!恥ずかしい、恥ずかし過ぎる……!」
「ふ、ふふふ……私もどうにかフォローしようとは思っていたのですが……み、皆さんの掛け合いがあまりにも……あまりにも可笑しくって……ふふっ……!」
「ああーーっ!忘れて!今日見たものは全部見なかった事にしてくれぇーっ!」
情けなく地面をのたうち回り、やつれた姿で彼女に懇願する、とびきり様子のおかしな僕。本当に、穴があったら今すぐ埋葬されたい気分である。
「ふふふ、けれども、申し訳ございません。貴方がなんと言おうとも……私は今日の事を、見なかった事になんて、しませんよ?」
「あ、アルダン……?」
「やっぱりトレーナーさんは大人ですね?無駄に騒ぎ立ててしまった私達三人に責任を被せる訳でもなく、だんまりを決め込む訳でもなく……一人泥と汗に塗れて、誰も傷付かない道を模索する、だなんて」
「い、いやいや、ただ自分のミスを誤魔化そうとしただけだから……そんな美化されても……」
「それでも、助かりました♪あのまま誰も来ずに終わっていれば、ヤエノさんもバンブーさんも、心のどこかにしこりを残したままになっていましたでしょうから。今日の皆の勘違いも怒りも失敗も、ごちゃごちゃしたもの全て纏めて一身に引き受けてくれるなんて、流石は『ガラクタエナジー』さん、ですね?」
「……ほんと、いつもありがとね、アルダン」
「?」
改めて、忘れていたのかもしれない。そうだよな、彼女は絶対に誰のものであろうと、例えそれが、僕のしょうもない迷走であろうと。他人の気持ちをいたずらに無下にしたりなんかしないし、頭を捻り倒したその努力も、ちゃんと評価してくれる。今日だけじゃない、そんな彼女に、僕は今まで何度も助けられてきたのだ。
けれども、まあ、それも当たり前の事じゃない。これだって本当に、僕が初めから臆さず真実を話していればそれですぐに解決した事件だったのだ。丸く収まったからと言って、その事だけは決して、纏めて放り捨ててはいけない。ようやくクールダウンした自らの胸にその事実を刻み込んでから、僕は目の前の、ただのアルミバケツをなんとも愛おしそうに見つめる彼女に向けて、今度こそまっすぐに頭を下げるのだった。
「……それにですね、トレーナー、さん」
「ん?どうしたの、アルダン?」
「お話、しましたよね?形は少し乱暴かもしれませんが、それでもこの気持ちは……この、トレーナーさんの気持ちは絶対に、私自身が受け止めなければならない……その義務が、私には、あるのだ、と」
「………………」
「お二人に見つかってしまって、随分遠回りになってしまいましたが……ちゃんとここで、『待っていました』よ。貴方の迎えを、私は」
「………………」
抱えていたアルミバケツをそっと足元に置いて……改めて、大樹のウロの前にしゃんと立つ、アルダン。抱えきれない程の不安と、それでも未来を渇望する希望を強く強く込めた目線で、僕の瞳をひたすら真っ直ぐに見つめてくる彼女に、僕もまた、ひどく見蕩れてしまう。
それはそれとして
彼女は今、何の話をしているんだ?
「その、アルダン?」
「……ごめんなさい、トレーナーさん。今日の今日まで、貴方がそんな想いを私に抱いていただなんて、想像もしておらず……」
「そんな想い?」
「ですので、あの手紙を見た時は本当にびっくりしてしまって……つい大声を出してしまい、それで、二人にも見られてしまったのです。ふふ、ごめんなさいトレーナーさん。今日の事件の真の黒幕は、実は私だったのです」
「手紙……」
「それにしても……ふふっ♪あんなに勢い任せで、焦り混じりの貴方の筆跡なんて初めて拝見いたしましたよ?その胸の中に、余程抱え切れない想いが詰まっていたのですね?今まで気が付かなくて、本当にごめんなさい」
「………………」
バチリと、冷めきった脳の奥で気が付いてしまった、ひとつの可能性……
いや、まさか、そんな、彼女に限って、しかし、でも……
「改めて、宣誓します。この先何が待ち構えていても、『覚悟』は、出来ていますから、私」
「…………っ!」
優しい桃色に染まった彼女の頬を見て、可能性は、確信に変わる。
彼女の『勘違い』も、
あの『ラブレター』も、
そして、今回の『事件』も。
まだ、また何一つ、解決など、していなかったのだ……と……!