卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第316話 追われる者

 それから軽く【フォッダー】のことや世の中のことについて愚痴を語り合ったところで、納豆大好きさんが話題を変える。

 

「そうそう。そう言えばおっがあなたのことを探してましたよ」

 

「おっ……?あ、おっさんですね」

 

「おっさんかー。最近会ってないよねー♥いや、わたし的には最近どころか、ほとんど会話したことが無い気も……?」

 

 納豆大好きさんとおっさんが【A−YS】関連で繋がっていることはわかっているのですけど、おっさんが探している……?

 

「用があるならフレンドチャット経由で呼びかけてくればいいのに。なんの御用なんでしょう?」

 

 ちょうどログインしているみたいだし、聞いてみましょうか。チャットを通じておっさんにメッセージを送ると、『今すぐにそっちにいく』とだけ返事が返ってきた。

 

 納豆大好きさんもおっさんの用事が何かはご存じないようで、彼が来るまでしばらく待っていると、5分くらいして空からすごい勢いで飛んでくる姿が見えてきた。

 

 【『アイテール』】なんて知ったことかと言わんばかりの移動手段に半ば呆れつつも、【フォッダー】ではもはや日常茶飯事なので突っ込めない。

 

 最近は光の速度で動いたり、無から物を創造したりなんてことが全能1つでできるくらいなので、むしろ自重している方でしょうね。

 

 そしてボク達の前にすたっと飛び降りてくるおっさん。まずは挨拶しようと口を開きかけたのだけれど、それより早くおっさんが話しかける。

 

「ヘルプミーだ子虎ちゃん!危険が危なすぎてすっとこどっこいタメ五郎!」

 

「ちょ、ちょちょちょどうしたんですか!?死語の引用が滅茶苦茶ですよ!」

 

「アイムソーリー髭ソーリー、取り乱した。それより聞いてくれ。納豆大好きさんもだ!」

 

 なにやらただならぬ事情があるらしい。いつもはとぼけた言動を取りながらも、くーるに状況判断できる強豪プレイヤーのおっさんがここまで焦るほどの異常事態。一体何が……!?

 

 ボク達がおっさんの話を聞くために沈黙を保つとおっさんは衝撃の内容を口にする……!

 

 

「【A−YS】でとんでもない神エンチャ装備を手に入れてしまったんだ……!」

 

「くたばってください」

 

 ボクの辛辣な言葉を無視して武器を取り出して見せびらかすおっさん。新しいフォルダさんが【願いの石】というレアアイテムを犠牲にしている間に彼はなにやら理想の装備を手に入れたらしい。恐らく配信で自慢したかったのだろう。

 

 どうやら武器の種類は杖らしい。【A−YS】において杖は攻撃力などの数値補正と引き換えに比較的良質なエンチャントが付きやすいそうで、結果的に上級者が持つ武器は杖が大多数を占めることになるのだとか。

 

「これさえあれば【フォッダー】の大会でも優勝確実モーマンタイだよ!」

 

「あれー?おっさんは大会に出るつもりなんだ♥」

 

「当たり前田のクラッカーさ。逆にとがみんは出ないのかい?なんたって1000億円だよ?」

 

「ジョークかな♥」

 

「えっ」

 

「えっ?」

 

 おっさんは1000億円を目当てに出場する気だったらしい。装備を自慢するためとか単純に優勝が目的というのなら話はわかるけど、1000億円のために……?

 

「ちょっと待ってくれ。認識の違いがあるようだね。俺の価値観からすれば1000億円は莫大なマネーだと思うのだけど」

 

「1000億円は莫大ですが。価値があるわけではありませんよね」

 

「えっ?」

 

「えっ」

 

「おっさん、もしかして最近お外に出てないんですか?あるいはニュースでもいいですけど」

 

「出るわけないだろう。俺は【A−YS】と……一応【フォッダー】以外に興味ナッシングだ」

 

「……」

 

 世の中のことを知らないおっさんに最近の世界情勢について懇切丁寧に教えてあげると、彼は大層驚いた様子で……

 

「この世界がゲームだったって本当なのかい!?ジェネレーションギャップを感じるよ」

 

「そこから!?」

 

 この人、どんだけ世間離れした生活送ってるんですか!?ボクの配信でもなんでもいいけど、いくらでも情報を得る手段はありますよね?

 

 話によるとあれほどの大事件の最中、彼はのんきに【A−YS】をプレイし続けていたらしい。

 

 ゲームのデータがロールバックされた件についても【A−YS】なら仕方ないと即座に判断してひたすらにレベルを上げ直し続けていたのだとか。一周回ってとんでもない豪の者ですね。将来は出世するかもしれません。

 

 とりあえずおっさんはネットから最近のニュースを拾い上げると納得した様子で、1000億円には現状これまでと同様の価値は存在しないということを理解した。

 

 

「なるほど、けれど――それでも俺は大会には出るよ」

 

 

 おっさんの力強い言葉に思わず感嘆の声が漏れる。

 

「なるほどー。その心は?♥」

 

 とがみんの問いかけに対するおっさんの返答は、あまりにも想定外のものだった。

 

「こう言えば子虎ちゃんも出場するだろう?子虎ちゃんは他の強豪プレイヤーが出場するのか様子見をしているようだけど――逆だよ?【フォッダー】のプレイヤーは子虎ちゃん……卍さんが出場するのであれば必ず集う。間違いないね」

 

 最近の世界情勢も知らなかった世間知らずのプレイヤーにしてはあまりにも堂々たる断言。おっさんは自分の言葉に一種の確信を持っているらしい。

 

「……ずいぶん買い被られているご様子で?」

 

「最近の情勢については浅薄故に存じ上げなかったが、それでもこのゲームが卍さんを中心に回ってることは事実。それくらいはわかってるだろう?」

 

「……このゲームの重要テクニックの大半は卍さんが見つけたからねー♥同時にゲームも世紀末に突入したけれど」

 

「元々ボクであるとがみんも同罪なんですけどね」

 

 自分の責任を棚上げするとがみんに突っ込みを入れつつ、お茶を濁してしまったけれど、おっさんの言ってることが客観的に見れば事実であることもわかっている。

 

 主観的には自分がそれほど凄い存在だと自惚れてはいないけれど、それはそれとして知名度としては【フォッダー】を代表するプレイヤーなのだと自覚はしている。

 

 

 それでも、おっさんのこの評価はいくらなんでも買い被りにもほどがあるでしょう?

 

 

「『小数点のその果て』……だったかい?【黄金の才(ユニークスキル)】やAIという勝ち目の薄い存在と相対するときの決まり文句だったようだけど……もはや現環境においては君が使うに相応しくない言葉だね……。可能性を追い求めるのは()()()()()()()()()()()()()。そうだろう?」

 

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