卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第28話 ARスポット

「お姉様。おかえりなさいませ。何やら新しい妹を誑し込んでいらしたようで」

 

 ゲームの世界から戻ると、いつものように我が妹が待ち構えていた。ボクの配信を見ていたのだろう。

 

 新しい妹というのは明日香さんのことだろうけど、あれは妹分的なあれですよ? 誑し込んでなんかいないですし。

 

「今日は肉じゃがを用意して待っていました。ぜひ召し上がってくださいね」

 

「わーい! ボク、肉じゃが大好き!」

 

 テーブルには湯気をまとった料理がずらりと並んでいた。先ほどゲーム内で【パインサラダ】を食べたばかりではあるけど、やはり現実の料理は別腹だ。

 

 というより、ゲーム内の料理だけでは絶対に満足できない仕様になっている。ダイエットとか抜かして現実でご飯を食べずにゲーム内で食べるような輩が増えては困るだろうしね。

 

「うん! 美味しい! 灑智は料理上手だよねー! 毎日言ってるけど」

 

「現代において評価される項目ではありませんから……いずれはAIが作る料理をも超越した最強の料理人を目指します」

 

 ちょっとお金を出せば自動調理器が買える昨今とはいえ、手作りの一皿にはまだ価値がある。

 

 灑智の料理には、そこらの調理器が作る料理よりはるかに上質な味わいがある。そしてなにより愛情が入っている! 一人暮らし勢には到底味わえない最高の料理であることは間違いない。うらやましいでしょ。

 

「遅れましたが、メインクエスト突破おめでとうございます、お姉様! 明日からは何をなさるのでしょう?」

 

「おめありです! ……明日からしばらくは観光とかの通常業務かなー。【願いの石】も想定の倍も手に入ったし、そもそもどこで手に入るのか自体がわからないからぶらつくのが最適解?」

 

「なるほど、応援していますわ。お姉様のためにも、私はこれからご活躍を動画に編集してきます。お外でまったりしていてくださいませ」

 

「えー……いつも助かってるけどさー……申し訳ない気がするなあ」

 

「お姉様の活躍を世に広めるのは私の趣味ですから!」

 

 そんなことを堂々と宣言され、そのまま部屋を追い出される。ボクはどちらかというと部屋でまったりしていたいのだけど、灑智はボクが近くにいると集中できないのだとか。

 

 仕方ない。その辺でもぶらついてこようかな。

 

 

 ボクは家を出て、徒歩5分の場所にある『テレポーター』へと向かう。

 

 テレポートした先は巨大な公園。ここはARスポットと呼ばれる特殊なエリアで、昼夜を問わず賑わっている場所だ。

 

 座標と環境データを同期させた特殊な電脳世界がネット上にあり、物理的な肉体を持たないAIたちは、こういったスポットに限って擬似的に現実へ干渉できる。

 

 犬と遊んでいる人やサバゲーをしている人、仲良く会話している人やボスモンスターと戦っている人、筋トレをしている人、おばけに取り憑かれている人などなど、さまざまな光景が同時に見られる、かなりカオスな場所だ。けれど、そんなリアルとバーチャルの境界が曖昧になっている様子を眺めながらのほほんと過ごすのがボクの趣味なのです。

 

 公園に入り、ベンチに腰を下ろしてまったりとその光景を眺めていると、隣からどんよりとした灰色の雨雲が飛んできた。どうやら悲しみ系の感情表現(エモート)を乱射している人がいるらしい。

 

 本当に悲しいなら、わざわざ感情表現(エモート)なんてしないはずなので、察するに、かまってもらいたいようだ。隣のベンチへ移って、声をかけてみる。

 

「どうなされたんですか? 落ち込んでいるようですけど」

 

 その人は、蒼い宝石のように透き通った髪をした少女だった。単純に髪を染めただけでは到底再現し得ない幻想的な容姿――言い方を変えるならば、作り物じみたグラフィックだ。

 

 そんな少女が、ボクの問いかけに口を開く。

 

「……聞きたいですか」

 

 明らかに聞いてほしいと言わんばかりの感情表現(エモート)を撒き散らしているのだが、あくまでボクに聞かれたから答える、というスタンスをとるらしい。まあ、いいですけどね。

 

「ええ」

 

 ボクがそう答えると、少女はぽつりぽつりと言葉を紡ぎ始める。

 

「実は私、とあるゲームの開発を任されたんです」

 

 なるほど、ゲームの開発ですか。プレイヤーとして、ゲーム開発者は尊敬すべき存在だ。たくさんかまってあげよう。

 

「そのゲームは大会で優勝賞金1000億円を出す予定らしくて」

 

 なるほど。優勝賞金1000億円。すごいですね。そんなゲーム、なかなかないですよ。

 

 ……ん?

 

「もしかして【フォッダー】ですか? すごいじゃないですか。そんな一大プロジェクトに携われるなん――」

 

「――だから嫌なんですよ!」

 

 ボクがプレイしているゲームの開発者なんて完全に崇拝の対象だ。全力で褒めちぎろうとしたその時、急にキレたわりには、感情表現(エモート)のタイミングは完璧でしたね。

 

「失礼しました……。話を聞いてもらっている立場なのに」

 

「【フォッダー】になにか問題があったんですか? 確かにバグは仕様として放置されっぱなしですけど……」

 

「ああ、その担当は私です。ボイコットしてるんですよ……。申し遅れました。ユーキと申します」

 

 目の前に元凶がいた。

 

 ユーキと言えば、漆黒の翼さんが送った報告メールに対する返信にも出ていた名前。ついでに言えば、ゲーム開発者としてはわりと有名な人で、多くのゲームを世に送り出しているAIの方だ。

 

 つまりあのメールはやはり自動返信によるもので、完全にバグ修正を放棄しているということなんだけど……。いったいどうしてボイコットなんかを……?

 

 突然の衝撃にボクが困惑していると、ユーキさんはこう問いかけた。

 

「神ゲーって、どうやったら作れると思いますか?」

 

 神ゲーの作り方? 謎かけかなにかでしょうか? 神ゲーと言えば……。

 

「そりゃあ、面白いゲームであることが重要ですよね。当たり前ですが」

 

「他には?」

 

「誰にでもプレイできること。顧客の幅が広いほうが多くの人に遊んでもらえます」

 

「他には?」

 

「マーケティングは重要ですね。面白いけれど無名なゲームなんかもありますし、知ってもらえなければ話になりません」

 

「他には?」

 

「他には――ゲームをプレイすることにメリットがあること」

 

 はっきり言って、ユーキさんの言いたいことにはすぐに気がついていた。

 

 けれど、そんな端的で絶対的な結論をボクは言葉にしたくなかったのだ。

 

「その通り。もちろん人気の神ゲーを作るには、それぞれの項目が優れているに越したことはありません。ただし、ひとつの項目が圧倒的に優れているならば、他の要因は些末なこと。つまり――」

 

「――1000億円もの優勝賞金が設定されていれば、誰が作っても神ゲーなんですよ」

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