卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第299話 それぞれの道

「VR空間から出られないようなら……この世界からも出られない」

 

 確かにその通りだ。この世界はゲームで、ボク達はゲームの外の作者を殴りに行く。

 

 作者の世界がボク達の世界の上位にあるように、【フォッダー】の上位にあるのがボク達の世界。

 

 言われてみれば当たり前のこと。ゲームだなんだと言われても、頑張ればぶち破れるものだと思っていた。けれど仮にこの世界をぶち破るというのならば、その前に【フォッダー】くらいはぶち破れなければ話にならない。

 

「まあ、それは理想論の話であって、マップをいくら遡っても【フォッダー】からは出られなかったがな」

 

「まあ当たり前といえば当たり前よね。IDを遡ったらゲームの外に出られたー!なーんて話があるわけないもの」

 

「でも、わざわざその話を出したってことは面白そうなマップとかがあったんですか?」

 

「あったよ。たとえば落書きみたいな点と線で結ばれただけのドラゴンがいるマップがあってね。そのドラゴンに殺られて戻ってきたところなんだ」

 

 新しいフォルダさんがやるせない声でその時の経験を語る。なんでも冗談みたいな見た目に反して、そのドラゴンはとっても強く、途轍もない威圧感を放ちながらも光の速度で距離を詰めた。破壊的な物質干渉力による爪の一撃で新しいフォルダさんを串刺しにして葬ったのだとか。

 

 痛みは当然なかったが、その恐るべき存在感と迫力だけで『死んだ』と錯覚するほどだったらしい。

 

「あれは多分どこかのクソゲー作者が作った、倒すことを想定していない部類のモンスターだね。バランスも考えずにとにかくスペックを盛ったんじゃないかな」

 

 ふむふむ。一見すると笑い話のネタにしかならない世界だけど、新しいフォルダさんはその世界の発見を一種の収穫だと捉えているようだ。

 

 いや――実際、彼らは収穫を得ているらしい。その証拠にボクの〈進化(エボルド)〉した《『心眼』》で彼らを見ると、全身が次元の膜のようなものに覆われている。

 

「死ぬかと思うほどの経験をしたことで、〈進化(エボルド)〉が発動したんですね」

 

「そうだな。やはり本気で【モーションアシスト】を起動させたいのであれば何もないところで念じるよりも実践を交えたほうが効率がいいんだと思うぞ。ま、ラーメンでも食いながら少し休憩しないか?」

 

 そう言って『食材の魔術師』が【ストレージ】からラーメンを取り出して周囲のプレイヤーに配りだす。お言葉に甘えて受け取って食べることにした。ابتسامةさんも同じように差し出されたラーメンを受け取って、皿ごと、もぐもぐと取り込んでいる。すごい。

 

 ちなみにابتسامةさんが言うには通常、100%分の効果出力が出るのはラーメンの部分だけなのに対して、追加でお皿を食べると実質的に120%分ぐらい食べたことになって出力がカタログスペックを超えるのだとか。すごいテクニックだ……。

 

 ずるずると麺を啜りながら情報を整理しよう。新しいフォルダさんと食材の魔術師さんが持ってきた情報と提案は3つ。

 

 まず、【フォッダー】と【A−YS】以外のマップに飛ぶことができるようになったという情報。次に、その中にはとんでもなく強いモンスターがいるマップなんかもあって、〈進化(エボルド)〉を目論むならそういったモンスターとの戦いが良いのではないか?という提案。最後に、"作者"を殴ろうとするのであれば、【フォッダー】の中から現実世界に飛び出すくらいの無茶はできないと成立しない、という提言。

 

 一方でボクらが得た情報も3つ。まず、お手軽に〈進化(エボルド)〉を行うために不必要な五感を停止させるというテクニック。次に、それを用いてただ単に次元を上昇させただけでは"第四の壁"は破れないであろう、ということ。最後に、ボク達の言葉から発せられる不可思議な別次元の周波数。

 

「わたし達にどれだけの時間があるかはわからないのです。ユーキさんだけが消えてしまったということは、しばらくの間はこの世界を稼働させ続ける気は間違いなくあるのですけど、ここは〈進化(エボルド)〉を狙うプレイヤーと情報収集する側に分かれるべきなのです」

 

「俺もそれには賛成だよ。それならこっちはまたドラゴンに挑んでこようかな?〈進化(エボルド)〉は卍さん経由で共有できそうだからね」

 

「じゃあボクとメグさんとابتسامةさん、ハルカさんは例の周波数についてもう少し調べてみます。進展がないようならそっちに合流しますよ……そういえばめりぃさんは?」

 

 新しいフォルダさんや『食材の魔術師』と一緒に活動しているものとばかり思っていたのだけど、そういえば姿が見えない。

 

「あぁ、彼女はお兄ちゃんさんと一緒に別行動をしているぞ?なんでもとある【黄金の才(ユニークスキル)】の所持者を探しているらしい」

 

「【黄金の才(ユニークスキル)】の所持者を……?」

 

 ボクが知っているのは【『クロノス』】と【『オネイロス』】、それからこの時間軸なら【『アイテール』】か。他にもいるかも知れないけどボクは他には知らない。1億円を支払うプレイヤーなんてそう多くはないはずだけど、逆にこの3人しかいないとも思えないけどね。

 

 一体なにを狙っているんだろう?ちょっと気になるけど、分かれてそれぞれ別の行動をすると決めたばかりだ。めりぃさん達に任せてボクらは検証を始めよう。

 

 

 そして新しいフォルダさん達が再び【フォッダー】から脱出し、ボクらは先の話題に戻る。彼らは再びドラゴンに挑み続けるらしい。後で合流することになりそうだ。

 

「――で、なんでしたっけ。異なる次元の周波数帯域がボク達の言葉に含まれる、と」

 

「そうね。今の会話で言えば【モーションアシスト】と【フォッダー】、それから【黄金の才(ユニークスキル)】という単語。三次元の観測域では、個人差に応じた別々の周波数で言葉が発せられているけれど、高次元では誰が発しても全く同じ周波数の音が出るわ。それもこの3つすべてにおいて共通のね」

 

 〈ロールプレイング〉と《ロールプレイング》は同じ言葉でも全く別々の周波数なのに、ハルカさんが挙げた3つの言葉は同じ周波数を発している。

 

 その3つの言葉の共通点といえば……。

 

「【コンバットマジック】はどうかな?おなじ?」

 

「その単語も先の3つと同じね。なるほど、つまり――」

 

「【フォッダー】に直接関連する用語は同じ周波数が発生する、ということですね」

 




テクニックその116『毒を食らわば皿まで理論』
毒を食らわば皿まで。これは「どうせ毒を食ったんだからついでに皿まで食っても誤差でしょ」という意味です。
しかしこのゲームにおいては事情が異なるようです。料理の皿は誤差ではないらしく、むしろ皿を食べないと支援(バフ)の効果が減ります。わかりましたか?これからは戦闘中にラーメン啜るなんて時代遅れです、器ごと口に放り込みましょう!
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