卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第294話 検証開始

 さて、早速だけど【マクロ】を使用するために【モンク】に職業(クラス)チェンジし……と言いたいところだけど、この時間軸には残念ながら携帯用持ち運び【女神像】が存在しない。基本的に素材と形さえ真似れば簡単に作れるのだけど……材料の確保も面倒だし、今のボクは生産加工系のスキルを獲得していない。

 

 というわけで、本来の職業(クラス)チェンジ専用施設である【神殿】へ向かうことにした。

 

 新しいフォルダさんのお店を出て、メグさんと一緒に道路をとことこと歩く。ハルカさんが『VRステーション2』の外からボク達のデータを解析しつつ、あーでもないこーでもないとぶつぶつ呟いている。そんなBGMを背に、ちょっとだけ早足で先を急ぐ。

 

 では早速、中に入ろうか。そう思ったその時、ボク達より先に【神殿】に入った人がいた。

 

 もちろんこのゲームはVRMMOなので、わざわざ特筆するまでもなく多くのプレイヤーが活動している。今はそこそこ緊急事態ではあるけど、だからといって特におかしな光景でもない。

 

 しかし、それでも目についたのは、そのプレイヤーに見覚えがあったからだ。

 

「ابتسامةさんじゃないですかー!」

 

「あっ、まんじさんひさしぶりー」

 

 溶けた触手みたいな手をふりふりして、再会を喜んでくれるきゅーとなابتسامةさん。この時間軸では初めての『異形』との遭遇だ。たしかこの時期にはまだこのゲームを始めていなかったと思うのだけど、改めてアカウントを取ったのかな?

 

 ぷにぷにとابتامةさんをつつき始めるメグさんを華麗にスルーしながら、そんな疑問を投げかけてみると、うんうんと震えながらも、それを肯定してくる。

 

「かみさまにけされたくないからねー」

 

 聞き覚えのあるフレーズだ。

 

「前もそんなこと言ってましたね。『異形』の方々はこの状況を知ってたのでしょうか?」

 

「そうかも?ぼくは……かみさまにつくられたからね。たぶん」

 

「……! "作者"に会ったことがあるということですか!?」

 

 ابتسامةさんの言う『かみさま』とは"作者"のことで間違いないだろう。まさかアクタニアということはあるまい。

 

 メグさんにうによーんと引き伸ばされながらも、ابتامةさんはほのぼのとした声色で説明する。

 

「ううん、会ったことないからわかんない。でもね、おもしろい世界にはモンスターがひつようふかけつだって言われてたきがするかも?なんかやだよね?」

 

 メグさんになすがままにされているابتامةさんにはもはやモンスター要素はどこにも見当たらないけど、言わんとすることはわかる。

 

 彼はこのゲームで言う『魔族』と境遇が同じなんだ。人間に脅威を与えるためだけに作られたお邪魔キャラ。本人の性格ゆえか、すっかり人畜無害な不思議生物になっているけれど、あるいは"作者"なんて関係なしに人類滅亡の危機が訪れる可能性があったのかもしれない。

 

「ぼくが産まれたのはぜんぶまっくらの空間でね。声だけきこえてきたんだ。それにさいきんまでわすれてたし。だから本当によくわかんないの。ごめんね」

 

「真っ暗の空間……」

 

 もしかしたら、より上位の次元にはそういう場所があるのでしょうか。

 

「神様と言ったら白い空間の印象があるんですけどね。本当に真っ暗だったのです?」

 

「うーん……"文字"があったかも?」

 

「…"文字"?」

 

「うん。でも読めなかったからわかんない。ごめんね」

 

 続けていくつか聞いてみたけれど、それ以上の質問になると、ابتامةさんも要領を得ない。

 

 まあابتامةさんはまだ子どもみたいなものだから仕方ないのだろう。他の『異形』ならもう少し深く知ってるのだろうか?他に知り合いといえばアクタニアくらいだけど……。あるいは《ロールプレイング》を使えば、ابتامةさんの記憶を通じてその真っ暗な空間を体感できるかもしれない。

 

 しかしそれはまた今度の話だ。今は【マクロ】の検証が先だ。ابتامةさんをメグさんが抱え込みつつも一緒に【神殿】に入り、ボクは【女神像】に職業(クラス)チェンジさせてもらうように祈りを捧げる。

 

 そうして問題なくサブ職業(クラス)を【モンク】に切り替え、【マクロ】構築用スキルの【流派創造】を即座に取得した。

 

 ابتامةさんはさっきこのゲームを始めたばかりなので、1番最初の職業(クラス)を今から取得するのだとか。ボクを真似して【モンク】に職業(クラス)チェンジして、同じように【流派創造】を獲得したらしい。サブ職業(クラス)ならまだしも、最初のスキルとしては適さない気もしますけど。

 

「じゃあ早速《ロールプレイング》の【マクロ】を作成してっと。メグさん使ってみます?」

 

「やってみるのです!」

 

 というわけで、メグさんにボクの技術である《ロールプレイング》を伝授する。

 

 これはボクの持つ《ロールプレイング》という言葉に込められた、いろんな思いを自動的に【モーションアシスト】に送信してくれる【マクロ】だ。理論の上ではこれで〈魂の言葉(ソウルワード)〉を伝授することができるはずだけど……。

 

「ありがとうございますなのです。スキル一覧にも追加されたのです!」

 

「じゃあさっそくやってみてください。適当にボクとかの思考でも読んでいいですよ」

 

 読まれたとき用に、なにか面白いこと考えてみようかな。うーん……。布団が吹っ飛んだ!

 

「では早速……《«ロールプレイング»》!」

 

 なんて考えている間に、メグさんが勢いよく【マクロ】の発動を宣言する。

 

 ……しかし、何も起きない。メグさんはきょとんと首を傾げている。とても成功したようには思えないしぐさだ。

 

「駄目だったんですかね?」

 

「なのです……。ちょっと『ふと……』まで読めたような気がしたのに、それ以上は全然読めないのです」

 

----

>もしかして布団が吹っ飛んだじゃね?

 

>こいつロールプレイング使いだろ

 

>マクロなんていらなかった

 

>卍さんがふと……まで考えたらふとんがふっとんだしかありえないという風潮

 

>今までそんなギャグ披露してたの見たことねーぞw

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 «獄炎»によって炎属性スキルの火力が増加することからも、【マクロ】による〈装飾表現〉が一定の効果をもたらすのはわかっている。

 

 それなら、その極致である〈魂の言葉(ソウルワード)〉であっても同じように最適解を受け取れると思ったのですが……。なんらかの前提条件が足りてないんでしょうか?

 

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