卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる! 作:hikoyuki
「ユーキさんはどこですかー!出てこーい!」
やってきたのは例の公園。いつもならボクが来る頃にはユーキさんがいるし、なんなら噂では公園で暮らしてるらしいんだけど……いたいた。
例によっていろんな方々に囲まれて、ほんわかと雑談をしている。まったく、【フォッダー】がオワコンになっているというのに、いいご身分ですね。
「今回ばかりは許しませんよ!詫び石を配るべきです!たくさんのボクやボクに乗っ取られた人が迷惑してるんですよ!」
「あ、じゃあ【四つ葉のクローバー】配りますよ」
「許します」
「許すなよ」
「さすが卍さん」
「人々の悲しみよりも【四つ葉のクローバー】を優先する女」
「許しますよ?だってどうせ【フォッダー】は終わらないし、何が起こっても逮捕とかされないんでしょ、この人。法治国家ですから私刑はよくありません」
さっき私刑しようとしてたよねって、とがみんが言いそうな気がしますが、無視します。
「……以前、神ゲーの定義について話したことがありましたよね」
ベンチに腰掛けたユーキさんが、ぽつりと呟く。そんなこともありましたね。確かあの時は……。
「プレイすることに利益があるゲームが神ゲー、そういう結論でしたね」
「そう、【フォッダー】は人類にとって有益な神ゲーなので、お国も手を出さないんです。開発者の私が言うのもなんですが、最低な話ですね」
あの時は1000億円という賞金がメリットだって体で話が進んでいた。けれど実際には、〈
【
「利益があるとは言いますが、我々は〈
確かに生物の繁栄と進化というのは全体論で言えば、目指すべき流れであり、望ましいと言える。
けれど、個人の範疇で言うならば〈
せいぜい、優勝のため、1000億円のために強くなりたい、ってところだけど……。そろそろ1000億円という天秤に置かれた餌に、リスクが釣り合わなくなってきた。
そういった内容の説得をユーキさんに仕掛けていく。まあ、ここまで散々秘匿してきた機密情報ですし、どうせ話してくれないと思いますけど……。
「わかりました。いいでしょう。では、その一端をお見せします」
「ですよねー。やっぱり話してくれるわけ……えぇえええ!?」
例の女性にお願いしても、人類の危機については絶対に口を割らなかったのに、そんな簡単に話してくれちゃうんですか!?
「私が段階的にハードルを敷いていったのにも理由があるんです。もし、最初からその『
顔を俯かせたまま、ユーキさんはそう語る。それでもすぐに顔を上げて、
「でも、ここまでの領域にたどり着いたみなさんなら、勝てない相手ではない。〈
そう言いつつ彼女は手をすっと横へスライドさせて、1枚のARパネルを出現させた。恐らくはそこに映像が流れるのだろう。
「この映像は今から全世界に中継されます。私が言えるのは一言だけ——どうか、絶望しないで」
その言葉と共に映像の配信が開始される。まず最初に映ったのは、宇宙だった。中央には青い惑星がでかでかと映されているけれど……。大地の形から察するに、地球ではない……?
「これは遥か彼方、遠い昔に存在していた別の星の中継です。地球と同じように人間がいて、地球と同じような発展を遂げていた
要するに宇宙人のいる星
それからしばらくは何も起こらない。ただ星を眺めているだけの映像だった。きっと、この星でもたくさんの生き物が日々を過ごしていたんだろう。この星でもVRMMOはあったのかな。あるいは、もっとすごく発展している世界かもしれないね。
けれど、唐突にその日常は終わりを迎える。
映像から音声が流れた。
—— うーん、自転の速度が気に入らないな。作り直そっか ——
その瞬間、映像が暗闇に染まった。
なんだろう。故障?と一瞬そう思ったのだけど、すぐに気づいた。
——星が消えてしまったんだ。
ボクは何らかの形でこの星が大変なことになってしまうのだろうと考えてはいた。
けれどそれはもっと派手な形を想定していた。極太のレーザーで破壊されるとか、エネルギー砲が発射されるとか。
でもこの映像にはそんなわかりやすくて派手な演出なんてない。予備動作もなしに、ただシンプルに星が消滅した。
—— ついでにちょこーっと
何もない暗闇の中で、幼い女の子の声が響き渡る。
—— これで次は面白い世界ができるかな? ——
その声色はそれはそれは楽しそうで——少し前までそこにあった星のことなんて、気にも留めていない。無邪気な喜びと幸せの感情が、これでもかと伝わってくる。
—— よしよし、
そして次の瞬間、再び星が現れる。
まるで編集によって別の映像が唐突に挟み込まれたかのように、青い星が映像として映し出される。
そして、その星の姿には見覚えがあった。
「これは……地球……?」
「そう、これがこの世界が生まれた理由です——。5分前仮説などという言葉に聞き覚えはありますか?」
朗々と語るユーキさん。フェイクか何かなんじゃないのか。演出も何もないこんな動画なら、誰だって作れる。そう考えるのが自然な成り行きだ。
けれど、ユーキさんのその声色も、真剣な表情も、そして模倣再現した思考も、すべてを物語っている。
「あれから幾年もの時間が経過した以上、既に5分ではないですが……その思考実験は世界の在り方を正確に言い当てていた。あるいは、そう作られたのか?まあいいでしょう。そんなことは些末な話です。私が言いたいのは——そう、この星は西暦にして2015年9月20日をもって始まったんですよ」