卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる! 作:hikoyuki
椅子のカテゴリの定義は座れること、座れることの定義は一定の面積があることだ。推測だけど、面積の定義はボクのお尻がはみ出ずに乗ることだろうか。
「ということは結構幅広い形のものが椅子になりそうですね。例えば薄い鉄板のようなものでも椅子になるのでしょうか?」
素材は潤沢にあるので試してみよう。猫ですさんから鉄をいただいて【ドローイング】でさらっと図面を描いて平べったい鉄板を加工。地面にごとんと落として腰を下ろしてみる。
「あっ、椅子になった。本当にこれだけでも変わるんですね」
HPは満タンなので回復量はわからないけれど、カテゴリの性質上、大なり小なり
猫ですさんが言うには
【ソウルフレア】で軽く自傷しつつ鉄板やこのお店で販売している椅子と比較してみると、やっぱり回復量が違う。座り心地という基準が曖昧なので正確な基準はわからないけれど、主観で比較するなら柔らかくて落ち着く感じのソファーの方が回復量が多いですね。
----
>正確には座り心地じゃなくてリラックス度に依存するよ。だからお菓子とか食べてまったりしてると回復量も上がる
----
「へえ、そうなんですか?じゃあちょっとだらけてみましょう。だらー」
視聴者さんからの情報提供が正しかったことはあまりないけれど、これは別に嘘だったからといって痛い目を見るようなものでもないのでおそらく普通の情報なのだろう。
リラックス度という曖昧な情報を測定することもやっぱり難しいけれど、昨今の人類は自分の感情をコントロールして精神を落ち着かせたりすることなんて簡単にできる。そういった精神の変動によって回復率が変動するのもまた事実のようで、毎秒ごとの回復率が一定ではないということは確認できた。
「つまりリラックスできるような椅子は必ずしも作る必要がないということですにゃん」
「ですね。利用するプレイヤー側がアイテムにアジャストした精神性を持てばいいだけですから」
----
>アイテムにアジャストした精神性って何???
>伝説の武器か何かかな?
>この装備は選ばれし勇者の素質がないと自然回復量がゴミなんだ
>人間様が道具に合わせて進化しろ。わかったな?
>どこぞのAIかな?
----
「あっ!思いついたにゃん!すっごく画期的なアイディア!これはこれからの環境がひっくり返るアイディアにゃん!」
「おっ、なんですかなんですか?」
ここまでの情報を集約した結果、猫ですさんは何かに気づいてしまったらしい。頼られた身としてはボクがなにか素晴らしいアイディアを思いつきたかったところなのだけど、結果として本人が新たな発想を見つけてくれたのならいいことだ。
さあ、猫ですさんが思いついた『画期的なアイディア』とは一体……!?
わくわくしながらカメラを向けて待機していると、ついに彼女が動き出す。まず【ストレージ】から取り出したのはいかにも頑丈そうな【ナイト】向けのプレートアーマーだ。胸部あたりに盾の刻印がされているところを見るに、
さて猫ですさんはその装備をどうするのかと見つめていると……手が滑ってしまったのか、鎧をがしゃーんと地面に落としてしまった。
思わず大丈夫かと近づこうとしたその瞬間、ボクはそのアクションの意味に気づく。
「そしてこの鎧の上に腰を下ろしてっと……完成ですにゃん!椅子!」
「なるほど、装備を椅子にしましたか……」
そして鎧に椅子のカテゴリを付与すると、即座に拾い上げて【ストレージ】にしまい込み、【メニュー】から瞬間的に換装する。
「椅子にしたのはいいんですけれど……装備した状態で座ったことになるんですか?」
「お尻が鎧に接触してるから大丈夫にゃん」
「なるほど」
一分の隙もない、完璧な理論です。反論の余地がありませんね。
猫ですさんは以前にもこういったアイテムを作ろうとしたことがあったらしく、椅子の性質を付与した鉄板をお尻にセットするという実験を行っていたのだとか。その結果、座るという過程に本人の体勢は無関係だという検証結果がすでに出ていたらしい。
その前提を踏まえれば、たとえ装備だろうとなんだろうと座ってるように見えなかろうとシステム的には座っている。もちろん実際には座っていないので、あまりリラックスもできず回復量は控えめになってしまうのだけど、そこは精神の方をコントロールすればいいだけ。ぱーふぇくとですね!
「と、なると……ボクがいなくてももう少し研究していたらたどり着いていたかもしれませんね」
「いえいえですにゃん!情報を整理していただけてとても助かったにゃん!」
「そう言っていただければありがたいです!」
何はともあれボクもこの新しいテクニックの恩恵に授かろうと思い、装備を換装する。ひとまず水着から普通のローブに替えて、【ストレージ】から水着を取り出した。
それを地面にぽいっと置いて、ボクも腰掛けてみる。さて、これでボクの水着にも
早速座ったばかりの水着を【ストレージ】にしまい込み、カテゴリを確認してみたけれど……。
「何も付いてないですね?」
「きっと面積が足りないですにゃん……」
猫ですさんの指摘にしょんぼりと落ち込むボク。確かにこの水着、割と面積が小さいですからね……。
しかも座るのに必要な面積というのは一般的にはそこまでシビアな問題ではないようで、普通のズボンやらスカートやらの表面積でも十分に椅子として判定されるだけの面積を確保できるみたい。
このボクが使っている水着が極端にレアなケースというだけで、基本的にこのテクニックはほとんどの人が恩恵を受けられる発見のようだ。
いや――実を言うとこのテクニックの恩恵を受けていない人はもう1人いて……。
「あれ?もしかして、このテクニックって椅子が売れなくなるんじゃないかにゃん……?」
「生産系プレイヤーの加工なんて1ミリも必要としないですもんね」
テクニックの開発に関わった2人が揃って恩恵を受けられないという悲しいお話。
「……」
「……」
「今日は解散にするにゃん」
「ですね」
沈黙のまま配信を切ってログアウトし、灑智ととがみんに甘えた後にふて寝しました。
テクニックその119『ボトムズチェア』
常にお尻と接触しているであろう装備をどうにかして椅子にしてしまうことで実質的に常に椅子に座れるという非常にお得なテクニックです。
そのあまりにも簡単すぎる性質の都合上、誰でも配信見た瞬間からその場で再現可能であり、その恩恵を受けられないのは今まで椅子を販売していた生産系プレイヤーと、さすがに椅子として扱えないような面積しか持ち合わせていない水着装備のプレイヤーくらい。
ちなみに椅子のカテゴリが無い時に装備しても椅子にならないのはただの例外処理です。そこを対策するなら装備してない時にも椅子にならないようにして欲しいんですけど?