卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる! 作:hikoyuki
それからメンテナンスの影響で誰もいなくなった無人の街を明日香ちゃんと一緒にぶらり旅。
その後ろで肩を落としたアクタニアがついてきてるけれど、無視……するのもかわいそうだったので、時々話題を振ってみると、さっきまでの傲慢な態度は何だったのかというくらい改まった言葉遣いで答えてくる。
《ここはいいところですね。私もこのゲームを始めます》
「……無理しなくていいんだよ?」
常に生産に勤しむプレイヤーや、屋台営業をしているプレイヤーたちがいた【ギルドハウス】も、今は無人。自動販売型の屋台だけは残ってるけど、あたり一面しーんと静かで、いつもとはまったく違う新鮮さを感じさせる。
「……安心したら、急に疲れてきちゃいました♥今日はログアウトしますね」
「……そっか。お疲れ様。ゆっくり休んでね」
最後に軽くにこっと微笑んで落ちていく明日香ちゃん。それを見て、なんだかわたしもほっとした気がする。
さて、このままここにいても仕方ないし、わたしもログアウトしようかな。
「じゃあね、カミサマ。またどこかで会ったら仲良くしてね」
《二度と会いたくないよ……》
そしてわたしは【フォッダー】の世界から帰還して——。
目を覚ますと『VRステーション2』の中。さて、うまくアクタニアの力を利用できていれば——。
「あ、帰ってきましたね」
「お布団とかどうしましょう?とがみんさん用の服も必要ですし……」
外から荒罹崇と灑智ちゃんの声が聞こえる。どうやらうまくいったらしい。
「おかえりなさい。あっ、とがみんお姉様用の『VRステーション2』も必要なのか。部屋が狭くなるなー」
「アカウントの分割とかも受け付けてくれるんでしょうかね?ユーキさんに問い合わせてみますか?」
「荒罹崇はともかく、灑智ちゃんはよく普通に受け入れてるよね?」
姉が分裂してるなんてちょっと珍しいし、びっくりしそうなものだけど。
「お姉様に説明していただきましたから。よくわからないですけど……敵の技を利用して分離したとかなんとか」
「それで納得しちゃうのもすごいけどね?」
そう、わたしはあの戦いでアクタニアに『裂かれろ』と命じられた。だからご希望に沿って2つに裂かれた。相当な恣意的解釈を行ったという自覚はあるんだけど……2人で1つのカラダじゃ不便だったからね。仕方ないよね♥
「【フォッダー】って終わってるよねー。人格どころかカラダまで分裂しちゃうなんて。しかも見た目も違うし」
そう言いながら荒罹崇は鏡を取り出して、わたしに見せてくれた。確かに基本的な姿は荒罹崇に似ているけど、まったく同じというわけではない。
荒罹崇は燃えるような紅髪なのに、わたしは深い黒の髪だ。それに胸に至っては、荒罹崇より一回りも二回りも大きい。荒罹崇の恨めしげな視線を胸元に感じるけれど、気づかないフリをしておく。
「私はお姉様が2人になって嬉しいです!」
「今回は【フォッダー】のせいというより、とがみんが全面的に悪いですけどね。さて、これからどうしましょう?」
「とがみんお姉様はたった今ログアウトなされたみたいですけど……一応まだメンテナンスは続いてますから、ログインはできませんね……。久々に外に遊びにでも行きましょうか。今日はとがみんお姉様の誕生日ですし!」
「いいですね!時間的にはもう夜だけど、たまには
「えっと、自分勝手に分裂しておいてこういうのなんだけど……わたしみたいな家族が増えるとか、迷惑だって思わない?」
あのときは都合のいい改ざんがなされたから、つい反射的に利用してしまったけど、よく考えると普通は迷惑だよね。なーんて少し遠慮した発言をしてみるけど、2人の返答はわかっていた。
「もともと自分自身なのに邪魔だから追い出すー!とか言うと思います?そういう構ってちゃんなフリはやめてください!」
「とがみんお姉様は私の妹ですよ!たくさん可愛がります!」
「お姉様なのに妹なんですか……?」
違う人格とはいえ、自分自身と大好きな妹だ。そう言ってくれるのはわかってたし、確かにいじわるな質問だったかもね?でも……なんか嬉しいな♥
「よろしくね!おねえちゃんとしてたっぷり灑智を可愛がってあげるよ♥」
「だから、私がお姉ちゃんなんですってばっ!」
さて、目的地も当てもないので、ぶらりと外でなにかを食べに行くことにした。「とがみんが戻ってくるまでに有名なラーメン屋さんを調べてたんですよ!」と自信満々に語る荒罹崇についていき、テレポーターで隣の県までひとっ飛び。
「ここはメニューがない店なんですって。面白いですよね」
「メニューがないってどういうこと?1品しか選択肢がないとか?」
「客の注文に合わせてオートメーションシステムがラーメンを作ってくれるんですよ。だから、味の注文とかもいろいろ緻密に言わないとだめなんですけど、美味しいラーメンのテンプレがネットに載ってるんで、困ったらそれを言えばOKです」
「すごいテクノロジーの店ですね!さすがお姉様!」
「いや、ボクが作ったわけじゃないけどね」
なるほど、実質的には定番の組み合わせみたいなものもあるけれど、自分の好みの味を追求することもできるんだね。面白いなあ。せっかくだから変わった注文もしてみたいかも?
透過ドアをくぐって店の中に入り、目の前にある個室の席に座る。卍さんのうんちくによると、個室が余っている限りは、店に入った時点で目の前になぜか空いている個室があるのだとか。気づかないうちにぐるくると位置関係が変わっているらしく、技術が発展した現代においても、わりと無駄にすごい技術が使われている気がする。
席の前にはARモニターが表示されていて、そこから味の数値やらなにやらを選べるんだって。数値って言われても……このしょっぱさポイントとか、どのくらいからしょっぱいんだろう?投入する調味料の量で決めることもできるみたいだけど……。
「アドバイスボタンなんてのもありますね!押してみましょう。ぽちっ」
卍さんが右下に表示されたはてなマークをぽちっと押すと、アドバイスの音声が流れる。
『最近、少し塩分を取りすぎてませんか?ラーメンは控えたほうがいいでしょう』
「すごい本末転倒なアドバイス!?」
「そういえばお姉様、この前『飲める醤油』なんての飲んでましたよね。あれが原因では?」
「健康に異常があるなら飲めない醤油じゃん!」
「さて、じゃあ最近誕生したばかりのわたしも同じ健康状態なのかな♥ぽちっ」
『非常に健康的です!その健康状態を維持するためにもラーメンは控えましょう』
「なんで!?」
このラーメン屋さん、ラーメンを食べさせたくないの?
と、そんな感じで楽しく外食をして1日を終えました♥