卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第235話 観察破壊

「みなさんこんにちはー!全国津々浦々、神羅万象すべてを統べて、ありとあらゆる場所に跋扈する『荒罹崇』のみなさん、お元気ですかー!」

 

「元気ですよ!」

「なんでこんなにボクがいるんですか!?」

「やれやれ、ボクもこんなにリスペクトされるほどの人気者になってしまったようですね」

「ドッペルゲンガー怖いです……」

「この中で最強の卍荒罹崇卍を決める大会が開かれるってマジですか!?」

「【フォッダー】ってこんなのばっかですよね」

 

 たくさんの『荒罹崇』たちがボクの呼びかけに対してそれぞれ思い思いの反応を返していく。同じボクとは言っても、『転式学院』が設立されてから、ボクたちは【フォッダー】の中でそれぞれ別の楽しみ方をして、別の出会いを経験している。だからこそ、人によってその考え方や反応が異なっているのだろう。

 

「皆さんに来ていただいた理由は他でもありません。ボクが会得した技術を皆さんにも身につけてもらいたいのです!それは、《ロールプレイング》のその先!」

 

 残念ながら人格を埋め込まれた時期、そして『転式学院』にボクの思考データをパクられた時期の都合上、彼ら彼女らは《ロールプレイング》の境地には至っているけれど、その『果て』に達していない。よく言えば、精神が崩壊していない。この状態では元の人格を復元させることはかなわないし、当然アクタニアに身体を分裂させてもらうこともできない。

 

 《ロールプレイング》の発展自体をアクタニアの改ざんによって強制的に行う手もあるけれど、彼の権能は主観を前提としている。それぞれが想像する『果て』が違ってしまえば、別の方面に発展してしまう恐れもあるし、最悪の場合、本来の意味で精神が崩壊してしまいかねない。

 

 だからこそ、ボクが教えてなんとかなる範囲なら、神に頼らないに越したことはない。

 

 と、こんな感じで今回の発表会はボクが一方的にこの〈魂の言葉(ソウルワード)〉について伝授していく会のつもりだったんだけど……。

 

「あなたばっかりずるいですよ!ボクだって発表したいことくらいあります!」

 

「そうだそうだ!発表会なら全員に発表させてください!」

 

 などと抗議の声が殺到し、急遽、みんなでそれぞれ発見したことを相互に報告し合う会に方針を切り替えていく。

 

 とはいえ、別の存在になった今でも、ボクが発見したテクニックには少し興味がありますよね。彼女らは配信不可のチャンネルで活動していたので、もしかしたらこちらのチャンネルには広まっていない独自の戦術が流行していたりするのかもしれません。気になりますね。

 

 ボクの発表はその後の流れの都合もあるので最後に回してもらい、ひとまず別世界(チャンネル)のボクが発見したテクニックを見ていくことに。

 

 どういう順番で発表していくかで軽く揉めたものの、最終的には30分にも及ぶじゃんけん大会の末に無事決着し、発表会が開幕!

 

「さて、どんなテクニックが出てくるのかな?」

 

「おねえさまですからきっと凄いテクニックが出てくるハズですわ♥」

 

《まったく、悪夢のような光景だ……》

 

 アクタニアは山のようにいる『荒罹崇』の群れに萎縮しているようだけど、それでも逃げ出すことはしない。明日香さんの交渉がよっぽどうまくいったんだろうか……。

 

 

「さて、エントリーナンバー1番、卍荒罹崇卍です!卍さんじゃないですよ!」

 

 右手を高らかに上げて宣言する『荒罹崇』。でもみんな卍荒罹崇卍なんですから、そんな自己紹介はいらないですよ。

 

 なーんて和気藹々と始まった発表会だけど、次の瞬間に披露されたテクニックを見て、唖然とすることになる。

 

 

「では、これよりスキルによらずに視線で相手を崩壊させます!体験したい方は壇上に上がってください!」

 

 

「……はい?」

 

 あまりにも意味のわからないことを言い出す『荒罹崇』に、一同唖然としたものの……1人の『荒罹崇』が勢いよく立候補して壇上に躍り出る。

 

 そして軽いやり取りの末、ついにテクニックが披露されることになって——その直後、立候補した卍荒罹崇卍の腹に大きな風穴が開く。同時にHPが大きく減少していく。なんの予備動作もない。脈絡もなく、身体の部位が削り取られていく。

 

 このゲームは剣で切られようが槍で突かれようが部位欠損は起こらないし血も流れない。強いて言うなら状態異常で片手が消失するということならあるけれど、腹が抉れる状態異常なんて聞いたことがない。何が起こっている?

 

 それがテクニックだというなら、単純にそういった効果を持つスキルを行使したわけでもない。仮にスキルだったとしても詠唱時間(キャストタイム)も予備動作も踏み倒してこの効果を引き出せるというのなら強すぎる。意味がわからない。

 

「プレイヤーネーム『卍荒罹崇卍』、いまのが見えましたか?」

 

「おや、AWPさん、来てたんですね。……いや、何も見えませんでしたけど……。AIの視点ではなにか見えてたんですか?」

 

「見えてましたよ。我々は人間には観測できないさまざまな感覚をデジタルデータとして観測できますから——といっても、あのプレイヤーネーム『卍荒罹崇卍』もまた、似たような視点で世界を観測しているようですが」

 

 長々と要領を得ない話だけど、どうやらあのテクニックはAIと同一の視点で世界を視ることによって得られるらしい。

 

 とはいえ、AIがどんな視点で世界を見ているか、ボクは他人からの聞きかじりでしか知らない。0と1の変化によって明確に世界を観測できる、だったかな?それがどういう感覚なのか想像もつかないので、テクニックの全容もまるで見えない。

 

「もったいぶらずに教えてくださいよ。あれは何がおきているんですか?」

 

「やれやれ、これだから人間様は……。あなたが見つけたテクニックとも関わりがあるというのに。いいですか?あれは『観察者効果』を利用しています」

 

「『観察者効果』……」

 

「観測されることによってミクロな存在は動きを変える。これは、あまりにも小さな存在である量子が、観測に必要な光子や魔力といったごくわずかなエネルギーに影響されて挙動を変えてしまうことが原因とされています。といっても、本来それはミクロの世界でのみ観測できるような些細な変化であり、マクロな視点ではそんな小さな影響があったとしても何も変化はない。けれど——もし、その()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……前例がありますよね?」

 

 

「——〈トンネル避け〉」

 

 他者に対して〈トンネル避け〉に類する現象を強制的に発動させ、マクロな世界に影響するほどの風穴を空ける。もちろん、【モーションアシスト】は自身の行動に対する最適解を作り出すことしかできないけれど……たとえば『光子』。これを自身のモーションによる最適解を通じて操ることができれば、『観察者効果』を利用して他者の動きに介入することさえできるだろう。

 

 それすらも〈トンネル避け〉を使えば回避することは不可能ではないけれど、最適解同士の衝突であれば『必ず回避する』なんてことは絶対できない。

 

 回避だけでなく攻撃にも量子の世界が関わってくるわけですか……いよいよ環境末期に突入してきましたね……。

 




テクニックその101 『観察破壊』
観測することによってミクロな世界に影響を与えるのが観察者効果。【モーションアシスト】によって、その影響をコントロールするのがこのテクニックです。
【モーションアシスト】によって観測に必要な光子をコントロールすることができるならば、相手の身体が崩壊するように観測するなんて簡単です。
しかしこのテクニックが成立すると言う前提を踏まえると……。
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