メジロアルダン短編集『to the MEJIRO ARDAN』   作:いずさわ

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誰かが忘れているかもしれない僕らに大事な001のこと

「ふっふっ……ふっ……!はあっ!」

「っ……!」

 

ピッ……

 

「っ、ふうっ、はぁ……タイム、いかがでしたか?トレーナー、さん……」

「…………う、うん、まあ、まあまあまあ、悪くは、ないよ?」

「ええと、はっきりと仰っていただいた方が、私も助かりますよ?」

「う……うん、まあ、昨日より少し落ちてる、かな……」

「ふふ、やはりですか。体調が悪い訳ではないのですけどね?」

 

カンカンと日の照った、真昼間の学園ターフ。そのうだるような暑さの最中、僕は彼女の……我が担当ウマ娘、メジロアルダンの姿を食い入るように見つめていた。

 

「うーむ、なかなか先週のタイムを超えられませんね……あの時の感覚、なかなか思い出せな……トレーナーさん?」

「バ場条件は……むしろ今日の方が整っている。カーブの入射角の問題か?しかしこの位置じゃ判別出来なかった……どこから見ればいいんだ……真上?ドローンとか使えば……でもそんなツテないし……うーん……」

「まったく、もう……」

 

自らの背を日陰にして、必死にタブレットの画面を覗き込む、僕。どこだ、どこに問題点がある?歩幅か?姿勢か?コンディションか?それとも、運?

当然、もちろん、間違いなく、アルダンは僕なんかよりもずっとずっと努力している。彼女の努力不足ということは、絶対に有り得ない。というより、こんなところで突っ立っているだけの僕と違って、彼女は常に全力で走り続けているのである。

せめて、そうだ、『走る』以外の事は何もかも全て、僕が背負わなければいけないのだ。僕は彼女のトレーナーだ、もしも彼女が不調なのであれば、その原因も対策も全て炙り出し、打開策を練ることが僕の使命なのである。彼女が他の事を何もかも考えずに、ただ自由に走ることができるように、そして、この世界にメジロアルダンの名を深く刻み込むために。彼女の精神も肉体も、尊厳も生活も、『全て』僕が守らないと……

 

「ドローン……いやいや、そういう問題じゃないな。もっと根本的にあるはずだ、彼女に、僕に、『必要』なもの……」

「トレーナー、さん?」

「っ……うおっ!?」

 

……なんて、意識を明後日の方に置いていると、不意に僕の視界からタブレットを抜き取ったアルダン。にこやかに笑みを浮かべながら……けれども、僅かに眉間に皺を寄せて、こちらに優しく語りかけてきた。

 

「失礼、私からトレーナーさんに、一つご提案があります」

「……!う、うん、僕にできることなら、なんでも……!」

「うむうむ、良い返事です♪では、あそこの大きな木の根元、丁度良い感じの木陰がありますね?」

「え?う、うん、あるね?」

「休憩、しましょう?なんだかあの場所は、とっても良い風が吹きそうです♪」

「えっ?ええと……」

「休憩、分かりますか?き、ゅ、う、け、い……ね?」

「はっ……はいっ……!?」

 

──────────────

 

「んぅ……!ふふっ、予想通りとっても気持ちいい風ですね?トレーナーさん?」

「う、うん?確かに、涼しいね、ここ……」

 

半ば無理やり、強引に引きずり込まれた木陰の中。まだまだトレーニングを開始したばかりだというのに、彼女がここまで無理やり行動を起こす、というのは……

 

「まさか、僕が気付いてないだけで凄く体調が悪かった……とか!?あ、アルダ……!」

 

「…………ふうっ♪」

 

「……いや、いや、それは大丈夫、か。日課の体調チェックも、万全だった……はず」

 

隣に立つ彼女の澄み切った表情を覗き込んで、あれこれと浮かんでくる不安をひとまずは畳み込む。

……確かに、彼女の言う通り。なんとも緩くて、いい風、かもなぁ。

 

「あら、こんなところに自動販売機なんてあったのですね?」

「えっ?あ、ほんとだ?こんなところで買う人なんているのかな?」

「トレーナーさん、喉、渇いていませんか?先程から水分も取らずに考えこんでらっしゃったようですが?」

「え?いや、そんなこと……あー、いや、確かに渇いてる、かも?」

「ふふっ?これはまさしく渡りに船、ですね?」

「……ふふっ?確かにね?」

 

木陰の中、まるでオアシスのように堂々と鎮座していた二対の自販機。喉の渇きも別に我慢できるくらい……と言いかけて、ふと思い直す。まあ確かに、こんなに心地良い風の中飲む冷たい飲み物は、なかなかに魅力的、か。彼女に促されるまま、僕は木漏れ日を反射して銀色に輝く投入口に、ちらちらと小銭を突っ込ん……

 

「……えっ」

「あら、どうなさいましたか?トレーナーさん?」

「い、いや、大したことじゃないんだけどね。缶コーヒー、売り切れてたのか……しまった、見てなかったなぁ……」

「ふふっ、あらあら?」

 

だ……後に気がついてしまった『うりきれ』の赤ランプ。こんな暑い日には、キリッと冷えたブラックが一番なんだけど、なぁ。

 

「あ、隣の自動販売機にはありますよ?良かったですね♪」

「おっ、なら良かった……あ、じゃあどうせお金入れちゃったから、こっちはアルダンの好きなやつ買いな?」

「あら、でも私、水筒を持ってますよ?」

「いいのいいの、水分補給なんていくらやってもいいんだから。それに自販機で買ったばっかりのやつの方が、きっと冷たくておいしいよ?」

「……ふふっ、ではでは、お言葉に甘えさせていただきます♪」

 

ひょこひょこと自販機の前に立つアルダン。木漏れ日を反射したランダムパターンの瞳でじっくりと品定めする姿に、思わず僕の目も、奪われる。

 

「では、これを……」

 

ガシャン……

 

「おっ、今日は何にしたの?」

「ふふふ、そんなに面白いものではありませんよ?ただの『水』です♪」

「あら、ただの水?」

 

しめやかに、彼女が自販機から取り出して来たのは、確かにただのミネラルウォーター。なんとかって山脈がラベルに印刷された、どこぞの湧水を使った天然水、らしい。

 

「へぇ、水、水かぁ」

「あら、そんなにただの水が物珍しいのですか?」

「いや、珍しいって訳じゃないけどさ。なんか、ただの水を買って飲むって、良く考えたら僕、今まで一度もやったことないかも……って思ってさ?」

「ふふふ、確かに、トレーナーさんは暑い日も寒い日も、いつもコーヒーですものね?」

 

アルダンの言う通り、今みたいなトレーニングの休憩時間も、はたまたデスクワークのブレイクタイムも、昼食時だって、僕が選ぶのは決まってブラックコーヒーである。特にこれといった意図はなく、単純に癖で選んでいる、だけなのであるが……

 

「しかし、そうだなあ……確かにコーヒーばっかりじゃ良くないよねぇ。カフェインの摂りすぎとか……」

「ええ、それもそうですし……単純に、意外とおいしいですよ?お水♪」

「それじゃ、せっかくだし今日は僕も水にしてみよっかな?」

「ふふっ♪」

 

何気なく気の向くまま、僕は同じ自販機に再び小銭を投入する。まだ何もしていないというのに、何故だか普段よりも身軽な指先で、僕は少し溜めを作ってからボタンを押すのだった。

 

ガシャン……

 

「おお、ほんとに水だ……南アルプスの天然水、かぁ。確かにこう見ると、すごく美味しそうかもなぁ……」

「ふふ、トレーナーさんは本当にすぐ、なんにでも釣られてしまいますよね?」

「いやいや、なんにでもって訳じゃないよ?でも、君が勧めてくれるものは間違いないって、分かってるからさ?」

「……ええ、もちろん、太鼓判を押させていただきます♪」

 

二人でひとしきり笑いあった後、再び僕の手の中、500ミリリットルのペットボトルをまじまじと観察してみる。全くの無色透明、どこをどう見ても『水』としか言いようがないその姿に、なぜだか無性に懐かしみを覚えてしまう。

 

「さてさて、早速いただくとしようかな?」

「ええ、私もいただきます♪」

 

ペキペキと、栓を開ける音を響かせてから。遠くに浮かぶ入道雲を横目に、一気に喉へと流し込んだ僕。すると……

 

「っ……ふ、はぁっ……!」

 

何の引っかかりもなく、するりと喉奥まで流れ込んできたその天然水。けれどもその無垢な冷たさに、鼻の入口がぴりぴりと痺れ、爽やかなむず痒さを醸し出す。

食道と思しき箇所を通過した冷や水は、そのまま僕の五臓六腑……を、更に通り抜けて。心臓を通って、血脈を潜って、そのまま一気に僕の全身、指先に至るまで充分に潤いを巡らせた……もちろん、そんなに早く体内を循環する訳が無いのは分かっているけれども、それでも。

 

「あぁーっ……!なんだろう、なんだろうこの感じ……まるで朝一番、冷たい水で顔を洗った時みたいな、潤いが、染み渡っていく感じ……!」

「ふふっ……ね?思っていたよりずっとずっと、おいしいでしょう?」

「まあ、確かにコーヒーとかとは全く違う目の冴え方だ……なんというか、すごく純粋に『必要』なものだけ、身体に取り込んでるみたいな……」

 

そうか、『必要』か。

間違いない、炎天下でしばらく汗を流した、熱が篭った僕の肉体には、本当に間違いなくこれが『必要』だったのだ。過不足なく、均等に、失ったものが戻ってくるこの感覚。きっとこれだけは、何物にも変え難いだろう。

 

「『必要』……ふふふ、まあ、分かりますよ?水は『優しい』のです。体調が悪くて悪くて、お粥もゼリーも受け入れられない身体の時でも……お水だけは、どんなにゆっくりでも、ひたすら優しく体内に流れ込んできてくれるのです」

「確か、人の身体って六割ぐらいが水分なんだっけ?すなわち今まさに、僕の中には40リットルぐらいの水が巡っているわけか……」

「ふふ、だからトレーナーさんは、いつも私にお優しいのですね♪」

「そんなこと言い出したら、君なんてもっとぷるっぷるってことになっちゃうよ?」

「ふふっ、それほどでもありませんよ♪」

 

僕の体内を流れる、合計40リットルの水。そんな僕が握るペットボトルの中に揺らめく、正味あと400ミリリットルぐらいの水。それと、この地球という星全体に流れる……ええと、何億リットルぐらいだったかな?まあ、細かいことはいいけど。

 

「……多分、きっと、だけど。この世で一番『大事』なものって、やっぱり『水』なのかもなぁ」

「大事、ですか?ふふ、もっと詳しく伺っても?」

 

しっかりと水を吸わせて、柔らかくクリアになった脳でふと考えるのは、ひらめき、と言うにはあまりに突拍子も無い雑念。

けれども、そんなことでも彼女はその瑞々しい瞳を瞬かせ、こちらの次の言葉を待ってくれていた。せめてそんな彼女の期待にくらいは答えられるように、僕は一言一言丁寧に言葉を紡ぐ。

 

「このペットボトル、今はまだ中身があるからいいけど、これを飲み干してしまったあとはもう、捨てるしかない。ボトルそのものには、やっぱり価値は無い」

「まあ……そう、かもしれないですね?」

「で、それは僕たち生き物もそう。どんなに優秀な人でもなんでも、脱水症状になって干からびてしまえば、何もできやしない」

「ええ、それは、もちろんです」

「もっと言えば、この星、地球だってそうだろう。地球上を循環する水がなくなってしまえば、誰も何も住むことが出来ない死の惑星になってしまうんだろうね」

「っ、ふふっ……急にスケールが大きくなりましたね?」

「まあまあ……すなわち、大事なことを忘れちゃいけないな、ってことだよ。僕らは常に、僕ら以外の何かに『生かさせてもらってる』んだ」

 

少し喋り疲れて、渇いた喉に僕は再び水を流し込んだ。

雨のあとの芝生を、素足で踏み込んだような潤いを喉元感じて、思い馳せる。やっぱり僕には、これが『必要』、けれども……正味350ミリリットルまで目減りしたボトルを見て、僕の中に潤いと共に、どうしようもない後ろめたさが湧き上がってきた。

 

「……まるで、『ウマ娘』と『トレーナー』のように、ですかね?どんな才能を持ったウマ娘でも、トレーナーがいなければ……」

「んー……いや、その逆、かな?」

「逆、ですか?」

「別にトレーナーなんて存在がいなくても、ウマ娘の存在が消える訳じゃないし。どうしても走りたい娘は、結局一人でも走り始めるんだと僕は思う。けれども、『トレーナー』の方は、違う」

「トレーナーという存在は、ウマ娘という存在ありき、だと」

 

僕と同じボトルをひとつ、大事そうに両手で抱える彼女。その流線型に流れ落ちる、木漏れ日に照らされ透き通った美しい髪を、はたと見つめる。僕の両の瞳から流し込まれたその情景は、確かに僕の五臓六腑を通り抜けて、全身に潤いをもたらしてくれる、けれども。

 

「僕らがこの水に毎日生かされているように。トレーナーはウマ娘に……僕は、君に、毎日生かされているようなもの、なんだろう」

「…………」

「南アルプスの膨大に広がる湖の、その一部をボトリングして売り出して、小銭を稼ぐ。それと同じように僕は、君の強さ、美しさ、優しさ、そんな魅力たちを少しずつ切り取って、加工して、売り出して、そうやってなんとか生活を繋いでいる。きっと君がいなければ、僕はこうやってただの水で喉を潤すことすら、ままならないんだろうな」

 

一歩だけ、木陰から身を乗り出して感じてみる、大自然の血脈。相変わらずあの太陽は弱々しい僕の肌を鮮烈に焦がしてきて、あの入道雲には、ちっぽけな僕の指先、1ミリメートルすら届きはしない。

大仰な価値がある訳じゃない、強く願えば『全て』守れるような強さも、ない。水がなければ、糧がなければ、すぐに干からびて死んでしまう、僕はそんな、ごくごく普通の人間であるということ。

僕が時々忘れてしまう、何よりも大事なこと。

 

「……まあ、間違いではないのでしょうが。けれども貴方は、もっと『大事』なことを忘れてしまっているみたいですね?」

「もっと、大事なこと?」

 

そっと木陰から踏み出して、僕の更に三歩先まで歩みを進めたアルダン。ジリジリと照り返す陽の光なんてものともせずに、まるで青空と手を繋いだかのように、透明なボトルを天に掲げてみせた。

 

「見てください?こうやって空を見ると……とてもキラキラして、綺麗、なんですよ?」

「…………あ」

 

彼女の白い頬に映りこんだ、虹色のプリズム。ボトルに閉じ込められた正味450ミリリットルの天然水が、日光を乱反射して生み出した輝き。思わず僕は、感嘆の声を上げてしまう。

 

「……確かに、お水は大事ですね?本当に大切で、かけがえのないもの……ですが、世の中にはそれよりも、一番、大事なものが他にあるのですよ?」

「一番大事なもの?それって……?」

 

「『愛』、です♪」

 

「ぁいっ……!?」

 

なんとも予想外な彼女の言葉に、思わず間抜けに裏返ってしまう僕の声。そんなことにも特に構わず、この世界と手を結んだアルダンは、優しい旋律のような言葉を紡いでいく。

 

「……言いましたよね?お水は、単純に、意外とおいしいのです、と」

「あ、それは確かに僕にも分かったよ。喉を通っていく時の気持ちよさは、確かに……」

「うーむ、少し違いますね?お水というのは、ほんの少しだけ、『甘い』のです」

「えっ?あま……?」

「一気に喉に運ばずに、ゆっくりと、舌に這わせるように、流し込むのです。砂糖や蜂蜜の様な甘さとは違う、まるで淡雪のように一瞬で消えゆく『甘み』……それが好きだから、私は沢山の飲み物の中からお水を選んだのです。『必要』だから選んだ訳ではありません」

「…………」

「貴方がいつもコーヒーを選ぶのも、同じなのではありませんか?」

 

ぶわっと、せっかく水で冷まされた体温が上がっていくのを感じる。そうか、そうだよな。カフェインの摂りすぎで健康に良くないと分かっていながら、コーヒーを飲み続けるのも……そして……

 

「そして、トレーナーとしてもそう。生活を繋ぐ為だけであれば、もっと効率の良いやり方があるはずです。涸れた湖を捨てて新しい水場を探すみたいに、不調に陥ったウマ娘は切り捨てて、新しいウマ娘を探してみたり……まあ、そこまで極端な話はまずないでしょうが。例えばリスク分散のため、複数人を同時に育てたり、なんてことは普通にありますよね?」

「まあ……確かに、あるけど……」

「けれども貴方ときたら、毎日毎日『アルダンアルダンアルダンアルダン』と……ふふっ、それが単なる愛着なのか、それとも本物の愛情なのかは私には知る由もありませんが……♪」

「……『愛』かぁ」

 

再び汗ばんできた身体に、今度はゆっくり、ゆっくりと水を流し込んでみる。甘み……というのかどうかまだよく分からないけど、そうだな。全くの『無色透明』、けれども間違いなく『無味無臭』などではないことは、僕にだって、理解出来たのだった。

 

「確かに、そうだ、すっかり忘れてしまっていたのかもしれないな。君と出会った日のことも、どうして僕が、君のトレーナーになったのか、も」

「ふふふ、きっと今は、それだけで十分なのではありませんか?」

「……うん、それだけで十分だ、それだけで僕は、この先何十年だろうと生きていけるはずだ」

 

トレーナーとしての責任とか、世界を塗り替えるとか。それもまた、僕にとっては当たり前に大事なことで、それを諦めるつもりも絶対にありはしない……けれども、ひとまずそれは、一番じゃないな。

『水の甘み』というものを、ほんの少しだけ理解できたのと同じように。今、目の前に居る愛する彼女の、まだ見ぬ強さ、美しさ、優しさ、そんな可能性溢れる魅力たちを、他ならぬ僕自身がもっともっと知りたい、味わいたい。喜びも苦しみももっと、彼女と共有していきたいと、今、心からそう思う。

 

それこそが本当の、僕が時々忘れてしまう、僕らにとって何よりも大事なこと。

 

「ええ、私という湖だって、この先何十年何百年と涸れるつもりはありませんよ?トレーナーさんがちょっとやそっと汲み取ったくらいでは、底なんて見えやしないでしょうね♪」

「はは……みたいだね。『愛』を語る君なんて、本当に初めて見たよ?」

「ふふっ♪……だからね?トレーナーさん?」

「ん?アルダン?」

「少しずつでいいんですよ、少しずつで。今日中に全部解決なんてしなくていいんです。先は長いのですから、ね?」

「……ああ、そうだね?ゆっくり、ゆっくりね?」

「ふふ、ではタイムについてはお互い宿題ということで……私からトレーナーさんに、もう一つご提案。これから喫茶店にでも行って、今度は貴方の好きなコーヒーをご一緒しませんか?」

「ふふふっ!それは丁度良かった……まだ君に教えてない、とっておきの店があるんだよね?」

「まぁ……!それはそれは、楽しみです♪」

 

いつの間にか入道雲が流れ込み、優しくなった陽の光。そんな空模様をしかと見つめてから、僕はもう一口、手元のボトルから水を口に含ませる。正味あと200ミリリットル、この愛おしさだって、できるだけ忘れないでいよう。しっかりと水を吸わせて、柔らかくクリアになった脳で、僕はしかと、考えたのだった。

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