卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第237話 バタフライタクティクス

 本当の記憶を思い出す。その過程を経て『荒罹崇』たちはさまざまな方向へ進んでいく。

 

 自分自身が植え付けられた偽人格であることにショックを受ける者。復活した本来の人格と共存して生きることを選ぶ者。あるいは身体を分離しようとする者。

 

 方針や要望は人それぞれだけど、アクタニアの持つ権能なら大概のことは叶えられる。以前の戦いの時は、認識の違いを利用して踏み倒されてきた彼の権能も、同意の上で使用するなら齟齬は起きない。全能に等しいその力を、最大限に発揮できるのだから。

 

 それでも驚くべきことに、少なくない数の人々はこのまま現状を維持し、共存の道を選ぶらしい。分裂して野良『荒罹崇』となる方々も、元の人格の人と仲が悪いわけでもない。なんなら一緒に暮らそうと誘われているボクまでいる。彼女たちの住処の確保など、まだまだボクがやらなきゃいけないことは残っているけれど……みんな仲良く頑張っていけるといいな。なーんて親心にも似た感情を抱きながら、会場にいる『荒罹崇』たちを眺めていると、めりぃさんに声をかけられた。

 

「ありがとう、卍さんー!お兄ちゃんが戻ってきたよー!こっちの卍さんもよろしくね!」

 

「あはは……お世話になりますね」「ボクもいますよ」「何人いるんですかね?」「よろしくですー!」

「こちらこそよろしく。なあに、僕は〘Multa〙経験者でもあるからね。人格の1人や2人、増えても屁でもないさ」「オレの部屋が狭くなっちまった」「じゃあアタシのエリアに2人くらいこない?歓迎するよ!」「卍さん、ファンです!サインください!」

 

 身体が分かれていないせいもあって、一人芝居みたいに会話しているように見えるのが少しシュールだけど【フォッダー】ではもともとよくある光景だ。

 

 でも、そんな今では当たり前になった光景も、本来なら人類として不自然かつ歪な〈進化(エボルド)〉だ。このまま【フォッダー】が続いていくとしたら、もっとおかしなことになりかねない。そして、今まで多大なる問題を引き起こしてきた【フォッダー】が、今さらこの程度の問題でサービス終了に追い込まれるとは到底思えない。間違いなくこの世界は存続し続けていく。

 

 不自然かつ歪な〈進化(エボルド)〉、そして《『位階上昇(アセンション)』》を人類が続けていかなければいけない理由とはなんなのか。

 

 もし人類——そして世界に危機が訪れるのなら、素直に教えてくれればいいのに。こんな命を弄ぶような行為をしなくても、一致団結ができるかもしれないのに。

 

「……荒罹崇、やっぱりあいつらの研究通りの結果になっちゃったね」

 

 ボクがもの思いに耽っていると、とがみんが声をかける。確かにそうだ。ボクが『荒罹崇』たちを解放する。ここまでの流れすらも完全に掌の上なのだろう。

 

 ボクは全ての『荒罹崇』の人格を持つ人たちを、《ロールプレイング》を扱える領域に引き上げた。さらにその『荒罹崇』から()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「命名するならば……〈バタフライタクティクス〉といったところでしょうか」

 

 ボクらの【モーションアシスト】は本来自身の行動に対する最適解であって、他者に影響することはできない。

 

 けれどボクが生み出した靴音は、ボク自身の最適解によって最適な位置へ、最適な出力で放たれる。

 

 それならボクの放った靴音を受けた物体やエネルギーもまた、ボクの思い通りの影響を受けて、最適解の恩恵を享受する。

 

 遥か彼方の蝶の羽ばたきが別の場所で大嵐を呼び込み、風が吹けば巡り巡って桶屋が儲かる。ある1つの事象に干渉できるなら、連鎖の末に全ての事象を引き起こせる。

 

 【モーションアシスト】という全知で全能を為す。これからの戦いは全てのプレイヤーが全能の領域で戦いを広げていく。

 

 そして【モーションアシスト】による最適解を学習したプレイヤーは、いずれ現実(リアル)においても全能に至る。

 

 システムによる縛りがあるゲーム内であれば、それでもまだ戦いは成立するのだろう。けれど、この力が世界に広まった後の現実(リアル)が心配でならない。

 

 世界はこれからどうなっていくんだろう。

 

 そして、いずれはこの全能を超える力すらも生まれていくんだろうか。

 

「……さて、それではこのテクニックを広めていきますか。どうせ勝手に広まっていくんですから、発見者特権で視聴者数を稼いでいきましょう」

 

「ブレないねー♥さっきまで世界を憂いていた人の発言だとは思えないよ?」

 

「世界にとって必要だっていうんなら流れに乗るしかないですよ。一応ユーキさんにも人類の危機に関する質問のメールボムを送っておきますけどね」

 

 というか、全能まで至ったらもうその先とか、なくないですか?これを広めたら普通に目標達成して終わりになりませんかね?

 

 いや、目標達成したから【フォッダー】は終わりー!とかなったら炎上させますけど。いや、犠牲者を増やさないためにも【フォッダー】は終わったほうが……いや……。

 

 そんな葛藤を抱えつつもチャンネルを切り替え、この超弩級技術を視聴者さんに盛大にバラ撒いて、その日のゲームを終えた。

 

 

「ただいまー。お、灑智も戻ってきてますね」

 

「おかえりなさい、お姉様、とがみん。見てください!お土産がありますよ!」

 

 今回の騒動で独自に動くと言って出ていった灑智だけど、何か収穫でもあったのかな?……といっても、一応被害者の人格救出は完了したわけだし、もう必要ないかもしれないですけど……。

 

「おみやげ?なにかなー?♥」

 

「『転式学院』の校長を捕まえてきました!これです!よいしょっと」

 

 そうして、ごとっと部屋に転がされるお姉さん。縄で全身を縛られていて、抜け出せない状態になっている。

 

「ちょっとまって??」

 

「さすが灑智♥やるねー!」

 

 とがみんさん、やるねー!で済ませちゃいます??犯罪ですよ??いや、この人もほぼほぼ犯罪者かもですけど、泥棒から物を盗んでも犯罪なんですよ??

 

「許してください。もうしません」

 

「あんなに組織の黒幕みたいなムーブしてたのに、全力で謝ってるんですけど」

 

「許しちゃだめだよ。火炙りで♥」

 

「妹の頼みなら仕方ないですね!がんばりますっ!」

 

「まことにごめんなさい!なんでもします!」

 

「ほらほら!何でもしますって言ってくれてますよ!ここは私刑じゃなくて利益になることをしましょう!」

 

「そうだね。じゃあ鼻からスパゲッティ食べてもらおっか♥」

 

「どこに利益があるんですか??」

 

「じゃあ実際人類にどんな危機が待ち受けているのか教えてもらおうかな?」

 

「それは……国家秘密なので……」

 

「消しましょう。今なら全能パワーで証拠を残さず粉砕できますよ」

 

「ずいぶん手のひら返しが早いね♥」

 

 だってそれを聞くために必死にフォローしてたんですよ?教えてくれないなら用済みです。消しましょう。

 

「……人類の脅威は文字通り次元が違う。このままでは全てが終わる。言えることはそれだけだ!許して!」

 

 それからは何を聞いても、「許して」としか言ってくれないし、何も教えてくれないので、残念ながらお外に放流しておいた。

 

 もちろん対策はしてある。量子を操作できる今のボクなら『量子もつれ』で作り出したマーカーを介して、どんなに離れたところにいてもその状態を把握できる。なにかをやらかすようなら即座にぶっ飛ばしに行く予定だ。

 

 ……しかし、こんな領域に踏み込んでしまったボクたちだけど——それでもやっぱり彼女の想定する脅威は次元が違うし、全てが終わるという。

 

 もはやこれ以上の成長は細かなテクニックのマイナーチェンジや派生による緩やかな変化しか見込めないと思うんだけど……。まだ足りないっていうんですか?あまりにも現実感がなさすぎて、ちょっと想像できないんですけど……。

 




テクニックその102 『バタフライタクティクス』
〈観察破壊〉を参考に生み出されたテクニックです。本来なら【モーションアシスト】による最適解は自身の動作にしか影響できません。しかし、〈観察破壊〉は光子という間接的要素によって他者の動きに干渉する事ができる。つまり、間接的なオブジェクトを介する事によって、事実上の全ての要素に最適解を適用することができる。まさにこれは『全能』と言っても等しいテクニックですね。
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