5枚全てが手札に揃った時、デュエルに勝利する。ただし運命力により初手で5枚揃うものとする 作:ロイヤルソイミルクインスタントコーヒー
剥き出しの配管や壁に飾られた雑多な装飾品はごちゃごちゃした印象ながらも、アメリカンヴィンテージに統一されたレトロな雰囲気は、まさに趣味の店と言った風体。
しかし、商品棚に並んでいるのは、こういう店にありがちなアクセサリーやフィギュア、雑誌といったものではなく、ひたすらカード、カード、カード。
意外なことに防犯の方はしっかりとしていて、それらのカードはガラスケースに収められている。防犯カメラはもちろんのこと、よく見ればカウンターからの死角も少ない。
そしてそのカウンターには、深い黒の髪を長く伸ばし、アートのようにアシンメトリーに編み込んだ、店の雰囲気に合わせたパンキッシュな服装の現役
そう、私です。
私の裏の顔を知ってしまった少女を、涙を呑んで見逃してあげた、女神様のように優しくて天使のようにかわいい私は、一抹の不安を抱えながらも普段の生活に戻っていた。
普段の生活、それはカードショップのバイトである。
ただのバイトと思うなかれ。『サモンエンゲージ』に関する資格も必要な、限られた人にしか許されない職業なのだ。……給料安いけど。
しかもバイトリーダーだ。1人なので誰がなんと言おうとバイトリーダーである。大学の知り合いにはそう紹介してる。……給料安いけど。
カードショップのバイトリーダーなんて、この世界では全国の学生の憧れの的だし、就活でも使えるくらいだ。……給料安いけど。
え? 店長じゃないのかって?
いや。カードショップを経営するには大企業がバックにでもいるか、公式大会での実績を持っているか、ってレベルが必要だから……。
初手ゾアーク5枚を数十回連続しつづけて優勝したとして、実績として認定してもらえると思う? 無理でした(白目)。
「おいおい、チカちゃん。勤務中にゲームはまずいんじゃないの?」
そうして座ってるだけで不労所得がもらえる仕事に就けなかった私は、場末のカードショップでダルがらみしてくるオッサンの相手をしているのであった。
ここでは
チチとか呼んだやつはゼロターンキルでぶっ飛ばして生きてきた。
「いいのいいの。どうせ客なんてそうそう来ないし」
「目の前にいるのも、一応お客さんなんだけどもね……」
「あらそうだった? でも、カードを売りも買いもしないのは客じゃあないわ」
オッサンこと、
もっとも、こっちも暇なものは暇なので、おしゃべりには付き合ってあげている。
五辻はチラリと、右手首に巻き付けたガジェットじみた時計を見た。
本当にどうでもいい情報だが、この世界ではリンカーテーブルを左腕につける都合上、腕時計は右手につける人が多い。
「ハァ……。じゃあ、たまには最新パックを一つ」
「お買い上げどうも~。ま、カードが売れたところで私の給料増えないんだけど」
注文の入ったパックはカウンターの裏にあるので、席を立って取りに行こうとしたところ、目に入ったのはゲームの画面だ。
オンライン対戦中で、試合も終盤となっていた。放置すれば、ペナルティがついてしまうだろう。
まあ、仕事なのでしょうがない。
そうして、プレイをやめようとしたところで、この無駄に気遣いができる無駄にハンサムなオッサンが、私を止めた。
スマホで起動していたゲームアプリを落とすか、私が一瞬迷っていたのを見ていたのだろう。
「終わってからでいいよ。どうせまだあと数十分はいるだろうし」
暇なのかな、このオッサン。
「これで、晴れて"お客さん"になったわけだけど。どうだい? ここには俺一人しか客はいないし、一戦、バトルでもしないか?」
暇なんだな、このオッサン。
うん。
でもまあ、そうだよね。
この世界の住人って、こういうのが普通だよな。
目があったらたのしくデュエル。そういう感じのはずだよな。
私は、この前の少女を思い出していた。
デッキ不検出に、リンカーテーブル不検出。
ログを調べてわかったこの二つのエラーは、文字通り、あの少女がデッキもリンカーテーブルも一切所持していなかったことを意味していた。
最悪、リンカーテーブルの不所持はあり得る。あくまでもリンカーテーブルは『サモンエンゲージ』の補助具であり、ゲームをより有利に進めるための装置でしかないからだ。
親に買ってもらえない子供は持ってないし、私も家でリラックスしてるときは持ってない。
しかしデッキの不所持は、この世界の住人にはあるまじき状況だ。
裁判でのデュエルでも、
例えるなら、借金取りに家財道具から何から身ぐるみを剥がされた状態に近い。
そのうえ、感情論ではなく、実際にかなり危険な状態であることもわかった。
闇のカードバトラーと言えども、人身売買などのガチブラックに加担しているわけじゃない私は知らなかったが。デッキを所持していなければ『真なるカードバトル』においても不戦勝が決まってしまうならば、犯罪者に対して無防備かつ無抵抗でいるに等しい。
つまり『真のカードバトル』から自衛するにはカードを集めるしかない。
なるほど、この世界で『サモンエンゲージ』が中心となるわけだ。
「えっと、なに、その納得顔。なんでそんな、『ふーん、やっぱりこの世界の住人って、そんな感じだよな』みたいな顔で頷いてるの? 俺とバトルするのそんなにイヤだった?」
「あっ、いえ。そういう訳じゃないんですけども」
顔と態度に出ていたらしい。
失敬失敬。
と、その時、カラーンと店のドアベルが鳴る音がした。
「でもほら、ちょうどよかったみたい。お客さん来たよ」
誰にせよ、ゾアーク
ましてや、『闇のカードバトラー』として表に出せないカードも多いので、使うのは3軍以下となってしまうのだから、普段の私は控えめに言ってクソ雑魚ナメクジだ。
本気だとゼロターンキルゥ……で、普通に戦うと雑魚って本当なんなんだろう。
「あっ!
「おいおい。その言い方だと、俺が5歳児みたいじゃないか」
C.S.サジンを訪れた新たなカードバトラーは、かなり若い少年だった。
子供ながら常連──というより正確には店長の親戚で、身内というのが正しいかもしれない。それを言うなら、私はただのバイトだから、どちらかと言えば私の方が部外者よりだ。
そういうわけで、この少年、
思い返せば、私、少女、5歳児とここまで顔面偏差値高めの人物ばかりと会っていたけれど、この子は普通くらい。代わりに底抜けの明るさがあるので、将来的には雰囲気イケメンくらいにはなれるポテンシャルがあるかも。
「へいよー。てか兄ちゃん、今日もサジンにいんのかよ。暇なのか?」
そんなこと言わないであげて……、オッサン泣いちゃうよ……。
「暇じゃあないさ。こう見えてもお兄さん、結構働き者なんだぜ」
嘘でしょ。絶対暇だって。
「いや、ぜってー暇だって! 今日もバトルしてくれよ!」
「あー、そうだなぁ……でも、チカちゃんともう約束……」
「お客さん同士のバトルが優先、ですよね?」
カードショップでは、バトルコーナーが併設されているものだ。この場末のC.S. サジンでさえそう。まあまあ狭い店内に広めにスペースが取られている。
もっとも、リンカーテーブルがあればどこであろうと『サモンエンゲージ』はできるんだけど、交流の場という側面もある。
システムとしては雀荘に近く。基本お客さん同士、人数合わせでスタッフがプレイする感じ。まあ、サジンでは2人以上がバトルすることなんてそうそうないけれども。
一応、利用料金はパック1つ以上の購入かドリンクの購入だ。大体はパックを買うので、ドリンクはもっぱら私の喉を潤すだけである。
ちな、楽斗君は学生なのでドリンクも含めて無料だ。それ抜きにしても身内だしね。
「ハァ……。ま、楽斗君の成長を見るって言うのも悪くないか」
「おッしゃあ! 新しく手に入れたこの【雷磁の騎士 ヴォルパルサーナイト】の力を見せてやるぜ!」
いやいや、自分の手の内を見せてどうすんのさ。
確かに、この世界の『サモンエンゲージ』のカードプールは無限に等しいけれど、エースカードをこれ見よがしに見せちゃったら警戒されるだろうに。五辻はそこらへんを配慮してバトルしてくれるだろうけども。
前口上もそこそこに、2人はスマホくらいの大きさのガジェットを手首に装着する。
さらに懐から取り出したデッキをセットすると、青白く光ってホログラムが現れた。
無駄に高性能!! 無駄にかっこいい!! これがリンカーテーブルだ。
そして、ブルートゥースの接続よりよほど早い速度で2機は接続し、『サモンエンゲージ』が立ち上がった。
当たり前だけど、こんなところでプレイするのは『真なるカードバトル』じゃない。色々と調整が行われた上、賭けの要素も引き抜かれて安全性が確保されたカードバトルだ。
なお、この"安全な"サモンエンゲージでも、ダメージを受けた衝撃は加わるし、鍛え方が足りないと気絶もする。なんでさ。
「「サモンエンゲージ、スタンバイ。 ドロー!」」
五辻と楽斗君の2人は初期手札5枚を手にし、バトルがはじまった。
あ、ちなみにスマホゲームのことはすっかり忘れてたので、思いっきり通信切断ペナルティをもらってました。