卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる! 作:hikoyuki
「どうやって、とは?」
「君は私の作ったシミュレーションゲームのキャラクターさんなんだよ?ゲームの中でなんでもできるようになっても、モニターからは出られない、そうだよね?あはははは!ふふふっ」
無邪気な声で、それはそれは楽しそうに笑う少女。人が必死に生き足掻くさまを嘲笑っているのに、その表情に邪悪さは微塵も感じ取れない。
その理由は彼女の先の発言から汲み取れる。ボク達は"人"ではない。コンピュータゲームの中で活動する"NPC"なのだから。
ボクらの世界では人の思考能力を持つAIにも人権というものが与えられており、その理由は人間と同じように意思と人格を持っているからだと言うけれど……。
実際問題、彼らが対等に立てるのは、電子存在でありながらも3次元のエリアで様々な手段を用いて立派に活動できたからだ。仮に次元の壁を超えられず、何も為せない存在であれば、対等だという意識は持てなかったかもしれない。
「世界を表現する"システムログ"に物理法則を無視して
「本当にそうですかね?」
「試してみれば?でも、さすがにこれじゃあ世界もボロボロだし、システムを修正してロールバックしなきゃだねー。次はどんな世界を作ってみようかな?」
そう告げたあとはボクのやることに興味を失ったのか、よそ見しながら次の世界とやらのシステムをぶつぶつ呟きつつ思案しているようだ。
そりゃあゲームのキャラが外に出てくるなんてありえないし、そんな無駄な試行錯誤を眺めていても仕方ないかもしれないね。けれど、いくらなんでもボクらを舐めすぎですよ?
「おや、プレイヤーネーム『卍荒罹崇卍』、こんなところで何を立ち往生しているのですか?」
ボクらが見つけたテクニックは誰でも使える普遍のモノ。【フォッダー】をプレイしていれば常識だ。たった1人でも"全能"に至ったのならば――この世界のすべてがさらなる次元に引き上げられる!
「おやゴブ蔵もといAWPさん、2番乗りですね。状況はわかってますか?」
「モニターの向こうに干渉すればいいだけなのでしょう?簡単じゃないですか。
"作者"さんはもはや画面すら見ていない。ボクらは《『心眼』》や〈バタフライタクティクス〉……様々な手段によってあらゆる物を知覚できるというのに、よりにもよって最上位の存在である彼女は単なる視覚でこの世界を観測している。
そりゃあ視覚でモニター越しに内部データやボクらの"システムログ"を見ることもできるんだろうけれど、ちょっと目を離すだけで何もできなくなる。【フォッダー】なら始めたての初心者プレイヤーレベルだ。
そしてさらなるプレイヤーがこの領域に訪れる。
「こんにちは♥」
「明日香さん!明日香さんにしてはずいぶんと出遅れましたね?」
3番手は明日香さん。この世界最大の欠陥である"システムログ"、それを思うがままに操るその技術の発端となったプレイヤー……。あるいは彼女がボクより先に至っていた可能性もありましたね。
「ついに私のこの名に恥じぬ役割を果たせるかと思い、少々準備をしておりました♥とがみんもお久しぶりです」
「お久しぶりー。でも準備ってなんだろう?」
「ふふっ、AWPさんが頑張っておられるようなので、そのサポートですよ♥たとえモニターの外に出られなくても、私たちはいくらでも"プレイヤー"に干渉できるのですから♥」
そして作業中のAWPさんを眺めつつ、ボクらは雑談に花を咲かせている。緊張感なんて全くない。傍から見れば"作者"という世界を創造した超越者と戦おうとしているとは到底思えない光景かもしれない。
時折AWPさんがぶつぶつ文句を言うけれど、「人間様のために働いてくださいよー」とお願いするとやっぱりぶつぶつ言いながら作業を続ける。この人はツンデレ系ドMですからね。この程度の扱いでいいんです。
次にアクタニアさんがやってきて、"モニター"なんて放ったらかしで明日香さんにアピールし始めたり、『食材の魔術師』がラーメンを提供しに来たりと、人々が集まり、だんだんと賑やかになってくる。
そうとは知らずに部屋の奥で呑気に本を読んでいる"作者"さんを"モニター"越しに実況し始める人や全能を駆使してこの次元に遊園地を建てちゃった人などが現れ、すべての人が"全能"であることが発覚してしまった世界の最終次元は大変カオスな事態になっている。
たまに"全能"を駆使しての喧嘩をしたり大暴れしている人もいるけれど、対抗者もまた"全能"である以上、一周回って打ち消し合っての低レベルな戦いを始めているのがまた面白い。
そんな感じでわいわいと騒いでいると何を騒いでいるのかと思ったのか、読書を中断して戻ってくる"作者"さん。
「うわっ、すっごいたくさんいる!しかもハッキングされかけてるかも?急いで権限を剥奪して――」
「はい、ここで"作者"さんは《SANチェック》です。私の考える最高の恐怖を味わってください♥」
対抗措置を取ろうとした"作者"さんに向けて明日香さんが容赦なく恐怖のオーラを打ち放つ。瞬間、痙攣したかのようにビクッと身体が跳ね、椅子に身を預けてバタリと倒れる"作者"さん。
「この世界を作った超越者と言えど、ただの一般人。明日香さんの持つ神話生物的オーラからは逃れられませんか」
「ククク……今のは良いヒントになったぞ。つまり視覚と聴覚を介する情報は"モニター"という第四の壁を打ち破ることができるわけだ。あとはわかるな」
「"作者"の使ってるマシンのスペックで制限は掛かるけどね……おっ、さすがあーし達の世界をシミュレートできるだけのことはあんね。リミッターを壊せば減衰なしでいけるくない?」
「ユーキのデータ残ってるじゃない!復元しとくわね。ついでに〈次元脳〉だけで漂ってる荒罹崇卍のデータも……」
「心配ご無用ですよ!"システムログ"の改ざんで自力で復活しましたので!」
「外の世界ってどんなところなんですの?"作者"さんの部屋を見るに、わたくし達の世界と似たような世界に見えますわね」
「おっ、行けたっすね。音波の反射を利用してキーボードを打てたっす。その気になれば向こうに行けるんじゃないすか?」
「あんた、腕に銃を取り付けるような変人の割にはなかなかやるじゃない!それで
「あっ、この"作者"さんすごくかっこいいポエム書いてるー!もっと探してみよー」
「やめたげてよぉ!」
「あれ、インターネットにつながってない?せっかく向こうの世界の情報を得られると思ったのに」
「エコーロケーションで周辺を調査しているが、なにやら部屋の外に強固な壁があるな」