卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第236話 風が吹けば

 それからも『荒罹崇』達のテクニック披露は続いた。既出のテクニックの改変・派生のようなモノや新たな【マクロ】など、見ていてすごく楽しかったけれど、さすがに最初の人のインパクトを超えるようなテクニックはありませんでしたね。

 

 というより、〈観察破壊〉……。あれは恐ろしすぎる。〈観察破壊〉自体が問題というわけではない。今回はお披露目会という事情もあり、受け手側の人が無防備に受けただけであって、ガチの戦いであれば【モーションアシスト】による最適解で光子を避けることだってできる。

 

 もちろん最適解同士の戦いであれば必ず回避できるとは限らないし、ノーモーションで放てる攻撃技としては非常に有効だ。けれど——それよりも〈観察破壊〉というテクニックの前提となっている()()()()に問題がある。

 

 それはこれまでの前提とされていた【モーションアシスト】の制約の全てをぶち壊すモノであり、ブレイクスルーの分水嶺だ。気づいてしまったが最後、これまでの闘いの全てが茶番と化してしまう。

 

 今回の本題ではないから、敢えて触れる必要はないけれど、間違いなく近いうちに派生テクニックが一世を風靡するでしょうね。

 

 そしてボクの前の人のテクニック披露が終わり、最後にボクの番がやってきた。

 

 失敗は許されない。いや、()()()()()()()()()()()()

 

 数々の超弩級テクニックによって忘れかけていた【モーションアシスト】の基本要素。それを思い出せ。

 

 

 ()()()()、その確信がボクに最適解を与えるのだから!

 

「今回みなさんに習得していただきたいのが、《ロールプレイング》の果てに達する能力です。みなさんは当然熟練度に差はあれど、習得していると思いますので、今回はそれを極めていただきたいと考えています」

 

 『荒罹崇』達の知識・記憶が少なくとも《ロールプレイング》習得段階であるということについては既に調べがついている。《ロールプレイング》は習得段階こそ厳しいけれど、使っていけば少なからず自然に向上していく技能なので、その能力を引き上げていくのは難しいことではないはずだ。

 

「ところでみなさんは《ロールプレイング》をどのように使っているのでしょうか?」

 

 その問いかけに対する彼女らの答えはこうだ。『別の人格を演ずることによって別の視点を見出す』。これは《ロールプレイング》を行使できるようになったAWP-002さんとの戦い当時の使い方だ。普段のボクとは別の人格を使うことによって、相手の演算による予測から外れることを狙っていた。

 

 けれどそれはあくまで奇策の類であって、AIと相対しない限りはこちらの思考パターンを読んで行動してくるような人はいない。だからこそ、とがみんと身体が分裂した影響もあって、最近は別の使い方をすることが多い。

 

「ボクの最近の使い方は、対戦相手を瞬間的に演ずることによって思考パターンを読み取る方法です。言われてみれば簡単ですよね?」

 

「なに無茶苦茶言ってるんですか!?」

 

「この技術を活用すればAIの持つ思考演算と実質的に同等のことができるので、《ロールプレイング》を持っていない相手に対しては一方的に優位に立てます。現環境ではこの技術は必須ですよ!」

 

「どうやって相手を演じればいいんですか?情報がないと相手の実際の思考とはズレが生じますよね」

 

「そんなの簡単ですよ。見たままの相手の言動を脳内で再現すれば、そこに至るまでの過程も推測が付きます。このタイミングでこんな発言をするとしたら少し前にはこんなことを考えていたんだな?と、結果から過去を遡っていくだけです。そうして過去を遡ってある程度の情報が取れれば完璧にその相手を演じることができますよ」

 

「……過去を遡る」

 

「そうです。試しに自分自身の過去を遡ってみてください……。たとえば今からちょうど1ヶ月前になにがあったか、なーんてことを正確に思い出すことは難しいかもしれませんが、先程の例のように『なぜなぜ分析』を用いれば全てを振り返ることが可能です」

 

 ボクの言葉に対して卍荒罹崇卍達は黙々と考え込み始める。それぞれ考え方に差異があるとはいえ、断定口調でできると宣言してしまえば、試してくれるのがボクという存在だ。当然この流れに持ち込むために《ロールプレイング》によって事前に発表会の最適解を模索してきた。

 

 《ロールプレイング》で相手の過去を深掘りできるのは事実。けれどこれは必ずしも全ての人間に通用するわけではない。

 

 今回の聴講者である『荒罹崇』達もそうだ。ある程度までは当然のように行動を遡っていくことができる。けれど、彼女らは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それはある日突然記憶が埋め込まれたことによる位置の矛盾だったり、整合性を取るための偽の記憶だったり、あるいは催眠だったり。とにかく、『荒罹崇』に変わる瞬間までは遡れるのにもかかわらず、その地点を超えてしまうと再現できなくなってしまう。

 

 

「あれ、なにかおかしいな?」

 

 

 その言葉を皮切りに、卍荒罹崇卍達は記憶の矛盾に気づき始める。

 

「そういえば、最近は灑智と会ってない……?」

 

「いや、待ってください。何か忘れている……?」

 

 それでも、核心を突くには至らない。最後のひと押しが必要だ。【フォッダー】の世界を軽く1回終わらせてしまうことになるけれど——大丈夫、きっとまた始まってくれますよね!

 

 

 そしてボクは足でそっと地面を踏み鳴らす。

 

 

 カツンと小さな音が鳴り響く。

 

 

 音が空気を伝搬していく。

 

 

 音波はボクの意思に従って拡散し、会場全体を駆け抜けていく。

 

 

 会場に響き渡る音波は一定の指向性を持って向きを変え、人々の身体を〈トンネル避け〉によってすり抜けていく。

 

 

 音波に観測されて影響を受けた一部の量子は、別の量子へと影響を渡し、それによってさらなる観測が発生する。

 

 

 こうして玉突き事故を繰り返しつつ、その影響力を次第に拡大させていき、ついに人体というマクロの領域に踏み込んでいく。

 

 

 最初は小さな始まりだった。しかし、エネルギーは伝搬しながら動きを変え、うねりを伴って干渉を広げていき、最後には『荒罹崇』達の脳にまで到達する。

 

 

 それはミクロの世界を超越しつつも、マクロの世界においては小さな小さな刺激に過ぎない。けれど、その小さな刺激が人々の脳を活性化させていき、封じられた記憶の錠前に僅かなヒビを入れていく。

 

 

 これでボクの後押しは終わり。なぜならもう必要がないから。《ロールプレイング》を極めた彼女らのテクニックを以てすれば、最後にほんの少し力を入れるだけで、封印はゆっくりと解けて……。

 

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