卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる! 作:hikoyuki
そして【ダブル杯】当日。今日は、とがみんと灑智の華麗なる戦いを観戦する日だ。2人に見てほしいと言われたら断れるわけがないのだけど、それはそれとして、この戦いを観るという今日の日程には実利もある。
なぜなら前回の【ダブル杯】と比べても今回の環境はまるで違う。以前は家を使った戦い方の〈ホームタクティクス〉や【空神の加護】による戦術が猛威を振るっていたけど……今回は〈トンネル避け〉というすべてを超越した戦術が世に広まってしまった。
間違いなくこれからの【フォッダー】は異次元の環境となる。だからこそ、そんな異次元の環境を観戦によって調査しておくのは無駄にはならない。
よほど画期的な戦い方であればこんな調査をしなくても、いずれは勝手に広がっていくのだろうけど……だからこそ配信者として、インフルエンサーとして最新の映像をお届けしていきたいですよね!
「灑智ー!頑張ってねー!!」
ちなみに今はボクの目の前で1回戦の試合が始まるところだ。試合場へと転移した2人は対戦相手と向き合っている。一見するとまるで初期装備のような地味めの服装をした黒髪の女性で、それとは対称的にもう1人は綺羅びやかな宝石を飾り付けた成金鎧を装備している男性プレイヤーだ。2人とも【A−YS】産と思われる機械的な杖を握っている。
「わたしは頑張らなくていいの?」
ぴょんぴょんと跳ねながら、もとがみんがぼやく。もちろんとがみんのことも応援していますよ。
「お姉ちゃんである私がとがみんの分も頑張りますっ!」
対するお相手の2人は機械の杖をすっと振り下ろした。もちろんまだ試合は始まっていないので、スキルを発動させたわけではないはずだけど――杖が振られた途端、外側の蓋がかぱっと開き、中から妖精さんが滑り落ちてきた。
「えっ?」
【START!!】
それと同時に試合が開始される。恐らくは開始直前まで杖の中に隠しておくことで戦術の露呈を防いでいたのだろう。杖から飛び出した妖精はぱたぱたと飛びながらとがみんに接近していく。
「アトラ……いや、【ディジーズブラスト】!」
灑智は瞬時に【アトラクト】で誘導しようと考えたようだけど、即座にキャンセル。妖精を迎撃すべく、投射スキル【ディジーズブラスト】を撃ち込む。弾き飛ばされた妖精に目もくれず【空飛ぶベッド】を【ストレージ】から取り出し、とがみんを拾い上げて上空へ上がった。
「当たり前だけど妖精に攻撃してもあまり意味がないみたいだねー♥」
ふわふわと相手の頭上を取りながら、とがみんはそう分析する。アイテムである妖精さんにも耐久値という実質的なHPは存在するが、武器や防具が1度の戦いで簡単に損壊しないのと同じように、生産スキルによる加工を行えば攻撃を受けた程度で簡単に破壊されることはなくなる。とはいえ問題は、あの妖精を何に使うつもりだったのかということにある。
【ディジーズブラスト】によって弾き飛ばされた妖精さん達はジグザグに動きながら【空飛ぶベッド】に接近しようとするが、灑智は大きく距離を取りながらも旋回し、妖精の指揮者である対戦相手に近づいていく。
妖精さんが何を目的としているのかはわかっていないけれど、何かを企んでいるのはまず間違いない。だからこそ距離を取っているのだろうけど、迫りくる敵を迎撃もせずに撒くというのは案外難しい。それが時間のロスにつながったのだろう。女性プレイヤーがスキルを発動させる。
「【メテオ】!」
【帝神の加護】によって
「【ジュエルシールド】!」
それに対してとがみんが生成した宝石の盾が隕石に立ちふさがった。強引に隕石を振り切った彼女たちはそのままベッドごと対戦相手に体当たりを仕掛ける。【モーションアシスト】による最適解を持つ【フォッダー】の戦いではこのような強引な突撃は躱されるのが関の山だけれど、2人の目的は攻撃には無い。
「【アンカー】!」
「【アストラルプロジェクション】!」
すれ違いざまに発動した灑智のスキルが対戦相手を縛り付け、ベッドは加速して急速に距離を取る。同時に霊体をその場に置き去りにしたとがみんが堂々とスキルの詠唱をし始めた。
「〈優しき雨の祝福よ、鋭き刃の災禍を為せ〉【リバースコール】」
【リバースコール】
[アクティブ][座標][エリア][水属性][攻撃][支援][妨害][魔法]
消費MP:6 詠唱時間:5s 再詠唱時間:30s 効果時間:4m
効果:[座標]を[起点]として[エリア]を[形成]し、[範囲]の[敵][キャラクター]の[水属性][ELM]を[低下]させ、[ダメージ]を[与える]。[範囲]の[味方][キャラクター]の[水属性][ELM]を[増加]させる。
水属性を使うならば絶対に押さえておくべき優遇スキル、【リバースコール】!相手の水属性耐性を削り取り、追撃の水属性攻撃の威力を引き上げるスキルだ。
エリアスキルは〈トンネル避け〉を貫通する。【リバースコール】が引き起こす雨のようなエフェクトは一見すると簡単に躱せそうに見えるが、システムとしては必中だ。速度を奪われた対戦相手には回避する術がない。そう、ボクは思っていたのだけど――なるほど、やはり【フォッダー】のプレイヤーを甘く見るべきではない。
【アンカー】の拘束から抜け出した女性プレイヤーが«疾風迅雷»の類似【マクロ】によって超速度で攻撃の範囲外へと逃れ出た。成金じみた男性を跳ね飛ばしながら。
跳ね飛ばされた男性もエリアの外へ離脱しつつ、一瞬だけ«疾風迅雷»を起動させることで慣性を停止させ、その場に留まる。そして飛ばされた先にいた妖精さんがポーションのようなものを振りかけると、彼にかかっていた
なるほど、あの女性プレイヤーは【アイテムマスター】ですね。それも妖精をアイテムの遠隔操作に利用している。
「さぁ、まじかる☆ですとろいの始まりだょ!そろそろいけるぅ?」
「あぁ……時間はかかッタが掌握を完了しタ。これヨり先は俺の領域だ」
ここまでスキル発動時以外無言だった2人が、互いに声を掛け合う。何かを狙っている? 女性プレイヤーは男性プレイヤーが何かを行うための時間稼ぎをしていたのか?
その直後、2人が忽然と姿を消した。予備動作なんてまるでなしに、スイッチが切り替わった瞬間のように視界から消え去る対戦相手。
「あれ?どこですかっ!?」
「【テレポート】とかじゃないみたいだね。本当に一瞬のような消え方だったけど……」
きょろきょろと周囲を見渡す2人に対し、突如として2つの隕石が襲いかかる。【メテオ】だ。
そこからは、姿形もない対戦相手からの一方的な攻撃が始まった。