卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第222話 定義侵食

 このゲームのアイテムが複数の種別を持つことがある、というのは、ここまでプレイしてきたプレイヤーにとって常識だろう。

 

 『矢』としての性質を持つ『ポーション』が、その最たる例だ。その例とは少し異なるけれど、家具(アイテム)の性質を持つ家である〈ファニチャーホーム〉も、同様の仕組みで成立していると言えるかな?

 

 このゲームにおける『矢』の条件とは、『弓』で発射できるアイテムであること。

 

 となれば『武器』に『矢』というカテゴリが追加された理由も、もはや明白だ。誰かが『武器を放てる弓』を制作した。これによって、その弓で放てるすべての武器に『矢』の性質が付加されたんだ。

 

「誰か1人が()()を作っただけで全世界のアイテムカテゴリが変化するとなると、むしろ遅すぎるくらいでしたね。いや、わざわざ武器を放つことができる弓を生み出すことに、今まではメリットを見いだせなかった……と見ることもできますか」

 

 武器を矢として放ったときの仕様がどうなるのかは、実際に撃ってみないことにはわからないけれど——無限に投擲を行うテクニックをはじめとして、武器を発射するという結果ひとつだけを見るなら、別に弓にこだわる必要はない。

 

 弓術系の能動(アクティブ)スキルを乗せて放てるようになるのはメリットと言えるかもしれないけれど、別に武器そのものを放たなくても、矢のほうをアップグレードしていけば済む話だ。

 

 さらに言うならば——放たれた矢は、システム上、命中すると消滅する。つまり大量生産を前提とした普通の矢と比べると、武器をそのまま使うのは、コストに対してリターンが見合わなすぎるというわけだ。

 

 しかし、これからの【フォッダー】では、その前提が覆る。【会社】システムによってNPCという労働力が増加したこの世界では、アイテムの数が飽和するのはまず間違いない。そうなれば武器を矢として撃ち込む【アーチャー】がメジャーになってもおかしくない。

 

 とはいえ、このタイミングでその弓が作られたことに、そうした背景が直接的に影響しているわけではないとは思う。おそらくは先の会話で仕様の欠陥に気づいたプレイヤーが、衝動のまま実験したのだろう。そしてその実験は成功した。

 

「『弓』と『矢』。これ以外の関係でも似たようなことはできそうだね♥ でも、カテゴリが追加されたと言ってもできることが増えただけ。直接の弊害にはならないかな?」

 

「だとしても、これからどんな恐るべきアイテムの改竄が行われていくのか……。ボクは末恐ろしいですよ」

 

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>フォッダーって傍から見てる分には面白いけど控えめに言ってクソゲーだよな

 

>控えめに言わなかったらどんな感じ?

 

>刑務所

 

>こいつら自分から刑務所に入所してるらしいな

 

>刑務所マニアかよ

 

>刑務所を傍から見て楽しむとかやべー趣味してんなお前

 

>刑務所バカにすんな。最近はVR刑務所ってのもあるんだぞ。時代は進歩してるんだ

 

>体感時間加速で5年の刑期を1週間で終えられるんだっけ?

 

>バグで1億倍とかになったら精神焼き切れそう

 

>死刑かな?

----

 

「今は刑務所について談義をする時間じゃないですよ!一緒に【フォッダー】の未来を憂いましょう!……じゃなくて何の話をしていたんでしたっけ?」

 

「会社でどんな製品を作るかって話ですよっ!」

 

「そうでしたね。せっかくですからボクたちも新規カテゴリを増設してみます?」

 

「カテゴリの増設は製品っていうよりも研究って感じだよね。会社の製品って言えるのかな?」

 

 確かに、武器を放てる弓を量産するっていうのなら、それは製品だけど、カテゴリを追加することを目的にするのであれば、別に会社経営で行うことじゃないですね。

 

「うーん、じゃあ他になにか作れるもの……。何かないかな?」

 

 【ストレージ】を漁って、なにかいい商材になるものはないかと探していくと、目についたものがあった。【メモリシード】……新しいフォルダさんの店から仕入れたものだけど、これを何かに加工できないかな?

 

 それをNPCに手渡し、簡単なプログラミングと素材の加工をお願いしてみる。〈ロードウィング〉用のボードと靴を連結する機構——つまり〈インフィニティジャンプ〉を使用するのに必要なジョイントだ。

 

 あえて細かい説明は省き、動作の要件定義だけを行ってみたところ、プログラミングも含めて完璧に要望どおりの製品を完成させ、アイテムを見せてくれる。ソースコードを見てみると、めりぃさんの組んだプログラムとは異なっているようだけど、出力される結果は同じだ。つまり独自に考えて製品を作ってくれたということになる。

 

 もしかすると、割と無茶振りを投げても実現してくれるかもしれませんね。そんな極悪な顧客みたいなことを考えつつも、これまで開拓してきたテクニックに関連したアイテムを生産してもらうことにした。

 

 円盤型の【ホーム】やいくつかの楽曲が収録された【〈ミュージックハウス〉】。人材は簡単に確保できる。だから【バード】に職業(クラス)チェンジしてもらってレベルを上げれば、それぞれのスキルごとの音楽を簡単に込めていくことができる。あとはアクセサリー型の小型【女神像】なども需要がありそうですね。

 

 こういったアイテムは作ろうと思えば自作できるのだろうけど、【女神像】を除けば必須とまでは言えないためか、意外にもあまり出回っていない印象がある。それでも持っていて困るものでもない。お店で買えるとなれば需要はあるはずだ。特にミニチュアの【ホーム】なんかは【ホームリターン】の起点になることを考えると、いくつあっても足りませんからね。

 

 そうこうしているうちにコメットにレベル上げに行っていたNPCが帰ってきた。そのまま資材確保のために【ディバインゴーレム】狩りへと向かわせて、会社への指示は完了!

 

 そして完成した製品は、とりあえず【ギルド】に持っていって露天販売する予定です。で、開拓のシーズンが始まったら魔族の街に引っ越します。

 

 ボクのやりたいことは一旦終わったのだけど、とがみんはまだまだこの【会社】システムでやりたいことがあるらしい。配信者なのにいつまでもボクと一緒に配信していても仕方ないだろうし、経営はお任せして別行動を取ることになった。

 

「お姉様、【ダスター都市】以外にもまだアップデートで追加された街ってあるんですか?」

 

「配信で見てない街はあと1つだったかな? ダンジョンはもっとあるけどね」

 

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>サッド街がロジング砂漠にある

 

>え、なにそれ知らない。全部の街見たと思ってたのに

 

>埋まってる上に砂漠自体めっちゃ広いからな

 

>情報なしで見つけた最初のやつなにもんだよ

 

>モーションアシストは全知だからね仕方ないね

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「なにはともあれその【サッド街】を見たらボクもアップデートに追いつけるんですよね……!これまで長かったです!何周分くらい出遅れてたんでしょう?」

 

「じゃあさっそく見に行きましょうっ!お姉様、なにかその街の個性とかあるんですか?ここは【会社】が独自要素なんですよねっ?」

 

「ボクも知らないんだよね。でも、そういう事前情報がないほうがいいリアクションもとれますし、このまま直行です!れっつごー!」

 




テクニックその100 『定義侵食』
以前に紹介したテクニック〈定義拡張〉その極地です。【フォッダー】の仕様としてアイテムのカテゴリはその定義に他のカテゴリのアイテムが関わっている事があります。それならば既に存在しているアイテムを後付けで作ったアイテムによってカテゴリを変化させることも出来ますよね。『剣』に『矢』としてのカテゴリが備わったからといって、既存の戦術にそう変化はありませんが、その影響力は【フォッダー】全土に及び、以降の戦術を一変させる……ハズ。
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