卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第286話 絶望

「アレですね、こういう時はあの人に聞いてみましょう」

 

「あの人?」

 

「明日香さんですよ。もしかしたら『異形』の仕業かもしれませんし、知ってるかもしれません」

 

「ちょっと待ってくれ。明日香さんはタイミング的にはこの後に【フォッダー】を始めるんじゃなかったか?俺の記憶では、明日の配信で卍さんと初めて会ってたように思うんだが」

 

「あー、そうでしたね。他にこの手のことに詳しい人いるかな?」

 

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>当然のようにデジャブの記憶を前提に行動してて草

 

>だっておかしいもん。よく考えりゃさっきまで神様と戦ってたりしてなかったか?

 

>今までのフォッダーは集団催眠による幻覚だった……?

 

>怖いからやめて

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 だんだん記憶がはっきりしてきました……。デジャブどころの騒ぎじゃない。ここまでの長い【フォッダー】でのゲームの記憶が、洪水のようにボクの脳内へ降り注いでくる。

 

 試しにステータスを見てみると、やはりというべきか、どうやらかなり昔の状態に戻っているようだ。ボクの記憶が嘘じゃないとするなら、データが大幅にロールバックされている。

 

 急いでログアウトして灑智に確認を取ったんだけど……ゲームどころの騒ぎじゃなかった。端的に言うなら――()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「どういうことですか?ボクの妄想じゃないですよね?」

 

「私はまだかなりぼやけていますけど……。それでもぼんやりと記憶は残ってます。これまでの出来事は嘘じゃないはずですっ!……たぶん」

 

 ネットを見ると、混乱しているのはボク達や視聴者さん達だけじゃない。数多くの人たちが『記憶』を維持しているらしく、大混乱が発生している。

 

 しかし、どうやら全員が『記憶』を持っているわけではないらしい。

 

 『記憶』を持っている人たちの共通点。それは――【フォッダー】プレイヤーであることだ。

 

 ボクのように明確に記憶を持っている人もいれば、灑智のように少しぼやけている人もいるようだけど……少なくとも、記憶を保持している人は例外なく【フォッダー】をプレイしたことがある。逆に、記憶を保持していない人の中にも【フォッダー】をプレイしていた人がいるのかはわからないけど……。

 

 だとするならば、【フォッダー】が生まれた経緯から考えられる可能性が1つあるけれど……。

 

「〈進化(エボルド)〉をしている人が時間の逆行から逃れた?なーんて、厨二病すぎですかね」

 

 ありえなくもない。いや、それどころか有力な仮説かもしれない。この世界に創造主がいるとしたら、一瞬にして時間を巻き戻すなんてことができても何もおかしくない。

 

 逆に時間を巻き戻すことができる相手に対抗するのであれば、時間の逆行を認識できなければお話にならないだろう。

 

「そういえば明日香さんの連絡先は知ってましたね。仮に記憶と世界が一致してるなら通じるはず。試してみますか」

 

 SNSから記憶を頼りに明日香さんのアカウントを探す――

 

 ――見つからない。

 

 入力ミスかと思って再び検索するも、該当なし。

 

 その結果を目の当たりにした瞬間、思わず背筋が凍りつく。

 

 明日香さんが消えた?ありえない。冗談はやめてほしい。そんなわけがない!

 

 明日香さんは妄想だった?違う。灑智もみんなも明確に記憶を保持しているのに、その中で明日香さんが夢だったなんてそんなことあるわけがない。

 

 どこかにいるはずだ。こうなったら、今すぐ探し出して――!

 

 

 ――その時、ARデバイスを通じて通信申請が行われた。即断で応答した。同時にボクの目の前に立体映像が出現した。

 

 

「――よかったぁ……」

 

 その映像を見た途端、思わず口からそんな言葉が漏れてしまう。

 

「おねえさま♥ご無事ですね?」

 

 目の前に現れたのは明日香さんのAR映像だった。

 

「明日香さん!!心配してたんですよ!SNSにアカウントがなかったから――」

 

「ああ、SNSは【フォッダー】を始めてから作ったものですから、当然ながら今はありませんよ。ご心配おかけしました♥」

 

「もう、心配をかけさせないでください!」

 

 ただの思い過ごしで本当に良かった。ほんの数十秒の出来事だったのに、1日分くらい疲れた気がする。世の中は大混乱で、ゲームのステータスも巻き戻っちゃったけど、それでもなんだかすっごくほっとした。これからなんとでもなる。そんな楽観的な感情さえ湧いてくる。

 

「それよりおねえさまにお聞きしたいことがあるのです。よろしいですか?」

 

「いいですよ!なんでも聞いてください!スリーサイズですか?上から72……」

 

「と――」

 

 

 とがみん。

 

 

 頭文字1つ目で言いたいことがわかった。とがみんはどうなった?

 

 とがみんはこの時間軸には存在しない。もちろん彼女は本質的にはボク自身なのだから、なんら変わりなくこの場にいるとも言える。けれど実際には彼女とボクは分離していて、紛れもなく別の思考と人格を持つ存在だ。

 

 もちろん《ロールプレイング》によって再びとがみんを再現することはできる。けれど再現されたとがみんは人格の連続性という視点においてとがみん本人ではないし、ボクが最後に会った時点までの記憶しか復元できない。

 

「いません。今すぐ元の時間に戻る方法を調べないといけません」

 

「…………『異形』の視点で見ると、時間軸を操る能力を持つ存在はいくつかいます。しかし彼らにできるのは物体を劣化させたり新品に戻したりするのが限度です。あるいは自身や物体を別の時間軸に送り込むといった『異形』も存在しますね」

 

「『異形』の仕業じゃないということですか?」

 

「退魔機関が存在を把握している『異形』の中では……という前置きが付きます。今回の件については政府も動いているようで、世界を元の流れに戻すためのプロジェクトがすでに立ち上がっているようです。――しかし、状況は芳しくありませんね」

 

「捜査が難航しているということですか?」

 

「……いえ、消えてしまった者もいれば、戻ってきた者もいるということですよ」

 

「……そっか」

 

 時間が巻き戻った以上、そこまでの時間で死んでしまった人も蘇っている。そこからそのまま元の世界の流れに戻ってしまった場合、その人達はなかったことになってしまう。

 

 要は内輪揉めをしているのだろう。

 

 科学技術が発展し、優れた医療が人々を救う。そんな現代においても、病による死者は少なくない。機械化やアンチエイジングで大きく延命することもできるけど、それでもなおどうしようもないこともあり得る。

 

「戻った時点で誰かが犠牲になることは確定しているんですね。もちろんプレイヤーの記憶という主観の中での話ですが」

 

 極端な話、【フォッダー】のプレイヤーが1人残らず記憶を失っていれば、犠牲者は存在しなかったと言えてしまう。生き返ったという事実も、消えてしまったという事実すらも、プレイヤーの記憶を除けば存在しないのだから当然だ。

 

 けれど記憶が残ってるからこそ承服できない。できないけれど、成す術がない。そもそも元の時間に戻るという選択自体が取らぬ狸の皮算用だ。

 

 それでもやれるだけのことは試したい。

 

「今からユーキさんのところに行ってきます」

 

「ユーキさんは消えました」

 

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