卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる! 作:hikoyuki
ユーキさんの思考を再現する。そう決意を固めた矢先、ボクはお医者さんからいくつかの質問を投げかけられた。
その多くは《ロールプレイング》で可能な事柄についてで、ボクが返答するたびに思念入力でAR画面にメモ書きが増えていく。
そもそもの前提として、本人がいなくても再現できるのかということについて聞かれたけれど、当時のVR動画などがあれば、その時点までの記憶と人格なら再現できると思う。
ユーキさんの資料映像までは消失していないらしく、これは解決した。ただし問題はまだ残っている。それはAIの思考を模倣できるのかということに関してだ。
表面上は人間と同じように物事を考え、行動しているAIたち。もちろん彼らに感情があるという事実は疑いようもなく理解しているのだけど、それでもボクとユーキさんでは種族が違う。
もちろん【フォッダー】内であれば【モーションアシスト】のサポートもあるわけだけど、そもそもの演算能力に差がある以上、完璧に模倣できるかは怪しいところだ。
「AWP-002さんの思考を再現したことはありますけど、あくまで表層ですからね」
「それでも試してみる価値はある。ここからの実験はとある女性に引き継ぐから、彼女と一緒に実験してみてくれないかい?」
「女性?」
お医者さんがそう言うと、ドアをすり抜けて1人の女性が診察室に入ってきた。
20歳前後だろうか。抜群のスタイルを誇る長い黒髪の女性で、白衣を身にまとっている。おそらく医者かその補佐役なのだろうけど、こんなに髪を伸ばして、果たしていいのだろうか?おまけに胸元が開ききったせくしーな服を着ていて、どちらかというとレイヤーさんのような印象を受ける。
「ハルカよ。よろしくね」
「よろしくおねがいします、ハルカさん。……えっと、お医者さんなんですか?」
「厳密に言うと違うんだけど、まあ似たようなもの。〈魔導〉に関わる医療業務に携わっているの。だからデータの収集なんかは任せなさい」
なるほど。前回来た時の話では〈
自己紹介もそこそこに、【モーションアシスト】のサポートを受けるため、ボクは病院の『VRステーション2』を借りて【フォッダー】の世界に乗り込む。メグさんも後から同じようにログインしてきた。
ボクのログイン地点は新しいフォルダさんのお店。しかし新しいフォルダさんは現在外出中らしく、今は自動販売システムが動いているだけだ。
この時代には【会社】システムがないので、留守中の商売はだいたいこれ。NPCを雇うこともできるけど、数に制限がある上に臨機応変に対応できる分だけコストが高かったらしいですよ。【会社】システムはその面で行くと、雇用機能のアップデートといったところだったのでしょう。
余談はさておき、合間の時間で【ストレージ】の中身やスキルの構成などを確認しつつ過去を振り返っていると、『VRステーション2』に搭載された外部通信の機能からハルカさんが語りかけてきた。
「今から資料の動画ファイルを添付するわ。それで再現できるかしら?」
「ほいほい、ちなみにどんなファイルなんですか?」
「【フォッダー】サービス開始前日の宣伝CM。まー、資料って程のものじゃなかったわね?」
言葉と共に動画がボクの目の前にぴょこんと現れる。【フォッダー】は人類が《『
「あー、これこれ!私もこれを見て始めたのです!」
横から動画を覗き込みつつ、楽しげな声をあげるメグさん。ボクもうろ覚えだけど、このCMは見たことがある気がする。
『優勝賞金は1000億円!』なーんて堂々と宣言する割に、そもそもどんなルールで大会を開くのか全く説明されていない片手落ちな内容で、ネットで地味に馬鹿にされてた気がする。一応【願いの石】を集めよう!ということはわかってるんだけど、実は現在もどんな大会が開かれるのか自体は全くわかっていないという事実。
それでもユーキさんという存在自体がかなりネームバリューのあるお方なので、さすがに詐欺ではないだろうという結論にはなっていたんだっけ?
動画の中でとっても楽しそうに【フォッダー】のコンセプトについて語るユーキさん。……しかし、その一見楽しそうな表情が、単なる演技であることをボクは知っている。
ユーキさんがゲームの餌に『利益』を提案することにどれだけの嫌悪を抱いていたのか。《ロールプレイング》を使うまでもなく、ボクは深い理解と共感を抱いていた。
ユーキさんの持つ根本の信念を既に理解している以上、思考を遡るのはもはや容易いことだった。先の懸念を物ともせず、ボクはユーキさんの考えを正確に解析し、すべてを再現していく。
「そうですか――始まってしまったのですね」
「ユーキ!?状況は理解しているみたいね?」
「ええ、もちろん状況は理解しています。ハルカさんですよね?卍さんから心の中で前提情報を提供していただいておりますので」
「――そう、じゃあ単刀直入に言うわ。あんたは今どこにいるの?」
「私は私ではないので、推測しかできませんが……創造主の下には
あくまで仮説ではあるけれど、完全に抹消されたわけではないと思う。けれど、少なくともこの次元から観測できることはないでしょう。
私がそう言うとハルカさんは安堵のため息をつき、再び私から情報を聞き出そうと問いかける。
「ふーん、消えたわけじゃないのね。じゃあ創造主をぶち殺せばあんたも戻ってくるわけか。創造主はどこにいるの?」
「そうですね。彼女は……次元の最果て、"第四の壁"の向こう側にでもいますかね」
「"第四の壁"……四次元ってことなのです?案外近いところにいるのです」
「適当な〈魔導〉でも使えば行けそうじゃない。速攻でとっちめに行ってやるわ。詳しい場所を教えなさい!」
私の言葉を勘違いする彼女たち。案外常識的な存在かも、なんて半ば楽観の感情すら浮かべている。でも違う、違うんです。
「違いますよ。"第四の壁"――それは左右と奥行きが表現された絵画の中で、唯一描写されることのない地点、観測者の存在する立ち位置」
「え……?」
「演劇であれば観客席、ドラマであればカメラの視点――ゲームであれば、『VRステーション2』、そう――」
いくつかの例を挙げると、2人は困惑の声を漏らす。それも仕方のない話だ。たびたびこういった議論は巻き起こるけれど、それは全てを知らぬが故に空想を広げる哲学者たちの戯言に過ぎない。
しかし、否定はできない。あるかもしれない。そんな悪魔を――私は証明してしまった。
「――この世界はゲームなんですよ。自由度無制限、なんでもありの究極の神ゲー、"Real Online"とでも呼称すべきでしょうか?」