卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第一話だけ三人称多めです。


0章 Start これが物語の始まりです!
第1話 千幻の騎士


 そこでは数え切れぬほどの観客に見下ろされる中、2人のプレイヤーが戦いを繰り広げていた。

 

 1人は燃え盛るような朱髪を後ろで束ねた少女。Tシャツにショートパンツという、戦場には似つかわしくないラフな衣装を着こなしており、右手に赤い宝玉がはめ込まれた杖を携えていた。その杖だけが、かろうじて戦いのための装いであることをうかがわせる。

 

 相対するは漆黒の鎧を身にまとう騎士だ。すべてが黒で統一され、顔を覆う大兜を着けており、表情さえ読み取れない。手にした剣も闇夜に溶けるような黒で――どこか不気味さを感じさせる。

 

「〈終末の劫火に身を焼かれ、永遠の安寧に抱かれよ〉……【ブレイズスロアー】!」

 

 先に動いたのは少女のほうだった。高らかに早口で詠唱すると、杖の赤い宝玉が明滅し、燃え盛る炎弾を撃ち放つ。

 

 炎弾は【闘技場】を一直線に駆け抜け、騎士のもとへ猛スピードで迫る。

 

(【メイジ】だからって甘く見ないでくださいね? ボクは接近戦に重点を置いてスキルを割り振った『近接対応(てくにかる)』型。1on1での戦闘はむしろ得意分野ですから)

 

 【メイジ】の得意とする魔法スキルの多くは高い威力と引き換えに詠唱時間が長い。そのため1on1の対人には不向きなクラスだと思われることが多い。

 

 しかしそれは厳密には正しくない。【パーティ】戦闘でチームワークが重視されるこのゲーム【フォッダー】では、最も基本とされているのが詠唱と引き換えに火力を叩き込む『砲台』型というだけのことだ。

 

 朱髪の少女――卍荒罹崇(ありす)卍は幅広い戦況に対応するべく、『近接対応(てくにかる)』型でキャラクターを育成しているのだ。

 

 そのことがこの決闘の行く末を変える――

 

 ――はずだった。

 

「……【アームズスイッチ】」

 

 迫りくる炎弾を見据え、騎士はぽつりとスキルの発動を宣言する。鎧が光に包まれ……直後、炎弾が命中する。

 

 燃え盛る炎はすべてを燃やし尽くさんとばかりに騎士を包み込み……すぐさま霧散した。

 

「え!?」

 

 炎が消え去ると、そこには紅い鎧に身を包む騎士だけが残る。

 

「たった1つの装備で瓦解するような戦術では【闘技場】を勝ち抜けないぞ」

 

 騎士は抑揚のない声でそう指摘し、剣を構える。疾風のごとき速度で肉薄し、そのまま鋭く突き出す。

 

「わわっ、〈次元の狭間より世界を駆けろ〉!【テレポート】!」

 

 刃が迫るその直前、少女は空気に溶けるように消失し、剣は空を突き貫く。

 

「……後ろか」

 

 そう判断した騎士は瞬時に体を回転させ、後方をなぎ払う。

 

「くっ!」

 

 背後に出現した卍荒罹崇卍は杖で迎撃を試みるが、【ナイト】と【メイジ】の物質干渉力の差は歴然だ。少女は斬撃をあっけなく受け、HPを大きく失った。

 

「【エアジャンプ】っ!」

 

 衝撃を利用してわざと吹き飛び、靴底で虚空を蹴って空中に足場を作る。そのまま体勢を整える。騎士との距離が一気に開く。

 

 軽やかに着地すると、卍荒罹崇卍は即座にスキルを発動した。それは本来、詠唱時間を必要としない代わりに、わずかな効果しか得られない緊急回復魔法だ。

 

「【ファストリカバー】」

 

 しかし効果は絶大だった。杖先から広がる赤い波動が少女を包み込み、頭上のHPゲージが瞬く間に満タンになる。

 

「さすがだな、無詠唱でそのレベルの回復を行使できるとは」

 

 緑色のバーを見て、騎士は思わずつぶやく。

 

「圧倒的に優位な状況で、そんな褒め言葉を口にされてもねぇ……」

 

 軽口をたたきながらも、少女は考える。

 

(さて、あの鎧は明らかに炎属性特化の耐性装備。攻略法は3つある。【エレメントリセット】で属性を消すか、耐性をブチ抜くか。あるいは――)

 

 ほんのわずかに逡巡するも、

 

(どうせなら、面白くやったほうが撮れ高もいいですよね!)

 

 覚悟を決めた卍荒罹崇卍は騎士に向かって叫ぶ。

 

「今から詠唱するので攻撃しないで待っててください!!」

 

 観客席が時を忘れたように静まり返る中――少女は悠長に詠唱を始めた。

 

「始まりの炎より生誕せし、根源たる一柱……」

 

「待つわけがないだろう」

 

 棒立ちの少女へ即座に肉薄した騎士は剣を大きく縦に振るう。

 

 だが刃が触れた途端、鈍い音とともに弾き返され、少女の肌を傷つけることはなかった。剣身は赤く光を放っている。

 

「灼熱の翼に風を受け……輪廻を巡る一羽の鳥よ」

 

 騎士の攻撃など意にも介さず、卍荒罹崇卍は詠唱を続ける。

 

卍荒罹崇卍 >炎耐性にはボクも自信がありますよ?

 

(そういうことか……!)

 

 送られてきたチャットメッセージを見て、騎士は理解した。少女が発動させたのは【ファイアエンチャント】。武器に炎属性を付与するバフ魔法だ。それを相手の武器に付与して、自身の耐性を最大限に活かしたのだ。

 

「世界の狭間より森羅万象を睥睨せし者……」

 

「【アームズスイッチ】!」

 

 バフのかかった武器を即座に見切り、騎士は装備を瞬時に変更する。だが【アームズスイッチ】はコーディネート単位の登録式のため――武器だけを変更できず、胸元に疑問符が描かれた奇妙な鎧へ切り替わった。

 

「――隙あり!【ソウルフレア】ッ!」

 

 詠唱を中断した卍荒罹崇卍が杖の先端を鎧の紋章へ押し当てた瞬間、白くきらめく炎が騎士を抱きとめるように包み込む。

 

「――やはりブラフだったか」

 

 炎が覆い尽くすその前に、鎧から放たれた一条の閃光が少女を貫いた――はずだった。

 

「――ボクの、勝ちですね!」

 

 劫火は勢いを増し、騎士の命を灰すら残さず燃やし尽くした。

 

【ゲームセット WIN:卍荒罹崇卍 LOSE:ゆうた】

 

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TIPS

物質干渉力はキャラクターの物理的な干渉力を示すステータスである。

数値が高ければ『鍔迫り合い』をはじめとする物理的抵抗判定に勝利しやすい。

しかし攻撃の威力や速度などさまざまな要因が複合的に考慮されるため一義的ではない。

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「対戦ありがとうございましたっ! 撮影の許可もいただき、感謝です!」

 

 試合が終わり、ボクたちは【闘技場】の隅に移動し、対戦相手の騎士――ゆうたさんにお礼を述べる。

 

「それほどでもない。これも役目だ」

 

 さすがPvPランカーのゆうたさん。クールでかっこいいなー。短期決戦気味にはなってしまったけど、これはかなり撮れ高があるのでは?

 

「しかし――まさか敗北するとはな。念入りに対策を練っていたのだが」

 

 ゆうたさんが自嘲気味につぶやく。偶然噛み合っただけだが、次に戦えばあっけなく負けてもおかしくない。

 

「最後に【アームズスイッチ】で取り出したあの鎧は――炎属性の攻撃を無効化し、無属性として反射する効果ですよね?」

 

「そして発動には再詠唱時間(リキャストタイム)という制約がある。だから続けざまに放たれた【ソウルフレア】を防げなかったのだろう?」

 

「たまたまですけどね? 【ソウルフレア】を先に撃っていたら間違いなく負けていたでしょう」

 

 ダメージ狙いで先行した無詠唱の【フラムブレット】が功を奏した。もし大火力が反射されていたら、HPを一瞬で失っていた。

 

「よろしければPvPランカーの目線でボクの戦術についてアドバイスもいただけますか?」

 

 そう問いかけると、ゆうたさんは「ふむ」と顎に手を当て、数秒考え込んでから、

 

「敗北した俺が助言できる立場ではないかもしれないが……。そうだな、対人は情報戦だ。その赤い宝玉の付いた杖は炎属性強化装備だろう? 目立つ装備は事前に戦術を悟られやすい。メタ構築への対策が必要だな」

 

「いえいえ、参考になります! それに戦術だけでなく、ブラフも読まれてしまったみたいですし」

 

 試合中にゆうたさんが使用した【アームズスイッチ】は装備を事前登録したパターンへ切り替えるスキルだ。炎耐性特化という露骨な対策装備が出てきた時点で、試合前から属性がバレていた証拠でもある。

 

「ずいぶんと長い詠唱時間の魔法を唱え始めたものだと思ったが、あれは【無音詠唱】のカモフラージュだったのだろう?」

 

「そうですね。【無音詠唱】は呪文を口に出さずとも魔法が使えるパッシブですが、唱えてはいけないとは書かれていませんから」

 

 あのとき口頭で唱えていた魔法は、発動さえすれば耐性装備など容易に貫く規格外スキルだ。しかし詠唱時間も桁外れで、とても1on1で狙えるものではない。そこであえて長い詠唱を見せ、油断を誘いつつ別スキルを発動したのだ。

 

「それにしても――相手の手を見抜き、装備を切り替えるその戦術。まさに『千幻の騎士』!! みなさん、聞いてましたか? 装備から情報を得る、これがPvPのコツです!」

 

 多くの観客に囲まれ、あれだけ騒がしかった【闘技場】は今やしんと静まり返っていた。そう、あれはイメージ映像――試合を盛り上げるための演出である。

 

 しかし、観客がいないわけでもない。

 

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>出たーwwww卍さんの伝統芸、二つ名進呈だー!

 

>罰ゲーム定期

 

>ゆうたさんかっけえ……

 

>千 幻 の 騎 士 ゆ う た

 

>↑文字だけで笑えるからやめろ

 

>お礼にはちみつあげようぜ

 

>うはwwwwアームズスイッチ100000000000個習得したwwwwwwwww

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 ボクたちの戦いを見ていた人たちもいる。そう、動画サイトで!

 

 【フォッダー】では【ストリーミング】という共通スキルを取得することで、プレイ中継を配信できる。

 

 ボクはこの【フォッダー】で人気配信者を目指す芸能系プレイヤーなのだ。情報をお届けし、ついでにちやほやされるために日々努力を続けている。

 

「それではこれで『今話題のPvPランカー、ゆうたさんの素顔を知る!』は終了となります! 配信はこのあとも続きますが、枠を分けますね! ゆうたさん、ありがとうございました!」

 

「こちらも今回の配信で得るものは大きかった。感謝する。視聴者もぜひ1度はPvPに挑戦してくれ。歓迎するぞ」

 

 

 配信が終わり【闘技場】から撤収しかけたところで、ボクはふと疑問を投げかけた。

 

「しかし――今さらですけど、なぜ模擬戦をしていただけたのでしょうか?」

 

 さっきの戦術指南で浮かんだ疑問だ。今回の配信は、ゆうたさんにとってデメリットのほうが大きいのでは?

 

 恐る恐る尋ねると、ゆうたさんは珍しくわずかに表情を変える。

 

「どちらにせよ、俺と戦うプレイヤーは俺の戦闘を見ることになる。早いか遅いかの違いだ。それに……」

 

 一息ついて、

 

「利益と効率だけのゲームに嫌気がさしたからかな……」

 

 そうつぶやくのだった――。




テクニックその1 『エンチャントブロック』
炎属性の耐性を高めても、炎属性の攻撃しか軽減できない。そんな当たり前の常識をぶち壊すテクニックです。なにせ、相手の攻撃を炎属性に変えてやればいいだけなのですから。対抗手段を持たない相手ならこれだけで完封できます。実際のところ、抜け道はいくらでもあります……が、初見なら間違いなく引っかかります。欠点としては武器に対して発動するスキルである以上、武器を持たない相手には通用しない点でしょうか。

テクニックその2 『ヴァリアブルタクティクス』
相手の攻撃に合わせて臨機応変に装備を切り替える。ただそれだけのテクニックです。というか、このスキル本来の使い方です。
でも、相手が炎属性魔法しか使ってこないからと言って、露骨なメタ装備に変えるなんて大人気ないですよ! 最低ですから、みなさんはこのテクニックを封印しましょうね。
装備をセットごとに切り替える都合上、高水準の装備をいくつも揃える必要があるのが厳しいですね。上位勢はみんなやってるらしいですが。
このテクニックへの対抗策は、このテクニックそのものです。相手がメタ装備に変えてきたら、こちらも装備と戦術を切り替えればいい。再詠唱時間の都合上、後出し側が有利です。対抗できる装備をセットしていればの話ですが。

テクニックその3 『装備推察』
基本的に、装備に付与された効果は外見からある程度推測できます。炎属性に関係しているならば配色は赤になりますし、回復に関わる効果であればなんか神っぽい感じになります(適当)。
とはいえ、炎属性に関係していると言っても、どのように関係しているかまでは推察しづらいです。
なにせ、ゆうたさんの炎耐性装備も赤。ボクの炎属性強化装備も赤ですから。
とはいえ、おおよその傾向は読み取れるので、相手の外見は重要なデータです。
……でも、疑問符のマークが付いた装備は何を表しているんでしょう?

テクニックその4 『フェイクキャスト』
詠唱を口に出さなくてもスキルが発動する受動(パッシブ)スキル【無音詠唱】を適用した上で、偽の呪文を声に出すテクニックです。このスキルを持っていると知られた時点で、相手は詠唱文を信用しなくなりますが、【無音詠唱】の適用にはデメリットを伴うのでなんの問題もありませんね。相手が疑いだしたら普通に詠唱しましょう。
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