卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第282話 ミスト

 落ち着け、冷静になれ。ふと確認すると、先ほどまで機能していなかった【プレコグニション】が復活していることに気づいた。恐らくは矛盾を成立させ続けるためには【モーションアシスト】を経由して《神なる行動(ディバインアクション)》を行使し続ける必要があるのだろう。それならば【モーションアシスト】を封殺すれば勝てる。

 

 【モーションアシスト】を無効化する最強の斬撃――【アブソリュート】なら!

 

 当たらなくてもいい。一定の距離からターゲットとして狙えばその時点で【モーションアシスト】は無効化され、神様は砕け散る。

 

 «疾風迅雷»を使えば距離をつめるところまでは簡単だ。勝機は失われていないはず……。

 

 あるいは他の選択肢がある。神様はシステムの定義上は間違いなく死亡している。試合のルール的には間違いなくボクの勝ちであり、この現状はあくまでシステムを騙しているに過ぎないということだ。

 

 恐らくはこのまま時間を稼いでいけば、対戦相手がなぜか試合会場にいないという判定がなされる。勝敗が改めて決定するはずだ。たぶん、きっと、そう信じたい。

 

 つまり、わざわざ【アブソリュート】を狙いに行かずとも耐久戦ができていた以上、このまま粘り勝ちできる可能性もあるけど……。

 

「ここでこいつを使う。これが何かわかるか?」

 

 そう言って取り出したのは紫色の液体。事前情報がなければ何かのポーションかな?と思ってしまうところだけど、ボクはそれを知っている。

 

「【ぶどうジュース】……!」

 

 それはこの環境で圧倒的なステータス増強を果たす最強の料理。ラーメンやらステーキと比べても摂取しやすいという優位性だけで他の追随を許さないジュースだ。それをごくごくと飲み干す神様を見据えながら、ある考えが頭をよぎる。

 

 勝ち筋が見えてきたかもしれない。

 

 職業(クラス)チェンジ、【メイジ】を【ナイト】に変更し、余っていたポイントで【アブソリュート】を即座に取得する。そしてとがみんからもらった香水みたいな液体を取り出した。

 

「はっ!ずいぶんと三下の発想ですね、神様?この期に及んでまだ舐めプしていらしたんですか。最初から叩き潰していたほうが良かったんじゃないですか?」

 

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>全能縛りで戦いたいとかほざいてる卍さんには言われたくない定期

 

>卍さんお得意のリアル挑発スキルさすが

 

>これ半分ソウルワードの域に達しているだろ

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「こちらは【アブソリュート】を獲得しています。あなたにこれを掠らせればそれで終わる。どうします?また遠くから光線でも撃って時間稼ぎでもしますか?こんな無茶苦茶がそう長いことシステムから見逃されるはずないですけどね?」

 

「フハハ――いいだろう。一撃の下に叩き伏せてやろう」

 

 ボクの挑発に乗った神様は【ストレージ】からゆっくりと大剣を取り出す。最大HPを削る剣は【ファイアエンチャント】を当てた時から会場に打ち捨てられたままなので、別の武器であることは間違いない。強力なダメージを与えられる武器なのか?

 

「ゴブ蔵、下がっててください。一撃で決めます」

 

「ゴ、ゴブー」

 

 ゆっくり後ずさって距離を取るゴブ蔵。ゴブ蔵は召喚モンスターである以上、ボクが死亡したらこの試合は負けになる。本当なら使い捨てて戦ったほうがいいのかもしれないけれど、あえてそんなことはしない。

 

「そちらこそ、我を舐めているようだな?メイン【メイジ】が【ナイト】に職業(クラス)チェンジしたところで受けきれると思うなよ?」

 

「――御託はいいです!さっさと来なさい!」

 

 来てくださいお願いします。光線は撃たないで。

 

 ボクの祈りが通じたのか、あるいは偶然か。神様は剣を構え……限りなく光に近い速度でボクに迫りくる。ジュースで上がったSTRならボクを一撃で仕留められる。【パインサラダ】だったとしても即座に二撃目を叩き込める。そう判断したのだろう。

 

 その速度は«疾風迅雷»よりなお速く、これまでのゲーム内最速をさらに超越した異次元のスピードだ。いずれは〈進化(エボルド)〉でこの領域の戦闘にも対応できるようになるのだろうけど、今はまだ目では追えない速度だ。当然ながら【アブソリュート】をジャストタイミングで発動させるなんてことはできない。

 

 けれど――()()()()()()()()()()()まっすぐ向かってくるだけのプレイヤーに攻撃を当てることなんて造作もない。

 

 目にも止まらぬ速度でボクへ間合いを詰めた化物じみたステータスの神様は次の瞬間――ボクの間合いに踏み込んで来ただけの獲物と化した。

 

「ステータスがっ……!?」

 

「――【アブソリュート】!」

 

 宣言と同時に神様の身体は粒子となって崩れ去る。【アブソリュート】の効果は命中前に発動するから、タイミングさえ合えば必ず倒せる。

 

 死してなお生き続ける無職の神も、前提となる全知なくして全能を振るうことはできない。

 

 今度こそ、ボク達の勝ちです!

 

【ゲームセット WIN:卍荒罹崇卍 LOSE:神】

 

 

「お疲れ様でした!神様、ありがとうございます!それにしてもHP0で平気で動いているところは驚きましたよ。あんなんできていいんですかね?」

 

「我は神であるからな。世界のルールに歯向かうことなど造作もない。しかし、その力そのものが世界のルールによって齎されたものであることを失念していたようだ。今後は完璧にマニュアル操作で維持できるようにせねばな」

 

「やめて!?」

 

 神様と感想戦をしていると、とがみんがボクの下にやって来たので抱き上げて抱きしめてあげる。

 

「ありがととがみんー!略してありがとがみんー!おかげで勝てました!」

 

「1文字しか略せてないよ?」

 

「最後に使ったアイテム――あれのことか。あれは料理アイテムだった、ということか?」

 

 ゆうたさんはとがみんとの試合開始までの流れを見た上で、神様のステータスがダウンした理由を冷静に推測する。

 

「そうだよ。あれはSTRを1%だけ上昇させる食事アイテム。【ぶどうジュース】の煙を参考に作ってみたんだけどね♥」

 

 食事効果は最後に食べたアイテムによって上書きされる。それならば、霧状の食事アイテムによって強制的に食べ物を摂取させてしまえばいい。とがみんからもらった時はその効果を見て困惑したけれど、本当に大活躍してくれました。

 

「なるほど、我のステータスが下がったのは……。やはりまだまだ神として修行を積まなければならぬようだ。まずはステータスなぞあげなくても限界値の速度を出せるように新たな〈魂の言葉(ソウルワード)〉の修行をして……」

 

「やめて!?」

 




テクニックその114『ミストフード』
ミスト状の食事アイテムを散布することによって相手に付与(バフ)を掛けるテクニックです。
一見すると敵に塩を送っているだけのように見えますが、料理の付与(バフ)効果は常に最新の食事が適用されます。どんなに強力な支援(バフ)を持っていようが、つまりこの霧状の食事を摂取させてしまえば上書きが可能なのです。
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