卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる! 作:hikoyuki
「はて、あのアバターとはどういうことかなー。心当たりがないな」
「とぼけないでくださいよ。ボクそっくりの見た目の人が【フォッダー】内を跋扈していますよね。アバターの販売でもしてるんですか?」
わたしが荒罹崇ではないことを認識していない様子なので、とりあえず話を合わせて質問してみる。強気に問い詰めると、女性はにたりと不気味な笑みを浮かべ、手を顎に当てる。
「まあそうだよね?とぼけても無駄でしたか。でも、あたしの目的はすでに果たされた。種明かしをしてもいい頃ね?」
……やけに口調が安定しない。多分だけど、思考回路に乱数を仕込むことで《ロールプレイング》へのジャミングを成立させているんだろう。その証拠にまったく思考を模倣できない。このことからわかるのは……わたし、あるいは荒罹崇が来るのは想定内だった、ということ。
「まあ、種明かしが始まるというのなら聞いてあげますよ。その後にぶん殴りますけど」
「このゲームには攻撃判定が用意されてないから意味ないぞ?」
女性はわたしの言葉を鼻で笑う。まあそうだよね。空にすらメモリを割いていないくらいだし、この空間で使う必要がある機能以外を実装しているわけがない。
「はやく本題に入ってください」
「……【フォッダー】の目的は知っているかな?」
「人類の進化、とかですかね?最初はお金持ちが蹂躙するゲームという話だったので、さらに深い目的があるのなら見当がつきませんけど」
「いや、あってるよ?それはあくまで過程だけどな?最終目標はともかくとして、【フォッダー】は人類の《『
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>朝シャン?
>プレイしているだけで進化できる神ゲー
>最強かよ。遊ばない選択肢はないな!!!
>いや、僕は人外になりたくないので結構です
>フォッダーのプレイヤーを人外扱いとか差別かよ
>クソゲーを自分から遊ぶ時点で趣向が新人類に進化してるぞ
>辛辣すぎる
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「ふーん。で、それがどう関係するんですか?『転式学院』がその《『
多分だけど、ゲームがうまくなると《『
「ここまで説明すれば自明よね?【フォッダー】についてのありとあらゆる戦闘データと影響力を見てきて、我々は1つの結論に達したんだよ——
——全世界の人間が『邪旺院 荒罹崇』の人格を宿していれば人類はさらなる
「は……?」
意味がわからない。いや、その言葉の意味はわかる。でも、それでもやっぱりわからない。
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>【悲報】卍さん、まさかの名字バレ
>邪悪すぎる苗字で草
>やべえよやべえよ
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コメント欄が明後日の方向に盛り上がっているが、そんなことを気にしてはいられない。わたしは質問を重ねていく。
「えっと……。荒罹崇の思考パターンだとその《『
この人が荒罹崇のどんなデータを参考にしてそんな結論に達したのかはわからない。けれど——ゲームが得意な人や強い人なら、他にもいそうなものだけど。
「確かに本人の主観では気づきにくいことかもしれないけど、これは根拠のあるデータとして現れているんだよね」
両手を大きく広げ、まるで演説でもしているかのように芝居がかった所作で語る。根拠のあるデータとやらは提示してくれないらしい。
けれど——それよりも、気になっていることがある。
「1つだけ聞いてもいい?——元の人格はどうしたの?」
「消した」
その言葉を聞いた瞬間、勝手にカラダが動いた。光の如き速度で距離を詰めて殴りかかる。
この世界には攻撃判定が用意されていない。だから意味がない。わかってはいる。けれど1発ぶち込んでやらなきゃ気が済まなかった。
当然ながら攻撃判定が用意されていない以上、その拳で相手をふっ飛ばすことなどできない。そもそも攻撃判定が実装されていたとしても、
「いくら人類の希望たる貴女であっても、【モーションアシスト】もなしに実装されていない動作を行うことはできないよ」
わたしの拳は確かに女の顔面にヒットした。けれど女は何事もなかったのように椅子に座って、ただ笑みを浮かべ続けている。
「……なんなの?これもユーキちゃんの差し金なの!?一体なんのためにこんなことをするの!?」
「ユーキは何もしていないぞ。ただし、
「そんなわけないよね!こんな非人道的なこと、許されるわけが……」
「人体を改造して優位に立つことができる致命的な欠陥を放置し、ゲームのために精神崩壊しようがお構いなし。侵略者が来ようが知らん顔。
今まで目を背けていた事実を、女は堂々と突きつけた。
確かに【フォッダー】はおかしいよ。おかしいのはわかりきっていることだけど、単にバグが多いとかバランスが悪いとかそういうことじゃない。これは人体に害のあるゲームだ。
確かに〈
わたしの存在が一番の証拠だ。荒罹崇はわたしの人格を認めてくれたけれど、あの時の荒罹崇は間違いなくある種の精神疾患を抱えていた。あるいは今もそうなんだと思う。既存の人格を捨てて別の人の思考を模倣するなんて、まともな精神状況じゃない。
ゲームを優位に進めるために機械の身体を取り付ける人だってそう。【フォッダー】のためだけに人生のすべてを捨てている。確かにすべてが終わったら拡張部品を取り外すこともできるんだろうけど、それでも完全に元通りになんてならないはずなのに。
「ユーキはこの件において、
「そんなの知らないよ。重要な事項とやらについても何も教えてくれないくせに。そもそも荒罹崇の人格なら《『
「単独で〈
「同じ領域まで引き上げる……?」
「〈
「配信をしている人なら誰でもできることだよね!?〈
「今はわかってくれなくてもいい。それでも君——いや、君の主人格は人類の希望であり、中心なんだ。この流れを止めることなんてできないし、絶対にさせない。今回はここで撤退するけれど、いつかは理解してくれると嬉しいね?」
そう言って静かにログアウトしていく女性。……確か、目標を達成したと言っていたか。きっとわたしがここにログインしてくるところまでが目標に含まれていたんだろうね。
でも今のわたしは冷静にそんな考察を続けていられる精神状態じゃなかった。
わたしは誰もいなくなった部屋に残された椅子を見やりながら、ぽつりと呟く。
「…………なにが『理解してくれると嬉しいね』、だ。理解させる気なんて微塵もないくせに」