5枚全てが手札に揃った時、デュエルに勝利する。ただし運命力により初手で5枚揃うものとする 作:ロイヤルソイミルクインスタントコーヒー
「ヘッヘッヘ! もう後がねぇなぁ嬢ちゃん。泣いて許しを乞うってンなら考えてやってもいいぜぇ」
下卑た男の笑い声がエンゲージフィールドに響いた。
たった今、直接攻撃を許して私の敗北が決定したところではあるが、私は再び左腕に装着したリンカーテーブルを胸前に掲げる。
この世界を席巻する謎のカードゲーム『サモンエンゲージ』 ──実を言うとゲームというのはふさわしくないのだが──は、ありがたいことに多くの場合でBO3制、2本先取制を採用している。
みんな大体律儀にそれを守ってくれるので、わたしは安心してこの"2軍"でカードバトルを楽しむことができると言うもの。なにせ"真なるカードバトル"などと呼ばれる、裏社会のやくざ者のバトルでもこのルールには従っているのだ。
そうでなければ、私はきっとチキンにも、チート臭い、どころかチートそのものであるこの"1軍"を毎度のごとく使い倒していただろう。
私は影でリンカーテーブルに収められたデッキを、スッと1軍に入れ替えた。別にバレたところでどうと言うことはないけれど、気分の問題だ。突っかかられるのは、回数が少ない方がいい。
「なんだよ。まだやンのか。ま、考えてやるってだけだったけどなぁ! やるならさっさと終わりにしようぜぇ! サモンエンゲージ、スタンバイ! ドロー!」
「ドロー」
相変わらずこの不躾な対戦相手の男は、自分本位で無理矢理にゲームをスタートさせた。
多分、仮に負けたとしても、バトルカメラのデータを提出すれば法廷でバトルの無効の沙汰が下ることだろう。ま、真なるバトルともなると、それができればと言う話にはなるのだが、それは別の話だ。
私が1軍を使う以上、負けはあり得ないのだから。
「ほんっと、もう。心配性なんだから……」
最初に配られるカードを順々に引いていくと、当然のようにいつもの顔ぶれが揃っていく。
「俺は、カードを2枚セット、さらに攻撃表示でモンスターを召喚──」
「その必要はないわ」
そうして私は、隠して然るべき手札のカードを相手に見せる。ちなみに時は止めてない。
初手に配られた最初の手札5枚。その内訳は、
『封印の魔神 ゾアーク』
『燃え盛る火の封印の要』
『凍えたる水の封印の要』
『吹き荒ぶ風の封印の要』
『揺れ蠢く土の封印の要』
の5つ。
明らかに何か揃っている風のカード群ではあるけれど、実際その通りだ。
『封印の魔神 ゾアーク』の効果は以下のよう。
──────────◇──────────
戒限: このカードはデッキに1枚しか加えることはできない。
●このカードと『燃え盛る火の封印の要』『凍えたる水の封印の要』『吹き荒ぶ風の封印の要』『揺れ蠢く土の封印の要』 の5枚すべてが手札に揃った時、自分はデュエルに勝利する。
──────────◇──────────
まあ、いわゆるエ○ゾディアである。
「な、なんだ……そのカードは!」
脅迫でもしようかという大声をあげた男は、リンカーテーブルの機能で表示される相手カードの情報を見ていたのだろう。
お互いに強カードを持っていることが前提で構築を競っていた前世と違い、真の意味でトレーディングなカードゲームが行われているこの世界では、初見のカードというのは珍しくない。
もっとも、カード効果の照会申請なんて、普通は突っぱねるところだが、私はこのカードたちに限っては許可することにしていた。
ただ、声を荒げたくなるのもわかる。
こんなん私が相手にされたら発狂ものだ。そのうえカードバトルに賭けるものがあればなおさらである。
「まさか……、勝利を決定するなんてカードが、この世に存在するってのか?!!」
【封印】の5枚のカードは、例によってこの世界では超激レアカードだ。
というか、たぶんこの1枚ずつしかないんじゃないだろうか。
特殊勝利なんていう現象自体も、私と相対して初めて経験するケースがほとんどかもしれない。
「そんなの、まるで神じゃァねぇか……!!」
いや神なんだけどね。封印の魔"神"だし。
とはいえ、この【封印】の5枚。ゾアークには悪いけど、実のところそんなに強いわけじゃない。
まずは当然、ゾアーク以外の4枚も、共通のデメリット効果「このカードはデッキに1枚しか加えることはできない」というのを持っていて、それ以外の効果はなし。
専用サーチカードなんてもちろんないから、汎用のカードでガンバって引くことになるわけだけど、『サモンエンゲージ』というカードゲームのとある事情もあって、サーチやサルベージといったそこら辺のカードは少々扱いづらく。
しかも某本家様と違って属性もバラバラなのも劣化点だ。なんならゾアークは【神】とか言う名前がかっこいいだけの謎の属性付きで、各属性系の汎用サポートカードの援助さえ受けることができない。
その上、本家様同様の対策の容易さも変わらない。
普通に使えば、先ほど言った通り2本先取制では、そこそこできるカードバトラーなら2戦目以降は対策できてしまうのが実情。もちろん対策札があればの話だけど。
と、ここまで言うと、なんでそんなカード使ってんの?って話だが。
ここにきて、一つこの世界特有の強みが悪さをする。
ええ、それはもう、マジでぶっ壊れの悪さを。
カードゲーム世界あるあるの話だけど、「デッキが答えてくれる」みたいな言い回しを聞いたことはないだろうか。
まさにその通りで、この世界のカードバトラーはある程度、自分の望むカードを引くことができるのだ。
あとはもう、わかりますね。
ディスティニードローで、初手にゾアークを揃えるだけです。
──……なんだこのクソゲー。