卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

239 / 541
第232話 勝算無しの解放作戦

「……ただいま」

 

「おかえりなさい、お疲れ様でした」

 

 とがみんが『VRステーション2』からゆっくりと顔を出す。代わりに危険な場所へ向かわせてしまったことへの申し訳なさもあるけれど、まずは情報を整理しないといけませんね。

 

 とがみんが潜っていた間に用意しておいたおやつを並べ、3人でテーブルを囲む。さあ、作戦会議の時間だ。

 

「で、どうするの?荒罹崇。潰すよね?はっ倒すよね?」

 

「当然!……と言いたいところですけど、実際問題、難しいでしょう」

 

「なんでですか?お姉様」

 

 所詮ボクらは【フォッダー】という空間の中でしか戦えないゲーマーだ。ゲームの外で暗躍している彼らを潰すだけの戦力もコネクションもない。もちろんこの問題はゲームに留まるような小さな事件ではない。人の尊厳を破壊する立派な犯罪行為だ。配信を通じて世界で話題になれば、国家権力が動いてくれるかもしれない。——けれど。

 

「恐らくですが、敵は国家権力そのものと密接なつながりがある」

 

----

>出たーwwwwwwww陰謀論奴ーwwwwwwww

 

>笑ってる場合じゃないぞ

 

>世界が卍さん化するか否かの瀬戸際なんだぞ

 

>大問題なのはわかるんだけどシュール過ぎて草

----

 

「陰謀論なんかじゃないですよ。あの人たちはどこからボクの思考のデータを取り出していたんだと思います?確かにボク自身、《ロールプレイング》で思考の模倣を行えますけど、それだけじゃあ他の人の脳内に人格を転写するような具体的なデータとして扱えるかどうかは疑問です」

 

「【フォッダー】からの情報提供……じゃないね♥ユーキちゃんは協力じゃなくて不干渉を貫いてるって話だったし。ユーキちゃん以外にそんなデータを引き出すことはできないよね」

 

 そう、【フォッダー】は恐らく関係ない。そして【フォッダー】経由じゃないとしたら人格のデータを解析できるタイミングは1つしかない。

 

「『KPシステム』。新たな知識を脳に送り込むあの装置なら、逆にボクのデータを解析することも簡単なはず」

 

「『KPシステム』……それって確か……」

 

 『KPシステム』、正式名称『Knowledge paste system』。脳に直接知識を送り込むことで義務教育を完了させることのできる特殊な学習システムだ。

 

 当然これは民間事業ではなく国家事業。そのデータを利用できるのであれば、国が関わっていると見て間違いない。また、それとは逆にボクの思考パターンを他者に刻み込む根本の仕組み自体も『KPシステム』によって為されているとも考えられる。

 

 具体的な言及こそ避けられているけれど——いずれ訪れる世界の危機に対抗するために人類の進化は必要な事項である。——という考えは『異形』のログインをきっかけに始まった事件からも、そして今回の女性の発言からも推察できる。そしてもし世界にとって必要なことなのならば、何らかの形で国が介入してきたとしてもなんら不自然な話ではない。

 

----

>クソゲーどころかクソ国家じゃねえか

 

>ボクはフォッダーのことを神ゲーだと思ってますよ!

 

>↑卍さんムーブでビビらせるのやめてくれ

 

>視聴者に卍さん菌が侵食していく……

 

>国家で主導しているNPシステムにそんな怪しい裏があるわけないだろいい加減にしろ

 

>じゃあおまえ今からNPシステム受けてこいよ。いいな?

 

>NPシステムじゃなくてKPシステム定期

 

>別にNPシステムって卍さんだけが利用してるわけじゃないよね。他の人のクローンとかもでてきそう

 

>こわい

----

 

「とにかくボクは現実(リアル)の闇に喧嘩を売るようなことはできません。ただのゲーマーですから。ボクらができることと言ったら、ボクになってしまった人たちを正気に戻すことくらいでしょうか」

 

「できるのかな?消されちゃったんだよね?」

 

「試してみるしかないですね。こればっかりはなんとも……あれ、灑智?」

 

 とがみんと2人で意見を交換していると、灑智が突然席を立った。そしてとことこと玄関まで歩んでいき、振り返りながら一言。

 

「私は現実(リアル)側で独自に動きます。お姉様ととがみんはゲーム内の対処をお願いします」

 

 その言葉を口にしたときの表情は……いつもきゅーとな灑智が見せたことのない、静かなる怒りを感じさせた。

 

 そして止める間もなく扉を開けて外に出かけていく灑智。

 

「……大丈夫でしょうか」

 

「心配はないと思うよ。あれだけの魔力があればその辺の暴漢くらいならひとひねりだよ。それよりも灑智ちゃんにお願いされたんだし、わたし達も動かなくちゃね♥」

 

「そうですね。もう1度【フォッダー】にログインしましょう!」

 

 作戦会議というにはだいぶお粗末なものだ。現地に行っていろいろ試してみる。方針はそれだけ。それでも決意とやる気だけは漲っている。

 

 一旦現実(リアル)での配信を終了させ、再び『VRステーション2』に入り【フォッダー】の世界にダイブする。

 

 ボクが前回ログアウトしたのは【オアシス】だったはずだけど、ログインしてみると辺り一面に砂の平面が続いている。そういえば【オアシス】の配置場所はランダムなんでしたっけ。別の座標に移動してしまったんでしょうね。

 

 とりあえずはとがみんと合流しようか。チャットを通じてメッセージを送り、【ギルドハウス】で会うことに。ちなみに今ログインしているのは配信可のチャンネルだけど、多分すぐに配信不可のチャンネルに移ることになる。今は配信していない。その代わりとして、SNSで現在の状況を逐一報告していくことになっている。

 

 【ギルドリターン】で即座に砂漠から帰還し、【ギルドハウス】の入り口に来ると、とがみんが待っていた。

 

「もー、遅いよ♥連絡きてから30秒も経ってるよ?」

 

「30秒でそんなこと言われちゃうんですか?ほら、いいからさっさと行きましょう」

 

 もちろん冗談だとわかっているから、軽く流して本題へ。卍荒罹崇卍が大量に生息しているチャンネルへ移動することを提案する。結局のところ、どうやれば彼女らを救えるのかはわからない。けれど、向かい合っていろいろ試してみなければ何も変わらない。当たって砕けろの精神で行きますよ!

 

「そうだね。じゃあチャンネルを切り替えて——」

 

「あー!卍さんととがみん待ってー!」

 

 切り替え——ようとしたところで【ギルドハウス】からどたばたと誰かが飛び出してくる。

 

「あたしも連れてってー!」

 

 めりぃさんだ。

 

「どうしたんですか?そんなに血相を変えて。知ってるかもしれないですけど、今日は配信じゃないですよ」

 

「わかってるのー!でもこれは他人事じゃないんだよー!」

 

「他人事じゃない……?」

 

「あたしにはお兄ちゃんがいるんだけどね。〘Multa〙を使って人格が分裂しちゃったり、割とゲーマーなんだよー。でもね、最近ちょっと様子がおかしいの」

 

「それって……まさか……?」

 

「そう、卍さんみたいな喋り方になっちゃってたのー!もしかして卍さんの配信見てガチ恋勢になっちゃったのかなーって思ったんだけど、もしかしたらって思って……」

 

「今、そのお兄ちゃんはログインしてるの?どこにいるのかな?」

 

「待っててー。ちょっと検索してみる」

 

 めりぃさんはそう言って【メニュー】を開き、【フレンドリスト】を調べ始める。

 

「あっ、いつのまにか【フレンド】欄に卍さんが3人もいる……名前変更しちゃったのかな」

 

「名前が違ってもIDで識別できるはずです。どうですか?」

 

「まってまってちょっとまっててってってー、たしかお兄ちゃんのIDは『love_sister』で……っと、見つけた!例のチャンネルの【A−YS】にいるみたい。多分街だと思う!」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。