卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる! 作:hikoyuki
「魔力でネガティブな感情を沈静化……」
「はい、私の魔力は冷えてますからね。冷静な心を引き出すことができるんです」
ハルカさんがボクの眼をコピーしたとか言ってたときは「本職の魔導師はやっぱり違うなー」なんて思ったけど、うちの灑智もそれに負けてないのでは?
「今さらだけど灑智ってなんでそんなに〈魔導〉に詳しいの?」
「もうっ、お姉様が疎いだけですよ」
そんなはずはないと思うけどなー?
灑智の〈魔導〉に関する謎の才能はさておくとして、お昼ご飯を食べながら調べてもらった情報を聞くことに。
「まず世界の混乱に関してですが、先ほどの話のようにある程度は抑え込めています。〈トンネル避け〉などの未来の知識を活用して悪いことをしようと企んでいる人もいたみたいですけど、取り締まる側もその情報を共有しているおかげもあって、大問題になる前に抑えられていますよ。逆に大勢の人が亡くなった大事故なんかは知識を参考に動くことで、起きずに済んでいたりするみたいです。その影響もあって前の時間軸とは同じ流れにはならないでしょう」
本来なら死んでしまったはずの人が生きている。僅かな蝶の羽ばたきで台風が巻き起こるくらいの変化が起こるのがバタフライ効果であるとしたら、この違いは何よりも大きい。ドラゴンがばっさばっさと羽ばたいて世界を駆け巡ってるレベルの影響力だ。
前の時間軸で製品の研究や開発なんかをしていた人は、その結果をすでに知っている。だからより早く開発を進められるだろうし、あるいは上手くいかないと知って方針を転換することもある。
そのせいで起きてもいないことに振り回されて株価は乱高下を繰り返し、経済的には意味のわからないことになっているらしい。
まだこの時期には名前さえ出ていない製品だった〘リアルステーション〙も【フォッダー】需要を考慮してか、早々に開発を終えて量産体制に入ってるのだとか。ちなみに〘リアルステーション〙では〈
「と、ここまでが表向きの世界情勢です。未来知識を前提とした仲違いや喧嘩など、さまざまな問題は起きているようですが、最低でも人類社会の危機にまでは至らなそうです」
「表向き?」
「はい、ここからは明日香さんからの情報と、ちょこっとハッキングで得た情報を統合したものになるんですが……。どうやら国はアクタニアさんと協力して事態に対処しているらしいです」
「アクタニアが?まあ明日香さんがお願いしただけで協力してくれたんだろうね」
「そういうことです。今は他のさまざまな能力を持つ『異形』とも協力して合同の研究をしているのだとか」
「ふむふむ」
「『異形』の権能で【フォッダー】世界を突き破れないか、という実験だそうです。【フォッダー】から現実の世界に干渉できないようではその上位の世界を破ることはできないと考えたらしくて」
新しいフォルダさん達と同じ考え方ですね。常識的に考えれば、仮想空間である【フォッダー】の世界から抜け出すことなんてできない。可能性とかそういう問題じゃなく、無理だ。画面から突然拳が飛び出してきて殴り飛ばされたりなんて、起こるわけないですよね。
でも、それくらいの不合理を貫き通さないと意味がない。ボク達がこれからやろうとしてるのは、まさにそれだ。画面の中から"作者"をぶん殴るという異次元レベルの発想なのだから。
「〈
「それは厳密に言うと現実の機器が影響を及ぼしているだけですから。アバターのままARじゃなくて生身の身体として現実の世界に飛び出せないとダメです」
「うーん……やっぱり無理だよね。論理として成立していない。どうやったら仮想世界の存在がゲームという枠を飛び越えられるんでしょう」
これがゲームではなく世界とより上位の世界という枠組みであれば、想像できないぐらいの規模の大きさと条件の曖昧さもあって、逆にもしかしたらできなくもないんじゃない?なーんて気がしてくる。
けれど定義を矮小化されると途端にその難しさがこの上なく理解できる。ゲームのキャラクターがゲームの外に出られるわけがない。
「しかし明日香さんは言っていました――この世界がゲームなのであれば、
「……そうですね。そうでした!冷静に考えては負けですよね!」
明日香さんの言葉、それはある意味でこの世の真理を突いている。そして、【フォッダー】においてはもはや常識とされるテクニックだ。常識に囚われなければ、常識から外れられる。心掛けていかないといけませんね。
そしてボクは食事を終えて急いで【フォッダー】世界にダイブする。
ボクがログインすると、すでにابتسامةさんとメグさんが先に入っていて、ボクのことを出迎えてくれた。
「それじゃあ早速ドラゴン退治に行くのです!」
「たのしみだねー」
「そうですね、どんな強敵なんでしょう?」
新しいフォルダさんにメッセージを送って合流することを伝えると、ポータルを設置してくれるという返事が届いた。かつての【ギルドハウス】には【A−YS】直通のポータルが存在していたことからわかるように、ポータルの機能であればマップIDの壁を無視して直通でそのマップに飛ぶことができる。
この時間軸に【ギルドハウス】はまだないのだけれど、そういったアイテムは他にもあるらしい。新しいフォルダさんの店に向かうと、正面入口に新たなポータルが堂々と繋がっていたので、そこから未知なる世界へ飛んでいく。
ポータルの先は不思議な世界だった。ぐにゃぐにゃの線で描かれた草?や木?が生えたクレヨンの落書きみたいな空間。大地なんて緑のクレヨンが雑に塗られているだけで、どことなく不気味さを覚えさせる。
そして目の前にはすでに新しいフォルダさん達が待っていた。
「来てくれたか。じゃあ早速ドラゴン退治に行こうか!」
「ドラゴン退治を通じて〈
「まず光の速度で動くよ。何回か死んで、ようやく対応できるようになったけど、まだ厳しいね。それから威圧感だけで心臓が一瞬止まるくらいの恐怖が襲ってくる。多分《SANチェック》に慣れてなかったら、『VRステーション2』側の機能で強制ログアウト食らってるだろうね。あとはわからない。戦闘に入るとせいぜいピコ秒くらいしか生き残れないからね」
デスゲーム用のエリアかなにかかな?