卍荒罹崇卍のきゅーと&てくにかる配信ちゃんねる!   作:hikoyuki

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第330話 リラティブパラドクス

 灑智の作ったダンジョンに出てくるモンスターは、強いというよりもやらしいタイプが非常に多い。

 

 アップデート情報に書かれていた炎属性完全耐性とかいう、ボクを相手取るためだけに作られたようなモンスターはもちろん、相手の視界に入っただけでじわじわとこちらのHPが削られていく魔眼系のスキルを持った敵、【アイズ・ファミリア】なんかは特に苦戦した。

 

 もちろんHPの減少量自体は大したことはないんだけど、数が凄く多い。サッカーボールくらいの大きさの真っ白いお餅みたいなモンスターが、ボク達から距離を必死に取りつつ、視線だけは常に向けてくる。

 

 単体のモンスターが与えてくるダメージは少なくても、塵もつもれば山となる。たとえHPが満タンでも、相対時間にして10秒もあればHPを全損させてくるだろう。

 

 しかもうるうるしたおめめが実にきゅーとで、ぽよんぽよん跳ね回りながら逃げ惑うその姿は攻撃するのに躊躇してしまう。

 

 頑張って追いかけて、抱きしめてみようかな?と考えたボクは全速力で駆け抜けるのだけど、ここで()()()()と呼称すべき現環境の性質が牙を剥く。

 

 ここまで全く気づいてなかったけど、考えてみればロジックは実に簡単だ。現在の【フォッダー】ではほぼすべてのプレイヤーやモンスターが光速で戦闘を行う。

 

 お互いが光速で動く分には、相対的な速度で見れば今までの戦いと何も変わりはない。そう思っていたのだけど……どうやら話が違うらしい。

 

 すべてのキャラクターが光の速度で動く。これは言い換えれば――全()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだ。

 

 自分と同じ速度で動くモンスターが全力で逃げに徹するのであれば、スキルを用いなければそれに追いすがることなどできやしない。

 

 普通、逃げに徹している敵はそもそも戦う気がない。ボーナスモンスターでもない限り、相手にする必要はない。けれど【アイズ・ファミリア】は、こちらを視界に収めるという単純明快な手段で継続的にダメージを与えてくる。放置してたら、そのままボク達は骨になる。間違いなしだ。

 

 『異形』さんも嵐の如き苛烈な連射でお餅を仕留めようとするけれど、遠隔攻撃を軸に戦う彼のスキルもまた光速。考えなしに乱発するだけじゃ当たらない!

 

「サポートします!ボクに身体を預けて!」

 

「?」

 

 そのお願いと同時にボクは【サイキック】に職業(クラス)チェンジし、【マインドハック】を『異形』さんに発動させる。

 

 数ある【サイキック】のスキルの中でも、かなりの異端度を誇るこのスキルは他者の【モーションアシスト】に介入できる強力な効果を持つ。基本的には妨害に使う類のスキルではあるけれど、異常(デバフ)系のスキルは相手が受け入れてくれさえすれば抵抗判定を省略して適用される。

 

【マインドハック】

[アクティブ][キャラクター][支援][妨害]

効果:[キャラクター]の[モーションアシスト]に[指示]する。

 

 『異形』さんはボクのお願いを聞いてくれて【マインドハック】を即断で受け入れてくれた。だからといってあんまり好き勝手に動かすわけにもいかないので、できるだけ控えめかつ『すまーと』なサポートでこの戦況をひっくり返しましょう!

 

 ボクが【モーションアシスト】の操作権を得た状態であっても、本人の意志で身体を動かすことができる。『異形』さんは【マインドハック】を受け入れながらも矢をやたらめったらに撃ち込んでいる。よし、せっかくだしこの矢をちょっとサポートしてみよう。

 

 【アイズ・ファミリア】達は周囲に散らばる水晶の影に隠れながらひょっこりと顔だけを出して、こちらをじーっと見ている。

 

 そこを目掛けて『異形』さんが【ダブルショット】を打ち放つ。それを見て恐れをなした【アイズ・ファミリア】は『不壊』である水晶を盾にしようと頭を引っ込めた。水晶は灑智のダンジョンの仕様によって〈トンネル避け〉が通用しないので、貫通させて攻撃することはできない。つまり現環境における絶対無敵のシールドというわけだ。

 

 というわけでボクは〈流水誘導〉で彼が放つ矢の動きを操作し、水晶を回り込むように旋回させていく。【アイズ・ファミリア】は壁が役に立たないと気づいて光の速度で距離を取り始めるけれど、射線に入った時点で、もはや手遅れだ。

 

「突き刺せ!」

 

 ボクが高らかにそう命じた途端――矢が距離という概念を超越し、スピードすら踏み倒して、ぐさりと突き刺さる。

 

 もちろん狙ったのは今の1匹だけではない。無数に潜む【アイズ・ファミリア】にそれぞれの矢を追尾させ、過程を無視して結果だけを呼び込んだかのような鮮やかなスナイピングを決めた。

 

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>何が起きたの

 

>ついに光の速度を超えてしまったか

 

>まーたシステムウィンドウに直接入力でもしたのか?

----

 

「凄い……感嘆」

 

「ふふっ。やれやれ、またなにかやっちゃいましたか?」

 

 なんてすっとぼけたことを抜かすと、視聴者さんが解説しろだの何だの騒ぎ出す。やれやれ、切り札は大会に取っておくものなのですがね。仕方ないですね。やれやれ。

 

「簡単な話ですよ。これは異形さんの思考速度とボクの【モーションアシスト】への入力の速度差が関係しています」

 

「……速度差」

 

 全くの無補正で、当たり前のように光の速度で動き回るプレイヤーが続出してしまえば、ゲームは成立しない。

 

 光の速度で戦っていたら、スキルに設定された再詠唱時間(リキャストタイム)である30秒はいつまで経っても経過しないし、配信だって光の速度で動き回る動画を正確に映し出せるのかは甚だ疑問だ。

 

 でも実際には、光速の領域で戦っていた時と変わらない感覚で再使用時間(リキャストタイム)は経過するし、スキルも発動できる。ボクはここに目をつけていた。

 

 つまりこのゲームの時間経過に関するシステムはプレイヤー達の相対的な速度差によって定められていると推測している。ボク達がたとえ光の速度で戦いながら光の速度で思考していたとしても、相対性理論に基づいて、プレイヤーの主観ではいつもとまるで変わりない感覚でスキルやアクションを行使できる。

 

 しかし今回は条件が違う。【モーションアシスト】を指示するボクと、スキルを発動させる『異形』さんの相対速度が異なっていたんだ。

 

 ボクは意図的に光の速度から外れ、光の如き速度の範疇で『異形』さんの【モーションアシスト】に対して指示を出した。

 

 するとどうなるか?答えは簡単だ。結果が証明してくれた。

 

 プレイヤー間の相対的な速度差が、攻撃スキルにそのまま反映されたのだ。




テクニックその121『リラティブパラドクス』
速度の異なる2人のプレイヤーが存在し、片側が相方となるプレイヤーの【モーションアシスト】へ指示を行ってスキルを放った時、システムにおける速度補正がバグを引き起こします。
シンプルにバグとしか言えない挙動ですが、仕様です。【フォッダー】なので。
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