卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第295話 ディメンション・インフレーション

「【モーションアシスト】は最適解を教えてくれるのです。つまり、最適解が存在しなかったら発動しないということになるんですけど……」

 

「ボクが最適解を用いれば《ロールプレイング》を使えるけど、メグさんが使える可能性は無いって事ですか?でも、それだったら〈進化(エボルド)〉してでも使えるようにしてくれる印象がありますけどね」

 

 勝てない相手に勝つために、人類としての進化まで促す……そんな最適解を出せる【モーションアシスト】でも、《ロールプレイング》は再現できない……。そんなことがあるのだろうか?

 

 だからこそ〈魂の言葉(ソウルワード)〉は、通常のテクニックとは隔絶した存在だということにもなるのだけど……。

 

 そもそもボクは〈魂の言葉(ソウルワード)〉を、限りなく多くの表現や思いが1つに詰まった言葉だと考えていた。あくまで〈装飾表現〉の極致だと。でも、この結果から考えると間違っていたのかもしれない。

 

 しばらく考察を続けていると、後ろからとんとんと肩を叩かれる。振り返るとابتسامةさんだった。

 

「どしたんですか?」

 

「ぼくも【マクロ】つくってみたよー」

 

 粘液を反らしながら(?)、得意げに教えてくれるابتسامةさん。面白そう。そういえば『異形』の人って、アクタニアみたいに特殊能力を持っていたりすることがありますよね。そういう動作を再現してみたら、どうなるんだろう?

 

 再現できるとしても【モーションアシスト】に命令文を送り込むのとはまた違うのだろうけど、地味に興味がある。

 

 〈魂の言葉(ソウルワード)〉のことは一旦脇に置いて、ابتسامةさんに【マクロ】の詳細を聞いてみることに。

 

「どんな【マクロ】なんですか?使ってみたいです!」

 

「えっとねー。とけるの」

 

「はい」

 

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>溶けちゃうらしい

 

>かわいい

 

>ابتسامةくんと溶けたい

 

>ぷにぷにしたい

 

>卍さん溶けちゃう

----

 

 というわけで、溶ける【マクロ】をいただきました。さっそく使ってみましょう。

 

「卍さん大丈夫です?人間とはアバターが違うのに、ちゃんと再現できるのです?」

 

「再現できるかはともかくとして、【フォッダー】の傾向から察するに、アバターが違うからといって制限(リミッター)を掛けたりはしてなさそうですよね……。さて、やってみましょうか«溶ける»!」

 

 はてさて、ボクが【マクロ】を宣言するとともに身体に異変が生ずる。急に視界ががくーんと下がって、身体の制御が取りづらくなる。〈ストリームアイ〉で自分の状態を確認すると、さっきまで自分がいたはずの場所にどろどろの水たまりができていた。

 

「うわぁ、これボクなんですか?シュールですね」

 

 そこで【マクロ】が終了し、ボクは自動的に元の姿へ戻る。あまりにも衝撃的な数秒間だったけど、面白かったです。なるほど、体型や体質が違っても強引に同じ動作を再現できるわけですか。

 

「溶けるっていうともっとグロテスクな印象だったのですが、割と水に近い形でしたね」

 

「あまりにもびっくりして突っ込む暇がなかったのです……」

 

「どうだった?すごいでしょー」

 

「ありがとうございます!凄かったです!なんというか、『異形』の方々の視点がわかった?みたいな感じでした――ハルカさん?」

 

「……あなたの《『次元脳』》が《『位階上昇(アセンション)』》したようね。今のやり取りが原因だというのはわかるのだけど、何があったの?」

 

 

「人間以外の視点を体感してみるというのは大事ですね。世界が違って見えました」

 

 どろんと溶けて、視界が地面まで落ちきったボク。確かにこれも別の視点と言えるのだけど……そういう問題じゃない。

 

 『異形』は、人間とは完全に見ている視点が違うらしい。

 

「まず視覚、これは完全にモノクロみたいでした。白と黒の世界しか映らないんですよ。【マクロ】を発動した瞬間に視界から色が消えた時は心底焦りました」

 

「【マクロ】を再現する過程でそういった『異形』の感覚器も再現できたのです?でも白黒だと不便そうなのです」

 

 メグさんの言うとおり、これは一見すると人間の下位互換にしか思えない知覚形態だった。実際、そのとおりだとも思うのだけど……。視界がモノクロになるのと同時に、思考が急激に明瞭化していく感覚もあった。

 

「恐らくですが、いらない情報をカットしてるんでしょうね」

 

「いらない情報?」

 

 関連する事象として火事場の馬鹿力、あるいは走馬灯が挙げられるだろう。命の危機に対して、過去の様々な経験から最適解を導き出すために思考が凄まじい勢いで加速し、身体が一時的に限界を超えた動きを行えるようになる。そんな瞬間だ。

 

 ボクは死にそうな目に遭ったことがないから実感はないのだけど、そういった時、人は視界がモノクロになり、スローモーションになるのだという話がある。

 

 つまり、色の情報を認識する機能をカットすることで、その分のリソースを別の分野に割いている。こういうのも生物界においては立派な進化ですよね。

 

 とまあ、ちょっとびっくりはしたけれど、色の情報を認識できない動物は意外と存在する。ここまでは普通かもしれないのだけど……問題は触覚だ。

 

 これは最早異常と言ってもいいレベルで、触れているか触れていないかしか分からない。感じ取れるデータが、それしかない。

 

 こう言葉にすると、1と0で世界を観測するどこぞのAIと似ているように思えるかもしれないけど、厳密には全くの正反対。AIの言う感覚というのは、100111000001111111といった膨大なデータ量の全てを1と0で受け取るということだ。

 

 けれどابتسامةさんの感覚は真の意味で1か0。一定値以下の五感は全て切り捨てて、極端な話、攻撃を受けたか受けていないかでしか判断していない。

 

 一見おとぼけたキャラに見えるابتسامةさんだけど、その実は全てがイカれてる。……恐らくは"作者"が人類の敵としての役割を求めて彼を制作した結果、生き物として本来あるべき機能がオミットされてしまったのだろう。

 

 〈進化(エボルド)〉を利用すれば、そういった五感を新たに獲得することも不可能ではないだろう。しかし、生物として元から備わっていない以上、わざわざ五感を手に入れようとは思えないかもしれない。この件に関しては、また後でお話してみようかな。

 

 なーんて余談はともかくとして。

 

「――というわけで、今のボクはそれを応用しました。いらない五感を遮断して思考に全ての神経を割いているんですよ。【モーションアシスト】への命令強度も絶好調。だから〈進化(エボルド)〉が成功したようです」

 

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>そうはならんやろ

 

>なっとるやろがい!

 

>これは名誉異形

 

>異形の身体構造を即座に模倣する女

 

>さすがロールプレイヤーだわ

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 おまけにこの技術で《『次元脳』》が《『位階上昇(アセンション)』》したことで、脳の思考速度が高まり、さらに強度の高い命令を下せるようになった。というわけで【モーションアシスト】に命じて《『心眼』》を《『次元脳』》と同じ次元まで引き上げた瞬間に稼働を停止させ、リソース全てを《『次元脳』》に注ぎ込む。

 

「……嘘でしょ……?まだ上がってる!?」

 

「よくわからないけど卍さんすごいのですー!」

 

「簡単な話でしたね。拡張した〈進化(エボルド)〉を全て停止させてリソースを脳に回し、全ての部位を強化。これで無限ループできますよ!」

 

 〈進化(エボルド)〉にコストは必要ない。必要なのは進化したいという意思だけだ。それなら、進化したことで増えたリソース全てを意思に捧げれば、無限にハードルを乗り越えられる!

 

 もちろん、意思を下す必要がある以上、真の意味で無限に引き上げることはできないけれど……。強くなりたいという意志が続く限り、インフレーションは続いていく。

 

 やがて、自身の身体に覆いかぶさるように増設された別次元の身体が、凄まじい勢いでその密度を高めていく。

 

 これなら"作者"に到達できるのでは?そんな期待が湧くけれど……。

 

 それから1時間経っても、2時間経っても次元の果ては見えてこない。

 

「どんだけ先の次元にいるんですか"作者"とやらは!そもそもこのまま次元を上げてたどり着ける領域なんですか!?」

 

----

>2時間卍さんが突っ立ってるだけの映像を見せられてるのほんと草

 

>すごい事やってるんだろうけど次元が違うから何も見えないの面白い

 

>どうすんだよ卍さんよくわからんけどめっちゃ高次元の存在なんだろ?フォッダーで一強じゃねーか

 

>これからみんな高次元化するから何も問題ないぞ

 

>そっかー

----

 

 五感と全ての〈進化(エボルド)〉を復旧させて、軽く【フォッダー】世界を俯瞰すると……同じことをやっている人が結構いますね。ボクのように高密度の次元の塊になったプレイヤーさんがうようよしていますよ。

 

 近いところではابتسامةさんもさりげなく強化を繰り返していた様子。幾重にも重なった次元の身体が観測できます。

 

「しかし、やはり次元を引き上げていくだけでは作者の領域には到達できないのでは……?どこかでブレイクスルーをしないといけませんね」

 

「一桁単位の次元で一喜一憂していたところからすると、すでにとんでもないブレイクスルーが起きているのだけどね」

 

「それよりも、こんなセコい手法で簡単に次元を引き上げられるなら、さっきと同じ疑問が出てくるのです。とりあえず人類を〈進化(エボルド)〉させるために最初から全ての機能を開放してもおかしくはないと思うのですよ?」

 

 メグさんは《ロールプレイング》が始動できなかったことを疑問に思っているらしい。あるいはこの手法で次元を引き上げていけば【マクロ】を用いずとも《ロールプレイング》が行えるのでは、と思うのだけど……やはり気になりますね。

 

 【モーションアシスト】がどのようにして全知を為し、全能を授けているのか。その仕組みがブレイクスルーにつながる可能性があるのかもしれません。

 




テクニックその115『セルフゾーン』
人間は色を識別したり、匂いを嗅ぎ分けたり、無意識のうちにかなりのリソースを五感に割いています。
これを一時的に強制遮断する事によって、浮いたリソースを他に振り分ける事ができるというテクニックです。
このテクニック自体は所謂『ゾーン』や『走馬灯』を意図的に生じさせる程度の物ですね。

マクロその12 『溶ける』
『異形』さん特有の生態系でしか出来ない動きを再現した【マクロ】ですね。溶けちゃうのはابتسامةさん特有の性質なので他のバリエーションも作れるかも。
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