メジロアルダン短編集『to the MEJIRO ARDAN』   作:いずさわ

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本気になっちゃう、五秒前。




TickTack…Bomb

「『ピザ』と十回言ってくださいますか?トレーナーさん?」

「んっ?ああ、ピザピザピザピザピザピザピザピザピザピザ……」

「ここは?」

「肘!」

「残念、膝でした♪」

「あっ、逆に!?」

 

トレーナー室の中、虚しく反響する僕の声にしたり顔を浮かべる我が担当ウマ娘、メジロアルダン。彼女と出会って早数年になるが、相変わらず、いつだって彼女は僕の想像の一手先を突き進む。

 

「相変わらず真っ直ぐですねぇ、トレーナーさんは♪」

「うぐぐぐ……ストレートに悔しい……」

「ふふ、そんなに落ち込まないでください?そういう実直なところ、私はすごく好きですよ?」

「う、ううん……そう、なの?」

「ええ、好きです♪」

「……あのさ、アルダン」

「はい?なんでしょう?」

「……いや、やっぱり、なんでもないよ」

 

いつだって、彼女は僕の想像の一手先を突き進む。例えば、そうだ、僕が色々なことを恐れて伝えられない言葉だって、彼女はいとも簡単に口にしてしまう。

 

「ほんと、君には敵わないなぁ」

 

ふんわりと、まるで柔らかく空気を纏うように、彼女は僕の前で上機嫌にはにかんでみせた。その様があまりに美しくて、同時にあまりに、ほろ苦く感じた。

 

「では、次の問題です♪」

「あ、まだあるんだ……」

「お次は、『シャンデリア』と十回言ってください、トレーナーさん?」

「ちょっと言いづらいなぁ……シャンデリアシャンデリアシャンデリアシャンデリラシャンデリラシャンデララシャンデララシャンデ……リア、シャンデリア、シャンデリア!」

「ガラスの脚を見つけたのは?」

「シンデ……いや、王子様だ!」

「ふふ、残念♪」

「えっ!?いや、だってガラスの脚を見つけたって……ん?ガラスの、脚?靴じゃなくて?」

 

ニヤ、ニヤと、なんだか顔の周りにオノマトペが浮かんできそうなアルダンを、こちらは渋い表情で見つめ返す。一通り、喉のつっかえが取れない僕の様子を物珍しそうに観察してから、彼女は口を開いた。

 

「というわけで正解は、トレーナーさんでした♪」

「はい?」

「ガラスの脚と呼ばれ、誰からも見初められなかった私の事。唯一見出して、救い出してくれたのは、トレーナーさん……だったでしょう?」

「えっ?そ、そんな無理やりな……」

「何か、間違えていますか?」

 

一瞬、言葉の意味が分からず固まる僕に、これ見よがしにひょこひょこと近づいてくるアルダン。上目遣いで、まるで甘えるような口振りで言葉を紡ぐ彼女の声に、持っていかれそうになる意識を、なんとか叩き直す。

 

「んー、間違ってはない。間違ってはないけど、問題文には少し違和感がある、かな」

「というと?」

「僕が見つけたのはガラスの脚じゃない、『メジロアルダン』だから、ね」

「────っ」

「勿論、君の走りにも凄く魅せられた。けれどもそれ以上に、僕は君のその心に強く惹かれたんだ。君のその、強い覚悟を持った瞳と、けれどもどこまでも優しい、全てを包み込んでくれそうな笑顔が、僕は、すっ…………す、素敵だと、そう、思った、から」

「──ふ、ふふっ、もう、トレーナーさんったら……」

 

勢い任せで、彼女の真似をしてみ……ようとしたものの、やっぱり照れくさくなってお茶を濁す僕。本当に、まだまだ彼女には敵わなさそうだ。

 

「しかし、まあ、あながち不正解でも無いかもしれませんね?私にとっては、トレーナーさんが『王子様』ですもの♪」

「アパート住まいの王子様かあ、なんとも締まらないなぁ……」

「ふふふ、では今度、ふたりだけで舞踏会を開きましょうか?きちんとガラスの靴は置いていきますから、ね?」

「……12時じゃなくて、門限までには帰りなよ?」

「それは……善処します♪」

 

本気なんだか、なんなんだか……掴みどころのない笑顔を振りまく彼女に、胸の鼓動が流石に誤魔化しきれなくなっていく。万が一、億が一に備えて、ちゃんと掃除しとかないと、かなぁ……

 

「それでは、次の問題、です♪」

「はいはい、次は何を言えばいいの?」

「……その、次は、ですね?」

「?」

 

なんだか、凄く溜めに溜めて、しばし目を逸らして、前髪のまとまりを気にして、それから、深呼吸もして……

 

「『好き』だと、言って欲しいのです、貴方に」

「えっ」

 

真っ直ぐに、僕の瞳を捉えながら、なんともしっとりと湿った声色で、彼女は、言葉を紡ぐ。

 

「……ふふ、どうされましたか?早く、十回、お願いします♪」

「あ、ああ、うん、そういうこと……」

「あら?どういうことだと思われたのですか?」

「い、いや、なんでもない、なんでもないから!」

 

なんだか先程より薄くなった空気を必死に吸い込んで、震える声帯から声を絞り出す。今の僕は、一体どんな表情になってしまっているのだろうか、は、とりあえず一旦考えないことにした。

 

「じゃ、じゃあ言うよ……」

「はい、お願いします♪」

「す、好き、好き、好き……っき、っき……」

「トレーナー、さん?」

「す、好きっ!好き、好き……好き!好きっ!はいっ!言った!」

「……ふふっ」

「アルダン?」

「では、ここは?」

「……んっ!?」

 

……小さく吐息を漏らしたあと、彼女はそっと、その淡く色付いた口元まで、自らの手を伸ばした。細く、白く、繊細な小指の先を、形にそって優しく這わせて、そうして、目を細めながら、小首を傾げる。

あまりの熱っぽさに、僕の頭の中に白く濁った霞が立ち込めた。心臓のリズムに急かされて、思わず僕は、考えを巡らす前に、言葉を発してしまう。

 

 

「き、キス……?」

「……残念、唇、でした♪」

 

 

小さく舌を出す、なんともイタズラなお姫様にやきもきさせられる王子様の心。窓ガラスを潜り抜けて真っ直ぐ差し込む夕陽の光は、まるでお城のシャンデリアみたいに、僕らのことを照らし出すのだった。

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