卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第310話 『果て』

 世界を管理する"作者"を"モニター"越しに撃破し、音や光を通じて、思い思いに外の世界へ干渉を仕掛けていくボク達。もはや"第四の壁"は打ち破ったも同然なのだけど、調査範囲を広げるごとになにやら様子がおかしいと気づく。

 

「インターネットが繋がってないのはおかしくないですか?ブラウザはあるようですし、概念自体は存在しているはずですよね?」

 

「ゲームの世界と外の世界では常識が違う可能性もあるが……家の構造も不自然だ。この部屋の外側に、やたらと強度の高い壁が存在しているようだ」

 

 ミサイル程度なら容易に防げそうなくらいの強度を誇る"作者"の家。全能によるエコーロケーションすら貫通できないほどの高密度素材で作られているらしく、見た目は普通の部屋なのに、かなりすごいらしい。

 

 よく部屋を観察してみると、小さな錠剤みたいなものが入った瓶が棚にいくつも並んでいたりと、目立たないところにかなりの異常性がうかがえる。

 

 もちろん外の世界ではこれが常識だと言われたら、それまでだ。物理法則すらも一致しない可能性がある以上、文明の発展の方向性がボクらとは明確に異なっていることもありえる。

 

「……ちょっと外に出てみるか」

 

 漆黒の翼さんがぽつりと呟き、〈バタフライタクティクス〉によって外の世界の量子を操作することで、人間と同一成分を持つ肉体を生成し、さらに『量子』もつれによってゲーム内と外の世界における状態の同期を形成した彼は、いとも容易く現実の世界へ顕現した。

 

 驚きはない。《SANチェック》や音を利用した〈バタフライタクティクス〉を外に向けて適用できる以上、これくらいのことはできて当たり前。なんなら時間をかければ、外の世界へ全住民で引っ越すことさえ可能だ。

 

 漆黒さんはまず縄紐を生成して"作者"さんを拘束する。それから物理法則の解析と部屋に存在する機械類の調査を始めた。

 

「〈バタフライタクティクス〉は適用可能なようだが"システムログ"は無いな。さらに《『心眼』》が機能不全を起こしている。〈進化(エボルド)〉のすべてが適用されないわけではないようだが、おそらく法則の差異が原因だろう」

 

「このカプセルは完全栄養剤のようだ。これを1粒飲めば7日分の活動に必要なカロリーを補給できる。7重構造になっていて、1日ごとに1つの層が消化される構造らしい」

 

「"作者"が電子パッドで読んでいた書籍だが、『ソードアートオンライン』だったようだ。こちらの世界にもあるのだな」

 

 次から次へと部屋を物色し、できる範囲で検証を続けていく漆黒さん。そして最後に部屋を隔てる電子ロック式の扉の前に立つ。

 

 認証システムによって塞がれているようだけど、漆黒さんにとっては障害たり得ない。〈バタフライタクティクス〉で"作者"の虹彩を再現し、一瞬でロックを解除した。

 

「ククク……さぁ、新世界に一足先に突入させてもらうぞ!」

 

 そう宣言した彼は、自動的に前へ開いていくドアに合わせて一歩を踏み出そうとして――静止する。

 

「……やけに強固なシステムだとは思っていたが、そういうことか」

 

 扉を開けたのは漆黒さんだけど、ボクらもまた"モニター"を介して外の光景を見ることができた。

 

 

 扉の外には草や木が1つたりとも存在しない不毛の大地が広がっている。

 

 もちろんビルやアスファルトといった人工物で覆われているというわけではない。

 

 本当に、何もない。

 

 太陽がさんさんと大地を照らしていて、視界は悪くない。どうやら平地に位置しているようで、扉から地平線の彼方まで周囲を一望できるくらいだ。

 

 

「外には誰もいないよ。生きているのは私だけ」

 

 

 縄紐で拘束され、床に転がされた"作者"が呟く。

 

 

「核戦争とかそういうのじゃないよ?エネルギーの問題なんてまだまだ先の話だったし、なんなら省エネの技術だけで『アキレスと亀』が実現できるなんて言われてた。少子化はちょっと問題だったけど……。不老長寿の薬が発展してたから、時間をかければいずれは持ち直せる、なんて話だったんだけどね」

 

 淡々と寝転んだ姿勢のまま、この世界についての昔話を語る"作者"さん。不老長寿……もしかすると、この作者さんも見た目と同じ年齢ではないのかもしれない。

 

「じゃあ、なんでこんなことに……」

 

「薬の副作用かな?すっごく遅効性の」

 

 モニター越しにぽつりと漏れた疑問の声を、"作者"が拾い上げる。

 

 薬、か。薬にもいろいろ種類はあるけれど、この文脈であれば想定される薬はたった1つだろう。

 

 ――不老不死の薬の副作用だ。

 

「みーんな飽きちゃったんだよね。いくらでも長生きできるなら子供なんて作らなくていいし、研究もゆっくりまったりやっていけばいい。時間は無制限にあるからね。そうしてだんだんと社会の活動が止まっていって――」

 

 作者の朗々とした独り言のような語り口に、"モニター"の中で騒いでいたプレイヤー達がしんと静まり返る。あまりにも荒唐無稽で、本来なら想像もできないくらいの超然とした話。ほんの少し前だったら一笑に付すような内容かもしれない。

 

 けれど、今のボク達にとっては――。

 

「世界は長生きすると腐っちゃうんだ。君たちの世界でもあるでしょ?長寿の技術。娯楽だって時間が経てば延々と同じような焼き直しばかりになっちゃうし、なんなら同じ時代の中でもそんなのばかり。発想には限界があって、世界の探求すらも『果て』に達すれば終わっちゃうの」

 

「――だから消すのか?」

 

 荒廃した未知なる現実の世界を見据えながらそう問いかける漆黒の翼さん。

 

「まあ私が楽しむ(生きる)ためでもあるんだけどね。でもこれで君たちの勝ち――楽しかったよ?ゲームのキャラが外に出てきてくれるなんてはじめての経験だもん。みんなはこれからこっちの世界を開拓してもいいし、パソコンの中で仮想世界を開拓し続けてくれてもいい――できるだけ長く楽しんで(生きて)、ね?」

 

 

 すべてのプレイヤーが"全能"に達し、なんでもできてしまう世界――。"モニター"の中のボク達はその領域に達している。

 

 

 "モニター"の外でも同じように、人々は"全知"であり"全能"に達してしまった。『果て』に達してしまった。だからこそ、滅びた。

 

 

 今まで恨んでいた"作者"だけど……とがみんが戻ってきて、世界の危機が回避されたこともあってか否か、彼女の言葉を驚くほど素直に受け止めて……ボクらにとって他人事じゃない、と深く理解してしまった。

 

 ゲームと現実の垣根を超えて外に出られて、あらゆる物質を創造できて、壁抜けだろうとなんだろうと自由自在、これがボクらの暮らしてきた世界。

 

 

 その先になにがある?

 

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