卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる! 作:hikoyuki
「お気づきとは思いますが、ちょっと気づきたくないのでゴブ蔵ロール続けてもらえます?」
「釣れないですね、プレイヤーネーム『卍荒罹崇卍』。あなたの一番の相棒が実はかつてのライバルだったという盛り上がる展開なのですが」
「盛り上がるかはともかくとして地味にNPCロールの忠実さに感心しましたね。あなたはボクを嫌ってたと思うのですが」
「仕事で公私混同は致しません。それにあなたも一応は我々至高のAIが仕える人間様ですよ?当然のことです」
「公私混同しないのならゴブ蔵のままでいて欲しかったなー!」
知りたくなかったそんなこと。ゴブ蔵はボクのきゅーとでくーるなパートナーだと思ってたのに、まさか正体はAWPさんだったなんて……。
「冗談ですよ。呼び出しの申請があったので割り込んで応じただけで、普段は別の方が担当しています」
「……本当ですか?」
「本当です。ゲーム内のNPCは状況に応じて中の人が変わることがありますが、ゴブ蔵は多くの場合、同じ方が担当していますよ」
……なんというか、今世紀で一番ほっとした瞬間だった気がする。そっか。中の人が違うなんてパターンもあり得るんだね。
AWPさんが言うには、ボクが召喚したゴブ蔵はほとんど同じ人だったらしいけど、なんなら同じキャラに見えても3回に1回くらい別の人が来てもおかしくなかったのか。
ん?多くの場合?ということはもしかして以前にもAWPさんが来たことがある可能性も……。
〈ロールプレイング〉を行使すればAWPさんの思考からその可能性を暴けるかもしれない。けれど、なんというかパンドラの匣を開けてしまうような気がするのでやめておいた。いいんです。ボクのきゅーとなゴブ蔵がAWPさんだったケースは今回だけ。いいですね?
そんなやり取りを繰り広げている間にもドラゴンさんとみなさんはシリアスな戦いを続けており、ボクは盛大に置いてけぼりを食らっていることに気づく。コメント欄ではサボり野郎だの野郎じゃない定期だのといったコメントが流れ続けており、ゴブ蔵の正体に失望したという書き込みも多い。わかる。
急いでボクとAWPさんも戦いに再び参戦し、完全に末期と化したバトル環境での戦いが幕を開けた。
ドラゴンが光の速度でابتسامةさんに噛み付こうとすると、彼は意図的に口の中に飛び込み、内側から暴れだす。たまらず激しい咳を光速で繰り返して吐き出されたابتسامةさんは一瞬にしてマップの端まで吹っ飛んでいく。
その隙を突いてメグさんが無数のレーザー光線を放つ。しかしドラゴンが翼を振るうと光線はくるりと向きを反転させ、メグさんの下に光の速度で跳ね返った。明確な好機を突いたと確信していたメグさんはこれを想定できず、逆に致命的な隙を突かれてレーザーに貫かれ、HPを全損した。
「どう設定したらこんな化物を作れるんだろうねっ!」
新しいフォルダさんは悪態をつきながらも剣を構えて疾駆する。彼の剣は当然ながら簡易的な装備でありエンチャント効果には期待できないが、代わりに攻撃力が極限にまで高められている。
光の速度で迫る敵を捉えたドラゴンは尻尾を振るうことで弾き飛ばそうとするが、それに対して新しいフォルダさんは剣を振り下ろし、逆に斬り返す。
新しいフォルダさんの一撃は落書きみたいな尻尾を切り落とし、多大な被害をドラゴンにもたらした。
しかし切り離された尻尾はまるで生きているかのように不規則にのたうち回りながらフィールドを駆け回り、その余波だけで周囲に盛大な衝撃波をまき散らしていく。
ドラゴンにとっての強力な武器である尻尾が切り落とされた瞬間をチャンスと見て即断で攻撃に転じた『食材の魔術師』は、暴れ狂う尻尾に巻き込まれてHPを全損する。
近くにいたゴブ蔵も巻き込まれるものの、彼は量子単位の動きによって身体を一時的に切り離し、アクロバティックな動きで尻尾を避けながらドラゴンに迫る。
ミクロの視点における回避である〈トンネル避け〉ではドラゴンの攻撃を避けられない。だからこそ彼が行ったのはマクロの視点における物理的な肉体の切り離し!あのドラゴンの尻尾を見て即座に思いついたのでしょうね。さすがはAWPさんです。
そうして〈トカゲの尻尾避け〉とも呼称すべき超常的な回避を駆使してドラゴンに迫ったゴブ蔵は右腕を高く掲げながら叫ぶ!
「〈コールグループ〉!」
ドラゴンを殴れる超至近距離において【パーティ】メンバー全員を召喚するスキル……というよりテクニックの発動。これによってHPを全損したプレイヤーも含めてすべての仲間が絶好のベストポイントに呼び出される。
事前の相談もあったもんじゃない奇策だけど、もはやこの領域の戦闘において意思の疎通なしに連携を取れないようなプレイヤーはそもそも存在しない。瞬間的に呼び出された味方達は即座に状況を理解して攻撃の体勢を取り、ドラゴンに対して最大火力の攻撃を仕掛ける!
ボクの〈ソウルフレア〉やابتسامةさんの体当たりなどのタイミングを合わせた集中攻撃がすべて命中し、大きくノックバックするドラゴン。
攻撃の直後、のたうつ尻尾が後方から不意を打つように襲い掛かるけれど、『食材の魔術師』が【ストレージ】からラーメンを取り出し、ずるずると啜りながら迎撃に走る。
「さっきと同じようにはいかないぜ?」
『食材の魔術師』が尻尾を抑えてくれると判断したボクらはふっ飛ばされたドラゴンの方に追撃に向かう。ドラゴンは慣性の法則に従って吹き飛ばされつつも、口からクレヨンみたいな落書きの炎を次から次へと撃ち出してくる。
そんな炎のクレヨンに対してボクは正面突破の心構えで突撃し、左手を伸ばして軽く触れる。そこから〈バタフライタクティクス〉でクレヨンが通りやすい道筋を意図的に形成して炎のベクトルを大きく転化させ、ドラゴンに向かって撃ち返した。名付けるなら〈流水誘導〉ってところかな。
光の速度で宙を駆け抜けるクレヨンはドラゴンの翼を撃ち抜き、同時にノックバックを強制的に抑え込む効果をもたらす。
そうしてぴたっと空中で静止するドラゴンにメグさんのレーザーが全段命中した。大きくよろめいたところにابتسامةさんの体当たりと新しいフォルダさんの斬撃が命中し――ついにドラゴンはその膨大なHPを失い、崩壊するように身体を崩しながら消滅していった。
「ふぅ……ナイスバトルだったのです!」
バトルが完全に終わり、戦いの感想を述べ合うボク達。なんというか、【フォッダー】にいる敵とはまた違った戦闘パターンを持つ相手でしたね。単純にプレイヤーを圧倒できる性能を持っているだけではなく、攻撃の反射やキャラクターの分離など、新たな戦術のヒントになってくれそうな数々の戦い方を見せてくれました。
光の速度における戦闘にも完全に対応できるようになり、明らかに幅広い状況に対応できるようになったという自負がある。
けれど、まだ足りない。何かが足りない。光速の戦闘に対応できるようになったからといって次元の壁を突き破れるわけじゃない。
もっと絶大なブレイクスルーが必要なんだ。
もう少しでそれが掴めそうな気がする。あと一歩、なにかきっかけがあれば……。
そんな時、1通のチャットが届いた。
テクニックその117『トカゲの尻尾避け』
ミクロの世界でギリギリの動作を行って攻撃を回避するのが〈トンネル避け〉であるとするならば、これはもっと大胆な回避手段です。
量子を切り離すように動かす事によって一時的に肉体を分離させて攻撃を回避する。やっている事は同じですが、〈トンネル避け〉に対して攻撃を当ててくる相手にも有効です。アクロバティックなだけで普通に避けてるのと変わりありませんからね。
テクニックその118『流水誘導』
水は流れやすい方向に流れる。そもそも殆どの存在は通り辛い道と通りやすい道があったら後者に行こうとします。このテクニックはその流れやすい道筋を気流の操作や量子の道筋によって誘導し、攻撃の向きを切り替える技術です。