卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる! 作:hikoyuki
「よし、入学届けを送信完了したよ♥」
入学届けを送信するための環境を構築するのにすっごく苦労したけど、なんとか『転式学院』へデータを送ることができた。
間にいろんなサーバーを経由したうえで、どこだかわからない場所にデータを送信した。送ってすぐに自動返信のメールが届いたので、ウイルスのチェックをしたうえで中を見てみた。
「VRゲームのファイルかな?バーチャルの学校なんだね」
「まあ、所在不明の学校に通うのであればそれしか選択肢はないですよね。でも、接続するサーバーの特定はできないんですかね?」
「AIも量子コンピュータもある時代に、精査もせずに自動返信で尻尾を出すかなー?そもそも本当に怪しい学校なのかもわからないしね。荒罹崇の被害妄想かも?」
「失礼な!ボクはその目で見ましたからね!大勢のボクそっくりのアバターが活動しているその姿を!」
「わたしたちはその配信見てないからなー♥」
「ぐぬぬ」
嘘を言ってるわけじゃないってのはわかってるんだけどね。なんなら今から見に行こうかな?とも思ったけど、かつての自分自身の言うことだし、わざわざ確かめる必要もないかな。
「ちょっと、お姉様をいじめないでください。泣いちゃいますよ!」
「泣きませんけど!?」
灑智ちゃんも
「まあ、卍さんで遊ぶのはそれくらいにして、そろそろ行ってみよっか♥ 2人は外から見ててよ」
VR空間では基本的にネット上に映像データや体感データなどを配信することができる。逆に、配信できないように設定しているところもあって、【フォッダー】なんかはゲーム内ツールでの配信のみを許可している形になっている。つまり今回のログイン先である『転式学院』も恐らくは配信不可になっているのだけど……それでもやりようはある。
「はい、撮影機材準備完了です!最高画質ですよ!」
そう言いつつ、荒罹崇が室内にセットしたのは最新式の3Dビデオカメラだ。一眼で対象物を解析して3D撮影できるスグレモノらしいんだけど、今回はその機能を使わない。
今回撮影するのは……『VRステーション2』だ。
VR空間での活動は、中でプレイしている人にとっては
もちろん外で何か異常があったらVR内にお知らせをする機能もあったんだけど——それでも不安だということで、ある機能が追加されたんだよね。
それがVR内外の映像中継機能。冷静に考えると、なかったときの方がおかしいんだけど、今回はその映像中継を撮影して配信してみよう。
「はいみんなー♥くーてくちゃんねるにようこそー!今回は
----
>リアルのとがみんはじめてみたけど卍さんそのものじゃねーか
>分裂したのに全然違う姿だったら逆に凄いだろ
>卍さんより胸が大きいぞ
>現実ではうさぎじゃないんですね、幻滅しました。卍さんのチャンネル登録外します
----
「それで今回の配信では『転式学院』に特別潜入調査しようと思うんだ♥ ちゃんと入学届けも送ったよ」
もしかしたら配信のせいでバレて遮断されるかもしれないけど……だからといって配信をしないなんてありえないよね?
これから行われる配信の主題を説明すると、さっそく『VRステーション2』に入り、メールに添付されていたVRファイルを起動した。
それと同時に、わたしの主観で見える周囲がガラリと一変し——1階建ての小さな民家が目の前に現れた。
恐らくはこの建物が『学校』なのだろうけれど、見た限りではただの一軒家にしか見えない。極限まで効率性を重視した真っ白い豆腐建築は、現代では見慣れた光景だけれど、外観を重視する公共施設ではあまり使われないしね。
「空は、さんさんと日光が輝く快晴だけれど……これはアセットだね。このパターンのアセットはドーナツ型の雲が浮いてるのが特徴なんだよ」
アセット——つまりこれはフリーでダウンロードできるグラフィック素材だ。VR空間を作るときには天候データを忠実に再現することもできるんだけど、これはただそれっぽく見せているだけの壁紙だ。
まったく雲が動かないから、すぐに違和感を覚えるし、なんなら他のフリーゲームで見る形の雲がそのまま映っている。天候なんかに処理を割きたくないって場合に使われるらしいよ。まあ、怪しい研究施設みたいな学校のグラにこだわっても仕方ないよね♥
周囲の観察を終え、わたしは建物に入ってみることにした。扉を軽く引いてみると、鍵はかかっていないようなので、ノックもせずに入ってみた。
外観と同じように内装も極めてシンプル。部屋の中央に家具と機材が置いてあるだけで、ほかには何もない。あの機材を利用するためだけにこの空間が存在している……といったところかな。
座り心地の良さそうなソファーとテーブル。そして至って普通の麦わら帽子。それが2人分用意されていて、奥側のソファーにはすでに誰かが腰を下ろしている。白衣を着た医者か研究者か、そんな印象の女性だ。
「いらっしゃい。ふふ、ついに本人さまが来てくれたようだね?」
どうやらわたしのことを荒罹崇だと勘違いしているらしい。それなら話を合わせておくべきか。わたしは《ロールプレイング》を発動して荒罹崇の言動を演ずることにした。
「——やっぱりあのアバターと関わってるんですね!ボクの肖像権を侵害するのはやめてください!」