5枚全てが手札に揃った時、デュエルに勝利する。ただし運命力により初手で5枚揃うものとする   作:ロイヤルソイミルクインスタントコーヒー

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第2話 超人的運と呼べば聞こえはいいが実質イカサマ

 クソムーブによって無事、1勝を取り返した私だが、2本先取というルール上、一応まだもう1戦分の勝利が必要だ。

 

「いや……、こんなのまぐれだ……。その【封印の魔神】とかいうカード、引けなければ意味がねぇ。最小枚数でデッキを作っても、1/2118760……。天文学的な確率だ…。パワープレイだってそんな奇跡みたいなこと、何回もできるわけじゃねぇだろ」

 

 こいつ計算速すぎん?

 

 私の1軍と戦った(?)相手は、そこでもう折れてしまうことが少なくないのだけど。今回の相手は意外にも食い下がって3戦目を要求した。

 

 パワープレイというのはいわゆるデッキが答える系のプレイングのことだ。

 別にこの能力は主人公とその周囲だけとかそういうものでもない。少なくないカードバトラーが、力の大小はあれど持っているため、カードバトルにおける"運"という才能は半ば(おおや)けに認められている。

 

 しかしながら、そのパワープレイにも限度というものがある……らしい。

 普通なら、そんな特定の5枚を初期手札に持ってくるなんて芸当は不可能……なのだそう。

 たしかに世界一を決めるような大会でも、初期手札が毎回同じなんて不自然すぎる現象は起きない。

 そのうえ"運"筋みたいなものが疲労するのだろうか、能力を持っていたとしても普通の人はそう何度も引き起こせるものでもないのだという。

 

 まあ、真のサモンエンゲージバトラーは確率とか理屈とかそういうのの外にいるので、ね。

 引けちゃうんだよなぁ。これが。

 

「残念ながら、そんな一々考察したのも、意味ないみたいね」

 

 そうして再び始まったカードバトルの初手札を、私は見せる。

 

 そこには当然のように、【封印の魔神 ゾ・アーク】【燃え盛る火の封印の要】【凍えたる水の封印の要】【吹き荒ぶ風の封印の要】【揺れ蠢く土の封印の要】の五枚がそろっていた。

 うーん、これはチートですねぇ。

 

「そんなの……、そんなのありえるわけがねぇ! テメェ!サマしてんだろ!!」

 

 すさまじい剣幕。それも当然だ。

 彼はこの一戦に、この世界では命とも呼べるデッキを賭けたのだから。

 

「仮にイカサマをしているとして、貴方は見破れなかった。そして、システムも……」

「……!!」

 

 憤怒の表情を浮かべた顔とは裏腹に、まるで体だけ別の生物が操っているかのように、男はデッキをリンカーテーブルから取り出して、恭しく私に差し出した。

 

「う、嘘だ! 嫌だぁ!! こんなところで! こんなイカサマで!! この俺が!!」

 

 もはや泣き叫ぶような様相となった男は、それでも暴力に走ったりすることはなく、ただ私にデッキを差し出すだけ。

 

 これこそが、『サモンエンゲージ』がこの世界を席巻した理由だ。

 今となっては表舞台からはほとんど姿を消してしまったが、"真のバトル"と呼ばれるサモンエンゲージのカードバトルには、強制執行システムが備わっているのである。それにより、敗者はバトル前に契約した条件に則って、問答無用で対価を支払うこととなる。

 このシステムは、戦争やその他の暴力に取って代わることとなり、やがて『サモンエンゲージ』はこの世界の中心となったのだ。

 

 もっとも、この対戦相手の男に同情する必要はない。

 この男は、己のデッキを賭ける代わりに、私に身体を、終身奴隷契約を要求していたのだから。

 裏社会には少なくないカスどもの端くれ。そんなものに使われていたカードたちを救ってあげると言うのだから、感謝して欲しいくらいだ。

 

 ま、このカードたちが私に"答える"ことはないんだけどね。

 

 

 男のカードを回収した私は、そのまま警察に通報。

 ふぃ〜。気持ちェエ!!

 自分を強いと信じて疑わない『闇のカードバトラー』を懲らしめた時が1番、生を実感する!!

 

 レアカードが手に入るというのもそうだけど。

 ドヤ顔で不公平なアンティルールのカードバトルを挑んできたゲスカスに、社会的制裁をぶちこめるのは気持ち良すぎる!

 これだから裏社会の『真なるバトル』はやめられねぇなぁ!

 

 

 ◇

 

 

 戦利品のカードを確認し、ひとしきり生を実感したところで。

 チラッと、男の方をまた見ると、顔の穴という穴からもう判別したくもない液体の類を垂れ流れていてそれはもうひどい有様だった。この顔を見られただけで、何も悪いことをしてなくても社会的に死んでるレベル。

 ……負けたら男の方もこうして社会的に死亡確定ということは、意外とカードバトルの賭けは釣り合っていたのかも……。

 

 

 ちなみに、この世界での裁判の大半は、紙束を渡しての出来レースの『真なるカードバトル』によって真相を明らかにしている。

 必然的に有罪無罪を争うことはほぼなく、量刑を争うことになるわけだけども、流石に刑事と弁護士がカードバトルしたりはしないようだ。

 冷静に、雇った弁護士のバトルの能力って、被告人の罪には関係ないしね。

 

 ただ、大事件の主犯格レベルのサモンエンゲージバトラーともなると、紙束から土壇場で強カードを生み出して逆転勝利されてしまったりすることも、ごく稀にあるとかないとか。

 生み出すってなんだよ。

 ちなみにこの場合、無罪になる。(やべーなこの世界)

 

 

 念のため、「エイエイッ」と足先で軽く蹴って男の状態を確認したところ、案の定、男はそのグチャった顔のまま完全に気を失っていた。

 サモンエンゲージでの敗北に加え、カードをデッキごと失ったこと、さらにはゾアークの効果を受けた衝撃により、多大な精神的なダメージを負っていたのだろう。

 この分なら、今回も放置しておいて問題なさそうだ。

 

 当たり前だけど、警察沙汰、裁判沙汰がほぼ確定な以上、被害者である私も本来なら裁判等に出頭する必要がある。けれども、そんなこと一々やってたら、もう私のスケジュールは大人気弁護士ばりに裁判にかかりきりだ。

 その上、メリットもない。示談金とか賠償金とかはもらえるかもしれないけど、金が欲しいだけなら手に入れたカードを売ればいいし、ゾアークを悪y……もとい、上手く活用すればいくらでも手に入るしで、ただただ時間を浪費するだけ。こっちはボランティアで悪のカードバトラーをとっ捕まえてやってるのにさぁ。

 というわけで、私は犯罪の証拠だけ残してさっさとトンズラすることとしていた。どうせ、この手の連中は叩けば余罪がいくらでも出てくるし、わざわざ証人不在の私の事件でなくても有罪となることだろう。

 

 カードバトルを行う端末である、リンカーテーブルにはバトルの履歴に加えて、『真なるカードバトル』を行った際の契約も残ってしまう。カードを賭ける行為、いわゆるアンティルールは黒寄りのグレーゾーンだが、人身を賭ける行為は明らかな違法行為だ。

 なので、もしも余罪がなくても、この倒れた男のテーブルは、違法行為の立派な証明となる。

 

 警察は凶悪犯を捕まえられて、私は気持ち良くなりながらカードをGET! win-winの関係だ!

 というわけで、見逃してくれませんかねー、いやほんとマジで。(勾引状交付済み)

 

 私は、一敗しても余裕でまくれる安全圏から、日常に些細なスリルをもたらす賭けカードバトルを楽しんで、悪のカードバトラーを勧善懲悪パンチで気持ち良くなりながらぶっ倒して、ついでに臨時収入を得つつ、平穏な日々を過ごしたいだけなんだけど。

 

 

 

 しかし、そんな私の願いは今回も誰に通じることもなく。

 さらには、トタトタと誰かの足跡が私の耳に届いた。

 

「ひっ、人が倒れてっ……! も、もしかして……『闇のバトラー』!!?」

 

 物陰から現れたのは、小柄な少女だった。

 ドラマの子役をやっていそうなくらいバエる顔立ちの子だ。

 私には及ばなくとも美少女と言える女の子だろう。

 

 はぁー。生存本能を満たして活性化していた脳の報酬系が萎えるのを感じる。

 せっかく人が気持ち良くなっていたところなのに。

 

 

 別に私は悪いことをしていたわけではないけれど、顔を見られてしまったのはまずい。主に、勾引されそうって意味で。

 そこまで顔が広いわけでもないけれど、警察の捜査というのも必死だ。通報があって逮捕したのに、目撃者不在で立件できないなんてメンツに関わる。余罪があって結局犯人をしょっぴけるとしても、だ。

 この子の目撃証言から、私まで辿り着く恐れがある。

 

 

「ま、なんであれ。見られちゃったってのは、困るなぁ」

 

 目撃者には、口封じをしなければ。

 それも急行しているだろう警察が着く前に。

 

 私は大人げなく最速で2戦を勝つつもりで、1軍をセットしたままのリンカーテーブルを前に構えた。

 

「じゃ、お姉さんとバトルしよっか」

「それって、真のサモンエンゲージバトル……?」

「ん? 知ってるんだ」

 

 『真なるカードバトル』の存在は、あまり公けではない。

 その代わりとして、「お菓子をくれようとする不審者に近づいてはいけない」みたいな括りで、『カードバトル誘われても安易にプレイしてはいけない』と教えられる。

 

 逆に言えば、子供が飴を貰えるのと同等レベルに魅力を感じるもの、それがこの世界の『サモンエンゲージ』の立ち位置だ。

 それくらい、この世界の住人は、異常なほど『サモンエンゲージ』を好んでいる。具体的に言うと、目が合ったからカードバトルを挑んでもギリ受けてくれるくらい。

 

 

 とはいえ、単に断れば済むのであれば、カードバトルが強そうな相手との『真なるカードバトル』なんて避けるもの。

 しかし、真なるバトルの最も悪辣な点は、主導権が申し込んだ方にあることだ。

 つまり、『真のカードバトル』からは逃れられないのである。

 

 色々と条件はあるものの、──

 

 

【ERROR: デッキ不検出】

【ERROR: リンカーテーブル不検出】

 

「エッ」

 

【不戦勝を宣言しますか? YES/NO】

 

「エッ」

 なにこれ初めて見た。

 ドヤ顔で「逃げられないのである」とか言ってた『真なるカードバトル』が始まらんのやけど。

 どした? ついに壊れたか?

 

【エンゲージフィールドから対象が離脱。バトルをキャンセルします】

 

「エッ」

 

 

 ……

 …………

 ……えーっと、エンゲージフィールドから対象が離脱……。

 

 って、逃げられてるやん!!

 

 

 ◇

 

 

「やばいやばいやばい」

 

 黒塗りの高級車に白塗りのバンをぶつけられた団員並みに「おいゴルァ!!待てやゴラァ!!」と追いかけたものの、ついぞ私は少女を見つけるはできなかった。

 ひとえに私の足が遅ェせいだが。

 仕方ないじゃん。アゼルバイジャン。

 こちとら文化部(カードバトラー)ぞ? 運動部(カードバトラー)に勝てるわけがないよ。

 

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