卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第329話 コミュニケーション

 ボクはとことこと【アーチャー】と思わしきプレイヤーの下へ近づいていく。そのプレイヤーはどうやら女性……じゃない?肩までかかる長い銀髪が特徴的で、第一印象でそう誤認していたけど、女性ではないらしい。

 

 しかし男性というわけでもない。正確にはどちらかの性別を持っているのかもしれないけれど、少なくとも一般的な人類の価値観においてそれを判別することは難しい。

 

 このプレイヤーは『異形』さんだった。

 

 遠目には人類に似た姿形だけど、近づいてみるとよくわかる。似ているのは輪郭だけで、全身はメタリックな銀色の皮膚?でできた謎の生物だ。

 

 このゲームは【転生】と『異形』の違いがわかりにくいところがある。だから最初は、ボクも知らないモンスターの【転生】アバターなのかも?と思ったけれど……どうやら違うらしい。

 

 その違いは、『異形』の方々が放つ独特の恐怖を呼び起こすオーラにある。『異形』は大なり小なりこの手の威圧感を持っていて、既に恐怖に対する耐性ができているプレイヤーにとってもその有無自体は感じ取ることができる。

 

 これは人類に敵対する存在として作られた『異形』に、本来の任務を遂行させるため付加された受動(パッシブ)スキルのようなものなのだろう。今やこの程度の威圧で気絶する人は希少だろうけれど、それでもちょっと近寄りがたい雰囲気は感じてしまうかもしれませんね。

 

「こんにちは!」

 

 しかしそれはあくまで一般論の話で、ابتسامةさんというきゅーとな友人によって慣れているボクにとっては恐怖のオーラはスパイス程度の影響しかもたらさない。だから意気揚々と声をかけていくのだけど……。

 

「くたばれゴミ」

 

「いきなり辛辣!?」

 

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>唐突すぎて笑った

 

>卍さんファンでもそこまでの事は言わないぞ

 

>草

 

>卍さんの取れ高を狙おうとする薄汚い利己心が読まれてしまったか……

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 待って待って!確かにちょっとはそういう気持ちもあったかもしれないけど、ここまで言われちゃいます?気づかないうちに何か悪いことをしてしまったのでしょうか。

 

 直接的な危害を加えたことはないかもしれないけれど、配信者というのは言葉1つでどんな影響を世間に与えてしまうかわからない繊細な職業?でもありますからね。もしかしたらボクの影響で彼にとってなにか悪いことが起こってしまったのかもしれません。

 

「あの、すいません。ボクなにか悪いことをしてしまったでしょうか……」

 

「消えろクズ」

 

「悲しい」

 

 そんな感じで直接的な言葉の暴力をぶつけてくるのだけど、それとは裏腹に彼は少し不思議な行動も取る。「死ねクズ」「黙れ雑魚」などと言いながらもぺこぺこと申し訳なさそうにお辞儀をしているのだ。

 

 困惑しつつその様子を見ていると、彼は【ストレージ】からスケッチブックみたいなものを取り出し、そこにさらさらと文字を書いてみせてくれる。

 

「『ごめんなさい、しゃべれない』……声帯が対応していないということですか?」

 

 そう問いかけると、うんうんと頷くメタリックな『異形』さん。つまり彼が話している言葉と思わしき音は、一種の鳴き声のようなものということなのでしょうか……。

 

「それなら全能を使ってみてはどうですか?声のような音の振動を作ればいいんですよ!」

 

 疑問符の感情表現(エモート)を連発して首を傾げる彼に、ボクは全能の使い方を教えてあげる。どうやら『異形』である彼はこのゲームにおける必須テクニックである全能を知らなかったらしい。

 

 ……ということは、現在の(ビルド)構築も含めて、彼は攻略情報に頼らず1人でこのゲームを生きてきたということになるのでしょう。

 

 彼にとっては未知の概念とはいえ、【モーションアシスト】によるサポートもある。その仕組みについてできるだけわかりやすく伝わるように教えてみると、たどたどしくも意味のある音を発し始めた。

 

「あり……ガト」

 

「うんうん、いい感じですよ!」

 

 指をぱちんと鳴らすたびに、〈バタフライタクティクス〉で人間の声に似た音を出し始める異形さん。そのうち普通に喋れるようになるでしょう。

 

 やはりぎこちなさもあって会話は長続きしないけれど、ここまでのやり取りで仲良くなれた気がする。せっかくなので一緒にダンジョンを進もうとお誘いすると、喜んでついてきてくれた。

 

 2人でとことこと歩みを進めつつ、煌めく水晶世界を観光しながらモンスターたちをなぎ倒していく。

 

 どうやらアップデートの影響でバランス調整が入ったのだろうか。このダンジョンにはボクたちが到達した光速の次元に平気で踏み込んでくるようなモンスターも多く、先程のいかにも鈍重そうなゴーレムすらも光の速度に迫る圧倒的なスピードで動き回っている。

 

 しかしそれでも苦戦するほどの相手ではない。ボクが【ルビーロッド】を軽く振るうと赤い宝石の中から妖精さんがぴょこんと飛び出し、ゴーレムへ勢いよく突っ込み、【ソウルフレア】の炎を纏って突撃する。ゴーレムは妖精に触れると一撃で爆散した。

 

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>やっぱり妖精さん強い

 

>ちょっとしたメテオみたいだったな

 

>近接攻撃というデメリットと引き換えに莫大な火力を持つソウルフレアを遠隔で撃ち込むとかいうふざけたテクニック

 

>本戦じゃ妖精さん使うやつ多いだろうね

 

>神様も戦ってた時はそこまでインパクトは無かったけど、やっぱぶっ壊れだわ

----

 

「すごい……尊敬」

 

 ……どうやらボクが下手にあくろばてぃっくな動きをするより、妖精さんを扱うほうが取れ高が多くなるようですね。

 

「〜♪」

 

 よし、それではここからは意識的に妖精さんをあくろばてぃっくに操るプレイングで戦ってみましょうか!

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