卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第273話 引き上げの原則

 さて、再びやって参りました魔族の街。前回見に来たときからまだ数時間も経ってないけれど、朝っぱらからあれだけの開拓がなされていたことを考えると、さらなる大規模な変貌が起きていてもおかしくない。

 

 しかし大規模な開拓を行ったからといって高評価が得られるわけではないという前提が明らかになった事実は見逃せない。もしかすると先陣を切った漆黒さんを含む開拓者の犠牲を糧に、初日は自重する方向性に進んでいく可能性もあるのかも……?

 

 というか、そんなド派手な開拓をされたら、ボクがやる予定だった堅実な配信がさらに地味になってしまうので、やめてほしいなーなんて淡い期待を込めつつポータルを潜ると……

 

 

 そこには壮大な混沌たる魔界が広がっていました。

 

 

 前回訪れたときも魔界のような植物や【四ツ葉のクローバー】が多数繁茂する邪悪なエリアが発生していたけれど、街および世界の広さから見ればごくわずかで、それこそ小規模な庭園程度の広さだった。そんな恐るべきエリアも、ひとまず目ぼしい植物は採取され、少なくとも見かけの上ではその邪悪さは鳴りを潜めている。

 

 つまり、魔界としか思えないような恐るべき光景は、そういった植物類ではなくて……。

 

「なんですか、あの禍々しい機械は……」

 

 一見すると巨大なポンプのように見える金属製の機械がそこにあった。見た目だけでいうならば、なんらかの工業製品を作るための装置に見えなくもない。【会社】システムがある以上そういった装置を設置して開拓を進めていくことはなんらおかしくないはずだ。

 

 しかしその装置からはもくもくと紫色の煙が空に向かって昇っており、明らかに空気が汚染されているようにしか見えない。周囲も心なしか煙たい気がする。

 

 唖然とした表情でその機械を見つめていたボクだけど、やがてゆうたさんがある事実に気づく。

 

「見た目は最悪だが……どうやらアレには付与(バフ)の効果があるらしい」

 

「えっ!?」

 

 あわててステータスを確認すると、確かに能力が増加している。それもスキル1つ分に匹敵するくらいの莫大な上昇量。それがすべてのステータスに上乗せされていて、今のボクならちょっとした盾役(タンク)ができそうな能力と化している。

 

 もちろん相手も同様にこれだけのステータスが増加するのであれば結果的に相対的な地位としてはなにも変わりはないのだけど。

 

「なんなんですかこの煙……?能力は良くてもこんなの景観最悪です。間違いなく失格ですよ……」

 

「あるいは失格覚悟での宣伝が目的かもしれないな。この煙が世に出回るのなら、この付与(バフ)を受けないで戦うプレイヤーは一気に劣勢に立たされる。となれば世のプレイヤーはこれを吸わなければやってられなくなるだろう」

「麻薬か何かですか??」

「自分で使えばいいのに」

 

 この装置の製作者の意図はともかくとして、確かにこれだけのステータス増加が見込めるアイテムでしたらリピーターも増えるでしょう。強いて言うならば原理さえわかれば自分で作ってみても良いかもしれません。機械を調べてみればわかるかな。

 

 恐る恐る煙を吐き出し続ける装置に近づいていき、取り付けられている蓋のようなものを取り外してみる。中には紫色の液体がたっぷり満たされており、この液体が煙のようになって噴射されているのだと考えられる。

 

 ボクはそれをそっと掬って瓶に詰め、【ストレージ】に入れてステータスを見てみる。泥棒じゃないですよ?置いてあるのが悪い。

 

 そしてアイテム名を見てまず驚いた。これ、ポーションじゃない。

 

「【ぶどうジュース】……?」

 

 この【ぶどうジュース】はありとあらゆるステータス値が割合で上昇する料理アイテムらしい。そしてその項目1つ1つが個別の料理アイテムの性能を大幅に上回る数値……。こんなアイテムがあり得るんですか?

 

 料理アイテムの支援(バフ)は常に最新の食事の付与(バフ)だけが適用される。だからこんな規格外の料理が存在してしまえば、これからの対戦環境は【ぶどうジュース】一択となってしまうのは想像に難くない。

 

 周囲ではなにやらこの装置についてプレイヤー間で話し合っている様子も見受けられる。当然だろう。こんな装置が堂々と設置されていて手を出さないプレイヤーなんてありえない。

 

 どうやら同じように中のアイテム、そして機械の構造を把握した上でその仕組みについて意見を交わしているようだ。2人の女性プレイヤーが議論を行っている。

 

「どうやら別のタンクに入っているぶどうジュースの特定成分を蒸留させることによって純度を引き上げているようだな」

 

「それくらいなら私だってやっているぞ!しかし、そもそも加工前のジュースの性能が高すぎる。蒸留前の性能が肝心なのだ」

 

「それに料理のステータス上昇値には成分も重要視されるけど、味も大事だもんな。ただ濃くしただけじゃその辺りのバランスが崩壊しかねない」

 

「何かがおかしい。そもそもの原液がジュースにしては味が薄すぎる。【クックブック】で詳細なデータを見ているが……成分の量と上昇する値が明らかにアンマッチしている」

 

「蒸留工程を前提とした味わいということだよな?最終段階で味を引き上げることによってステータス上昇値を引き上げたいという意図はわかるけど、不自然すぎるぜ」

 

「〈引き上げの原則〉に基づけばそれが最高率なのは確かだ。しかしさすがに無理があるぞ」

 

「〈引き上げの原則〉ってなんでしょう?」

 

「おまえ、料理人のくせにそんなことも……おっと、卍さんか。〈引き上げの原則〉というのはこのゲームにおける料理ボーナスのことだよ」

 

「料理ボーナス?」

 

「今の話を聞いていたならわかるかもしれないが、私たちのような手動操作(ビルド)の料理人は成分と味の両立を行うことによってアイテムの性能を引き上げている。しかし、この味の評価というのに癖があってね。美味しいものをより美味しくするよりも、低級な素材を美味しく仕上げるほうがステータス向上値が高くなるのだよ。もちろん高級な素材のほうが成分が良いから効率が良いとは限らないがな」

 

 コック帽を被ったきりっとしたお姉さんが親切丁寧に教えてくれる。それに続けてやや小柄な少女が補足を加えてくれた。

 

「つまり高級な素材を一度くっそ不味くした後に不味くなる原因となった素材を取り除けば料理効果が上がる。これが料理系プレイヤーの基本テクだ」

 

「そんな酷いテクがあるんですね……」

 

 つまり今回の場合は〈引き上げの原則〉に則って、加工前のぶどうジュースは味が薄めで、加工後にちょうどよい美味しい味に調整することによってボーナス補正が得られる。

 

 不味くした素材は上昇ステータス値が下がるので、その後のボーナス補正で、もともとの値を上回るようにバランスに気をつけないといけないらしいのだけど……。原液のジュースはなぜか不味いのに上昇ステータス値がやけに多すぎるのだとか。

 




テクニックその113『引き上げの原則』
美味しくない素材を美味しく仕上げるほうが美味しい素材を美味しく仕上げるより難しい。そんな理屈に従って、クズ肉やクズ野菜で美味しい食べ物を作るとボーナス加点されます。
美味しい素材のほうがレア度が高く、有用な効果が付きやすい事もあり、結果としては高価な食材の補正を超える事は出来ないのですが……。意図的にレアな食材をクズ肉にしたり塩を掛け過ぎたりして味を崩壊させてから崩壊の原因になった要因を取り除くと、『ゴミみたいな食材から信じられないほど美味しい料理ができた!』と褒められてボーナスがつきます。
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