卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第129話 ファイアボルト

 ログアウトしたボクは灑智に声をかけた。今はもう真夜中なのだけど、灑智は当然のように起きている。きゅーとなひきこもりである灑智に昼夜の概念は存在しないのだ。

 

 ちなみに今は【フォッダー】を起動し、ARデバイスでプログラミングしているらしい。まるで意味がわからない。

 

「灑智さん?お尋ねしたいことがあるのですが」

 

「お姉さま、どうなされたんですか?急に改まって」

 

「ボクに〈魔導〉を教えてください!」

 

 ゲーム内のテクニックだけでAIに挑むのは無謀だ。ボクはAWP-002さんに負けてから新たな戦い方について模索していた。

 

 そこで一番の候補に上がったのが〈魔導〉。プレイヤーの魔力がデータのスキャンを通じてゲーム内にも反映されるというのなら、〈魔導〉を持ち込むことも許される。

 

 【メイジ】という切り札を縛られたボクがAIに立ち向かうなら、手札を増やしておく必要があるだろう。

 

「お姉様なら『KPS』で〈魔導〉科目を受講すれば良いのでは……」

 

「『KPS』はあまり頼りたくないですからねー。それに、灑智の方が教えるのも上手そうな気がするし」

 

 今まで一緒に暮らしててまったく気づかなかったけど、灑智の魔力量は明らかに多い。魔力についてもわかりやすく教えてくれたし、教えてもらえるなら灑智にお願いしたい。

 

 そして改めてお願いをすると、灑智はボクに顔を近づけながら嬉しそうに頷いた。

 

「わかりました!それでは『アシストソース』を用意しますので、もう一度『VRステーション2』に入ってくださいっ」

 

「『アシストソース』?」

 

「要は【マクロ】ですよ。VR空間で〈魔導〉を使う手順を強制的に再現することで、身体で慣れるためのプログラムです。〈魔導〉の発祥となった技術ですね」

 

 ボクたちが当たり前のように共通認識として話している〈魔導〉という概念。大昔の人が聞いたら鼻で笑うことだろう。

 

 今でこそ〈魔導〉は『物理法則』の1つとして扱われているけれど、この現象が表舞台に現れたのはそれほど昔の話ではない。

 

 それはVRの黎明期。今のような『最適解』を選ぶことのできる【モーションアシスト】は存在せず、行動パターンを忠実に再現する【マクロ】でしかなかった時代。

 

 ゲーム内でユーザーが自由に【マクロ】を登録できるゲームがあった。

 

 凄腕の格闘家がぱーふぇくとな『正拳突き』のモーションを登録し、他のユーザーに配布する。アクションをより豊かにしようという目的で作られたシステムだったのだけど、そこに〚ライトニングボルト〛と呼ばれるモーションが登録されたのがすべての始まり。

 

 『ワールドシミュレーター』としての要素が備わっていたVRMMOにおいて発動が許された1つの〈魔導〉。物理法則を忠実に再現したVR空間でそれが発動できるというなら、当然ながら現実(リアル)においても発動できる。

 

 こうして〈魔導〉という概念は世に広まっていったのだとか。

 

 最初に登録した人は昔から〈魔導〉が得意な魔法使いだったのだろう。あくまで表舞台に現れたのがその瞬間だっただけで、概念自体ははるか昔から存在していたはずだ。

 

 そのときに活用された〈魔導〉のデータ……すなわち『マクロ』のことを『アシストソース』というらしい。 

 

 〈魔導〉という概念が世に現れるきっかけとなった手法で習得できるなんて、ロマンがあるよね!

 

 というわけで灑智の指示に従って『VRステーション2』に入り、ゲームの選択画面に進むと、ありました。『アシストソース』。『ファイアボルト.vr』というゲームが選択できる。選んだ瞬間、何もない真っ白な空間に飛ばされた。

 

 その空間では身体を自由に動かせないらしい。自動的に身体が動いていき、右腕を前に突き出すと炎の熱線が放たれる。そこには意思も自覚もあったもんじゃないけれど、確かにわかりやすく〈魔導〉について学べる。

 

 どういう原理で熱が生まれ、前方に飛ぶのか。魔力がどのように動いているのか。正解の過程を強引に体験させられることによって、その現象を深く理解していく。

 

 そろそろ自分でも撃てるんじゃないかな?そう思ったころに唐突に身体が自由に動くようになった。

 

 ゆっくりと右腕を自分の意志で前方に向け……魔力を操作し、熱へと変換させる。そして、力を思いっきり込めて!

 

「〚ファイアボルト〛!」

 

 その瞬間、先ほどよりもはるかに出力の高い、極太の赤い熱線が前方に向かって飛ぶ。

 

 この世界には壁もオブジェクトもないから、その威力のほどはわからないけれど、間違いなく強力無比な一撃だ。そのことだけは理解できた。

 

 問題は〈魔導〉の威力減衰について。

 

 多くのゲームでは〈魔導〉の出力を抑制するため、すべてのキャラクターとオブジェクトに、いわゆる魔導耐性が設定されている。

 

 現代において極めて一般的な技能でありながらも、ゲームの中で〈魔導〉を振るう者が少ないのはこのためだ。

 

 ついでにいえば全職業(クラス)共通のスキル【魔導叡智】によってゲーム内における〈魔導〉の発動許可を得る必要があるのも痛い。全職業(クラス)の共通スキルは【エアジャンプ】や【アームズスイッチ】を筆頭とした有力候補がひしめき合っているからね。

 

【魔導叡智】

[パッシブ][パーミッション]

効果:[魔導]の[使用]を[可能]にする。

 

 だとしても新しい手札を増やしておくことには価値がある。特に行動の幅が大きく制限される【サバイバル杯】においては、熟練度(プレイヤースキル)が最重要!

 

 ……これからは〈魔導〉のお勉強も欠かさずやっておかないとね。『KPシステム』に申請しておかなきゃ。

 

 というわけで未知なる新たな力を手に入れたボクは改めてログアウトし、ご飯も食べずにベッドに入ってぐっすり眠ることにした。夜更かししちゃったからね。

 

 

 次の日。さっそくゲーム内にログインし、試しに〚ファイアボルト〛を放ってみる。すると以下のようなことがわかった。

 

 まず、〈魔導〉によって放たれた炎には炎属性が設定されていない。よって、炎属性【メイジ】とのシナジーはまったくない。

 

 次に威力の減衰に関してだけど、【メイジ】が素手で殴るのとまるで変わらないダメージしか出ない。ついでにいうと物質干渉力も最低クラス。

 

「……さて、これをどうやって活かせばいいのか」

 

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>今まで誰も使ってなかった理由がよくわかる

 

>ゴミかな

 

>奥の手にはなり得ませんね……

 

>キャストタイムがないのは利点だけど、サイキックなら普通に火炎放射があるという

 

>いつもの戦闘スタイルでもアンプルアローで爆弾撃った方が強いな

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 本来、ゲームには存在しない仕様。つまりバランスなんて考慮されてないのでは?と期待しながら使ってみたけど、結果は完全に逆。むしろ普段はガバガバなのに、こういうところだけはちゃんと調整されてますね。

 

 ま、まあ。〈魔導〉について学ぶきっかけを得たから!今回の戦いには活かせなくても十分な収穫ですよ!

 




魔導その1 『ファイアボルト』
スキルどころか通常攻撃よりも弱い、そんな悲しき〈魔導〉です。
別に〈魔導〉が弱いわけじゃないんです。あまりにも強すぎたんです。かつて〈魔導〉の破壊力によって数々のゲームが崩壊したせいで、【フォッダー】を含む大概のゲームには威力の減衰が掛かっています。

魔導その2 『ライトニングボルト』
〚ファイアボルト〛の元ネタです。この世界における〈魔導〉はこの〈魔導〉から始まったとされており、ちょくちょく出てますね。
正確に言うと現代社会に〈魔導〉が認知される切っ掛けとなったのがこの〈魔導〉というだけであって、裏社会の『魔導師』みたいな人たちは以前から使ってたのでは?という説が有力です。そうじゃないと説明つきませんしね。唐突に何もない所から出てきた訳ありませんし。
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