卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第297話 次元周波数

「じゃあ完全に【モーションアシスト】に丸投げするんじゃなくて《ロールプレイング》の発動方法を教えてもらえれば再現できるってことなのです?」

 

「あるいはそういうことですね。確か以前の配信ではたくさんのボクに《ロールプレイング》の使い方を説明しましたけど……。今思えばあれはかなり重要な事項だったのでしょう」

 

 やろうとも思わない行動は最適解に現れない。けれど、わずかでもヒントを与えられれば、どこかの分岐で成功の可能性が高まっていく。

 

 そうして1人が達成したテクニックは、人々が『成功』という事実を目の当たりにすることで、いずれ誰もが使えるようになる。

 

 ――そして人類すべてが引き上げられていく。

 

 ボクの配信は他者を引き上げる。成功という事実を大々的に配信し、ボク自身が当たり前のようにそのテクニックを披露する。そうすることで、他のプレイヤーも同じことができるようになっていく。

 

 あるいは〈トンネル避け〉も使用者が違えば〈魂の言葉(ソウルワード)〉だったかもしれない。

 

 あの時のボクは当たり前のように量子の操作ができると宣言した。だからこそみんなはその手段を幾重にもわたる分岐の中で編み出した。普通なら膨大な分岐があったとしても、量子の操作を行おうなんて絶対に思わないし、仮に思いついても本気でその手段を見つけようとはしない。

 

 自惚れかもしれないけれど――ボクだからこそ、〈トンネル避け〉を一般化したテクニックとして広めることができたのかもしれない。

 

 だとすれば、《ロールプレイング》も――。

 

「《ロールプレイング》なんて《『次元脳』》があれば簡単ですよ?特別なテクニックなんていりません。相手の気持ちになって考えてみるだけです」

 

「むむむ、そんな道徳試験みたいな……でもやってみるのです」

 

「大丈夫ですよ。ボクだってできるんですから」

 

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>卍さんってこういう時当然のように断言するよな

 

>実際毎回できるから仕方ない

 

>いじられキャラなのに説得力だけはすごい

 

>逆にいつもいじられてるせいで卍さんがやってるの見てると実は簡単なんじゃね?って思えてくる

 

>本当は凄い筈なのにあんまり凄く見えないという配信者にあるまじき事態

 

>なんなら俺が戦えば卍さんとか余裕でワンパンできるからな

 

>おういまから挑みにいけや

----

 

 一言で表せば単純な話だ。相手がどういう気持ちなのかを慮って想像し、なりきるだけ。

 

 一言で表さなければ、実際には難しい話だけど、それを堂々と『できる』と断言する。これによって、《ロールプレイング》に対する心理的なハードルは低下していき……。

 

「あっ!今、なんだか卍さんの考えが読み取れている気がするのです!なるほど、《ロールプレイング》ってこんな感じなのです?」

 

 そうして驚くほど簡単に〈魂の言葉(ソウルワード)〉の伝授が果たされる。

 

「本当に驚くほど簡単だったのです。なんで今までできなかったのです?」

 

 ボクの心を再現することで、言葉に出していないはずのボクの思考にまで話しかけ始めるメグさん。【モーションアシスト】の原理からすれば、できないと思ってたせいで分岐が発生しなかった……ってところでしょうか。

 

 普通はできないはずのことを何としてでもやり遂げようとする意志が〈魂の言葉(ソウルワード)〉だとしたら、ボクはその『普通はできないはず』というハードルを引き下げることで、成功の可能性を誘導した。

 

 そしてこれからはメグさんの成功を皮切りに、《ロールプレイング》は『普通はできないはずのこと』ではなくなっていくことだろう。

 

「《ロールプレイング》……いや、もう〈ロールプレイング〉ですかね。みなさんも試してみてください!案外簡単ですよ」

 

 

「なんで今2回言ったのです?」

 

 

「ん?あぁ……いや、〈魂の言葉(ソウルワード)〉じゃなくて〈トンネル避け〉と同じように普通のテクニックとして使えるかなーって」

 

「それは心を読んでたのでわかるのですけど……。《ロールプレイング》と〈ロールプレイング〉にそこのニュアンスの違いがあるのです?」

 

「……言われてみれば確かに」

 

 ボクはたった今、何を思って言い直したのでしょう?軽く思い返すと、前にもこういう言い換えをした覚えがある気がします。確か、あれは〘リアルステーション〙の時でしたか。

 

 あの時も確か、単なるゲームデバイスだと思っていたツールを、ある種の〈改造行為(チート)〉に該当すると考えて言い換えたんでしたね。

 

 改めて考えると意味がわからない。ボクは何を思っていたんだろう?

 

「《ロールプレイング》……この呼び方が〈魂の言葉(ソウルワード)〉で、〈ロールプレイング〉だとテクニック?確かに言ってることは同じなのに、なにか違う気がするのです」

 

「ちょっとなんの話?」

 

「なんの話って言われても、説明できないけど……。なにか違うと思わないです?」

 

 ボクとメグさんの掴み所のないやりとりにゲームの外からツッコミを入れるハルカさん。確かにボクら自身も何を言ってるのかわからないので、そう言われてしまっても仕方ないと思う。

 

「んー。ぼくもなにか変にきこえるかも?」

 

 ボクとメグさんだけの違和感ではないらしい。ابتسامةさんもまた、同じように言葉では説明できないその違和感を表明してくれる。そんなابتسامةさんを抱えてぎゅーっと抱きしめながら、ボクは一見すると全く同じにも思える2つのワードを繰り返し発声する。

 

「〈ロールプレイング〉、《ロールプレイング》、〈ロールプレイング〉、《ロールプレイング》……うーん」

 

「〈ロールプレイング〉、《ロールプレイング》。むむむ、なのです」

 

 一見すると本題とは全く関わりのない瑣末な話に見えるのだけど、一度目につくとなんだかすごい気になってくる。

 

 メグさんなんかは気にしすぎて、はてなマークの感情表現(エモート)を連打しながら、ボクと同じように言葉を繰り返している。

 

「まあこの件は置いておきましょうか。脇道に逸れすぎました。今の課題は"作者"にたどり着くことですからね」

 

 しかしどうすればたどり着くことができるのか。それがまったくわからない。最終的な目標は明確でも過程が掴めないせいで、しばらく迷走は続く。

 

 ボクたちだけではこれが限界かもしれないですね。視聴者さんにも意見を求めてみましょうか。あるいは新しいフォルダさん達とも合流すべきかな?

 

 

「ちょっと待って。今、あなた達の発声していた言葉を解析してみたのだけど……。確かに先の2つの言葉にはなんらかの違いがあることがわかったわ」

 

 そう考えた矢先、ハルカさんがボクたちの目の前に解析結果のデータを表示させる。

 

 そこに映るデータには、いくつかの色とレイヤーに分けられた波のような図が映し出されている。

 

「今あなた達の目の前に映っているのはあなた達が発声した言葉の周波数に関するデータよ」

 

「なるほど、ほぼほぼ同じに見えますけど……色が違う部分は何ですか?」

 

「そこは……〈ロールプレイング〉と《ロールプレイング》、2つの呼び分けに生じた変化点ね。もちろんただ単に周波数が違うというわけじゃないわよ。その色の付いた部分は――より上位の次元でのみ観測された特殊な周波数」

 

「より上位の次元で……?ボクの言葉の使い分けにそんな違いがあるんですか……?」

 

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