メジロアルダン短編集『to the MEJIRO ARDAN』   作:いずさわ

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機動する、僕の情熱。




FREEDOM

「……あれ、アルダン来てたんだ?」

「あら?トレーナーさん、おかえりなさい♪」

「うん、ただいま……ん?」

 

午前中いっぱいの挨拶回り、ヘトヘトに疲れながらトレーナー室に帰りついた僕を癒してくれた、彼女の、メジロアルダンの木漏れ日のような笑顔。ひとしきり目を奪われた後、次に僕の瞳に入り込んで来たのは……

 

「なにそれ?何持ってるの?」

「ふふふ、これ、ですか?」

 

彼女が差し出してきた『それ』を、おずおずと近づいて、目を凝らして見てみる。

彼女の手のひらより少し大きくて、全体的に角張ったシャープなデザイン。青と白の爽やかで近未来的なカラーリングで彩られた、それは、まさか……

 

「ロボ……ット……!?」

「ええ、ロボットさんです♪」

「うぉーっ!凄い!何これ、プラモデル!?」

「ふふ、思った通りの反応ありがとうございます♪よろしければ、お手にどうぞ?」

「え?いいのぉ!?」

 

なんだかよく分からないけれども、衝動の任せるまま、彼女からそれを受け取る。光沢のある塗装で纏められた、二腕二足の何らかの模型。僕の両手にすっぽりと収まったそれは、なんだか思ったよりもひんやりずっしりとしていた。

 

「うわ!重い!金属製!?なんの作品の機体か分からないけど、めちゃくちゃよく出来てるなぁ……!塗装も細かいし、造形とかも……ええっ?なんだこの可動域!?どういう間接構造してるんだ?」

「ふふふ、やっぱりトレーナーさんは目の付け所が違いますね?」

「いいや、それ程でも……それにしても、なんだろうこのロボット?女性的な体型に、耳を模したアンテナ……言うなれば、『メカウマ娘』ってとこなのかな?」

「あら、流石の鋭さですこと……」

「もう、褒めてもなんにも出ないよ?」

 

受け取ったそれを、夢中で触る、触る。まるで生きたウマ娘と遜色ない程の可動性に、なんともヒロイックなビジュアルに、心がざわめき立つのが、自分でも解る。が、やっぱり流石に気になってきたのは……

 

「しかしまた、なんでアルダンがこれを?こういうのに興味が出てきたのなら、是非ともじっくり語り合いたいところだけれども……」

「ふふふ、それも素敵なご提案ですが、少し違いますね?こちらのロボットさんは、とある方からの頂き物なのです」

「頂き物?一体誰から……」

「そうですねぇ、全て話すと長くなりそうなのですが……」

「全然、簡潔にでいいよ?」

「では、簡潔にお伝え致しますと……本日の全校集会で、理事長さんとご一緒に、自動車椅子に乗った博士さんが現れまして……」

「ん!?自動車椅子に乗った博士!?」

「そしてその後に、等身大ウマ娘型二足歩行ロボットも現れまして、ですね?」

「等身大ウマ娘型二足歩行ロボット!?!?」

「それで、その博士さんにこちらをいただいたのです♪」

「ごめん!?もう少し詳しくいいかなぁ!?」

 

 

──────────────

 

 

「……と、言うわけで、シュガーライツ博士さんが今、協力者を募っているそうなのです。ビワハヤヒデさんやエアシャカールさんなどは、早速博士さんに着いていかれたようでしたが……」

「なるほど……なるほど?なるほど……なるほど?」

「……ええと、大丈夫ですかトレーナーさん?なんだかお目目がパチパチしていますが……」

 

一通り、今日見聞きした事を話してくれたアルダン。なんとも荒唐無稽、にわかに信じ難いような内容……で、あったのだか。

 

「……とりあえず、あれだね、アルダン」

「はい?」

「……僕も!メカウマ娘!見たいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!そしてあわよくば!あわよくば動かしたいぃぃぃぃぃぃぃい!!」

「ふふ、そう仰るだろうと思っていました♪」

「どこ!?その……シュガーライツ博士?どこ?今どこにいるの!?」

「あら残念、本日はもう帰られたそうです♪」

「うわーっ!くそーっ!挨拶回りなんて行かなきゃよかったーっ!」

「ふふ、ふふふ♪」

 

年甲斐にもなく、思わずその場で地団駄を踏む情けない僕……しかし、そうだな、本気で悔しいものは悔しいのだ。僕は手のひらの上の彼女をぎゅっと握りしめて、彼女が自由に動き回る姿を悶々と想像した。そんなの、絶対、めちゃくちゃカッコいいじゃん……

 

「まあまあ、また定期的に来られると仰っていましたので、まだまだチャンスはありますよ?」

「ううー……今度こそ、今度こそは……!」

「それに、ですね……等身大のものは無理ですが、『ロボットを動かす』ことなら、これからいつでも出来ますよ?」

「え?どういうこと?」

「ふふ、実はその子、ただの模型では無いのです。少し、テーブルの上に立たせてあげてくださいますか?」

「ん?こう……で、いいのかな?」

 

アルダンの指示に従って、僕は彼女を……『シュガーライツ専用MU(メカウマ娘) ST-2 デモンストレーション用1/10スケールモデル』を、目の前のテーブルに優しく立たせる。うーん、我ながら見事なS字立ち、本当にカッコいいなぁ、本当に。

 

「ふふふ……ちゃらららーん♪」

「おっ?それは……カチューシャ?」

 

なんだか愛らしいジングルと共に、アルダンの四次元……ではない、普通のポケットから現れたのは、なんとも珍妙なアンテナが付いた、小さめのカチューシャであった。ひとしきり見せびらかしたそれをそっと頭に取り付けて、唐突に立ち上がるアルダン。そして……

 

「よーく見ていてくださいね?よーく、ですよ?」

「う、うん、よーくだね?」

「では、いきますよ……えいっ!」

 

「……え、ええええっ!?!?」

 

思わず、飛び出してしまう叫び声。しかしそれも、仕方の無いことであろう。

僕の目の前で、アルダンはおもむろに両の腕を、思い切り振り上げる……すると……

 

「こ、こいつ、動くぞぉ!?」

「ふふふ、びっくりしました?」

 

なんと、テーブルの上に立っていた彼女もまた、アルダンの動きに連動して動き始めたのである。思わず身を乗り出して彼女を観察する僕に向けて、アルダンはしたり顔で話し始めた。

 

「本物のST-2さんにも使われている神経伝達回路の簡易版を搭載した、試作量産型モデル……なのだそうです。流石に歩くことまでは出来ませんが、その場でポーズを決めることくらいならば……このとおり♪」

 

ウィーン……カシャン……カシャン……

 

「うおおぉぉっ!凄い!モビルトレースシステムってこと!?」

「モビ……?」

 

腕をぐるぐる回したり、ピースサインを決めてみたり、なんともよく滑らかに動く彼女……と、なんとも楽しげに可愛らしく動くアルダン。正直どちらに目を向ければ良いのか分からないが、それはまあ、今は置いておこう。とにかく、今大切なのは……

 

「なんだか楽しそうだったのでずっとお話を聴いていたのですが、最後まで聴いてくれたお礼に……ということで、いただいたのです。どうです?凄いでしょう?」

「うわーっ、凄い、すごい……!やばいなこれ……!やばい、やばい……!」

「……ふふっ、トレーナーさんも、やってみます?」

「ぅいいのぉっ!?」

「っ……ふふふっ……ええ、もちろんです♪」

 

その場で飛び上がって、何故だか笑いを堪えているアルダンからへんてこカチューシャを受け取る僕。少しだけ、一呼吸置いてから、そっとそれを頭にはめ込んで、スイッチを、押す……と……

 

「………………」

 

カシャ……カシャン……

 

「っ、う、おおおおおっ!う、動いた!動いたよっ!ねえっ!アルダン!ねえっ!」

「っ……!ふふっ!ふふふっ!ええ、ええ、動きましたね?」

 

まるで小さな弟か子供を見守るような目を向けられている……ような気もしたが、それも今は置いておこう。

 

「うわーっ!凄いなこれ!めちゃくちゃ細かく反応してる!これ、これ、どうしたらいいのかな?」

「ふふ、トレーナーさんのご自由に、どうぞ?」

「そうだなあ……こう、こうかな?もう少し腰捻れるかな?うわ!まだいける!カッコいいーっ!」

 

アルダンに言われた通り、思うがままに彼女を動かしてみる僕。しかし、本当に凄いな……!それこそミリ単位で、指先までしっかりと僕と連動してるみたいだ。一体何者なんだ、シュガーライツ博士……!

 

「……こう、か?もっと指をピンと伸ばして……いや、むしろ伸ばしすぎない方がいいのか?頭の、角度……うぐ、見えづらい……し、ポーズキープ、しんど……」

「ふふ、ふふふっ……!」

「あ、アルダン?」

「ふふ、申し訳ございません……なんだかこんな所でも、トレーナーさんはトレーナーさんなのだな……と」

「ど、どういうこと?」

 

全身の筋肉という筋肉を引き伸ばしながら一番カッコいいポーズを模索する僕に、なんだかあたたかな笑い声を投げかけるアルダン。なんとか瞳だけ動かして、彼女の言葉に、耳を傾ける。

 

「『自分のやらせたい動きを真似させる』のではなく、『彼女が一番格好よく見えるポーズを一緒に探してあげる』というのが……まさしく、貴方らしいな……なんて、そう思いまして♪」

「えっ?ええと……そうかな?そんなこと、今まで考えたことも無かった……」

 

アルダンに言われて、ふと考えてみる……言っていること自体は理解できるが、やはりピンとは来なかった。

 

「ふふふ、おかげさまで私ものびのびとやれているのですよ?いつもありがとうございます♪」

「そ、そりゃ、どういたしまして……ううん……」

「トレーナーさん?」

「……ほんとはさ、誰がやったってカッコよくなるようなポーズがあれば……それこそ機械的にそうさせておけば済むようなものがあれば、それに越したことはないんだろうけど、さ?」

「まあ、そう、ですね?」

「けど、やっぱり。ロボットでもヒーローでも怪獣でも……ウマ娘、でも。それぞれ沢山の個性があって、それぞれ似合うポーズも……それに、それぞれが『取りたいポーズ』も、全然違うんだろうし、ね」

「………………」

「やっぱり、当人がやりたい事をやらせてあげるのが、一番いいんだよ。きっと……なんてまあ、彼女が、ロボット自身が取りたいポーズなんて、聞いても教えてくれる訳じゃないから結局は僕の想像なんだけどね?」

 

そんなことを呟いてから、改めてテーブルの上の彼女を見つめてみる。なんだかまだまだ不格好なポーズで締まらないけれど……それでも彼女を見つめ、動かすのは、やっぱりひたすら、自由で楽しかった。

 

「ほんとうに、貴方が私のトレーナーさんで良かった……」

「え?ご、ごめん、今そっち向けないから、もう少し大きめの声でお願い……」

「……ふふふ、そこ、もう少し腰を捻った方が格好いいのでは無いですかー?」

「おっ!そう思う?ふふふ!おっけーおっけー!もう少し、もう少し……この、くらい、か……」

 

ゴギッ

 

「ぐえっ」

「えっ?」

 

「こ、腰が……も、げんか……い……」

「と、トレーナーさん?トレーナーさん!?し、しっかりしてください!トレーナーさん!」

「や、やっぱり……僕ももっと、強く、ならない、と……」

「トレーナーさん……!トレーナーさーん!」

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